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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

新国立劇場 ドン・ジョヴァンニ初日

 5月18日金曜日、ドン・ジョヴァンニの初日に行って来ました。このプロダクションも2008年以来4回目になるので、もう見慣れた感じです。そろそろ新しい演出が欲しい気もします。

この日のお目当ては、ドンナ・エルヴィーラ役の脇園彩だったのですが、期待以上の素晴らしさ。透き通るような美しさで基本的にはレッジェーロですが、声の芯が通っていて重みもあります。コロラトゥーラも実に魅惑的。完全に世界レベルですね。実際活躍しているのも、欧州のほうが多いようです。そして、オッターヴィオを歌ったアルゼンチン人のファン・フランシスコ・ガデルが望外の出来!甘く、丸い声で気品があります。アジリタもうまい!脇園もそうですが、彼もロッシーニをたくさん歌っているようです。ロッシーニをうまく歌える歌手がモーツァルト、そして初期のヴェルディを歌うと、ひと味違いますね。オッターヴィオはほとんどの公演で、ちょっと馬鹿っぽい感じで表現されてしまうのですが、この日は違いました。こんなのは初めてです。

 タイトルロールのニコラ・ウリヴィエーリはどうだったか? 明るいバスで決して悪くないのですが、やや明るすぎて、平坦な感じがぬぐえませんでした。同じプロダクションで聴いた、クヴィエチェンやガッロのように、ジョヴァンニの悪さがにじみ出るような個性がないという感じがしました。レポレッロを歌ったニコラ・ウリヴィエーリは、完全にハズレ。1幕目最初からオケと合いません。これは初日だからしかたないとしても、声が良く聞こえない。だんだんと聞こえるようになってきても、実に薄っぺらい歌い方で残念無念。結果としてドン・ジョヴァンニとレボレッロのやりとりが、とても退屈なんです。この二人のやりとりがこのオペラのひとつの聴きどころなんですけどねー。

 同じような感じはマゼットの久保 和範、ツェルリーナの九嶋 香奈枝にも言えました。なんとか歌っているという感じ。九嶋も歌うのに精一杯で、スブレット感が全然出ていません。これなら、3月の新国立研修所公演でツェルリーナを歌った、21期生の井口侑奏のほうがずっと良かったです。

 ドンナ・アンナのマリゴーナ・ケルケジは尻上がりに良くなっていました。2幕目の「私が残酷ですって?」は聴き応えありました。そして、騎士長の妻屋さん、鉄板です。日本の歌手の中で、年間一番多く歌っているのがこの人ではないでしょうか?でも、どんな役でも「今ひとつ…」ということが全くないですね。凄いと思います。

指揮のカーステン・ヤヌシュケ、新国立初登場。歌手と合わないのは、先ほども言ったように、初日のせいで、この後の公演では改善されるでしょう。でも、モーツァルトのオペラは、指揮にヴィジョンが欲しい。どんな音楽にするのか、テンポや盛り上がらせ方、レチタティーヴォの扱い方などに、もう少し指揮者の意図がはっきりと反映されて欲しかったです。

新国立の過去のドン・ジョヴァンニがなかなか良かったので、ちょっと辛口なブログになってしまいましたが、脇園さんとガデルを聴くだけでも価値のある公演。まだチケットがあるようなら、是非行かれてください。

指揮 : カーステン・ヤヌシュケ
演出 : グリシャ・ アサガロフ
ドン・ジョヴァンニ : ニコラ・ウリヴィエーリ
騎士 : 妻屋秀和
レポレッロ : ジョヴァンニ・フルラネット
ドンナ・アンナ : マリゴーナ・ ケルケジ
ドン・オッターヴィオ : ファン・フランシスコ・ ガテル
ドンナ・エルヴィーラ : 脇園 彩
マゼット : 久保 和範
ツェルリーナ : 九嶋 香奈枝
合唱 : 新国立劇場合唱団
東京フィルハーモニー交響楽団
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二期会「エロディアード」

 4月27日、オーチャードホールでの二期会公演、マスネの「エロディアード」に行って来ました。そのあとすぐに連休に入ってしまい、ブログアップするのを忘れてしまっていて、こんなに遅くなりました。

 二期会では、今年「二つのサロメ 〜 一つのストーリーから生まれた二つのドラマ」と銘打って、今回の「エロディアード」とリヒャルト・ストラウスの「サロメ」を上演するのですが、これはとても意欲的なプロジェクトだと思います。特に「エロディアード」のほうは、滅多に上演されない演目です。ただ、そのような素晴らしいマーケティング(?)がある一方で、当日会場で配られていたプログラムは全く貧弱で、あらすじさえも無いのです。あるのは、オペラ研究家、岸純信氏の解説が2頁だけ。これはこれで読み応えのあるものでしたが、比較的登場人物が多く、しかもセミステージ方式(ほとんど演奏会形式)で上演されたので、ストーリーの理解が出来なかった方も多かったのではと思います。僕は、幸い前もってネットでストーリーや登場人物の役柄については、知識を入れてきたので、なんとかついて行けましたが、それでも休憩時間にプログラムで確認したかったこともいくつかありました。

 このような簡素なプログラムしか配布しないなら、二期会は事前に、チラシやホームページで、「本上演のストーリーは、皆様前もってネットなどでお知りになってください」などと告知するべきではないでしょうか?藤原歌劇団のプログラムなどは、非常に丁寧で読み応えがありますが、二期会のそれは、概して観客フレンドリーではないように思います。

 さて、この日の公演で、何と言っても素晴らしかったのは、指揮のミッシェル・プラッソンと東京フィルハーモニー。この指揮者は、2016年の新国立での「ウェルテル」を指揮する予定でしたが、体調不良で、息子のエマニュエル・ブラッソンに代わったことを覚えています。だいぶ高齢のようで、椅子に座っての指揮でしたが、マスネの美しいメロディーを浮き出すように綴っていき、盛り上げるところは盛り上げる、フランスのグランドオペラの雰囲気を充分に堪能させてくれました。ただ、セミステージということで、本来4幕目に入るべきバレエが省略されていたのは、やや残念。

 歌手は、すべて日本人でしたが、サロメの高橋恵理と、ファニュエルの妻屋秀和が素晴らしかったです。この日は音響のあまり良くない3階の端で聴いたのですが、弱音から強音まで、ふくよかで強い声が届いてきて感動しました。ただ、ジャンの城宏憲とエロデの小森輝彦は、やや声がつぶれたように聴こえて、伸びにも欠けていたように感じました。

6月は、「サロメ」です。まだチケットが残っているようです。非常に良心的な価格設定ですので、皆様も是非!



東フィル定期公演@オペラシティ

 4月16日の東フィル定期公演に行って来ました。1月以来のバッティストーニです。

 バッティは指揮台に現れると、フランス語で「パリのノートルダムのために」と言って、おもむろに「ラ・マルセイエーズ」を演奏しました。この日に、大火災にあった、ノートルダム寺院に敬意を表したのだと思いますが、なかなか感動的でした。おそらく、急いで楽譜を用意して練習をしたのだと思います。

 この日は、東フィルの2019年度シリーズの初日、しかも新天皇の即位を控えているということで、前半は「王冠」、「戴冠式」とお祝いムードの強いメニュー。ウォルトンの「王冠」は、バッティの好きそうな歯切れの良い明るい曲。続く、モーツァルトのピアノ協奏曲は、小山実稚恵の、一音一音をきちんと、しかしまろやかな演奏が、なんだか懐かしい感じ。ちょっと、リリー・クラウスを彷彿とさせるような優雅さと上品さがありました。しかし、逆に言うと、最近の個性あるピアニストに比べると、自己表現にやや物足りない感じもありました。

 休憩をはさんで、チャイコフスキーの交響曲第4番。5番や6番に比べると演奏される機会は少ないですね。聴き応えがあったのは、第3楽章。弦楽器がすべてピッチカートで演奏され、演奏者は弓には手も触れません。中間部に来る木管のロシア民謡風の音楽とのマッチングがとても魅力的でした。そして、第4楽章は、爆発するような怒濤のパワー。バッティの本領発揮です。それにしても、先月のプレトニョフのハチャトゥリアンは、それ以上の爆発だったのですが、プレトニョフの指揮のアクションはミニマム。バッティストーニとえらい違いです。ムーティも若い頃から比べると、指揮の動きは少なくなっていますから、年齢にもよるんでしょうね。変なところが気になりました。

次の観劇は、二期会の「エロディアート」です。

フランス国歌『ラ・マルセイエーズ』
ウォルトン : 戴冠式行進曲『王冠』
モーツァルト : ピアノ協奏曲第26番『戴冠式』*
チャイコフスキー : 交響曲第4番
エルガー:『威風堂々』

*ピアノ:小山実稚恵

指揮:アンドレア・バッティストーニ
東京フィルハーモニー交響楽団

フィレンツェの悲劇 x ジャンニ・スキッキ

 4月7日の初日のマチネに新国立劇場に行ってきました。珍しいダブルビル(二作同時上演)形式。ただ、もともと、プッチーニのジャンニ・スキッキは、「三部作」の最後、「外套」、「修道女アンジェリカ」の後にトリプルビルとして上演されるのが、普通です。

 この日のダブルビルは、フィレンツェという街を基軸にした2作で、意欲的な企画ではありましたが、「フィレンツェの悲劇」、音楽的には素晴らしいのですが、ストーリーがあまりに単純でした。「悲劇」ですから軽いということはないのですが、登場人物三人の心理描写が出来ていなくて、筋立ての似た「外套」などに比べると、物足りないのです。そうすると、その後に来る喜劇の「ジャンニ・スキッキ」のインパクトも弱くなります。去年から今年にかけて、佳作とも言える「三部作」をMETと二期会で観劇したイメージがまだ僕の体内に残っているので、余計その物足りなさを感じました。

 「フィレンツェ」の歌手三人は、なかなかのレベルです。特に、ねっとりとしたグイードのグリヴノフ、クールなビアンカの斉藤純子のやりとりは魅力的でした。斉藤はフランス在住のようだが、もっと日本でも歌ってもらいたいものです。シモーネのグリヴノフも、輝くようなテノールで良いのですが、個人的にはちょっと声が高すぎて、心理的な表現には向いていないような気がしました。

 「ジャンニ・スキッキ」は、タイトルロールのカルロス・アルバレスが素晴らしかったです。「演技が出来て、歌もうまい」のを要求されるこの役に充分過ぎる実力を発揮していました。砂川涼子も村上敏明もうまいのですが、これだけ大人数の歌手が出るのであれば、若手の研修所上がりなど、サプライズがあっても良いのではとも思いました。

 演出は、オーソドックスなものでしたが、舞台美術が良かった….というか僕の好みでした。特に「ジャンニ・スキッキ」で登場人物が、皆、ミクロの決死圏みたいに、小さくなって文机の上で大きな封筒を開けたり、はかりに乗ったりするのは、目新しさはないけど、このストーリーには良く合っていたと思います。

 最後に指揮の沼尻竜典。どちらかと言えば、「フィレンツェ」のほうが、緊迫感があって、彼の良さが出ていたようです。だらだらとしたストーリーを、音楽で盛り上げていました。ただ、やはり、「三部作」の「外套」で彼の指揮を聴きたかったというのが本音。

今回から、新国立劇場の客席全席に、特製のクッションが付くようになりましたが、座り心地が良いです。この日のような短いオペラでも良いですが、ワーグナーなどの長い公演の時は、ずいぶん助かると思います。

■ツェムリンスキー「フィレンツェの悲劇」
– グイード・バルディ:ヴゼヴォロド・グリヴノフ
– シモーネ:セルゲイ・レイフェルクス
– ビアンカ:齊藤純子

■プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」
– ジャンニ・スキッキ:カルロス・アルバレス
– ラウレッタ:砂川涼子
– ツィータ:寺谷千枝子
– リヌッチョ:村上敏明
– ゲラルド:青地英幸
– ネッラ:針生美智子
– ゲラルディーノ:吉原圭子
– ベット・ディ・シーニャ:志村文彦
– シモーネ:大塚博章
– マルコ:吉川健一
– チェスカ:中島郁子
– スピネッロッチョ先生:鹿野由之
– アマンティオ・ディ・ニコーラオ:大久保光哉
– ピネッリーノ:高橋正尚
– グッチョ:水野秀樹


指揮:沼尻竜典
演出:粟國 淳
管弦楽:東京フィルハーモニー

ウェルテル@新国立劇場

 3月24日、日曜日のマチネの「ウェルテル」に行ってきました。今回の目当てはなんと言ってもシャルロット役の藤村実穂子。とは言っても期待ばかりではありませんでした。彼女は、どちらかというとワーグナーやマーラーのイメージが強く、フランス物は、リサイタルでカルメンを歌ったのを聴いたくらい。(これ素晴らしかったです!)ですので、若いシャルロットはどうかな?と思っていましたが、さすがですね。芯のしっかりした声に、やや鼻に抜けるような柔らかさを加えて、余裕たっぷりの歌い方。素晴らしいです。2016年の砂川涼子のシャルロットが台本通りの20歳だったとすれば、藤村実穂子は25歳くらいかなという感じはありますし、タイトルロールのサイミール・ピルグもコルチャックのような若さで押す歌い方ではないので、ちょっとオネーギンとタチヤーナみたいな感じもしましたし、そこを嫌った方もいるでしょう。でも、3幕目の「手紙の場」での長大な独唱は、まさに魂をゆさぶるような美しさがありました。ここを聴いただけでも、この日初台に来た甲斐あり。

 前述のコルチャック、2016年に新国立でウェルテルを歌い、大喝采を浴びました。この印象があまりに強く、それを知っている人には、今回のピルグはやや物足りない。いや、歌手としての出来には大満足なのですが、役の性格作りがちょっと中途半端なんです。コルチャックのように純真で、子供っぽいとまで言えそうなウェルテルと、カウフマンのような成熟したストーカーのようなウェルテルの間で、ややノーブルな感じに過ぎた感じがありました。しかし、藤村とのバランスはとても良かったです。そして「オシアンの歌」は素晴らしかった。Bravo!!! 残念なのは、歌が素晴らし過ぎたせいか、3階の観客の一人がまだ途中なのに拍手をしてしまい、ピルグに手で制止されていたこと。この人かどうかわかりませんが、この日は3階あたりから、不要な拍手がちょっと多かったですね。

 この公演は、ピルグ以外の歌手は全員日本人でしたが、実にクォリティが高かったです。ソフィーの幸田浩子も良かったです。彼女は台本での15歳という年齢にぴったりで、可愛らしいコロラトゥーラを聴かせてくれました。演技も秀逸。そしてアルベールの黒田博、このオペラでは憎まれ役になるのですが、声にその演技が籠もっていて秀逸でした。嬉しかったのは、研修所から応援している、糸賀修平(シュミット)と駒田敏章(ジョアン)が、存在感のある歌声を聞かせてくれたこと。糸賀の特徴のある甘い声を僕は大好きで、いつか新国立が初めて、ベッリーニをやってくれたら、この人のテノールを聴きたいなぁと思っています。(夢遊病あたりで。。。)

 指揮のポール・ダニエルは初めて聴きました。可も無く不可もなくという感じでしょうか?歌手によりそうようなところはとても良いのですが、序奏や間奏で、ところどころ音の立ち上がりが合わなかったり、なんとなく雑然として聞こえて、音楽の中に入り込むのが難しかったです。

 特筆したいのは、舞台美術の素晴らしさ、ニコラ・ジョエルの演出は2016年の再演ですが、特に4幕目の書斎の場の美しさ、一面の本棚と高い窓(おそらく)から床にこぼれる日の光の中で、ウェルテルが息絶えて行くシーンは本当に美しいものでした。ばらの騎士や、影のない女でも同じような手法が使われていましたが、新国立劇場の照明の素晴らしさは、世界に誇れるものだと思います。照明で泣かされるのは、この劇場だけです!

帰りに、チケット売り場で、まだ取っていなかった5月のドン・ジョヴァンニの席を取りました。その前に4月の「フィレンツェの悲劇、ジャンニ・スキッキ」のダブルビルです。

指揮:ポール・ダニエル
演出:ニコラ・ジョエル
美術:エマニュエル・ファーヴル
衣裳:カティア・デュフロ
照明:ヴィニチオ・ケリ
再演演出:菊池裕美子
舞台監督:大仁田雅彦

ウェルテル:サイミール・ピルグ
シャルロット:藤村実穂子
アルベール:黒田 博
ソフィー:幸田浩子
大法官:伊藤貴之
シュミット:糸賀修平
ジョアン:駒田敏章
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:東京交響楽団

プレトニョフ ロシアンプログラム

 東フィルの定期公演で、オペラシティへ行きました。久しぶりのプレトニョフ。チャイコフスキーとハチャトゥリアンという、だいぶ雰囲気の違う、、というか正反対の作曲家のプログラム。

 「葬送行進曲の調子で」始まる“スラヴ行進曲は、まさにお葬式の重さを肩に感じるような序盤。やがて、勇壮な凱旋のメロディになるのですが、全体に重厚なイメージ。続いてのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35。ヴァイオリンは台湾生まれの若手“ユーチン・ツェン”つい最近、クルレンツィスとコパチンスカヤで聴いたばかりの曲ですが、これは、その時とは対極にある演奏。どっしりとして、古典的。言い方を変えると、やや退屈。グァルネリの音色は高音に伸びるのではなく、中低音を膨らませて聴かせるので、ヴィオラの協奏曲のようでした。ただ、もともと、それほどチャイコフスキー大好きというわけではない僕(家内は大好き)は、車の中などで、聴くことはないのですが、このユーチン・ツェンの音色なら、車のJBLのスピーカーを鳴らすのも悪く無いなと思いました。

 そして、後半はハチャトゥリアン。バレエ曲の「スパルタクス」のアダージョは、実に美しい。僕は2012年にボリショイバレエが来日した時に、全幕公演のチケットを取っていたのですが、体調を崩して行けなかったんですよねー。それが思い出されて、今更ながら悔しく思いました。

 でもって、最後は18本のトランペット(うち15本は、2階正面に位置します)が出てくる「交響曲第3番」。いやー、すごかったですね。ハチャメチャトゥリアンとでも言いましょうか。。。隣の家内は耳鳴りがしてきたと言っていました。僕は、それほどびっくりはしませんでしたが、この曲、どこが良いのかと言われても答えようがありません。ストラヴィンスキーの春の祭典とラヴェルのボレロの後半の不協和音の部分をくっつけたような感じ。一度は聴いておくのはいいかなという感じです。

 それにしても、このものすごい音の音楽を指揮するプレトニョフの動きは本当にミニマムなもので、静かな動きです。バッティストーニが振ったら指揮台がひっくり返りそうなのに。

東フィルの定期公演2018-2019分は、今日で終わりです。来年から席が少しだけ真ん中に寄ります。

次は、新国立のウェルテルです。

チャイコフスキー スラヴ行進曲変ロ短調op.31  
チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35  
ヴァイオリン、ユーチン・ツェン
ソロアンコール:タレガ アルハンブラ宮殿の思い出  
ハチャトゥリアン スパルタクス より アダージョ  
ハチャトゥリアン 交響曲第3番ハ長調 交響詩曲  
  オルガン、石丸由佳
アンコール:ハチャトゥリアン 仮面舞踏会 より ワルツ

指揮:ミハイル・プレトニョフ  

ドン・ジョヴァンニ 新国立研修所公演

 土曜日は、新国立劇場研修所修了公演の中日に行ってきました。この日は、卒業となる第19期生ではなく、20期、21期の歌手を中心にした若手のキャスティングでした。中劇場での公演でしたが、ここは大好きです。器が小さいので、どこに座ってもA席!ちょっとシートが堅くてお尻が痛くなりますが、新国立の大劇場とは全然違う臨場感があります。修了公演ということもあって、生徒の家族や、先輩も来ていて何か華やかな雰囲気でした。

まずは、最初に伝えたいのが、演出、特に舞台美術の巧みさです。決してお金をかけているわけではなく、中央の廻り舞台に乗っている階段と高いアーチと見晴台のようなものが構成されているだけなのですが、これが、場面とともに、少しずつ廻って行きます。そこに、また、素晴らしい照明の効果で、舞台が屋外に見えたり、ジョヴァンニの邸宅に見えたりするのです。まるで、エッシャーのだまし絵を見ているような感じ。演出の粟国さんの才能が遺憾なく発揮されていました。

歌手陣では、タイトルロールの20期、野町知弘が、その明るく張りのある中音で魅了してくれました。彼は演技も素晴らしく、まさしくジョヴァンニになりきっている様子で、余裕たっぷり。そして、もう一人出色だったのが、ツェルリーナの21期の井口侑奏(ゆかな)。実に可愛らしく、色気のある歌いで、このスブレット役(侍女役)を完璧にこなしていました。今すぐにも、フィガロのスザンナでも出来そうです。これからが楽しみですね。

 あとの歌手陣は、まだ歌うのが精一杯という感じで、声の表情や演技までに充分な気を遣うことができていないようでしたが、ドンナ・アンナの和田悠花や、ドン・オッターヴィオの濱松孝行は、これから声を作り込んでいけば、素晴らしい歌手になることを予想させました。

 とにかく、この日、一日のために、相当量の練習をこなして来ただろうだけあって、完成度が高い。金曜と日曜の19期中心の修了公演もチケットを取っておけばと悔やみました。この研修所公演はチケット、すぐに完売になってしまうのですね。

ところで、2月の後半、モロッコに旅行に行って来ました。11日間でオペラ公演は無し。オペラ無しの旅行は出張を除けば10数年ぶりだと思います。なかなかエキゾチックで不思議な風景がたくさんあり、時間の流れもゆっくりしていて良かったです。カサブランカにはオペラハウスが建築中でした。こけら落としは、「アフリカの女」だったりして。また、行ってみたいところです。

さて、今月は、東フィルでプレトニョフのチャイコフスキー&ハチャトリアンと新国立のウェルテルです。

クルレンツィス & コパチンスカヤ

いや、凄い物を聴いてしまいました!クルレンツィスとムジカエテルナは、デビュー作の「フィガロの結婚」から、ほとんどのCD録音は聴いていますが、やっぱり「生」は違う。心臓をわしづかみにされたような感覚でした。

まずは、コパチンスカヤとのヴァイオリン協奏曲ニ短調作品35。クラシックという概念を超えて、JAZZのフィドルとのライブセッションのような、不思議な鋭い緊張感があります。チャイコフスキーの叙情感は徹底的に削減され、音楽の神経シナプスを浮き彫りにしたような演奏。とは言っても神経質な感じではないのです。ピアニシモの音の小ささがすごい。耳鳴りが残っているのかと思うような弱音。そこから悪魔が地底から飛び出して来るような強音。ヴァイオリンとオーケストラの融合感はキュビズムの絵画のように、抽象的な印象の塊になっています。コパチンスカヤは、演奏の時に、靴を脱いで裸足です。床に無造作に置かれた真っ赤な靴が、脱ぎ捨てた日常感のようでした。コパチンスカヤという名前、フィギュアのスケーターみたいですが、今回は4回転アクセル跳んでましたね。

ソロ・アンコールの3曲、知らない曲ばかりでしたが、これも凄かったです。ミヨー、リゲティ、ホルヘ・サンチェス・チョンという、フランス、ハンガリー、ヴェネズエラの現代作曲家の短編を、それぞれ、クラリネット、もう一台のヴァイオリン、そしてコパチンスカヤ自身の声(叫び声)とデュオして、強い炭酸のアルコールカクテルのように、振る舞ってくれました。

そして、休憩を挟んでの交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」。この作品の初演で指揮をして、9日後に亡くなったチャイコフスキーの状況を表すように、生と死との間を行き来するような、鬼気迫る演奏でした。クルレンツィスは、オケから音を引き出すというよりは、オケの音楽の塊の中に存在し、音を自分の体の筋肉で動かし、振り回しているという感じ。ここでも弱音と強音の対比は凄まじい。管楽器であれほどの弱音を出すのはさぞ難しいだろうと思います。昨日の公演後のパーティーで、クルレンツィスはパーティで、「この曲を連日演奏してくれと頼まれることがあるけれど、とても無理。毎日生きたり死んだりしていられない」と語ったと聴きましたが、そうでしょうね。聴いているほうも、曲が終わってもしばらくは立ち上がれないほど消耗しました。

今日の公演、行く前から素晴らしいだろうとは思っていましたが、その予想を更に突き抜けました。これなら、あと2公演のチケットも取っておくべきだったと今になって後悔。9月のルツェルン音楽祭では、4日連続でフィガロ、バルトリとのリサイタル、ドン・ジョヴァンニ、コジ・ファン・トゥッテをやるというものすごい公演があるのですが、行きたくなりますね。

ところで、今週は2度Bunkamuraに来ました。金曜の夜に、「クマのプーさん展」のオープニングレセプションがありまして、これに出品されている絵画は、すべて英国のヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)の所蔵品なのですが、僕は、V&Aの日本でのライセンスセールスエージェントをしているので、出席したという訳です。クルレンツィスのパンフレットの間に、プーさんの展覧会の案内が入っていましたが、ちょっと公演の後に行くには、カフェかなんかで相当心を落ち着けてから行かなければならなかったでしょう。

次のコンサートは、15日金曜日の東フィル定期公演、ミョンフン指揮のマーラー交響曲第9番です。

魔法使いの弟子、バッティ

ちょっと前になりますが、1月25日の東フィルの定期公演の感想です。

第122回東京オペラシティ定期シリーズ
指揮:アンドレア・バッティストーニ
デュカス/交響詩『魔法使いの弟子』
ザンドナーイ/『白雪姫』
リムスキー=コルサコフ/交響組曲『シェエラザード』

いやぁ、バッティを堪能したプログラムでした。今回は、童話をテーマにした3つの曲構成。まず、「魔法使いの弟子」は、ディズニーの1940年のアニメーション映画「ファンタジア」で有名です。僕も小学校の低学年の時に、父親に連れられて、鎌倉の由比ヶ浜にあった“文化座(?)”というかまぼこ形の映画館で見た記憶がありますが、音楽の強烈なイメージが今でも脳の深いところに記憶されています。この時の指揮者は、レオポルド・ストコフスキーでした。バッティの指揮も、まさに映画が目の前で上映されているかのような迫力があります。今まで指揮してきた、ファランドールや展覧会の絵とも共通性のある、立体的で彫刻的な音の構成(あるいは攻勢)。息をつく暇も無いという感じです。指揮棒の先から7色の光りが出ているよう。

そして、コルサコフのシェエラザードですが、これはバレエで良く聴いています。もともとはバレエ曲ではありませんが、1910年にミハイル・フォーキンが振り付けたのですね。最近では、去年の世界バレエAプログラムで、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーの鉄板コンビで踊られていますが、その際にオーケストラで演奏されています。しかし、なかなか全曲を聴くことは少なく、今回はその美しいメロディを堪能しました。ヴァイオリンが引っ張る部分が多く、コンサートマスターの三浦章宏さんの出番が多かったのも嬉しかったです。

コルサコフを聴くと、ストラヴィンスキーもバッティで聴きたくなりますね。春の祭典、やってくれないでしょうか?

ラ・トラヴィアータ藤原本公演

1月27日、藤原歌劇団の本公演、“ラ・トラヴィアータ”に行ってきました。トラヴィアータ、良く行きますね。多分20回以上見ていると思います。もっとも、この演目は世界で一番上演回数が多いのだそうで、2位が魔笛、以下、カルメン、ラ・ボエーム、トスカ、フィガロの結婚と続きます。

今回は、海外からのゲストの歌手はおらず、おもに藤原の看板歌手(上江さんを除く)でトリプルキャストを組んでの3日間。僕は、上江さんのジェルモン狙いで最終日に行きましたが、絶対“当たり”でした。何度も書いていますが、最近、中低音の表現力と艶が素晴らしくなってきた彼のジェルモン、昨年12月にMETで聴いた、クイン・ケルシーのジェルモンよりも良かったと思います。特に、1幕2場でヴィオレッタとのやりとりは圧巻。もともと美しいピアニシモで情感を出しながら、曲が進むに従って、だんだんとヴィオレッタと二重唱になっていくところ、グッと来ました。もちろん、光岡さんのヴィオレッタもBrava!!でした。レッジェーロな声で装飾技術も優れた歌い方、何より美しい水滴のような透き通った声が圧巻でした。そして、3幕目の「道を踏み外した女」のアリアは、彼女の素晴らしさが結晶になって、本当に聴き応えがありました。短くカットされることもなかったですし。それにしても二期会のスターである上江さんが藤原で歌うというのは珍しいこと。これから何か起こるのでしょうか?ともあれ、観客にとっては豪華なキャスティングになっていました。

アルフレードの中井亮一さんも、若々しく、甘く、良かったのですが、上記二人に比べるとちょっと物足りない。1幕2場で冒頭のカヴァレッタ2連発、もう少し強い表現力が欲しかったです。

あと、特筆すべきは、脇役の歌手が総じて良かったこと。フローラの丹呉由利子さん、いかにも自信を持っている女主人という感じで、夜会の主催者として、きっちり歌ってくれました。フローラの夜会がビシッとしないと、2つの夜会がオペラに出てくる意味がなくなってしまうんですね。ロード・オブ・ザ・リングのTwo Towersみたいなものでしょうか?

粟國さんの新演出もなかなか良かったです。額縁に入った大きな絵を使ったのは、1幕目では、原作の始めの、ヴィオレッタの死後のオークションを彷彿とさせますし、途中から額の中で舞踏会で踊る人々が見えるのも新鮮でした。2幕目以降も、額の中にストーリーのバックグラウンドを見せて、3幕目では、弱ったヴィオレッタの後ろの額はやぶれて、絵もなくなってしまっている。(おそらく売ってしまった。。)色々と想像できるところが、押しつけがましくなくて、とても好感が持てました。粟國さんがプログラムで言っているように、彼の演出は、歌手に歌いにくいポジションや体勢を取らせることがないのも、大好きです。藤原の伝統でもありますね。

そう言えば、新国立劇場の2019-2020シーズンの演目が発表になりましたね。なかなか魅力的。今年は少し多めに行こうと思います。

指揮:佐藤正浩
演出:粟國 淳
ヴィオレッタ:光岡暁恵
アルフレード:中井亮一
ジェルモン:上江隼人
フローラ:丹呉由利子
ガストン:松浦 健
ドビニー:田島達也
グランヴィル:坂本伸司
アンニーナ:牧野真由美
ジュゼッペ:有本康人
使者:相沢 創
召使:市川宥一郎
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:竹内菜那子、渡邊峻郁
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団








ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ

遅くなりましたが、本年もどうぞ、よろしくお願いを致します。

今年の“聴き始め”は、毎年恒例、ジャパンアーツの「ウィーン・シュトラウス・フェスティヴァル・オーケストラ、ニューイヤー・コンサート」でした。場所はオペラシティ。

まあ、お正月のシャンパンのようなものなので、粗を探したり、真面目にレポートしたりするものではないと思います。とにかく楽しかった!小編成の室内楽的オーケストラなので、迫力には欠けますが、その分、繊細で美しい音を聴かせてくれます。今回は、バレエと声楽付き。

特に良かったのが、バス・バリトンの平野和。前にアイーダのエジプト王で聴いているようですが、あまり印象に残っていません。ところが、この日は凄かった。圧倒的な声量と下から上まで実になめらかに輝くような声が出て来ます。バス・バリトンだが、全くモゴモゴしない。素晴らしいです。さすが、ウィーン国立音大を主席で出て、フォルクスオーパーの専属歌手として10年間契約して、主役級で歌っているだけあります。背が高くイケメンですから、日本でももっと出てくれればファンが増えると思います。

バレエが入ったのも、豪華で良かったですね。年末年始のコンサート色々とありますが、うちはこれで決まりです。

次は藤原の「ラ・トラヴィアータ」です。

【第1部】
ヨハン・シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」序曲

ヨハン・シュトラウスⅡ:ポルカ・シュネル「浮気心」…□

ヨハン・シュトラウスⅡ:貴歌劇「ジプシー男爵」より《読み書きは苦手》…●

ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「ウィーンの森の物語」

ヨハン・シュトラウスⅡ:喜歌劇「こうもり」より《田舎娘を演じる時は》…○

カール・ミヒャエル・ツィーラー:ワルツ「いらっしゃいませ」…□

ヨハン・シュトラウスⅡ:トリッチ・トラッチ・ポルカ

ヨハン・シュトラウスⅡ:喜歌劇「ウィーン気質」から二重唱《これがなくちゃあ許せない》…○●

【第2部】
ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「春の声」

ヨハン・シュトラウスⅡ:ポルカ・シュネル「狩り」…□

カール・ミレッカー:喜歌劇「乞食学生」より《肩に口づけしただけだった》…●

ヨハン・シュトラウスⅡ:皇帝円舞曲

フランツ・レハール:喜歌劇「ジュディッタ」より《熱き口づけ》…○

フランツ・レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より《唇は語らずとも》…○●

ヨハン・シュトラウスⅡ:ワルツ「美しく青きドナウ」…□


ソプラノ:アネッテ・リーピナ … ○ 
バス・バリトン:平野和 … ●

本年のベスト10

遅くなりましたが、本年のベスト公演(観劇した45公演中)10作を挙げます。1,2位が海外になりましたが、国内公演が7作と充実していました。

1 オルフェオとエウリディーチェ 2018/2/28 スカラ座
オケが上下する舞台に乗っているという驚き。フローレスは神の声かという素晴らしさ。この公演がDVDになるという情報が今飛び込んできました!

2 シモン・ボッカネグラ 2018/3/1 スカラ座
ヌッチは絶好調、サルトリ、ベロセルスキーも素晴らしかった。ミョンフンの指揮も良かったがやや叙情的過ぎたか?演出はだるい。

3 コルチャックリサイタル    2018/3/15 オペラシティ
後半のロッシーニ素晴らしかったです

4 三部作           2018/9/8    二期会 新国立劇場 
ミキエレットの演出素晴らしい、指揮、歌手とも最高

5 La Traviata        2018/12/7    MET
フローレス、ダムラウ、ケルシーの歌手陣が素晴らしい。指揮の新MET監督ヤニック・ネゼ・セガンも良かった。ただ、フローラや公爵陣の脇役が弱かった

6 ファルスタッフ       2018/12/15 新国立
今年の新国立で最高の公演

7 東フィルチョンミョンフン、フィデリオ 2018/5/8 サントリー
ミョンフンの指揮良かった、レオノーラのマヌエル・ウール素晴らしい!

8 イル・トロヴァトーレ(バーリ歌劇場、フリットリ) 2018/6/22 東京文化会館
フリットリ降板!しかし、男声3人が素晴らしい

9 世界バレエBプロ 2018/8/8 東京文化会館

10 ラ・トラヴィアータ 2018/10/14 藤沢市民会館
中村恵理素晴らしい,、他の歌手と格が違う

真珠採り@MET

 さて、土曜日のオペラダブルヘッダー、後半は「真珠採り」です。このペニー・ウールコックの演出は、昨年にカマレナ、マチャイゼでLAオペラで見ています。ライブビューイングでも見ているので、もうお馴染みという感じですが、いつも序曲のところ、海中を模した緞帳全体を、真珠採りの二人が泳いで上下に動くのはどうやっているのかと思います。この演出も細部は少しづつ変わっているようで、今回は、漁村の舞台装置に魚網がありませんでした。もともとやや混み入り過ぎている感じのある舞台なので、変えているのかもしれません。

 まず、特記したいのは、今回、指揮者のエマニュエル・ヴィヨームの締まった指揮です。LAでのグラント・ガーションの指揮は、コンロンの流れを汲む「開放型」の指揮で、実にグランドオペラの雰囲気が良く出たゴージャスでミュージカルのような感じでしたが、ヴィヨームは、全体に音をコンパクトにしていて、塊感がありました。どちらが良いとは言えないのですが、指揮者によって随分違うものだと思いました。(当たり前ですが)

 カマレナはLAでは、今ひとつ調子が出なかったようで、高音で声が割れたりしていましたが、今回は面目躍如。素晴らしい!フローレスよりもう少し軽い感じで、鼻の奥深いところから柔らかい声が出て来ます。ズルガとの二重唱「聖堂の奥深く」も、「ナディールのロマンス」も、本当に聴き応えがありました。

 レイラ役のアマンダ・ウッドバリーは初めて聴きましたが、軽めのコロラトゥーラという、マチャイゼとは全く違うタイプ。装飾歌唱はとてもうまいのですが、完全にベルカントタイプで、やや役との違和感がありました。これ、好みの問題ですね。ズルガのエリオット、ヌーラバッドのアチェートも悪くはなかったのですが、ズルガは本当は他の日に出ているクヴィエチェンで聴きたかったというのが本音。

 しかし、2日で3本のオペラは、やや重かったです。三部作で寝てしまうという醜態を演じてしまいましたので、今後はスケジュールをもう少し考えようと思います。でも、METは毎日色々な違う演目をやるので、ついつい欲張ってしまいますよね。ABTのくるみ割り人形のバレエも隣でやっているんですから。(ところで、ABTのスターだった、パロマ・ヘレーラ、コロン劇場の芸術監督になっていました!)

もっと頻繁にMETに来たいと思いますが、フライト、ホテル、滞在費のどれもが、ミラノやウィーンに比べるとだいぶ高いのが壁になります。次に来られるのはいつでしょうか?

Conductor: Emmanuel Villaume
Production: Penny Woolcock
Zurga: Alexander Birch Elliott
Nadir: Javier Camarena
Leila: Amanda woodbury
Nourabad: Raymond Aceto

ファルスタッフ@新国立劇場

 12月15日の楽日に、ファルスタッフを見に行ってきました。すでに、絶賛とも言える評判が各所から入っていたので期待していましたが、まさに絶品の公演でした。

 まず挙げたいのが、カルロ・リッツィの指揮。僕がリッツィ大好きということもありますが、素晴らしかったですね。序曲からして、切れがとても良く、やや早めですが、一音一音が真珠の粒のように、浮き上がってくる感じ。この人のヴェルディは他には、シモン・ボッカネグラを聴いていますが、とにかく濁りの無い音、クリーンな音です。ファルスタッフで、音楽だけでこれほど魅了されたのは、初めてではないかと思います。

 冒頭、発表があったように、アリーチェ役のエヴァ・メイが風邪気味であるとのことでした。しかし、それなりに、実にうまくまとめていました。この役は、舞台での存在感が絶対的に必要なのですが、まさに、美しい立ち姿と優雅な振る舞いでそれを実現していました。ただ、どうやらオペラは引退を表明しているようなので、それは残念です。デセイもそうでしたが、早すぎる引退ですよね。

 そして、クイックリー夫人のシュコーザ、ナンネッタの幸田浩子、メグの鳥木弥生の4人のアンサンブルが実に良かったです。これだけでうっとりですね。

 一方の男声陣、女声に比べてやや軽い感じがありましたが、それでもフォードのオリヴィエーリ、健闘していました。フォードの実年齢はどのくらいでしょうか?30代そこそこと考えればぴったりきますね。ロベルト・カンディアのタイトルロールも、ちょっと「清純」すぎるかなという感じがありましたが、これは、2013年の来日公演で2度も聴いたスカラ座のマエストリのイメージが僕のアタマにいまだに残っているのもありますね。あのどっしりとしたファルスタッフ、サイトウキネンでの、哀れっぽいクイン・ケルシーのファルスタッフ、そして、今回のまだ若さの残る初老のファルスタッフと役作りで分けられていると思うようにします。

 ジョナサン・ミラーの演出、特に舞台美術は、何度見ても良く出来ていると感心します。最短の時間で場面転換し、音楽の途切れを生じさせません。

 今回のファルスタッフは、今年の新国立の演目の中では最高だったのではないでしょうか?

指揮:カルロ・リッツィ
演出:ジョナサン・ミラー

ファルスタッフ:ロベルト・デ・カンディア
フォード:マッティア・オリヴィエーリ
フェントン:村上公太
医師カイウス:青地英幸
バルドルフォ:糸賀修平
ピストーラ:妻屋秀和
フォード夫人アリーチェ:エヴァ・メイ
ナンネッタ:幸田浩子
クイックリー夫人:エンケレイダ・シュコーザ
ページ夫人メグ:鳥木弥生
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

三部作@MET

 金曜日の夜にトラヴィアータを見て、翌日土曜日は昼からプッチーニの「三部作」、これが4時半に終わって、8時半からはビゼーの「真珠採り」という、ちょっとした強行軍の「三部見」です。もっとゆっくり滞在したいのですが、宿泊費、食費がNYはブエノスアイレスの3-4倍するので、1週間特に目的も無く滞在して、オペラは1つだけ見るという贅沢な旅行はNYでは無理なんです。なにせ、オペラの間にリンカーンセンター内のレストランでワイン飲んだって、グラスで15ドル(1700円)くらいしますから。(ちなみに、LAなど西海岸はもっと安いですが)

 さて、この日は、昼食は食べられないと思って、朝をアッパーウェストのデリで、たくさん朝ご飯食べました。(これがまた美味しいのです。)しかし、これが大失敗で、12時半から始まった三部作の最初の「外套」後半と「修道女アンジェリカ」の前半、満腹感とまだ残っていた時差ボケのせいで、なんと寝てしまいました。海外でもう何十作もオペラを見ていますが、着いた日に劇場に直行しても、どんなに時差ボケがあっても、海外の公演では一度も寝たことがなかったのに、いやはや大失敗。また、もったいない、、、。

 そんなわけで、このブログもちょっと不完全なものになりますが、まずは、指揮者のベルトラン・ド・ビリーの素晴らしさを挙げたいです。彼は、9月に東京で二期会の「三部作」も振っていて、その時も素晴らしかったのですが、この日は、より抑揚があって、盛り上げる振り方をしていました。言い換えれば、初心者でもわかりやすい指揮を、このちょっとオタクっぽいオペラに与えたとも言えそうです。この日、初めて感じましたが、「外套」は、なんかラヴェルっぽいですね。プッチーニにしては、有名なアリアは三部作のすべてでも「私のお父さん」くらいしかありませんが、外套の序奏などは、本当に秀逸で、映画音楽などの現代の音楽にも通じると思います。ゆらぐ船と、ゆらぐ心と、これから起こる悲劇をゆっくりと予感させます。

 二期会の演出とは違い、クラシックな演出はMETらしいものでした。「外套」では、ジョルジェッタの名前を冠した貨物船が、川が運河に横付けされて荷下ろしの最中、最初は赤が基本だった照明が、場面が変わるにしたがい、グレーや緑に変わります。これが油絵の絵画を見るように美しい。ただ、個人的には、二期会の時のミキエレットの不安感を強く押し出す、コンテナが斜めにならんだ舞台のほうが新鮮でした。この演目は、あくまでも心理劇なので、登場人物の心理を表すには、船も波止場も変えてしまって良いと思いますし、そのほうが、屈折した心理面を表せると思います。

 ミケーレを歌ったガグニーゼ。日本でも2015年の新国立の「ファルスタッフ」のタイトルロールで聴いていますが、とても良かったです。この人は、どちらかというと低めのヴァリトンで、中低音部での演劇性が素晴らしいです。ルイージのアルバレス、日本でもおなじみですが、ミケーレの心をかき乱す役柄をうまく演じていました。出色だったのは、ジョルジェッタのアンバー・ワーグナー。初めて聴きましたが、声量があり、音程が正確で、それでいながら、感情を声の中に流し込むような感じが素晴らしい。どちらかというと、3人ともヴェリズモを極めた感じの歌い方で、とてもバランスが良かったです。

 修道女アンジェリカは、一番寝てしまったので、あまり書けません。演出はここでもクラシックで、芝生のある修道院の中庭ですべてが進行します。最後は、ミキエレットのように、子供が生きていたという救いの無いものではなく、普通にアンジェリカが亡くなる時に子供が現れるというものでしたが、ミキエレット版を見ると、やや物足りなく感じました。それと、タイトルロールのオポライス、いつも思うのですが、上手いです。綺麗です。そつがありません。ですが、外套のワーグナーのように、歌の中に感情を入れ込んでいるという感じが無いのです。何か空虚な感じがするのは僕だけでしょうか?

 そして、ジャンニ・スキッキ。これは目覚めてしっかり見ました。それだからではありませんが、ずっと起きていて見ていた家内に言わせても、三作の中で、一番、こなれていて、良く出来ていたと思います。とにかくテンポが良く、多くの演技が要求される演出も、実にスムースでした。ドミンゴのスキッキが出てくるところでは、明治座の新派のように、演奏中でも拍手が起こるなど、METならではというところもありましたが、決してお行儀が悪いわけではないので、そういうものだと受け止めれば良いように思います。今まで、何度も見ている演目ですが、一番良かったと思います。


CONDUCTOR
Bertrand de Billy
Giorgetta
Amber Wagner
Luigi
Marcelo Álvarez
Michele
George Gagnidze

ラ・トラヴィアータ@MET

 12月のあたまに1週間、ブエノスアイレスに滞在し、温暖な気候を満喫して、日光を浴びて日焼けした後に、いきなり零下2度のニューヨークに入るというのはけっこう気合いを入れないと、この歳になるとぎっくり腰になったりする可能性が高いのです。なので、この区間の移動の12時間だけは、ぜいたくをしてビジネスクラスを取っていたのですが、UAの夜行便が機材故障のためにキャンセル!いきなり、アルゼンチン航空のエコノミークラスになってしまいました。このシートの狭いこと。今時、エコノミークラスとは言え、こんな狭いシートがあるのかと思うようなものでしたが、なんとかぎっくり腰にもならずJFKに到着しました。今年は3月のミラノ、パリでも零下の日々を体験していたので、ダウンコートなど、装備は充分。しかし、それでも寒いものは寒いですね。それにしても、今年は3回しか海外へ出ていないのに、そのうち2回で、帰りの便がキャンセルになるというのは、確率66%。ロスバゲはなかったですが、けっこう呪われているのではないかと思ってしまいます。

 さて、ブエノスアイレスのコロン劇場は「ついで」に行ったのですが、NYのMETのほうは狙い撃ちです。2日間で3演目です。

 まず、最初はマイケル・マイヤーの新演出、ディアゴ・フローレスのMETでの初役で話題の、“ラ・トラヴィアータ”、なんと言ってもこれです。もちろん、フリットリがノルマを歌うのがどうか?というのと同じように、フローレスがアルフレードを歌うのには異論も多くあるのは事実ですが、僕はYouTubeで5年くらい前に、フローレスが2幕1場のカバレッタを歌っているのを聴いた時から、いつかは全幕で聴きたいものだと思っていました。

2012年モスクワでの “O mio rimoroso”
https://www.youtube.com/watch?v=LfZqrgvDdYo

ちなみに、こちらは今回の公演の”O mio rimoroso”
https://www.metopera.org/season/2018-19-season/la-traviata/

 結論的には、やっぱり、フローレス「良かった」ですね。成熟したアルフレード、若さをかなぐり出していない、馬鹿すぎない、しかし、情熱的で知的でさえあるアルフレードを堪能しました。2幕目の上記の “O mio rimoroso や、冒頭の“Lunge da lei per me-“のカバレッタでの燃えるような感情を、前にも言いましたが、ポルシェの完璧な6気筒水平対向エンジンのような声に乗せて歌われると、もう、グーッときてしまいます。彼のロッシーニは生で聴いたことはないのですが、ロッシーニの声としてはやや重くなりすぎてきているとのことを聞きます。しかし、アルフレードには今やぴったりだと思います。一幕目のヴィオレッタの幻想で響く遠くの声でさえ、こちらの感情を大きく揺り動かします。3幕目の「パリを離れて」のところで、アタマを一小節早く出てしまい、歌い直したのがちょっと珍しかったですが、全体に感情の歌への流し込みが素晴らしい。これは、タイトルロールのダムラウも同様です。昨年の11月に夫君のテステと来日した時に、一部は歌ってくれて、「凄いなぁ」と思ったのですが、全幕聴くと、彼女の余裕のある歌い方が、実にヴィオレッタの優雅さを出していることに気づきます。1幕目のアリアでも、充分に余裕があり、この分、感情表現に力を割いているように思えます。ともすれば、このような歌手は、感情表現がオーバーになりすぎるのですが、ここはとてもうまく押さえてあります。トラヴィアータの場合、ピークを2幕1場のヴィオレッタとアルフレードの別れ”Amami Alfredo”のところに持って来る演出、あるいは3幕目の”E tardi!(遅いわ)“から「道を踏み外した女」のところに持って来るパターン、そして、最後の”死“に持って来るパターンがあると思うのですが、今回の公演はクラシックな2幕1場のピークバージョンではないかと思います。それだけに2幕目の盛り上がり方は素晴らしかったです。期待以上だったのは、ジェルモン役のクイン・ケルシー。この人は今ひとつ声の奥行きに欠ける印象があったのですが、この日は素晴らしかったですね。ただ、正直ジェルモンは「プロヴァンスの海と土」が良ければ、すべて良しという感じはありますけども。

 指揮のヤニック・ネゼ・セガン、ついに、METの音楽監督になりましたが、レヴァインと比べて、音作りがおとなしいという感じがします。だから、ドン・カルロなどだとちょっと物足りないのですが、今日のトラヴィアータは良かったと思います。クラリネットを積極的に使って、主音節を浮き出させていました。基本的には、超一流の歌手に気持ち良く歌ってもらおうという指揮でした。

 意外だったのが、マイヤーの演出。ラスベガスバージョンのリゴレットのようになるのではという怖れと期待を持っていったのですが、しごくシンプル、クラシカルでした。全幕で、ずっとベッドを舞台中央に置いていたのは、ヴィオレッタの死を、デッカー演出の時の時計やグランヴィル医師のように、逃げられない場所と意味づけていたのでしょうか? それとも、序曲の時に既に、死の場面を出していましたので、その後の全幕はすべて回想だったということでしょうか?そこらへん、もう少し明確にしたほうがおもしろかったと思います。また、コンビチュニーのように、アルフレードの妹は2幕目、3幕目でジェルモンに連れられて登場するのもおもしろいのですが、その意味するところが、ジェルモンの画策なのか、ヴィオレッタの老いと死に対する、「若さ」の象徴なのか、いずれにしても不明瞭なところが気になりました。また、脇役が今ひとつでしたね。特に、フローラのクリスティン・シャヴェスがしまりませんでした。

 色々と言いましたが、公演としては大満足でした。僕の好きなカヴァレッタもカットされませんでしたし。ただ、今年3月にスカラ座で聴いた“オルフェオとエウリディーチェ”でのフローレスとどちらがもう一度聴きたいかというと、オルフェオですね。以前に、カウフマンでアルフレードを聴いたことがありますが、それよりも、アンドレア・シェニエで聴いた時のほうが良かったのと同じようなことです。アルフレードって、そんな役なのかもしれません。

CONDUCTOR
Yannick Nézet-Séguin
PRODUCTION
Michael Mayer

Violetta
Diana Damrau
Alfredo
Juan Diego Flórez
Germont
Quinn Kelsey





コロン歌劇場での“ノルマ”

 生まれて初めて、南米に行って来ました。アルゼンチンのブエノスアイレスは、訳あって前から行ってみたと思っていたところ。今回、同地だけで6泊7日しました。ウルグアイの古い町、コロニア・デル・サクラメントへ日帰りで行ってきたのを除けば、毎日、街をフラフラしていました。パタゴニアとかイグアスの滝とか、一般的に行く観光地はすべてやめにしました。この旅行を計画した昨年の秋に、気づいたのが、ちょうど旅行中に、テアトロ・コロンで、“ノルマ”をやるということ。しかも、タイトルロールがフリットリ!だということで、早速チケットを取りました。ただ、「本当に出るのかなぁ」とは思っていたのです。その悪い予感は的中し、フリットリは11月に入って降板、ベルリンでのファルスタッフに行ってしまいました。まあ、フリットリの喉にとっては、ノルマを歌うことは疑問でしたから、しかたがないかなぁというところです。

 テアトロ・コロンは、その大きさ、美しさから、パリのオペラ座、ミラノのスカラ座と並び、世界の三大オペラ劇場と言われています。僕たちが行った日は、ちょうどブエノスアイレスでサミット(G20)が行われている時で、前日にはコロンで、レセプションがあったので、テレビで見られた方も多いと思います。
 座席で2500,立ち席で1200という大きさは、スカラ座を大きくしのぎ、感覚的にはNYのメトロポリタンに近い大きさという感じがします。

 指揮者はイタリア人のベテラン、レナート・パルンボ。実に素晴らしい音楽を聞かせてくれました。僕は2011年のエルナーニで聴いていました。音をこねくり回すようなことをせず、(ノルマではこれを良くやられます)楽譜をなぞるような指揮。序曲はやや古楽っぽく、切れの良いものでしたが、歌がはいると、レガートが美しく、しかし、若い歌手を引っ張るようなところが、ビシッと芯のはいった演奏につながっていました。伸ばすところは伸ばし、締めるところは締めるというベッリーニの楽譜が良くわかっているという印象があります。そして演出も一本の大きな木が真ん中に立ったシンプルなものでしたが、奥行きのある舞台(20mはあります)を有効につかった立ち回りで好感が持てました。

 フリットリの代役となった、アンナ・ピロッジは、ヴェリズモ的な歌い方がこのノルマにあっていないような感じもして、それがやや気になりましたが、高音まで気持ち良くあがる美声で、感情も良く表されていて、まずは健闘したと言えると思います。アダルジーザのアナリサ・ストゥロッパは、今回の歌手陣の中で一番良く、余裕充分な中高音の発声で、何とも言えない柔らかい奥行きのある声が魅力的でした。声量が一番あったということで、ややノルマを喰ってしまった感じはあります。

 残念だったのが、ポリオーネ役のへクター・サンドバル。一幕目は完全に喉の調子が悪かったようで、高音が立ち上がりません。声量も合唱に飲み込まれるような感じ。2幕目以降立ち直りますが、完全に力不足なのは隠しようもありませんでした。

 終わってみれば、とても印象の強い“ノルマ”ではありませんでしたが、オケを中心にレベル的には高いものだったと思います。多分、2度とブエノス・アイレスを訪れる機会はないと思いますが、コロン劇場の美しさとともに、思い出に残る公演になりそうです。

1週間、温暖なアルゼンチンにいて、これから極寒のNY行きで、現地ではトリプルヘッダーでの観劇、旅の後半はちょっときつい日程です。

とても座り心地が良く、ゆったりしているコロンの椅子
ゆったりしていて、座り心地の良いコロン劇場の椅子、さながらプレミアエコノミー



DIRECTOR MUSICAL INVITADO
Renato Palumbo
DIRECTOR DE ESCENA
Anna Piozzi
NORMA, SACERDOTISA DE LOS DRUIDAS
Christina Major
POLLIONE, PROCÓNSUL ROMANO
Héctor Sandoval
ADALGISA, SACERDOTISA RIVAL DE NORMA
Annalisa Stroppa
OROVESO
Fernando Radó
CLOTILDE
Guadalupe Barrientos
FLAVIO
Santiago Burgi (2, 4, 5 y 7)


歌劇「メフィストーフェレ」

 東京フィルハーモニーの定期公演、バッティストーニ指揮の歌劇「メフィストーフェレ」に行ってきました。東フィルのオペラは、5月のミョンフン指揮の「フィデリオ」以来です。

 アリーゴ・ボイートと言えば、一般にはジュゼッペ・ヴェルディの晩年の作品、オテロやファルスタッフの台本や、シモン・ボッカネグラの改訂版の台本を書いたので知られています。それ以上に、ヴェルディの音楽的なパートナーとして、ボイートがいなければ、これらの晩年の作品は世に出てこなかっただろうとも言われています。これに比べ、彼の作曲家としての評価はやや低いものになってしまっています。これは、自作品の数が少ないことと、代表作である、この「メフィストーフェレ」も初演の1868年のスカラ座で、大失敗になってしまっていることなどから来ているのでしょう。当然、現在でも上演回数は少ないのですが、今シーズンは来週月曜日からMETでも上演されます。

 この日、まずは、バッティストーニの指揮が素晴らしかったです。先週の東フィルのロッシーニの序曲集では、やや重く、もったりした感じがあったのですが、この日は、彼らしい彫刻的、立体的な音作りがとてもうまくいって、攻め立てるところ(プロローグの合唱部分や、エピローグの最終部分の圧倒的な迫力など)と、美しい弱音でで飾る3幕目のマルゲリータのアリアや、4幕目の女声二重唱のところの、強弱の対比が素晴らしかったです。テクニックを縦横無尽に使っているのですが、それがあざとく見えない、実にシンプルで素直に聴こえて来るのがすごいですね。「ローマ三部作」などもそうですが、彼の指揮を聴いてしまうと、それがその音楽のデファクト・スタンダードのようになってしまうのです。あの強い刺激のある音が、聴くものの耳と心に素直に入って記憶されるということでしょう。

 歌手陣もなかなかのものでした。ファウストを歌ったテノールのアントネッロ・バロンビ、急病で降板したジャンルーカ・テッラノーヴァの代役だったのですが、イタリア的な明るく、そして強い声で表現力もあり、圧巻でした。タイトルロールのマルコ・スポッティも良かったのですが、バスというにはやや声が高め。バスバリトンの感じで、しかもどちらかというとノーブルな声。ドン・ジョヴァンニなども歌えそう。「悪魔」感がちょっと弱い感じがしました。1幕目では高音と中低音の切り替えがうまく行っていない感じが少ししましたが、幕が進むに連れて聴き慣れていくと、こちらも感情表現が豊かな歌唱でした。マルゲリータのマリア・テレーザ・レーヴァはまだ若いようですが、安定した音程と、豊かな声量で、マルタの清水華澄(こちらも素晴らしい)の2重唱は、全くブラーヴェでした。

 1,2幕目の音楽作りと3,4幕目のそれとが、けっこう音楽的に違っている感じがあり、後半は、イタリア歌劇の伝統的な雛形にそったアリアもあり、拍手どころも多いのですが、これは、初演版(楽譜が残っていない)が失敗したあとに、ボイートが聴衆の受けを狙って、改訂したところなのでしょうか?

 全体として非常に満足な公演でした。それにしても、東フィルの定期公演で、演奏会形式とは言え、年2回もオペラを入れるというのは凄いですね。この日のチケットも3階の最前列B席でしたが、6,300円と値打ちもの。そしてほぼ満席でした。マイナーな演目は、もっと積極的に「演奏会形式」を使って上演をしてほしいと思いました。
 

東京フィルハーモニー第913回 オーチャード定期演奏会
指揮:アンドレア・バッティストーニ
メフィストーフェレ(バス):マルコ・スポッティ
ファウスト(テノール):アントネロ・バロンビ
マルゲリータ/エレーナ(ソプラノ):マリア・テレ-ザ・レーヴァ
マルタ&パンターリス(メゾソプラノ):清水華澄
ヴァグネル&ネレーオ(テノール):与儀 巧
合唱:新国立劇場合唱団 他

東フィル定期公演バッティストーニ指揮「ザ・グレート」他

 久々の東京フィルハーモニー定期公演。いつもながら、満席です。今日のプログラムは、ロッシーニのオペラ序曲を3曲と、シューベルトの交響曲「ザ・グレート」。

 ロッシーニの序曲は聴き応えのあるものでした。ただ、ロッシーニは、もっと軽やかに聴きたいというのが本音。バッティは、いつもながら、音の強弱、緩急にメリハリを付けて、どちらかというと派手に鳴らしてくるのですが、なんだかちょっと粘っこくて、ヴェルディのように聞こえてしまいました。実際この指揮者はヴェルディとかロシアもののほうが良いですね。一年に何回も彼の指揮を聴いていると、やや一本調子なのが気になってきます。今の振り方だと、モーツァルトなどはまだ厳しいかなぁという気がします。

 それに比べて、シューベルトのザ・グレートは、軽快でいい感じでした。第1,第2楽章は、バッティにしては押さえた感じでしたが、第4楽章はバッティ節炸裂!特にトロンボーンが力強かったです。あまり聴くことのない、この交響曲を充分楽しみました。いつものように、アンコールは無し。繰り返しも無し。交響曲の後にアンコールが付くのが好きで無い僕には、とても良い終わりかたでした。

ロッシーニ/歌劇『アルジェのイタリア女』序曲
ロッシーニ/歌劇『チェネレントラ』序曲
ロッシーニ/歌劇『セビリアの理髪師』序曲
シューベルト/交響曲第8番『ザ・グレート』

NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団

 11月8日、NHK音楽祭の第三プログラムは、ハンブルグから、北ドイツ放送交響楽団が改名してNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団になってNHKホールにやってきました。今回のNHK音楽祭は、「新時代を切りひらくシェフたち」と銘打って、サイモン・ラトル、パーヴォ・ヤルヴィ、アラン・ギルバート、グスターボ・ドゥダメルというそうそうたる指揮者をそろえています。ドゥダメル&LAフィルハーモニック以外の3公演のチケットを取っていたのですが、10月1日のヤルヴィ&N響のカルミナ・ブラーナは、出張がはいってしまい、行けませんでした。残念。。ちなみに、この出張、ロンドンだったので、パッパーノ指揮のワルキューレをROHでやっているのを聴きに行く画策をしていたのですが、仕事が忙しくてダメ。何も聴けませんでした。海外に行ってオペラもコンサートも聴けないのは、10年ぶり以上。フライトのチケットを無駄にしているような気になります。

 さて、この日のプログラムの最初、ローエングリンの前奏曲。実に繊細で美しい。モンサルヴァート城の聖杯をイメージさせる旋律がピアニシモで演奏されると、うっとりとしてしまいます。この前奏曲は独立して演奏されることも多いのですが、困るのは、このように素晴らしい演奏をされると、続いてオペラ全体を聴きたくなってしまうことです。

 続いてはラヴェルのピアノ協奏曲、元々予定されていた、ピアニストのエレーヌ・グリモーが肩の故障で、アンナ・ヴィニツカヤに代わりました。彼女は2007年のエリザベート音楽祭で優勝しているので、まだ新進気鋭と言えるでしょう。芯がありながら、軽やかなタッチ、ややアンバランスに曲を少し崩して、表情をつけるところが新鮮です。ラヴェルが印象派でも水彩画のように捉えられています。ただ、このピアノだけでなく、全体に言えるのですが、NHKホールの音響が悪く、ピアノの音が3階まで届いていないような感じがありました。7月に東フィルでロレンツォ・ヴィオッティの指揮、小山実稚恵のピアノで、同じ演目を聴きましたが、こちらは、ちょっと重めのラヴェルで、ジャズっぽく、キュビズムのようでした。

 そして、ブラームスの交響曲第4番、NDRの十八番とも言える演目だそうですが、真面目に音楽に向き合っているという印象。第3楽章、第4楽章と盛り上がり、弦の音に深みがあって、実に素晴らしい。ブラームスは僕はとくに好きというわけではないのですが、このように「良いブラームス」は心に染みます。

さて、来週はバッティストーニウィークです。東フィルの定期公演でロッシーニと、そのあとは、アリーゴ・ボイトのオペラ「メフィストフェレ」….楽しみです。

今日の公演内容

ワーグナー/歌劇「ローエングリン」から 第1幕への前奏曲
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調 作品83
ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 作品98

アンコール:
ピアノソロ 
ドビュッシー:前奏曲集第一巻から 「亜麻色の髪の乙女」「ミンストレル」

オーケストラ
ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番
成田為三(編曲 S・ガンドット):浜辺の歌

<演奏>
指揮:アラン・ギルバート
ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ

管弦楽:NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団

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