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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

歌劇「メフィストーフェレ」

 東京フィルハーモニーの定期公演、バッティストーニ指揮の歌劇「メフィストーフェレ」に行ってきました。東フィルのオペラは、5月のミョンフン指揮の「フィデリオ」以来です。

 アリーゴ・ボイートと言えば、一般にはジュゼッペ・ヴェルディの晩年の作品、オテロやファルスタッフの台本や、シモン・ボッカネグラの改訂版の台本を書いたので知られています。それ以上に、ヴェルディの音楽的なパートナーとして、ボイートがいなければ、これらの晩年の作品は世に出てこなかっただろうとも言われています。これに比べ、彼の作曲家としての評価はやや低いものになってしまっています。これは、自作品の数が少ないことと、代表作である、この「メフィストーフェレ」も初演の1868年のスカラ座で、大失敗になってしまっていることなどから来ているのでしょう。当然、現在でも上演回数は少ないのですが、今シーズンは来週月曜日からMETでも上演されます。

 この日、まずは、バッティストーニの指揮が素晴らしかったです。先週の東フィルのロッシーニの序曲集では、やや重く、もったりした感じがあったのですが、この日は、彼らしい彫刻的、立体的な音作りがとてもうまくいって、攻め立てるところ(プロローグの合唱部分や、エピローグの最終部分の圧倒的な迫力など)と、美しい弱音でで飾る3幕目のマルゲリータのアリアや、4幕目の女声二重唱のところの、強弱の対比が素晴らしかったです。テクニックを縦横無尽に使っているのですが、それがあざとく見えない、実にシンプルで素直に聴こえて来るのがすごいですね。「ローマ三部作」などもそうですが、彼の指揮を聴いてしまうと、それがその音楽のデファクト・スタンダードのようになってしまうのです。あの強い刺激のある音が、聴くものの耳と心に素直に入って記憶されるということでしょう。

 歌手陣もなかなかのものでした。ファウストを歌ったテノールのアントネッロ・バロンビ、急病で降板したジャンルーカ・テッラノーヴァの代役だったのですが、イタリア的な明るく、そして強い声で表現力もあり、圧巻でした。タイトルロールのマルコ・スポッティも良かったのですが、バスというにはやや声が高め。バスバリトンの感じで、しかもどちらかというとノーブルな声。ドン・ジョヴァンニなども歌えそう。「悪魔」感がちょっと弱い感じがしました。1幕目では高音と中低音の切り替えがうまく行っていない感じが少ししましたが、幕が進むに連れて聴き慣れていくと、こちらも感情表現が豊かな歌唱でした。マルゲリータのマリア・テレーザ・レーヴァはまだ若いようですが、安定した音程と、豊かな声量で、マルタの清水華澄(こちらも素晴らしい)の2重唱は、全くブラーヴェでした。

 1,2幕目の音楽作りと3,4幕目のそれとが、けっこう音楽的に違っている感じがあり、後半は、イタリア歌劇の伝統的な雛形にそったアリアもあり、拍手どころも多いのですが、これは、初演版(楽譜が残っていない)が失敗したあとに、ボイートが聴衆の受けを狙って、改訂したところなのでしょうか?

 全体として非常に満足な公演でした。それにしても、東フィルの定期公演で、演奏会形式とは言え、年2回もオペラを入れるというのは凄いですね。この日のチケットも3階の最前列B席でしたが、6,300円と値打ちもの。そしてほぼ満席でした。マイナーな演目は、もっと積極的に「演奏会形式」を使って上演をしてほしいと思いました。
 

東京フィルハーモニー第913回 オーチャード定期演奏会
指揮:アンドレア・バッティストーニ
メフィストーフェレ(バス):マルコ・スポッティ
ファウスト(テノール):アントネロ・バロンビ
マルゲリータ/エレーナ(ソプラノ):マリア・テレ-ザ・レーヴァ
マルタ&パンターリス(メゾソプラノ):清水華澄
ヴァグネル&ネレーオ(テノール):与儀 巧
合唱:新国立劇場合唱団 他
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東フィル定期公演バッティストーニ指揮「ザ・グレート」他

 久々の東京フィルハーモニー定期公演。いつもながら、満席です。今日のプログラムは、ロッシーニのオペラ序曲を3曲と、シューベルトの交響曲「ザ・グレート」。

 ロッシーニの序曲は聴き応えのあるものでした。ただ、ロッシーニは、もっと軽やかに聴きたいというのが本音。バッティは、いつもながら、音の強弱、緩急にメリハリを付けて、どちらかというと派手に鳴らしてくるのですが、なんだかちょっと粘っこくて、ヴェルディのように聞こえてしまいました。実際この指揮者はヴェルディとかロシアもののほうが良いですね。一年に何回も彼の指揮を聴いていると、やや一本調子なのが気になってきます。今の振り方だと、モーツァルトなどはまだ厳しいかなぁという気がします。

 それに比べて、シューベルトのザ・グレートは、軽快でいい感じでした。第1,第2楽章は、バッティにしては押さえた感じでしたが、第4楽章はバッティ節炸裂!特にトロンボーンが力強かったです。あまり聴くことのない、この交響曲を充分楽しみました。いつものように、アンコールは無し。繰り返しも無し。交響曲の後にアンコールが付くのが好きで無い僕には、とても良い終わりかたでした。

ロッシーニ/歌劇『アルジェのイタリア女』序曲
ロッシーニ/歌劇『チェネレントラ』序曲
ロッシーニ/歌劇『セビリアの理髪師』序曲
シューベルト/交響曲第8番『ザ・グレート』

NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団

 11月8日、NHK音楽祭の第三プログラムは、ハンブルグから、北ドイツ放送交響楽団が改名してNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団になってNHKホールにやってきました。今回のNHK音楽祭は、「新時代を切りひらくシェフたち」と銘打って、サイモン・ラトル、パーヴォ・ヤルヴィ、アラン・ギルバート、グスターボ・ドゥダメルというそうそうたる指揮者をそろえています。ドゥダメル&LAフィルハーモニック以外の3公演のチケットを取っていたのですが、10月1日のヤルヴィ&N響のカルミナ・ブラーナは、出張がはいってしまい、行けませんでした。残念。。ちなみに、この出張、ロンドンだったので、パッパーノ指揮のワルキューレをROHでやっているのを聴きに行く画策をしていたのですが、仕事が忙しくてダメ。何も聴けませんでした。海外に行ってオペラもコンサートも聴けないのは、10年ぶり以上。フライトのチケットを無駄にしているような気になります。

 さて、この日のプログラムの最初、ローエングリンの前奏曲。実に繊細で美しい。モンサルヴァート城の聖杯をイメージさせる旋律がピアニシモで演奏されると、うっとりとしてしまいます。この前奏曲は独立して演奏されることも多いのですが、困るのは、このように素晴らしい演奏をされると、続いてオペラ全体を聴きたくなってしまうことです。

 続いてはラヴェルのピアノ協奏曲、元々予定されていた、ピアニストのエレーヌ・グリモーが肩の故障で、アンナ・ヴィニツカヤに代わりました。彼女は2007年のエリザベート音楽祭で優勝しているので、まだ新進気鋭と言えるでしょう。芯がありながら、軽やかなタッチ、ややアンバランスに曲を少し崩して、表情をつけるところが新鮮です。ラヴェルが印象派でも水彩画のように捉えられています。ただ、このピアノだけでなく、全体に言えるのですが、NHKホールの音響が悪く、ピアノの音が3階まで届いていないような感じがありました。7月に東フィルでロレンツォ・ヴィオッティの指揮、小山実稚恵のピアノで、同じ演目を聴きましたが、こちらは、ちょっと重めのラヴェルで、ジャズっぽく、キュビズムのようでした。

 そして、ブラームスの交響曲第4番、NDRの十八番とも言える演目だそうですが、真面目に音楽に向き合っているという印象。第3楽章、第4楽章と盛り上がり、弦の音に深みがあって、実に素晴らしい。ブラームスは僕はとくに好きというわけではないのですが、このように「良いブラームス」は心に染みます。

さて、来週はバッティストーニウィークです。東フィルの定期公演でロッシーニと、そのあとは、アリーゴ・ボイトのオペラ「メフィストフェレ」….楽しみです。

今日の公演内容

ワーグナー/歌劇「ローエングリン」から 第1幕への前奏曲
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調 作品83
ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 作品98

アンコール:
ピアノソロ 
ドビュッシー:前奏曲集第一巻から 「亜麻色の髪の乙女」「ミンストレル」

オーケストラ
ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番
成田為三(編曲 S・ガンドット):浜辺の歌

<演奏>
指揮:アラン・ギルバート
ピアノ:アンナ・ヴィニツカヤ

管弦楽:NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団

アイーダ@神奈川県民ホール

10月21日のアイーダに行ってきました。アイーダを生で聴くのは7回目。ヴェルディの作品の中では、トラヴィアータ、シモン・ボッカネグラ、ドン・カルロの次に多いと思います。特に今年は、4月の新国立の公演にも行っていますので、2度目の観劇。今回は、なんと4つの劇場(札幌文化芸術劇場hitaru、神奈川県民ホール、兵庫県立芸術文化センター、iichiko総合文化センター)と3つの芸術団体(東京二期会、札幌交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団)が、共同制作をするという意欲的な公演なのですが、逆にこれだけ多くの劇場が係わると収集がつかなくなってしまうのではという危惧も。

 指揮のバッティストーニは、このオペラを大変得意としていて、プログラムにもあるように「最高にワクワクするオペラ」と言っています。この日の指揮も、歌手に寄り添うというよりは、歌手をぐんぐん引っ張って行く迫力のあるものでした。アイーダの曲のエッセンスを絞り出すような感じです。ただ若干金管の響きが強すぎて、歌手の声をかき消すところがありました。アイーダトランペットは舞台の両端で鳴らされましたが、これはとても良かった。たいてい、もっと高いところで吹かれるのですが、正面から聞くのも良いものです。また、メロディーラインを奏でる楽器のボリュームを少し上げて、歌唱や合唱とユニゾンするようにしているところが、とてもイタリアっぽい。3幕目の最後のところは、イタリア感がピークに達して感動しました。4月のカリニャーニのややマイルドな演奏は“シンフォニー”のようでしたが、バッティストーニの指揮は、彫刻刀で削ったようなシャープで歌手を鼓舞するパワフルな“オペラ音楽”でした。

 ただ、この指揮についていけた歌手とそうでない歌手がいたのも事実。良かったのは、アモナズロの上江隼人。新国立の時の同役も彼でしたが、得意の高音に加えて、中低音に凄みが出て、アモナズロになりきっていました。声の演技が素晴らしかったです。そして、西村悟の代役で、もともとの伝令の役から大抜擢されてラダメスを歌った城宏憲が、一幕目の「清きアイーダ」からびっくりするような美声を聴かせました。声を振り回さずにコントロールしているところも良かったです。若いラダメスの苦悩を良く演じていました。新国立の研修生の頃から聴いていますが、今回のチャンスを生かしましたね。今後、主役級の役も付くのではないでしょうか?ランフィスの斉木健詞も、いつもはややモゴモゴした感じがあるのですが、この日はクリアでとても良かったです。アイーダの木下美穂子も、突出してはいませんでしたが、無難に歌っていました。

 残念だったのは、アムネリスのサーニャ・アナスタシア。一幕目は、声が出ない。テンポも遅れる。ただ、まあまだ喉が温まっていないのだろうと思っていました。で2幕目に期待していたのですが、その第一声、音がはずれた!だいたい1/4音はずれてしまっていました。いきなり、頭から水をかけられたような気分になりました。その後も無理に高音を出そうとすると、まるで、コーンスピーカーの紙が破れたような籠もった声になってしまい、落ち着いてオペラを聴いていられない状態。3-4幕目ではようやく持ち直して、「ああ、これが実力なんだ」と思われる良い歌唱を聴かせましたが、前日の清水華澄がとても良かった、(僕も演奏会形式で聴いていますが素晴らしかったです。)と聞いていますので、何もこのレベルの歌手を海外から招聘する必要性があったのかと思ってしまいました。このオペラは、“アイーダ”ではなくて、“アムネリス”というタイトルにしても良いくらい、アムネリスの役は重要なのに、大変残念でした。

 そして、もうひとつ残念だったのは演出。演出はほとんど無いという感じで、一昔前の藤原のように、歌手は前を向いて両手を広げて歌うのが殆ど。これなら演奏会形式でも良いような気がしました。それを補うように、バレエは本格的。東京シティバレエ団のプリンシパルクラスが、フェッテやマネージュを繰り広げ、さながらバレエの公演のようです。バレエが好きな僕としては嬉しかったのですが、演出の無い分をすべてバレエに託したような安易さがあり、また、オペラとの調和という面でもやや疑問でした。

 オペラが終わった時は、なかなかの満足感があったのですが、一夜明けてブログにすると色々と難点が気になってしまう、そんな公演でした。


指揮 アンドレア・バッティストーニ
演出 ジュリオ・チャバッティ

アイーダ 木下美穂子
ラダメス 城宏憲
アムネリス サーニャ・アナスタシア。
アモナズロ 上江隼人
ランフィス 斉木健詞
エジプト国王 清水那由太
巫女 松井敦子
伝令 菅野敦

東京シティバレエ団
東京フィルハーモニー交響楽団

 

ラ・トラヴィアータ 藤沢市民オペラ

 しばらくブログをご無沙汰してしまいました。その間にコンサートに数回行きましたが、時間もたってしまったので、割愛致します。

 それで、昨日は1ヶ月ぶりのオペラ、大好きなトラヴィアータです。中村恵理のヴィオレッタは、彼女のリサイタルやヴェルディ協会のイベントで、何曲かは聴いていて、それだけでも、ものすごく魅力的でしたしたので、全幕で聴くのを本当に楽しみにしていました。

 この日の彼女は、本当に素晴らしかったです。どちらかというと「力強い」ヴィオレッタなのですが、1幕の最初から、病気であることがわかるような歌い方。ちょっと息があがっているような雰囲気を醸し出しているのです。ヴィオレッタの人格と体調に完全にシンクロしているのですね。ヌッチは、舞台でどんな事故があっても、役柄から抜けませんが、そのような鬼気迫るものを感じる歌唱と演技でした。

 3幕目の最初の、“Dammi d’acqua un sorso”(お水を頂戴、ひとくち)というところも、はっきりした強い口調で歌うのですが、そこには、もう死の予感がたくさんこもっています。プログラムの解説にもありましたが、最期の場面で、”Ah1 io ritorno a viviere..” “Oh giola” (私はもう一度生きるの、ああ、嬉しい)というセリフが、これほどぴったり合うヴィオレッタは、トラヴィアータをかれこれ15回は舞台で聴いていますが、中村恵理をおいて他にはありません。ナタリー・デセイのヴィオレッタの最期の場面も、素晴らしいのですが、そのセリフとは裏腹に、「もう一度生きる」という感じはしません。この感じがするのは、あとはデヴィーアでしょうか?

 ですので、この日の公園、僕は、完全に中村恵理に“持って行かれた”という感じでした。中村の歌唱があまりに良すぎて、他の歌手が色あせて聞こえるという感じ。その中で、良かったのは、今まで何度聞いてもあまり感動しなかった、須藤慎吾のジェルモンでした。実直な田舎の紳士という感じを、声に無理なく自然に出していました。2幕目でちょっとベルカントしていたのもおもしろかったです。ただ、2幕目最終部の「プロヴァンスの海と土」の後、カヴァレッタを省略してしまったのは、とても残念。 “Non non udrai rimproveri, copriam d’oblio il pasato” (いいやお前に何も小言は言うまい。過去は忘れてしまおう。”と始まる、やさしいメロディで、ジェルモンが息子への愛情をオロオロしながら歌うこの部分が無いと、2幕目、3幕目での親子関係がはっきりとわからなくなってしまうのです。田舎の富豪の息子であるアルフレードが、いかに愛情を注がれて、言い換えれば甘やかされて育ってきたかというのがわかる部分です。これは1幕目2場のパリ郊外のヴィオレッタの館で、“O mio rimorso!”(おお、わが後悔)と歌うアルフレードのカヴァレッタとも呼応しています。この部分も良く省略されてしまうのですが、今回、こちらは残されていました。アルフレードは、1000ルイという大金をなんとかするためにパリに向かうのですが、アンニーナに言われるまでもなく、二人で働きもせずに、そのような豪華な暮らしをするのに、お金がどこから来ているか、考えもしないというのは、あまりにも馬鹿息子過ぎるのではないかと思うのです。その馬鹿息子ぶりが、良い意味でも悪い意味でもアルフレードの魅力なのですが、その部分を裏付けるのが、ジェルモンの2幕目最後のカヴァレッタ。やっぱり入れて欲しかったですね。ちなみに、実話でも原作の作者デュマ・フィスは、ヴィオレッタこと、マリー・デュプレシとの暮らしを維持するための金を父デュマに借りに行くと断られますが、その実、銀行での借金の保証人にはなっているのです。

 このオペラは、実話、原作、戯曲、バレエと色々な表現があるので、それを比較するのもとてもおもしろいです。

 アルフレードを歌った笛田博昭、とても良い声をしていましたし、彼の声量は中村に負けない強さを見せていましたが、ややヴェリズモっぽい、そして音程がところどころぶれることがありました。脇役ですが、男爵役の久保田真澄、アンニーナの牧野真由美、フローラの向野由美子はとても良かったです。この脇役には豪華すぎる配役と言って良いと思いますが、公演全体がグッと締まりました。

 園田隆一郎の指揮は、丁寧で、柔らかく、ピチカートでカラフルにするところなど、彼らしさが出ていましたが、この日の主役となった、中村恵理の強さにやや負けるところがあった気がします。

 岩田宗達の演出は、2013年の新国立での藤原公園、デヴィーア主演の時の演出を元にしていると思われます。あの時3幕目にしか登場しなかった、大きな斜めの台を一幕目から登場させ、使い回していましたが、限られた装置しかない舞台では、とても効果的でした。

 この公演、今年も一日限りなのですが、できれば2日続けて聴きたいものです。とにかく中村恵理に圧倒された満足な公演でした。

指揮:園田隆一郎
演出:岩田達宗
ヴィオレッタ 中村 恵理
アルフレード 笛田 博昭
ジェルモン 須藤 慎吾
フローラ 向野 由美子
ガストン子爵 井出 司
ドビニー侯爵 三浦 克次
ドゥフォール男爵 久保田 真澄
医師グランヴィル 東原 貞彦
アンニーナ 牧野 真由美
管弦楽 テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
合唱 藤原歌劇団合唱部

三部作 東京二期会

6月のバーリ歌劇場来日“イル・トロヴァトーレ”以来、シーズンオフを挟んで、久しぶりのオペラです。“三部作”は僕の大好きな作品で、かなり楽しみにしていました。“外套”、“修道女アンジェリカ”、“ジャンニ・スキッキ”の、それぞれ1時間程度、一幕物のオペラ作品が、この順序で上演されるものですが、 “ジャンニ・スキッキ”は、独立した作品として上演されることも多い作品です。実際、僕も、通しで三作品を見たのは、2008年のロサンジェルス・オペラでの一回だけです。

僕は、プッチーニの作品にはあまり思い入れがありません。特に「ラ・ボエーム」などは、最も苦手とするオペラ。「お涙頂戴」的なところが苦手というのもありますが、多くの作品で、主人公の恋愛や、悩みが幕が上がってから不自然に急に始まるというところに、「物語が悲劇を演出する“為”にこさえられている。」という感じがしてしまうのです。その点では話の筋の流れが開演前からある「トスカ」は好きなほうですね。それで、この三部作は、すべてが短い作品ということもあり、オペラの開演前に、もう既にドラマが始まっています。特に“外套”、“修道女アンジェリカ”では、かなり過酷な運命の流れがあり、この流れに終止符を打つ部分がオペラになっているのです。

今回の公演で、特筆すべきなのは、ミキエレットの演出でしょう。ミキエレットを初めてみたのは、新国立のキャンプ場を舞台とした“コジ・ファン・トゥッテ”で、この演出には、それほど感銘を受けませんでしたが、その次に2015年にアムステルダムで見た美術館の中で演じられる“ランスへの旅”は、本当に心動かされました。そして、この“三部作”。ミキエレットの演出に魔法をかけられた気分です。“外套”は、波止場のコンテナ置き場を舞台にし、次の“修道女アンジェリカ”は、そのコンテナが開いて、修道院の洗濯場と独房になります。そして、休憩後の“ジャンニ・スキッキ”では、そのコンテナがフィレンツェの館に変わるのですが、コンテナが舞台上斜めに置かれているので、舞台上手側に座っている観客からは、コンテナの間の路地になっているようなところが見られると思いますが、僕が座った下手側からだとコンテナの間は、ほとんど見えません。証明に照らされた影で歌手の動きを推測するのみ。また、コンテナの上の部分が邪魔をして、3階のL、R前方の観客からはコンテナの内部や、その中で歌う歌手の頭は見えません。このように、一見、舞台装置は不親切なように思えますが、オペラが進んで行くと、まさに実際の現場をのぞき見ているような現実感が生まれて来ます。舞台美術のヴェリズモと言うべき方法でしょうか?とても刺激的でした。そして、そのコンテナが“ジャンニ・スキッキ”の最後には、すべて閉じられて、“外套”の最初の場面に戻ります。この三部作がもともと、ダンテの「神曲」から作られているとプログラムにも説明がありますが、神曲が表すあの世には、「地獄」、「煉獄」、「天国」があり、オペラの3つの作品もそれに対応していると思うのです。ですので、「天国」に見えた“ジャンニ・スキッキ”が実際には「地獄」であり、「外套」と同じだという見方に最後に戻るのをコンテナで見せるという鋭い演出には、今風にいうと「ヤバイ!」という感じ。

その他にも、“外套”が終わって、横たわったジョルジェッタが、そのまま髪を切られて、アンジェリカとして修道院に送り込まれ、次のオペラにつながるところも秀逸です。アンジェリカの抱えた罪が、“外套”での娼婦性の罪と相まって、余計に強く印象に残ります。そして、ミケーレが落とした子供の靴をアンジェリカが拾うところも同じように、2つのオペラをつなげる大きなカギになります。

この演出によって、緻密な演技を求められた歌手陣も素晴らしかったです。“外套”のミケーレと、“ジャンニ・スキッキ”のタイトルロールを演じた上江隼人は、持ち前の中高音域の美しさに、最近は低音域の凄みを加え、しかし、明確なイタリア語の発音で、舞台を締めます。ジョルジェッタとアンジェリカの北原瑠美も、2つのオペラの心理劇的な面を、強く感じさせる歌唱と演技が素晴らしい。そして、今回、驚いたのは、どちらかとリリックな印象のあった、樋口達哉が“外套”のルイージでヴェリズモ的な強い声を聴かせてくれたことです。アンジェリカに対する公爵夫人を歌った中島郁子も、その意地悪い感じと、後半、それを後悔するような歌唱と演技に引き込まれました。通常は、アンジェリカの子供は本当に亡くなっていて、アンジェリカが服毒自殺をすると、天使の歌声と共に光りの中に現れるのですが、今回の演出では、実は亡くなってはいなかったという、やりきれない結末になっています。

三部作の音楽では、何と言っても「外套」の序奏、そのあと何度も繰り返される、暗い埠頭に寄せる波のような弦楽の調べが好きですが、ベルトラン・ド・ビリーの指揮は、過度にヴェリズモっぽく強弱を付けるのではなく、淡々と、しかし実に美しい音楽を構成していました。三作を統一するような、インテンポな音楽作りで、これも、演出ととても合っていました。

日本で、これだけの水準の高い三部作を、それもすこぶるリーズナブルなチケットプライスで聴けるというのは何と幸せなことでしょうか! 今年は、海外でもう一回“三部作”を聴けるかもしれません。

指揮: ベルトラン・ド・ビリー
演出: ダミアーノ・ミキエレット
演出補: エレオノーラ・グラヴァニョーラ
装置: パオロ・ファンティン
衣裳: カルラ・テーティ
照明: アレッサンドロ・カルレッティ
合唱指揮: 冨平恭平
演出助手: 菊池裕美子
舞台監督: 村田健輔
公演監督: 牧川修一
公演監督補: 大野徹也

<キャスト>
『外套』
ミケーレ : 上江隼人
ジョルジェッタ: 北原瑠美
ルイージ : 樋口達哉
フルーゴラ: 塩崎めぐみ
タルパ : 清水那由太
ティンカ : 児玉和弘
恋人たち : 新垣有希子
     新海康仁
流しの唄うたい: 高田正人

『修道女アンジェリカ』
アンジェリカ:北原瑠美
公爵夫人 : 中島郁子
修道院長 : 塩崎めぐみ
修道女長 : 西館 望
修練女長 : 谷口睦美
ジェノヴィエッファ:新垣有希子
看護係主導女: 池端 歩
修練女 オスミーナ:全 詠玉
労働修道女I ドルチーナ:栄 千賀
托鉢係修道女I :小松崎 綾
托鉢係修道女II: 梶田真未
労働修道女II: 成田伊美

『ジャンニ・スキッキ』
ジャンニ・スキッキ:上江隼人
ラウレッタ: 新垣有希子
ツィータ : 中島郁子
リヌッチョ: 新海康仁
ゲラルド : 児玉和弘
ネッラ : 小松崎 綾
ベット : 大川 博
シモーネ : 清水那由太
マルコ :  小林大祐
チェスカ : 塩崎めぐみ
スピネロッチョ: 倉本晋児
公証人アマンティオ:香月 健
ピネッリーノ: 湯澤直幹
グッチョ :寺西一真

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、NHK東京児童合唱団

世界バレエ Bプログラム

8月8日、台風が迫る中を、世界バレエのBプログラムに行って来ました。平日の6時に上野に行くというのは、仕事がある身としてはなかなか辛く、この日も開幕10分前に到着。2階L席の最前列でした。ここはB席ですが、最前列が取れれば3階、いや、4階でさえもなかなか良いシートです。オペラでも狙っていますが、最前列はなかなか取れません。Aプロに続いてラッキーでした。

この日の演目は、あきらかにAプロより、豪華なラインナップになっていました。「椿姫」のパ・ド・ドゥが2つもありますし、しばらく日本では上演されていなかった、「マノン」の沼地のパ・ド・ドゥ、そして「オネーギン」の寝室のパ・ド・ドゥ、「白鳥の湖」から黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥと、好演目が目白押しです。だいたいの人が両プロともチケットを取るでしょうが、Aプロだけ見た人(例えばデュポン目当てで)は、ちょっと残念だったかもしれません。

今回も、気になった演目をコメントしていきます。

まずは、Aプロの「ディアナとアクテシオン」で素晴らしい演技を見せてくれた、オランダ国立バレエのダニエル・カマルゴ、このBプロでは第一部の「ムニュコス」と第4部の「じゃじゃ馬ならし」で登場。正直、今回まで、知らなかったダンサーですが、出色でした。Aプロでは基礎が素晴らしいと思いましたが、Bプロの2演目では、表現力の豊かさにびっくりしました。「じゃじゃ馬ならし」はこの表現力がなければ、実にたいくつなバレエになってしまいますが、思わず舞台に引き込まれてしまうほどの演技力。エリサ・バデネスはおそらくは、もともとはシュッツガルト・バレエで一緒に踊っていたと思われます。彼女も実にコケティッシュな魅力を振りまいていました。このカマルゴ、まだ若い(20代)と思います。軸のぶれの無い回転の速さ、ジャンプ力もあり、また、パートナーの扱いも上手い。王子役も見たかったです。

オペラ座のコンビ、レオノール・ポラックとジェルマン・ルーヴェの「ソナチネ」。バランシンらしく優雅で高貴な雰囲気があります。ラヴェルの曲に合わせての比較的ゆっくりした踊り。Aプロの「くるみ割り人形」より、ずっと良かったです。ポラックは素早くポアントをすると時々脚が震えることがありましたが、この演目では実にきれいなポアントでした。しかし、オペラ座のエトワールは、フランス物、マスネとかこのラヴェルなどで踊ると余計素敵ですね。(と思うのはフランスびいきの僕だけかもしれませんが)

今回、第1部で「コッペリア」、第3部で「マノン」を踊った、アリーナ・コジョカル、もう、40歳に手が届く年齢だと思いますが、可愛い!前にも言いましたが、オペラ座のダンサーは年齢に従って、「可愛い」→「たくましい」とか「優雅」、「切れのある」などとイメージを変化させるのですが、コジョカルは、あくまで「可愛い」ですね。身長が低いこともあるのでしょう。今回、なんだか、はじめて「コジョカルいいなぁ」と思いました。今まで、このコッペリアも何度も見ているのですが。マノンの「沼地のパ・ド・ドゥ」も久しぶりです。何やら、日本での上演の権利の問題があって、それが解決したのだと聞きました。この演目は一昨年、パリのオペラ座でデュポンの引退公演で見たのが目に焼き付いていますし、その前には、マラーホフとヴィシニョーワのペアの演技も何度も見ています。ですので、どうしてもそれらの演技との比較になり、そうするとダイナミックさ(特にマノンがデグリューに投げられるところ)が足りない感じがしてしまいますが、逆に様式感がきちんとあって、安心して見ていられる、そしてやはり、「可愛い!」、というところが魅力でした。

2部では、また、タマラ・ロホが最高!完全に僕の中では、ロホ復活!です。「HETのための2つの小品」は、コンテンポラリーですが、クラシックなテクニックも多く使われており、ロホの魅力が十二分に出ています。彼女は、コジョカルとは正反対のタイプ。空気を切り裂くような清冽な踊りが魅力です。これが、前回の世界バレエでは、ノイマイヤーの振り付けとは合わなかったのですが、今回はAプロの「カルメン」もそうでしたが、新しいロホの踊りのスタイルというのを見せつけてくれました。

「椿姫」からは、第2幕の侯爵の別荘でのマルグリットとアルマンのパ・ド・ドゥ、第3幕からは「黒のパ・ド・ドゥ」と2つの魅力ある演目が見られました。ピアノの、フレデリック・ヴァイセ=クニッテルがとても良く、ショパンの調べにのった踊りが良かったです。しかし、フリーデマン・フォーゲルも38歳ですが、童顔ですね。高いリフトから首の後ろを通って抱き合う形になるところなど、ノイマイヤーってやはり天才的な振り付けをするものだと思いました。

第4部のラスト3演目は、ノイマイヤーのアダージェット、クランコのオネーギン、寝室のパ・ド・ドゥ、そしてプティバのドン・キホーテと、涎の垂れそうな演目が続きました。シムキンのマネージュも今回はすごく高く、拍手喝采。

今回は、バレエではあまり話題にならない、指揮とオーケストラも良かったと思います。演目に合わせて、軽快に、また、粘っこく、またマーラーの5番のように、静かに心の奥に響くような音楽を作り出していました。全幕のドン・キホーテも良かったのですが、こういったガラだと、ミンクス、ドリーブ、チャイコフスキーという3大バレエ作曲家の作品が聴けます。これだけでも幸せ。

休憩時に、文化会館の事業企画課のSさんと話したのですが、今では、この3年に一度の世界バレエに出演することを目的にして頑張っているダンサーがたくさんいると、そして、ここに出たことは、ダンサーの経歴にも誇れる印になるということでした。世界中探してもこんなに素晴らしいダンサーが一堂に会するイベントはありませんものね。

満足しました。多分、今年のバレエ観劇はこれでおしまいかと思います。

― 第1部 ―
「眠れる森の美女」
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
オレシア・ノヴィコワ
デヴィッド・ホールバーグ

「ムニェコス(人形)」
振付:アルベルト・メンデス
音楽:レムベルト・エグエス
ヴィエングセイ・ヴァルデス
ダニエル・カマルゴ

「ソナチネ」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:モーリス・ラヴェル
レオノール・ボラック
ジェルマン・ルーヴェ

「オルフェウス」
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー、ハインリヒ・ビーバー、ピーター・プレグヴァド、アンディ・パートリッジ
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

ローラン・プティの「コッペリア」
振付:ローラン・プティ
音楽:レオ・ドリーブ
アリーナ・コジョカル
セザール・コラレス

― 第2部 ―

「シンデレラ」
振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
ドロテ・ジルベール
マチュー・ガニオ

「HETのための2つの小品」
振付:ハンス・ファン・マーネン
音楽:エリッキ=スヴェン・トール、アルヴォ・ペルト
タマラ・ロホ
イサック・エルナンデス

「白鳥の湖」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アシュレイ・ボーダー
レオニード・サラファーノフ

「椿姫」より 第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:フレデリック・ショパン
アリシア・アマトリアン
フリーデマン・フォーゲル

― 第3部 ―

「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
メリッサ・ハミルトン
ロベルト・ボッレ

「ジュエルズ」より "ダイヤモンド"
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
ミリアム・ウルド=ブラーム
マチアス・エイマン

「マノン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー

「アポロ」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
サラ・ラム
フェデリコ・ボネッリ

「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:フレデリック・ショパン
アンナ・ラウデール
エドウィン・レヴァツォフ

― 第4部 ―

「じゃじゃ馬馴らし」
振付:ジョン・クランコ
音楽:ドメニコ・スカルラッティ
編曲:クルト・ハインツ・シュトルツェ
エリサ・バデネス
ダニエル・カマルゴ

「ヌレエフ」より パ・ド・ドゥ
振付:ユーリー・ポソホフ
音楽:イリヤ・デムツキー
マリーヤ・アレクサンドロワ
ウラディスラフ・ラントラートフ

「アダージェット」
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:グスタフ・マーラー
マリア・アイシュヴァルト
アレクサンドル・リアブコ

「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アレッサンドラ・フェリ
マルセロ・ゴメス

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン

指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス  
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:フレデリック・ヴァイセ=クニッテル(「ソナチネ」「椿姫」)

世界バレエAプログラム

先日の“ドン・キホーテ”に続いて、第15回世界バレエのAプログラム見て来ました。堪能しました。3年に一度の世界バレエフェスティヴァル、僕は2003年から見ています。今回は、佐々木忠治さんという偉大なインプレサリオが亡くなって、その継続を心配しましたが、なんのなんの!今年も素晴らしいキャストで素晴らしいバレエを見せてくれました。前回同様の両プロ共4時間越えです。今年のAプロは、どちらかというと派手な演出のものよりもじっくり見られる演目が多くて、とても良かったです。

全作品コメントしていると20にもなるので、気になったものだけ書きます。

世界バレエで最初の演目として取り上げられることが多い、「ディアナとアクテシオン」、オランダ国立バレエのダニエル・カマルゴは若いダンサーですが、基本がきちんと出来ている感をビシバシと感じます。ジャンプも高く、動きも優雅。ティツィアーノの同名のルネッサンス期の大作品絵画を彷彿とさせる様式感もあって、今後目が離せない感じです。シュツットガルト・バレエのエリサ・バデネスもバネが良くきいた体で美しかったです。

ABTのチームが踊ったのはジゼル、第2幕のパ・ド・ドゥ。シムキンも大人になりましたね。昔はマネージュがものすごく高く、これだけで大拍手でしたが、ジゼルにこのアクロバティックな舞踏は不似合い。今回は余裕のある実に美しい手足の使い方で廻っていました。相手役のマリア・コチュトワ、上品です。ABTの名ダンサー、ジュリー・ケントを彷彿とさせます。百合の香りがするような作品になりました。

ヤーナ・サレンコの「瀕死の白鳥」、大きな動きの中に力尽きていく白鳥の悲しさを表現していてとても良かったです。ただ、どうしてもロパートキナの長い手足での劇的な演技と比較してしまいますね。

オペラ座からは3組が出ていました。レオノール・ポラックとジェルマン・ルーヴェのくるみ割り人形。これは、ルーヴェが良かったです。初めて見たのは、スジェの時(2016年)でしたが、その後、プルミエールダンスーズを飛び越えてエトワールに昇進、すぐに来日し、デュポンと「ダフニスとクロエ」を踊ってくれました。まさに天才という感じ。やや線が細いのですが、その繊細さは手足の先まで神経がはりつめていています。それに比べて、クララを踊ったレオノール・ポラック、ちょっと動きに張りがありませんでした。というか僕の好みではないのかも。可愛いことは可愛いんですがね。

オーレリ・デュポンの「・・・アンド・キャロライン」。これは見逃せなかった。一昨年のパリでのアデュー公演以来、彼女の踊りを見るのは久しぶりです。完全なコンテンポラリーで、なんか寝ている時間が長かったような感じで、彼女の魅力を出すには、演目が役不足な感じ。ここは、月並みですが、キリアンの「扉は必ず」あたりをやって欲しかったです。とは言え、彼女が見られただけでも満足。

タマラ・ロホの「カルメン」モダンとクラッシックの融合という感じですが、個人的には、今回一番良かったと思います。前回はノイマイヤーの作品を踊ったと記憶していますが、今ひとつでした。やっぱり彼女はクラシックの人かなぁと思いました。が、今回は、アロンソの振り付けを完全に自分のものにして、相手役の若いエルナンデスを引っ張っていた。グランフェッテなどの超絶技はなかったですが、新しいロホを見ました。彼女もまだデュポンと同じ年齢かと思います。頑張って欲しい!

第4部は、トリを飾るスーパーなキャスティングになっていましたが、やはりここで輝いたのはオペラ座の2組。マノンの寝室のパ・ド・ドゥを踊った、マチュー・ガニオとドロテ・ジルベール。貫禄ですね。家内が「ガニオって見るたびに格好良くなってくる」と隣でつぶやいていましたが、男から見てもそう思えます。ドロテは、昨年オペラ座で全幕の「オネーギン」のタチアナで見ていて、素晴らしかったのですが、ちょっと貫禄あり過ぎでした。でも、このマノンはぴったり。もはや、オペラ座をしょって立つという感じ。しかし、デュポンもそうですが、このドロテも、年を取るに連れて、体を絞り、筋肉体質にしているのが凄いですね。これもギエム以来のオペラ座の伝統か?

そして、フィナーレはいつも通りドン・キホーテのパ・ド・ドゥ。これは先日の全幕ものでも見ていたのですが、少し振り付けが違っていました。アティテュードでの静止が長くなっていて、見せ場がありました。そして、全幕では真っ赤な衣装だったのが、黒のチュチュに変更。僕はポラックより、このミリアム・ウルド=ブラームのほうが好きです。

それにしても休憩入れて4時間半。ワーグナーでも見ている感じですね。Bプロは8日に行くのですが、5時過ぎまで汐留で仕事があるんです。その後、車で駆けつけて間に合うかなぁ。電車で行けば大丈夫なんですが、終わるのが10時半過ぎということを考えると逗子まで車でスーッと帰りたい。素敵なバレエの後に、お酒臭い電車載りたくないですよね。

― 第1部 ―

「ディアナとアクテオン」
振付:アグリッピーナ・ワガノワ
音楽:チェーザレ・プーニ
エリサ・バデネス
ダニエル・カマルゴ

「ソナタ」
振付:ウヴェ・ショルツ
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ
マリア・アイシュヴァルト
アレクサンドル・リアブコ

「ジゼル」より 第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー
音楽:アドルフ・アダン
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン

「アポロ」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
オレシア・ノヴィコワ
デヴィッド・ホールバーグ

「コッペリア」
振付:アルチュール・サン=レオン
音楽:レオ・ドリーブ
サラ・ラム
フェデリコ・ボネッリ

― 第2部 ―

「瀕死の白鳥」
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:カミーユ・サン=サーンス
ヤーナ・サレンコ

「カラヴァッジオ」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ
音楽:ブルーノ・モレッティ(クラウディオ・モンテヴェルディより)

メリッサ・ハミルトン
ロベルト・ボッレ

「くるみ割り人形」
振付:ルドルフ・ヌレエフ(マリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
レオノール・ボラック
ジェルマン・ルーヴェ

「・・・アンド・キャロライン」
振付:アラン・ルシアン・オイエン
音楽:トーマス・ニューマン
オレリー・デュポン
ダニエル・プロイエット

「ファラオの娘」
振付:ピエール・ラコット(マリウス・プティパに基づく)
音楽:チェーザレ・プーニ
マリーヤ・アレクサンドロワ
ウラディスラフ・ラントラートフ

― 第3部 ―

「カルメン」
振付:アルベルト・アロンソ
音楽:ジョルジュ・ビゼー、ロディオン・シチェドリン
タマラ・ロホ
イサック・エルナンデス

「ルナ」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
エリザベット・ロス

「アンナ・カレーニナ」
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アンナ・ラウデール
エドウィン・レヴァツォフ

「タランテラ」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
アシュレイ・ボーダー
レオニード・サラファーノフ

「アフター・ザ・レイン」
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:アルヴォ・ペルト
アレッサンドラ・フェリ
マルセロ・ゴメス

― 第4部 ―

「ドン・ジュアン」
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:クリストフ・ウィリバルド・グルック、トマス・ルイス・デ・ヴィクトリア、トマス・ルイス・デ・ヴィクトリア
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

「シェエラザード・パ・ド・ドゥ」【世界初演】
振付:リアム・スカーレット
音楽:リムスキー・コルサコフ
アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー

「ヘルマン・シュメルマン」
振付:ウィリアム・フォーサイス
音楽:トム・ウィレムス
ポリーナ・セミオノワ
フリーデマン・フォーゲル

「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
ドロテ・ジルベール
マチュー・ガニオ

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
ミリアム・ウルド=ブラーム
マチアス・エイマン

指揮:ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
チェロ:伊藤悠貴(「瀕死の白鳥」)
ピアノ:原久美子(「瀕死の白鳥」、「タランテラ」)

世界バレエ全幕プログラム「ドン・キホーテ」

台風近づく中を、27日の世界バレエの全幕プログラム「ドン・キホーテ」に行って来ました。パドドゥはたくさん見ていますが、全幕で見るのは、2007年のスカラ座来日でのタマラ・ロホ、ホセ・カレーニョの公演以来です。実にオペラ座らしい、お洒落で上品な舞台でした。

ドン・キホーテというと、第3幕のキトリのグラン・フェッテ(32回転?)など、技術面での見せ場がすぐに頭に浮かぶのですが、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンのコンビは、実に上品でお洒落。タマラ・ロホのフェッテが地にコンパスの脚が刺さったような鋭さがあったのに対し、ミリアムのフェッテは宙に浮いている感じ。重力が無いような印象です。タマラ・ロホのようなアティテュード(あるいはランベルセ?)での長時間の静止などは無いのですが、その分、優雅な動きで流れがあるパドドゥでした。昨年3月のオペラ座来日で、ラ・シルフィードをこの二人で踊ったのですが、地味なこの演目を、手先まで神経の行き届いた動きで、素晴らしく魅力的なものにしていたのを思い出しました。このコンビ良いですね。Bプロでのジュウェルズ「ダイヤモンド」も楽しみです。

スカラ座の時もそうでしたが、キトリはほとんど、赤黒の衣装でスペインらしさを出すものだと思っていましたが、オペラ座のキトリは黄色なんですね。とても柔らかい感じがします。動きにあった色使い。そして、とにかく、キトリの表情の変化が凄い!これほどに演技にのめりこんだキトリを見た事がありません。テクニックに本当に余裕があるんだと思います。でないと、あんなに表情を作れません。

東京バレエ団のダンサーも素晴らしかったです。特にキューピッドの足立真里亜さん可愛かったです。群舞はオペラ座よりもシンクロしていたのでは!

キトリ:ミリアム・ウルド=ブラーム
バジル:マチアス・エイマン
ドン・キホーテ:木村和夫
サンチョ・パンサ:岡崎隼也
ガマーシュ:樋口祐輝
メルセデス:奈良春夏
エスパーダ:柄本 弾
ロレンツォ:永田雄大

【第1幕】
2人のキトリの友人:吉川留衣 - 二瓶加奈子
【第2幕】
ヴァリエーション1:吉川留衣
ヴァリエーション2:二瓶加奈子
キューピッド:足立真里亜

指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
協力:東京バレエ学校


東フィルフレンチプログラム

しばらく、ブログをアップしていませんでした。その間に樫本大進のリサイタルとミュージカル”エヴィータ”に行って来たのですが、サボってしまいました。

それで、7月18日の東フィル定期公演にオペラシティまで行って来ました。ラヴェルとドビュッシー。なんか夏の夜に聞くには良いです。だいたい、僕は印象派好きだし。。。

この日のお目当ては、何と言っても東フィルを初めて指揮するスイスイタリアンの27歳のイケメン、ロレンツォ・ヴィオッティ!なかなか良かったですよ。バッティストーニの下の世代になりますね。最初のラヴェルの「道化師の朝の歌」スタッカートが強めで、もともとエネルギーに溢れたこの曲を更に持ち上げていました。ただ、ラヴェルの持つキラキラ感はやや弱く、水彩画というよりは油絵の印象。少しねっとりとした重みを感じます。ただ、それが曲にコアな部分を与えていて、単に耳障りの良いラヴェルではなく、聴衆に向かい合うことを求めるラヴェルに仕立ててくれています。

そして続くのは、ラヴェルの珍しい協奏曲。ピアノは小山実稚恵。同じラヴェルでも、道化師から20年以上経って作曲されたこの曲は、キュビズムのような感じ。ガーシュインを思わせるところもあり、ちょっとジャズっぽい。ヴィオッティは小山のバックで美しくキャンバスを彩っていましたが、ピアノの音色はラヴェルにはやや重い感じか..... ピアノソロのアンコールはドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」。美しく叙情的なこの演目のほうが小山のピアノがぴったりでした。

後半は、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と交響詩「海」。後者は、生で聴くのは初めて。牧神のほうは、ちょっと安全運転という感じで、曲の色が弱くしか感じられませんでした。それでも、オケを立体的に塊感のある音にまとめていたので、気持ち良く聴けました。「海」は実に良かった。道化師同様に、エネルギーをフルに注入した結果、波や風が頬をなぜるような迫真感がありました。

東フィルも、また若くて良い指揮者を連れて来ましたね!

指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
ピアノ:小山実稚恵
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ラヴェル/道化師の朝の歌
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
ドビュッシー/牧神の午後ヘの前奏曲
ドビュッシー/交響詩 『海』(管弦楽のための交響的素描)

イル・トロヴァトーレ バーリ歌劇場

来日した(初?)、イタリアバーリ歌劇場の「イル・トロヴァトーレ」初日(6/22)に行ってきました。家を出る前にネットのサイトをチェックしてびっくり、唖然。レオノーラ役のバルバラ・フリットリが気管支炎のために降板!これは残念。あの甘い美声でレオノーラが聴けるのが、この公演の最大の楽しみだったのに〜。

それでも、公演全体としては素晴らしいパフォーマンスで大満足でした。男声3人が素晴らしかった。シモン・ボッカネグラのパオロ、ピエトロ以上に脇役だけど、重要なのが、ルーナ伯爵の家臣、フェルランド。1幕目は地の底から響くようなティンパニに続く、短い序奏を経て、いきなり歌い始める彼の独壇場なのですが、アレッサンドロ・スピーナが、バスとしては、実にくっきりと発音が聞こえる透明な声で場を締めます。モゴモゴしないバスっていいですね。フルラネットほど軽くはないのですが、重々しすぎなくて、「家臣」という役にぴったりでした。カーテンコールでも脇役とは思えない拍手をもらっていました。

そして、マンリーコを歌ったフランチェスコ・メーリ。今までに聴いた彼の役では、ローマ歌劇場来日の際の、シモン・ボッカネグラのガブリエーレがとても印象に残っていますが、この日は、マンリーコの悲劇性を明るく艶のある声をコントロールして表現力豊かに歌ってくれました。声の強弱とか、感情のトップに持って行くところが、実にヴェルディっぽい!今、ヴェルディを歌うテノールとしては最高でしょうね。イタリアのテノールとしてもフローレスとタイプは違いますが、ならんで2大(?)テノールだと思います。3幕目の「ああ、愛しい人よ」、「見よ、恐ろしい炎を」は圧巻。声量がたっぷりあるのですが、それを否応無しに聞かせるという感じがしません。ただ、最後のハイCは上げなくても良かったかなと個人的には思います。(とは言っても上げなかったのは聞いたことがないですけど)そして、ルーナ伯爵のアルベルト・ガザーレも素晴らしかったですね。この人も明るい声で、実にイタリアっぽいです。もう少し表現力が出てくればもっと良いと思いますが、これだけの男声2人が揃ったイル・トロヴァトーレは聴いたことがありません。

やはり、残念だったのは、フリットリの代役のスヴェトラ・ヴァレンシア。バーリでは良く歌っているようですが、今回の代役は急遽決まったようで、相当に緊張していたようです。登場してすぐは、声もかすれ気味で声量も乏しく、どうなることかと思いましたが、序々に良くなってきました。4幕目の長いアリアでは、随分調子が出て来ていたと思いますが、、カーテンコールでも拍手が少なく、ちょっと可哀そう。良く頑張ったと思います。僕はフリットリは、シモン・ボッカネグラのアメーリアでは数回聴いているのですが、他の役では聴いていません。今回は残念でした。ただ、イタリアではそろそろキャリアも終わりかけているとも言われています。今年後半から来年は、なんとノルマに挑戦します。たまたま11月に家内とアルゼンチンに行くので、その時にコロン歌劇場で彼女のノルマのチケットを取りました。降板しないでね。。

それで、この日の公演をスーパーなものにしていた立役者は、指揮者のジャンパオロ・ビサンティでしょう。実に格調があります。それでいて堅くなく、静かな中に情感が水面から飛びだそうと渦巻いている。盛り上がるところでは、歌手の声量と同じレベルまで上がって、音楽が一体化する至福の時が訪れました。知的で優雅。実に聴き応えがありました。

この公演の3日前、ビサンティとガザーレの歌唱付き講演会を、イタリア文化会館アニェッリホールで聞いたのですが、とても面白かったです。ガザーレのサービス精神は旺盛で、ピアノに合わせて自分のパートだけでなく、マンリーコやアズチェーナのパートまで歌ってくれました。これも、ヴェルディ協会の主催でした。会員無料は嬉しいです。

おそらく、今日(6/24)、そして来週の琵琶湖での公演は、もっと良くなると思います。当日券もあるのでは?是非、行って頂きたい公演です。

指揮:ジャンパオロ・ビサンティ
演出:ジョセフ・フランコニ・リー
管弦楽:バーリ歌劇場管弦楽団
合唱:バーリ歌劇場合唱団

マンリーコ フランチェスコ・メーリ
レオノーラ スヴェトラ・ヴァシレヴァ
ルーナ伯爵 アルベルト・ガザーレ
アズチェーナ ミリヤーナ・ニコリッチ
フェルランド アレッサンドロ・スピーナ
イネス エリザベッタ・ファッリス

フィデリオ@新国立劇場

ここ数週間、オペラファンの間では、随分話題になっている「フィデリオ」の最終日、新国立劇場まで行ってきました。

 まずは、カタリーナ・ワーグナーの新制作の演出について書かないわけにはいかないでしょう。もう、色々なブログで語られていますので、内容をご存じの方は多いと思いますが、カタリーナは2幕目以降最後までのあらすじをすっかり変えてしまっています。レオノーレに助けられてフロレスタンとハッピーーエンドで終わるところを、この二人ともが刑務所長のドン・ピッツァロに刺殺されてしまい、開放されるべき全囚人も、結局牢の中に戻されるという、暗い結末なのです。初日のカーテンコールではカタリーナに拍手とブーイングが入り乱れたとのこと。ブーイングも彼女にとっては勲章でしょうから、さぞかし満足したことだと思います。

 僕は、と言えば、予想していたほどのインパクトは受けませんでした。もともとの台本のハッピーエンドに無理があると思っていたので、こういう読み替えもありかなと思いました。しかし、3階建ての凝りに凝ったな舞台を作り、大がかりな読み替えをするという労力、そして新制作ということで費用も馬鹿にならないでしょう。それだけのことをしてくれたのに対しては、正直「無駄なこと」をしたなぁと思わざるをえません。バイエルン歌劇場のタンホイザー(カステルッチ演出)の時は、演出の趣旨を理解しようとして頭をひねったり、醜悪な死体の意味がわかりかねて腹が立ったり、色々と神経を刺激されたのですが、このフィデリオは、刺激がないのです。つまり「だるい」のです。腹も立たないし、解釈にもある程度ついていけるのだけど、下手すると「眠くなる」演出でした。

 その大きな理由の一つが、重要な読み替えの殆どの部分が、第二幕途中に入れられた「レオノーレ序曲第三番」が長々と演奏される間にパントマイムで行われたことにあります。演奏と歌手の動きは良くあっているのですが、このやり方なら、どんなに下手な演出家でも、好き勝手に演出できます。台詞のあるところを、演出で読み替えるというのが、演出家の腕の見せ所だと思います。ミキエレットの美術館編の「ランスへの旅」、コンビチュニーのミクロの決死圏風「マイスタージンガー」、グラハム・ヴィック(この人は好きではないが)のEUとスイスの問題を取り上げた「ウィリアム・テル」などは、オペラ本編自体の中で「読み替え」をしています。これに対して、カタリーナは、重要な読み替え部分を、「レオノーレ第三番」の追加演奏の間にほとんどやってしまったわけで、言ってみればカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲の間に、トゥリッドゥは怖じ気づいてどこかに逃げてしまい、最後に死んだのは替え玉だった、と読み替えるのと同じようなものです。

 正直、このレベルの演出で、新国立で再演可能なんでしょうか?僕は、正直読み替え演出、好きなほうなのですが、再演される条件としては、演出の完成度の高さと、もうひとつ、「どのように理解していいのか?」という問題提起をしていることが挙げられると思います。この意味では、決して好きではなかったのですが、カステルッチのタンホイザーは、2度も見てしまいました。今回の、カタリーナ・ワーグナーの演出で理解ができないのは、最後に出て来た偽のレオノーレが、ドン・ピッツァロの情婦か何かなのか?という疑問くらいで、あとは、小学生の学芸会のように、みなわかりやすいのです。最後に悪が勝つ、というのも、「そりゃそうだろうなぁ」という感じ。安手のサスペンス映画を2度見る気がしないのと同じで、この演出を2度見る気にはなりません。ですので、ブーイングする気にもなりませんでした。

 一方、指揮とオケ、歌手は素晴らしかったと思います。飯守マエストロの最後の新国立でのパフォーマンスとして、本当に集大成!先日の、ミョンフンの情感豊かな指揮にくらべて、荘厳な、様式感のある指揮でしたが、実に満足。歌手陣では、マルツェリーネの石橋栄美、ジャキーノの鈴木准の日本人若手が望外に良かったです。もちろん、フロレスタンのグールドもレオノーレのメルベートも素晴らしかったですが、個人的にはレオノーレは、先日のミョンフン指揮東フィルで、レオノーレを歌ったマヌエラ・ウールのクールな歌い方のほうが、“フィデリオ”役には合っているような気がしました。

 マエストロミョンフンは、「フィデリオは演奏会形式でやるのがベスト」と言っていますが、今回のような演出で見せられると、まさしくそうだと思います。いや、今回のような演出でなくても、やはり“歌唱付き交響曲”というイメージが強く、音楽の力強さを感じることがベートーヴェンへのリスペクトかなと思いました。

指揮:飯守泰次郎
演出:カタリーナ・ワーグナー
管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

【キャスト】

ドン・フェルナンド:黒田博
ドン・ピツァロ:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
フロレスタン:ステファン・グールド
レオノーレ:リカルダ・メルベート
ロッコ:妻屋秀和
マルツェリーネ:石橋栄実
ジャキーノ:鈴木准
囚人1:片寄純也
囚人2:大沼徹

今年後半の観劇予定

4月から仕事が忙しくなってしまい、この7月で65歳になるので、もっとオペラやコンサートを見に行こう、旅行も増やそうと目論んでいたのが、ちょっと難しくなってきた感じです。仕事があるというのは良いのですが、一人でやっていると、その量が調整できないんです。無い時は全然無い、ある時はあり過ぎる、という感じになってしまいます。

というわけで、5月も先日の東フィルのフィデリオだけです。次回は新国立の同じくフィデリオです。6月以降の予定はこんな感じです。

6月
■6/19 ビザンティ&ガザーレ講演会(歌唱付き) イタリア文化会館:これはヴェルディ協会主催です。ガザーレが、ベッリーニとヴェルディの歌唱の違いを歌で表現してくれるようです。楽しみです。

■イル・トロヴァトーレ(バーリ歌劇場来日)東京文化会館:久々にフリットリが聴けます。楽しみ〜。ちなみにローマ歌劇場のほうはエコノミーチケット狙いで待っています。

7月
■樫本大進 横須賀芸術劇場:シュトラウスのソナタやるみたいです。

■ミュージカル「エビータ」 渋谷ヒカリエ:たまにはミュージカルも。。これ、最初にやった時にロンドンで見て感激しました。それからもう40年近くたっているのかなぁ。

■東フィル定期公演 ヴィオッティ ラヴェル オペラシティ

■小畑恒夫講演会 日比谷図書館:ヴェルディ協会主催です。会員無料

8月
■パリオペラ座バレエ「ドンキホーテ」 東京文化会館:ミリアム・ウルド=ブラーム/マチアス・エイマンのコンビです。

■世界バレエAプロ 東京文化会館:やっぱり両方プログラム取ってしまいました。まだ演目は発表されていませんが、オレリー・デュポンも出ます!
■世界バレエBプロ:東京文化会館

9月
■オペラ「三部作」 二期会 新国立劇場:プッチーニで一番好きなオペラです。上江隼人、樋口達哉出演!豪華ですね。
 
■本多優之コンサート:まだ場所未定ですが、親しい指揮者本多さんのコンサートです。

■ロンドンフィル、サイモンラトル指揮 サントリーホール:ラヴェル、シベリウスです。良さそう!

10月
■N響 パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHKホール:カルミナブラーナ

■東フィルチョンミョンフン、ブラームス オペラシティ:今年4回目のミョンフンです。

■アイーダ(バッティストーニ) 県民会館:これだけまだチケット取ってないですね。取らなくては!久しぶりのバッティ

11月
■NDRエルプフィル ギルバート指揮 サントリーホール:NDRエルプフィル ローエングリン、マーラー、ブラームス

■東フィル、バッティストーニ オペラシティ:ロッシーニの序曲とシューベルトの「グレート」です。

12月
■ノルマ テアトロ・コロン:世界3大劇場と言われる(た?)ブエノスアイレスの劇場まで遠征します。なんとフリットリがノルマ歌うんですよ。

■真珠採り MET:その帰りに寄ります。カマレナのナディール、グヴィエチェンのズルガ、テステのヌーラバッド!

■La Traviata MET:フローレスのアルフレード、ダムラウのヴィオレッタです。今回のNY行きの目玉。しかし、まだチケット発売前です。取れるかなぁ。マイヤーの新演出というのがちょっと怖いですけどね。でも、彼のリゴレット、ラスベガス版は結構好きでした。

■三部作 MET:見に行けば今年2回目の「三部作」になりますが、Traviataとダブルヘッダーなので、体力があるかどうか?

■ファルスタッフ 新国立:12月のファルスタッフは第九より好きです。

海外で楽しみなのは、METのLa Traviata、国内では二期会の三部作でしょうか? でも、出張とかで行けなくなりそうな嫌な予感を持っています。

今日はこんなところで。

フィデリオ@サントリーホール

 いつもはオペラシティで聴く東京フィルハーモニーの定期公演ですが、今回は所用があって、サントリーホールに振り替えてもらいました。5月8日、席は中央7列目、良い席です。東フィルの定期会員になると、このような融通が利くのはとても有り難いですね。ミョンフンの指揮は、今年既に3回目、ジュピター、シモン・ボッカネグラ、そしてこのフィデリオ。10月にブラームスも聴くので、同じ指揮者を年に4回聴くということになります。こういうことは初めてかも。

ベートーヴェンが生涯ただ一作しか書かなかったオペラ「フィデリオ」、僕は食わず物嫌いで、今まで聴いたことがありませんでした。この5月、6月と東フィルと新国立で、このマイナーな演目を聴き比べできるということで、両方行くことにしました。結論として、この日のフィデリオ、素晴らしかったです。とにかく、ミョンフンの血湧き肉躍るような指揮が、決して面白みが多くてメロディアスだとは言えないフィデリオを「楽しいベートーヴェン」にしてくれました。思っていた通り、オペラを聴いているというよりも、歌付き合唱付きの交響曲を聴いている感じ。いわば「交響曲第十番」かも?「レオノーレ三番」を序曲に持ってきた考え方は、プログラムに詳しく書いてありましたが、フィデリオ初心者としては、他の序曲も聴いてみたかったと無理な希望を抱きました。マエストロミョンフンの3月のスカラ座のシモン・ボッカネグラの指揮もとても良かったのですが、この演目の場合、僕は生でも10回以上聴いているので、ミョンフンの「劇場型指揮」(ん?当たり前か。。。)が、ややtoo muchな盛り上げがあるような気がしてしまいますが、フィデリオのような交響曲的なオペラで、しかも初めて聴くという場合には、心も体も預けてしまうにはもってこいですね。ミョンフンはこのオペラを、「音楽を主体とした演奏会形式で上演する方が良い作品」と言っていますが、その意味良くわかります。筋書きは、「つかまった夫を、妻が男装して助ける」というアクション映画のような単純なもので、シモンのような味わいの深さはありません。音楽と歌、合唱で聴くべきでしょう。僕も途中から字幕を追うのをやめてしまって楽しみました。

 歌手も、素晴らしいレベルでした。特にレオノーレ(フィデリオ)のドイツ人ソプラノマヌエラ・ウールは、中音から高音まで実に自然に、話しかけるような歌い方。フィデリオの男装を意識したドライな歌い方が、最終盤でレオノーレであることを現してから、声の調子が変わるところも素晴らしかったですね。2016年の新国立のローエングリンのエルザ役でも、とても良かったのを覚えていますが、この時は情感たっぷりに歌っていて、随分違うものだと思いました。ロッコ役のバス、フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒも柔らかく太くストレートな低音は、実にドイツオペラ歌いらしく、ルネ・パーペに良く似た声。ロッコの純朴な人柄を良く表現していました。マルツェリーネ役のスペイン人ソプラノ、シルヴィア・シュヴァルツは、コロラトゥーラも出来そうな甘くて明るく響く声。レオノーレとの対比が素晴らしく、演奏会形式でもソプラノ同士で、フィデリオに恋い焦がれる様子が充分に表現出来ていました。ただ、刑務所長のピツァロを歌ったイタリア人バスのルカ・ピサローニは、どうも声が薄っぺらく、せっかくの毒のある役柄を生かせ切れていなかったような気がします。評価が難しいのはフロレスタン(夫)のペーター・ザイフェルト。巨体からは想像できないような美しいテノールが出てくるのですが、少々声が大きすぎるのと、情感がこもっていない感じがしました。地下牢のシーンで、もう少し感動させてくれるかと期待していましたが。。

 さて、この演目、演出付きで6月に新国立で聴くのが楽しみです。

指揮:チョン・ミョンフン
フロレスタン (テノール) : ペーター・ザイフェルト

レオノーレ (ソプラノ) : マヌエラ・ウール

ドン・フェルナンド (バリトン): 小森輝彦

ドン・ピツァロ (バス): ルカ・ピサローニ

ロッコ (バス): フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ

マルツェリーネ(ソプラノ):シルヴィア・シュヴァルツ

ヤッキーノ (テノール): 大槻孝志
演奏:東京フィルハーモニー
合唱: 東京オペラシンガーズ 他

新国立劇場「アイーダ」最終日

 今や、新国立劇場の看板演目となった感のある「アイーダ」、世界中の劇場でも、これだけ豪華で大仕掛けなゼッフィレリの舞台演出を見られるのは希有だと思います。毎回、「もう見なくてもいいかなぁ」と思ったりするのですが、やはりチケット買ってしまいますね。チャン・イーモウの紫禁城での「トゥーランドット」よりも、ある意味では、より現実味のある舞台装置は、まさにエジプトの宮殿そのもの。演目全編が紗幕で覆われているのは、賛否両論ありそうですが、これが幽玄な舞台を作り出しています。

 カリニャーニの指揮は、昨年の新国立の「オテロ」で聴いていて、「鳴らす」指揮者だと思っていましたが、意外なことに、今回の「アイーダ」では、まるで歌手に寄り添うようなマイルドな音作り。登場人物の感情を描写する場面(第3幕のナイル河畔のシーンなど)では、この音作りは良いと思うのですが、「アイーダ」がオペラとして持つスペクタクル感を現すには、やや物足りない。このオペラは指揮は「歌手に寄り添う」のではなく、歌手と舞台をグングン引っ張って行く力強さが必要だと思います。僕は、ベンチマークとして1979年のカラヤン、1981年のアバドの指揮を良く聴いていますが、なかなかこのレベルの「アイーダ」は最近は聴けないのでしょうか? むしろ飯守マエストロで聴いてみたかった気がします。

 歌手ではアムネリス役のエカテリーナ・セメンチュクが予想通り、群を抜いて良かったです。凝縮されて渋い輝きのある胸音が素晴らしい。中低音の使い方で、さまざまな感情をまさに思うがままに表現します。特に4幕目のラダメスを説き伏せようとする歌いは、哀願と怒りが混じって迫力充分。アムネリスがこれだけ良いと、このオペラの主役はやはりアムネリスなんだ、と思ってしまいます。今回、セメンチュクは17日の公演、喉の不調で降板しましたが、最終日のこの日は復活してくれて絶好調でした。

 タイトルロールの韓国人ソプラノのイム・セギョン、声量がたっぷりあり、パワフル。低音から高音まで一気に伸びる声は音程もしっかりしていて安心して聴けます。ただ、ややパワフルすぎて、情感の細かい表現に欠けた気がします。声と演技に、捕らわれた王女の「気品」が欲しかった感じもします。でも、この人はこれからまだどんどん伸びるような気がします。

 ラダメス役のナジミディン・マヴリャーノフは、「上手い」という印象はありますが、感動しなかったです。歌手としてのレベルは高いと思うのですが、単調で、セギョンの力強さに比べて、声量も表現力も弱いと思いました。ですので、アイーダとの絡みで、弱々しく見えて、(聞こえて)しまいました。まあ、難しい役ですよね。

 とても良かったのは、早くに降板してしまった堀内康夫に代わって出演した、アモナズロの上江隼人。今までにずいぶん聴いている歌手ですが、今回は得意の高音、ピアニシモに加えて、低音での強い表現が素晴らしかった。3幕目のナイル河畔でのアイーダとの2重唱は、終わってほしくないほど素晴らしいものでした。彼はこれで、役の幅が大きく広がると思います。一方、もう3年近くオペラで歌っていない堀内康夫。僕、大ファンなんですが、なんとか、もう一度聴かせてほしいですね。彼のシモン・ボッカネグラは、僕のオペラ鑑賞史に輝いています。

 ランフィスの妻屋秀和は、もう鉄板!この人、日本の歌手で、年間一番オペラ公演に多く出ているのではないでしょうか?一幕目の第一声がランフィスですから、素晴らしい深い低音をで始めてくれると、オペラが締まるんですよね。

 色々と言いましたが、全体として見れば、もう充分過ぎるほどに高いレベルの公演でした。これだけの公演が海外に行かないで見られるということは幸せですね。

この日は、劇場入り口にある、ヴェルディ協会のブースに休憩時間立たせて頂きました。色々な方々とお話し出来て楽しかったです。


指 揮:パオロ・カリニャーニ
演出・美術・衣裳:フランコ・ゼッフィレッリ
照 明:奥畑康夫
振 付:石井清子
アイーダ:イム・セギョン
ラダメス:ナジミディン・マヴリャーノフ
アムネリス:エカテリーナ・セメンチュク
アモナズロ:上江隼人
ランフィス:妻屋秀和
エジプト国王:久保田真澄
伝令:村上敏明
巫女:小林由佳

合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


 
 

大野和士講演会&ミニコンサート

 4月14日土曜日の夜に、内幸町ホールで、ヴェルディ協会主催のマエストロ大野和士氏の講演会が行われました。僕は、協会のスタッフとしてこのイベントの準備をしていたので事前に知っていたのですが、当日のお客様へのサプライズとして、なんと、ソプラノの中村恵理さんが、バリトンの原田圭さんと一緒に出演し歌ってくれたのです。色々と理由が(大人の、、、)あって、前もって発表できなかったのですが、180名の小ホールで、大野マエストロのピアノで、今や世界的ソプラノの名花である中村恵理さんの歌を聴けるなんて、なんて贅沢でしょう。

 大野さんの語りのおもしろさには定評があり、僕もリヨン歌劇場来日の際のマエストロの講演会で、語る、弾く、歌う、寝そべる(!)の大熱演に引き込まれた思い出があります。この日も、大野さんのヴェルディ愛がステージに溢れていました。ヴェルディが同じ時代のワーグナーと違い、あくまで人間をテーマにし、その思いや悩みを音楽にしていく、その過程を「ラ・トラヴィアータ」と「リゴレット」を例に挙げて説明してくれました。

Follie…follie…delirio vano e questo(馬鹿げているわ、むなしい妄想よ、これは)の有名なフレーズを中村さんが歌ったあとに、これが、藤圭子の「新宿の女」の「馬鹿だなぁ、馬鹿だなぁ、だまされちゃって」と同じ想いと状況をあらわしていて、しかも、長調から短調に移るのも同じだというのを、これも大野さん自身が歌いながら説明されました。会場は笑いに包まれました。

リゴレットの方では、ジルダの一幕目の「私のお父さん...:という呼びかけと2幕目の同じ父への呼びかけの歌い方の違い、2幕目ではもう父の可愛いジルダではなくなっている娘の声になるという、その違いを中村さんが歌ってくれました。

その他、ジルダの八分休符のスタッカートとヴィオレッタのそれとの違いなども、わかりやすくお話しくださいました。いやぁ、おもしろかった。休憩なしの1時間50分、聴衆は魅了されました。

このイベント、ヴェルディ協会員は入場料無料です。6月19日にはイタリア会館で、バーリ歌劇場とともに来日する、指揮者ビザンティとバリトンのガザーレのトークショーがあります。これも会員無料で、多分、ガザーレさんは歌ってくれることでしょう。これを機会にヴェルディ協会入会をご検討ください。一般会員、年会費は¥10,000-です。

ヴェルディ協会ホームページ

クラウス・フロリアン・フォークト リサイタル

 東京・春・音楽祭に出演中のフォークトのリサイタルが、東京文化会館の小ホールで行われるのに気づいたのは、1週間ほど前。ほとんどチケットは売り切れでしたが、運良く2枚入手できました。2016年6月に、同じ小ホールでフォークトの「水車小屋」を聴いて、素晴らしかったのを覚えています。この日(3月26日)の演目は、ハイドン、ブラームス、マーラー、リヒャルト・シュトラウスの歌曲。こういうリサイタルでは、最初に来る曲は歌手の喉を潤わすようなものを持って来るのが常ですが、まさにハイドンはそのような曲目で、題意一曲の「すこぶる平凡な話」に代表されるような、柔らかい曲。「すこぶる平凡な曲」とは言わないですが、聴きやすい、そして多分歌いやすい、中音部を中心につかった曲目でした。フォークトのドイツ語は、とても美しく、発音もはっきりしていて、ドイツ語がわかる方ならかなり意味をくみ取れるのではと思います。素晴らしい対訳が配られていたので、内容はわかりましたが、日本語字幕があれば更に良かったと思います。

 フォークトの声は、ウィーン少年合唱団が声変わりしないで、そのままテノールになったようです。声を持ち上げる、切り替える、振り回すということが、全く、これっぽっちも無く、低音から高音まで自由自在に歌います。その中でも中音から高音にかけての声は、まるでグラスハーモニカ(よりは低い音ですが)が喉の中に入っているかのような、美しい響きです。そして、特にブラームスの歌曲で顕著でしたが、低音のピアニシモ。本当に小さな声量を見事にコントロールします。これも、650席の小ホールならでは体験できる、フォークトの妙技だと思います。ブラームスの歌曲は、実に色彩に富み、メロディアスで、今回の曲目の中でもとても楽しめました。アンコールは2曲、リヒャルト・シュトラウスの「セレナーデ」とブラームスの「日曜日の朝」。この日、一番高音が美しい曲でした。拍手喝采!

 今のドイツのテノールでは、カウフマンとフォークトが双璧でしょう。カウフマンが超有名になって、チケットもとても取りにくく高くなっているのに対して、フォークトは幸いなことに、まだこのような良い環境でリーズナブルな料金で聴けるのは幸せです。

 さて、次は4月の新国立劇場「アイーダ」です。

テノール:クラウス・フロリアン・フォークト
ピアノ:ルパート・バーレイ 
■ハイドン:
 すこぶる平凡な話
 満足
 どんな冷たい美人でも
 人生は夢
 乙女の問いへの答え
 小さな家
■ブラームス:
 日曜日 op.47-3
 昔の恋 op.72-1
 谷の底では
 月が明るく輝こうとしないなら
 甲斐なきセレナーデ op.84-4
■マーラー:「さすらう若人の歌」
 第1曲 彼女の婚礼の日は
 第2曲 朝の野辺を歩けば
 第3曲 私は燃えるような短剣をもって
 第4曲 二つの青い目が
■リヒャルト・シュトラウス:
 ひそかな誘い op.27-3
 憩え、わが心 op.27-1
 献呈 op.10-1
 明日には! op.27-4
 ツェチーリエ op.27-2
■アンコール
 セレナーデ リヒャルト・ストラウス
 日曜の朝 ブラームス

コルチャック テノール・リサイタル(ちょっと前の公演)

 久しぶりに東京プロムジカの公演。今年は「珠玉のベルカント・シリーズ」と銘打ってランカトーレ、メーリ、シラクーザ、デヴィーアと、ゴージャスなラインナップの公演を並べています。

コルチャックは、先日のホフマン物語でも、甘い、それでいながら様式感のある素晴らしい歌唱を聴きました。その時にも書いたように、2014年に「真珠採り」を聴いてから、何度も彼のオペラを聴いていますが、聴くたびにうまくなっている。今や、ピークに来ているのではと思います。リサイタルは、前半はロシアもので、グリンカ、チャイコフスキー、ラスマニノフなど。ここらへんは、もう安心して聴けるという感じ。そして、後半は、初めて彼のロッシーニを聴きました。これで、「ベルカント」と言えるわけです。素晴らしい!アジリタに風格があります。単にうまいというだけでなく、彼のスタイルを持っています。ドニゼッティの「愛の妙薬」から「人知れぬ涙」は、本当に甘い、甘い、でも素晴らしい音程感で、ぴしっとした感じ。良かったですね。実に満足なリサイタルでした。彼のナディールを今一回きいてみたくなりました。

東フィル定期公演、バッティと小曽根

 しばらく前の公演の感想です。

これは、おもしろい試み(と言ってはいけないのかもしれないですが)でした。1960年代にベルリンで「三羽がらす」と呼ばれていたピアニストは、マルティン・タウプマン、イエルク・デームス、フリードリッヒ・グルダですが、そのグルダが作曲した、意欲的な作品「コンチェルト・フォー・マイセルフ」に小曽根真がピアノで入り、彼の仲間のエレキベースとドラムが加わり、東フィルをバッティが振るというものでした。コンテンポラリーな音楽か、と思ったら、なんと印象派、いや、むしろロマン派に近い、美しいメロディを持った作品。しかし、時にはピアノ線を直接たたいて不協和音を出すというようなところもあって、とてもおもしろかったです。ただ、初日ということで、ベースとドラムスがかなり緊張していて、楽譜から目が離せない状態で演奏していたのが、やや残念。ジャズっぽくもう少し爆発してほしかったですね。

東京フィルハーモニー交響楽団・第116回東京オペラシティ定期シリーズ
指揮:アンドレア・バッティストーニ

グルダ:コンチェルト・フォー・マイセルフ
 ピアノ:小曽根 真
 エレクトリック・ベース:ロバート・クビスジン
 ドラムス:クラレンス・ペン

ラフマニノフ:交響曲第二番

東フィル定期公演、シベリウスとグリーグ(ちょっと前の公演)

だいぶ前の公演なのですが、2月26日のオペラシティでの、東京フィルハーモニー定期公演、プレトニョフと牛田智大の競演について、やっと書きます。

指揮:ミハイル・プレトニョフ
ピアノ:牛田智大*
シベリウス/交響詩『フィンランディア』
グリーグ/ピアノ協奏曲*
シベリウス/組曲『ペレアスとメリザンド』
シベリウス/交響曲第7番

 オールスカンジナビアプログラムですね。最初のフィンランディア、好きな曲なんですが、プレトニョフらしさがあまり出ていませんでした。なんか、ボワーっと鳴らしている感じ。曲の内面をえぐって音を出すということを期待していたのですが。。。。後の第7番がとても良かったので、ちょっと理解に苦しみました。フィンランディア、あまり練習しなかったのかなぁ。ペレアスとメリザンドはなかなか重い指揮でしたが、聴き応えありました。

 牛田智大、聴きやすいタッチのピアノを弾くという感じ。ただ、同じ若手のチョ・ソンジンの屈託の無い華やかさや、反田恭平の神経質とも思われるような技巧の繊細さに比べると、やや退屈な感じがしました。

 まあ、フィンランディアにしてもグリーグにしても、好みの問題が大きいとは思います。




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