プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

マッシモ劇場”ラ・トラヴィアータ”

 こちらもブログアップが遅くなりましたが、6月18日日曜のマチネで、パレルモ・マッシモ劇場の「ラ・トラヴィアータ」を聴いていきました。プログラムでは「椿姫」になっていますが、ヴェルディ協会では「ラ・トラヴィアータ」の名称を取っていますので、そちらを使わせて頂きます。

 今回の公演では、日本では久々となる、レオ・ヌッチのオペラでの歌唱が聴けるのが何よりの目玉です。昨年、マドリッドで「ルイーザ・ミラー」、バルセロナで「シモン・ボッカネグラ」を聴き、ヌッチの凄さに改めて感嘆しました。しかし、何と言っても既に75歳。80歳まで歌えるとは思えないですし、レーナート・ブルゾンも75歳過ぎてから急速に衰えたことを考えても、聴ける時に聴いておこうと思いました。ヌッチを囲む歌手陣も超一流、タイトルロールにはデジレ・ランカトーレ。僕は2007年に「ラクメ」と「ランメルモールのルチア」で聴いていますが、10年ぶりになります。そして、新国立の「ラ・トラヴィアータ」ではおなじみのアントニオ・ポーリがアルフレードを歌います。その他の役もフローラのピエラ・ビヴォナを除いては、すべてイタリア人歌手で揃えた公演、本場でもなかなかないと思います。

 一幕目、チャンパの序曲は、彼が師事したジュリーニのそれに似て、ややゆっくり目。ズンパッパがはっきりと出て、イタリア感いっぱいです。この序曲を聴くと、「オペラっていいなぁ」といつも思いますね。序曲の間に舞台で動きが何もなくカーテンが閉まったままというのもクラシックで良いですね。ただ、合唱でのスタートがやや音楽と合わずにちょっとひやっとしましたが、ヴィオレッタが登場し、最初から上質な歌唱を聴かせます。10年前に比べて、声の表現力もコロラトゥーラも磨きがかかっていました。ガストーネ子爵やドゥフォール男爵の脇役も良い声をしています。そして、なんと言っても僕の一押しのイタリアンテノール、アントニオ・ポーリが素晴らしい!前にも新国立の公演の時に書いたかと思いましたが、アルフレードという役を良く研究していると思います。歴代のアルフレードを聴いても、今回トスカ役で来日しているアンジェラ・ゲオルギューと競演して一世を風靡したフランク・ロパードや古くはドミンゴ、ステファノ、そしてクラウスさえも、アルフレードは「血気盛んな若者」という性格設定をしているのですが、原作を読むと、「田舎貴族の優しいボンボン」という性格だと思うのです。これを体現しているのがポーリだと思います。歌い方にも演技にもそれが良く現れていて、一幕目で、ヴィオレッタの裏で歌う時も、2幕目の“O mio rimorso(我が後悔)“の時も最後の音を上げません。これは珍しい。彼は新国立でのイヴ・アヴェルの指揮の時も最後尾を上げていないので、これはポーリが提案しているのだと思います。「ハイCを出せば、お客が喜ぶ、アルフレードの熱気が伝わる。」という従来の型にはまった演出を覆すもので、歌手の知性とアルフレードの優しさが相まって、とても良いと思います。

 そして、2幕目のヴィオレッタの別荘の場面で、アルフレードは3曲連続でカヴァレッタを歌うのですが、これも肩に力が入っていなくて本当に素晴らしい。ヴィオレッタが私財を売り払って、その生活を支えていたことに、こういうボンボンのアルフレードだったら、気づかなかったのだろうな、というのが素直に納得できます。ここで「パリに行って金を取り返してやるぅ!!」みたいに熱唱されると、「そんなこと、なんで気づかなかったんだよ」と思ってしまうんです。先月のフェニーチェでのピエロ・プレッティも肩の力が抜けた歌い方(最後は上げていましたが)だったので、アルフレードの性格表現が変わりつつあるのかもしれません。

 そして、いよいよ御大ヌッチ登場!ヌッチのジェルモンには色々なパターンがあるんですよね。この日は、「石頭、田舎の頑固親父」というパターン。ヴィオレッタを恐喝するように迫ります。最初、やや低音弱音が出ていない感じがありましたが、”piangi, piangi(泣きなさい)“のところを、いつもよりずっと強く歌ったあたりから、調子は絶好調に。心配していた高音も伸びること!完全に舞台を支配しました。ちなみに、プログラムの歌手紹介で、別格で載せられているのは、アンジェラ・ゲオルギューなのですが、格と実力から言っても、レオ・ヌッチにすべきだと思います。

 2幕目の3者それぞれのやりとりの場面、迫力がありました。特にジェルモンが「プロヴァンスの海と土」を歌った後にアルフレードに平手打ちを食らわせ、(凄い音がしましたが、本当にやったのではないと思います。)その後にオロオロしながら歌いはじめる、”No,non udari rimoproveri(いいやおまえに小言は言うまい)“の落差の出し方、ジェルモンの心の動きを、ここまで歌唱で表現できるのかと感心しました。

 「素晴らしい」、「素晴らしい」とばかり書いているブログでアホみたいなので、3幕目の「素晴らしい」は省きます。最高でした。

 フェニーチェで会えなかった、指揮者フランチェスコ・イヴァン・チャンパ、これだけの歌手を良くまとめていたと思います。ただ、今までに聴いた彼の「シモン・ボッカネグラ」や「群盗」に比べると、おとなしい、自身の味を出し切っていない感じはややありました。歌手が歌いやすいように、、と細心の気配りをしている様子。これは、無音部の多いこの演目で、伴奏が無い時にも、歌手に向かって指揮をしていたことからも感じられました。

 僕がヌッチの公演を聴いたのは、数えてみたらこの10年で13回、シモン・ボッカネグラが一番多いのですが、今日のこのジェルモン、過去のベストスリーに入ると思います。

 さて、次はマリエッラ・デヴィーアの「ノルマ」です。気合いを入れて2日行くつもりです。チケットも手頃な値段なので、是非皆様も。。

指揮:フランチェスコ・イヴァン・チャンパ
演出:マリオ・ポンテンジャ

ヴィオレッタ:デジレ・ランカトーレ
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:レオ・ヌッチ
フローラ:ピエラ・ビヴォナ
アンニーナ:アドリアーナ・イオニッツア
ガストーネ子爵:ジョルジョ・トゥルコ
ドゥフォール男爵:パオロ・オレッキア
ドビニー公爵:イタロ・プロフェリシェ
グランヴィル医師:エマヌエーレ・コルダロ

パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団・合唱団
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東フィル定期公演リストピアノ協奏曲他

 ブログアップが遅くなってしまいましたが、先週6月14日のオペラシティでの東京フィルハーモニー第110回オペラシティ定期シリーズ公演に行ってきました。この日はリスト2作品にブラームスの交響曲第4番というもの。

 一番輝いていたのが、ピアノに若き精鋭の阪田知樹を迎えての、リストの「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」。超絶技巧を要求されるピアニストとしてのリストが作曲した難曲だそうですが、それをあっさりと、全く技巧感を見せずに弾いてしまうところが阪田の凄いところかと思います。ピアノのキイをなめるように弾くのではなく、しっかりとキイの底まで押し込むような感触を感じます。それでいながら、スピードと移り変わる音色を余裕たっぷりでコントロールしていました。凄いなぁ。。反田恭平とは全く正反対の24歳の天才ですね。ソロアンコールのリストの「ラ・カンパネッラ」も実存感のある美しさでいとも簡単に弾いてしまいます。魅了されました。

 それに比べて、指揮のほうは凡庸だったと思います。第一曲のリストの交響詩「レ・プレリュード」こそ、曲の持つ輝きと力強さで退屈させませんでしたが、3曲目のブラームス「交響曲第4番ホ短調」は、もともとが退屈な曲。(ブラームスファンの方にはすみません)逆に言うと指揮者の才能を披露するのに最適な曲なのですが、同じ調子で強く鳴らすことに終始しているように感じられました。聴きながら、「バレエのパドドゥの演奏みたいだなぁ」と思っていたら、この渡邊マエストロは主にバレエを指揮しているとのこと。新国立で振っているようですが、僕が行くときはポール・マーフィーが振っていたので、渡邊の指揮は聴いたことがありません。こういう指揮を聴くと、バッティストーニの凄さがわかるというものです。渡邊マエストロ、次回に期待しましょう。

指揮:渡邊一正
ピアノ:坂田知樹

リスト:交響詩「レ・プレリュード」
リスト:ピアノ協奏曲第一番

ブラームス:交響曲第四番

ジークフリート@新国立劇場

 新国立、今シーズン最後の演目はワーグナーの“ジークフリート”、ヨーロッパから戻って、ようやっと時差ボケがなおったようなので行ってきました。良かったです。今シーズンの新国立の演目では“ルチア”と並ぶ、素晴らしい出来映え!指揮、演奏、歌手、演出のすべてが高いレベルで融合した舞台でした。これまでの「ラインの黄金」、「ワルキューレ」に比べても、格段に良い舞台でした。

 指揮のマエストロ飯守、個人的には今までの2作の鳴らし方は物足りないものがありましたが、この日は3幕目にピークをもってくるようにして、上質なクライマックスを作っていました。前2作が東フィルだったのが、今回は東京交響楽団になりました。金管の鳴らし方、その美しさは、東フィルよりも良かったと思います。2幕目の森の音楽のデリケートな響き、そして3幕目で数々のモチーフが混じり合って盛り上がる音が、聞き応えがあります。しかし、来る10月の“神々の黄昏”のオケは、また変わって「読売日本交響楽団」になるんだそうです。プログラムには、「東京フィルハーモニー交響楽団」の上に、訂正をしてありました。何か不可解。同じマエストロでリングをやるのですから、3つのオケを使う意味は何があるのでしょう?政治的なことでしょうか?

 それはそれとして、歌手陣も最高の出来でした。タイトルロールの、ステファン・グールド。もう新国立付きの歌手という感じですが、“ワルキューレ”のジークムントとは、全く違う、やんちゃ坊主のジークフリートを、実に生き生きと歌ってくれました。そして、それが3幕目で「怖れを知った」ところから、声がガラッと変わるのです。大人の男としての自覚を持った声になる。。凄いですね。ほぼ全編歌いっぱなしですから、相当の体力がいると思いますが、最後のブリュンヒルデの2重唱まで、全くパワーダウンしないで歌い通しました。そのブリュンヒルデを歌った、リカルダ・メルベート、2012年のローエングリンでエルザ・フォン・ブランバントを歌って、素晴らしかったのを覚えていますが、ブリュンヒルデでは、さらに深みのある声で、3幕目のグールドとの重唱は迫力ありました。持って行かれましたね。

 ミーメ役のアンドレアス・コンラッド。ラインの黄金の時よりも良かったですね。ロード・オブ・ザ・リングのゴラムみたいな役どころで、ジークフリートを私欲から育てあげ、最後には殺そうとするのですが、なんだか憎めない、、そういうところを、宝石の原石が光るような声で実にうまく役を作っていきます。同じテノールでもジークフリートのヘルデンテノールとは全く違うんですね。2幕目は、この2人のテノールの歌合戦、そして、ミーメとアルベリヒの兄弟げんか、そして、アルベリヒとヴォータンのバリトン合戦と、本当に聴き応えがありました。アルベリヒのトーマス・ガゼリもラインの黄金から出ていますが、演技も旨い。引き込まれます。そして、特筆したいのは、エルダを歌ったクリスタ・マイヤー。ラインでは“メゾ・ソプラノ”になっていたのが、今回は“アルト”。別に人が変わったわけではないのですが、ヴォータンと二重舞台の上下で、地の底から響くトーンで舞台を締めました。短い出番でしたが、この日、最高の歌いだったと思います。

 演出も良かったです。正直、前二作の演出はあまり感心しなかったのですが、(特に中途半端なトンネルリングだった“ラインの黄金”)今回は、実に自然で、無理がなく、ストーリーを盛り上げていました。2幕までのおとぎ話のような森の中の設定と、3幕最後の黒い御影石のような炎の山の舞台。良くできていました。そして、歌手が、みんな実に演技が巧みです。先月、ミュンヘンで見た、タンホイザーは歌手が何も演技をしていなかったのが、演出との融合を拒んでいましたが、新国立の舞台は違いました。

 いや、感動しました。素晴らしいワーグナー体験でした。まだ、公演あります。お勧めします。ちなみに、休憩を入れて5時間40分の舞台、長いとは思いませんでしたが、お尻が痛くなる。これを防ぐのに、“オペラクッション”という、まあ、「座布団」ですね、一枚500円で貸し出されていました。なかなか使い心地良かったです。

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