プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ポッペアの戴冠

 モンテヴェルディのバロックオペラ“ポッペアの戴冠”に、23日の祝日にオペラシティまで行ってきました。バロックオペラは、2015年にヴィヴァルディの“メッセニアの神託”を2回生で見たのと、DVDでデセイの“ジュリオ・チェーザレ”を見たくらい。

 いきなり結論ですが、“すごく”良かったです。とにかくおもしろかった。行く前に、けっこう予習をしていたのですが、あらすじが複雑で、正直良くわからなかったんです。しかし、実際公演で丁寧な字幕を目で追っていったら、話しの流れがしっかりとわかりました。現実のローマ皇帝ネロの話を土台にしているのですが、人間ドラマのドロドロとした様が、見事に美しい音楽でラップされています。とにかく、ストーリーが良く出来ています。ロマン主義のオペラの一般的なストーリーに比べても、けっこう複雑だと思うのですが、色々な要素がうまく絡み合って、不自然さがなく表わされています。

 野望を持って夫を替えて行く、ポッペア(実際の名前は、ポッパエア・サビナ)を演じるのは、森麻季。声量とアジリタにやや物足りないところはありましたが、蠱惑的な“魔性の女”を、実に品格のある声と演技で表現していました。リサイタルなどでしか聴いたことがなく、森麻季のオペラを聴くのは初めてでしたが、役になる切る力みたいなのがすごかったですね。Brava! しかし、何より素晴らしいと思ったのは、運命の神フォルトゥナと、武将オットーネに想いを寄せる侍女のドゥルジッラの二役を歌った、森谷真理。明るく輝く声に、装飾歌唱を美しく取り入れ、オットーネに対する思いの丈を歌い上げるところ、実に素敵で感動しました。ウィーンが活躍の場らしいですが、日本でももっと歌って欲しいです。皇帝ネッローネのレイチェル・ニコルズもなかなか良かったですが、もう少し強い感情表現が欲しかったと思います。バロック・オペラでは歌唱の技術を優先させて歌うと、感情表現が付いてこないことがあるのではと思います。その点、メッセニアの神託の、ユリア・レジネヴァは凄かったですね。

 哲学者セネカ(これも実在の人物)を歌った、バスのディングル・ヤンデルもシモンみたいで、魅力的な役柄を上手に演じていました。まだまだ、知らない良い歌手がたくさんいますね!皇后オッターヴィアの波多野睦美も彼女が登場すると舞台の色が変わるような華がありました。実際、彼女のドレスは白、ポッペアは赤、ドゥルジッラは黒と、衣装の色で性格表現をしています。また、演奏会形式とは言え、田尾下哲が舞台構成をしたので、通常のオペラと同等の演出の迫力がありました。

 バッハ・コレギウム・ジャパンを指揮した鈴木優人は、モンテヴェルディの優雅で微妙な音の美しさを見事に表現していました。台詞を字幕で読んでいると、その内容に連れて、メロディラインが変化していくのが実におもしろいんです。僕の席はC席で3階の横の席でしたので、ちょうど手すりが、字幕を横切ってしまい、首を傾けての観劇となりました。休憩40分を入れての4時間5分。首が痛くなりましたが、あっという間に終わりました。バロック・オペラ、もっと日本でやってほしいですね。

鈴木優人(指揮)
森麻季(ポッペア)
レイチェル・ニコルズ(ネローネ)
クリント・ファン・デア・リンデ(オットーネ)
波多野睦美(オッターヴィア)
森谷真理(フォルトゥナ/ドゥルジッラ)
澤江衣里(ヴィルトゥ)
小林沙羅(アモーレ)
藤木大地(アルナルタ/乳母)
櫻田亮(ルカーノ)
ディングル・ヤンデル(セネカ)
加耒徹(メルクーリオ)
松井亜希(ダミジェッラ)
清水梢(パッラーデ)
谷口洋介(兵士Ⅱ)

バッハ・コレギウム・ジャパン
田尾下哲(舞台構成)

 
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“ノルマ”METライブビューイング

 いよいよ、METライブビューイングの2017-2018シーズンが日本にもやって来ました。僕は、この「オペラを映画館で見せる」というのには、どうも抵抗があって、今まで見に行った作品は2つか3つくらいです。大きな画面で、こちらが見るところを編集で指定されてしまうというのが、我が儘な性格に合わないようです。8Kとかになれば、映画館でも双眼鏡で見られるような感じになるのでしょうけど。。。不思議と小さな画面でDVDなどで見ていると、さほど気にならないのですが。

 とは言うものの、今シーズンは「ノルマ」と「ルイーザ・ミラー」は見逃せないなと思って、先日、東劇に行ってきました。「ノルマ」の生での鑑賞回数は、さすがに少なくて、過去には、2013年のザルツブルグの公演(バルトリ)、と今年の日生劇場でのデヴィーアの公演(2回)くらいです。あ、昨年のグルベローヴァの公演も行きましたが、これは悲しい結果になったので、回数に入りませんね。

 さて、今回のMETの公演はタイトルロールのソンドラ・ラドヴァノフスキーが、まずは注目。この人も生では聴いたことがありませんが、METでは2015-2016のシーズンで、ドニゼッティの「女王三部作」をすべて歌ったという強者。そして、昨今はフランスオペラにも進出している、メゾのスター、ジョイス・ディドナート。しかも指揮者は、僕の大好きなカルロ・リッツィなので、これを見逃す手はありませんでした。

 リッツィの指揮は、現代の「ノルマ」の音のデファクト・スタンダードとも言える、ピリオド楽器っぽい、切れの良い序曲で始まります。50年代のセラフィンの指揮(カラスがタイトルロール)のような、豊穣な音とは全く違います。しかし、リッツィはベッリーニの蠱惑的な音楽を、見事に響かせます。彼は音の中に自分の感情を込めるのがとても旨い。シモン・ボッカネグラなどでも、本当に独特の「泣かせる」音を出しますね。このMETの公演、ともすれば、歌手と舞台美術に話題が行きがちですが、リッツィの指揮あっての成功だと思います。

 ただ、一幕目は、ラドヴァノフスキーもポリオーネのジョセフ・カレーヤも喉が温まっていないのか、やや音がぶら下がります。(僕の耳が悪いのかもしれませんが。。。)Casta Divaも、今ひとつ迫力に欠けました。それでも、1幕目中盤あたり、アダルジーザが出てくるところからは、素晴らしい声を聴かせてくれました。二人の女声の重唱がこのオペラの魅力の大きな部分ですが、これは大満足です。しかし、おもしろいと思うのは、原曲ではソプラノとソプラノで歌われたこの2人が、METではソプラノのノルマとメゾのアダルジーザで歌われていて、一方のザルツブルグではノルマはメゾのバルトリで、アダルジーザはソプラノのレベッカ・オルヴェーラが歌ったという、逆の配置(?)になっていることです。過去のコンビで、素晴らしいと思っているジョーン・サザーランドとマリリン・ホーンはソプラノとメゾです。やはり、現在はこれが普通で、バルトリの場合は例外と言えるかもしれません。

 アダルジーザのディドナート、とても良かったですね。コロラトゥーラの多い演目ではないのですが、ところどころ装飾歌唱をするのが、グッと来ました。この人も生で聴いたことがないんですよね。ロッシーニ聴きたいなぁ。ヨーロッパは毎年1-2回行くのですが、METはせいぜい6-7年に一回。ですので、MET中心に活躍している歌手はなかなか聴けないんです。ニューヨークは遠いし、フライトも宿も高いし、なかなか行けませんね。

 歌手の中で、やや期待はずれだったのは、ポリオーネのジョセフ・カレーヤ。良い声なんですが、なんか歌いっぱなしという感じで、陰影がありません。本人も幕間のインタビューで言っていたように、「女たらし」な役柄を意識していたようなので、意識してそういう歌い方をしているのかと思いますが、ポリオーネには彼なりに真剣で悩みもあったはず。これは、ヴェルディ協会の理事のTさんが、フェイスブックでも言っていたことですが、痛く同意しました。その点では、ザルツブルグでのジョン・オズボーンのほうがずっと良かったですね。このことを、一緒に行った家内に話すと、「二人に同じ口説き文句使ってたし、ただの女垂らしよ。」と切り捨てられました。

 演出は、5つの舞台を上下左右から出現させて、すごいスペクタクル!歌手達も素晴らしい演技力を見せているのは、映画ならではのアップで良くわかりました。

 休憩入れて3時間半の公演、あっという間に終わった感じです。ただ、やはり、正直、生のバルトリ、生のデヴィーアの公演にはかなわなかたかなぁというのが、本音です。ところで、今回のライブ・ビューイングのプログラム、\1,440ですが、内容がすごく充実しています。大きさもヨーロッパの歌劇場のプログラムのサイズ。写真も美しく、内容も読み応えあります。是非、お求め下さい。


指揮:カルロ・リッツィ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
出演:ソンドラ・ラドヴァノフスキー、ジョイス・ディドナート、ジョセフ・カレーヤ、マシュー・ローズ

静かなラ・トラヴィアータ(椿姫)

 このプロダクションは新国立劇場で3回目になりますが、いつもながら上質な公演でした。指揮のリカルド・フリッツァは、同じ新国立のオテロで2009年に聴いた時はあまり良い印象ではありませんでした。とにかく音が大きかった。でも、この日のトラヴィアータは、総じて「静か」なんです。そしてこの静かさに、品がある。静かなんだけど、指揮棒の先からは色々なニュアンスが流れ出てきます。緩急をつけるのも、本当に僅かなところ。特に歌唱の大事な部分で、ほんのちょっと音を延ばすところなど、歌手と綿密な打ち合わせと稽古をしたと思いますが、実に優雅な感じを醸し出して素敵でした。30分の休憩を除いて2時間25分くらいの上演時間でしたので、カット部分が殆ど無いことを考えると、割と早いテンポで進んだと思います。そのせいか、一幕目はやや歌手を引っ張りすぎている感じがあり、ルングと合唱がついて来れないところがありました。しかし、2幕以降は、このテンポと歌唱がぴったりとあって見事。ただ、インテンポな指揮に歌が合っているのではなく、緩急あっての「合い」。それも指揮者が歌手に寄り添うのでなく、指揮者が引っ張る感じで、聴いていてとても楽しくなりました。

 そして、もうひとつの「静かさ」の効果は、音楽評論家のKさんによると、フリッツアへのインタビューで、フリッツァが「1950年代趣味から脱する。」と語っていたそうですが、まさしく、それが良くわかりました。2幕目の”morro!”のところも、机をひっぱたいたりしないし、”Amami Alfredo”のところも、オケの低音をドロドロと鳴らさないで、すーっと行く。スカラ座の天井桟敷にいる高齢のオペラファンだったらブーイングかもしれませんが、とても新しい感じがして良かったです。“プロヴァンスの海と陸”のあとも、ジェルモンはアルフレードをひっぱたかないんですね。あくまでも「静か」

 このオペラは、最初に、ヴィオレッタのモデルになった、アルフォンシーヌ・プレシのモンマルトル墓地の墓碑の言葉から始まります。最後まで、ヴィオレッタの亡くなった後、彼女自身が回想するような構成ですから、こういう冷静な感じの流れのほうが、心を打ちます。ブサールの演出の3幕目では、ヴィレッタだけが紗幕の前でくっきりと舞台上に見え、アルフレード、ジェルモン、アンニーナ、グランヴィル医師達は、皆、紗幕の後ろでかすみます。これは、もう、ヴィオレッタは亡くなってしまっているのだと強く思います。いわば“シックス・センス”の世界ですね。だからこそ、最後でヴィオレッタは倒れて死んでいくのではなく、そのまま胸をはって歩き去るのです。

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2015年に筆者が墓参りに訪れた、プレシの墓


 そして、これは私のオペラ友人、先輩の見方でもありますが、全幕を通じて舞台の真ん中にあり、最後にはその紗幕を分ける位置に置かれたグランドピアノは、ヴィオレッタが実際の人生で最後まで愛した、フランツ・リストを表しているのではないかと、、これも強く思います。

 今日は、歌手へのコメントが最後になってしまいましたが、一番良かったのは、アルフレードを歌った、アントニオ・ポーリだったと思います。「反1950年代」というコンセプトの中で、それをもっとも体現していたのでは? “O mio rimoroso”の最後も無用に上げないで静かに終わります。ですから、普通なら大拍手になるこのところも、拍手はパラパラ。ヴィオレッタを歌った、イリーナ・リング。僕は多分、彼女のこのロールデビューを2007年の7月にミラノのスカラ座で、ロリン・マゼール指揮で聴いていると思いますが、その頃は軽い細い声だったのが、ずいぶん熟成された声になりました。一幕目こそ、少し調子が出ませんでしたが、全般としては素晴らしい。演技も素晴らしい。これもやりすぎにならいレベルに押さえていましたね。

 帰りに、車でジュリーニ指揮のカラス、ディ・ステファノのCDを聴きましたが、これぞ、50年代! でも、序曲はおそらくどの指揮者よりも長く、遅いテンポです。これも、悪くはないなと思いました。

 今回でトラヴィアータ、23回目の鑑賞となりました。あと、何度生で聴けるかなぁ。とにかく、好きな演目です。


指 揮:リッカルド・フリッツァ
演出・衣裳:ヴァンサン・ブサール
美 術:ヴァンサン・ルメール
照 明:グイド・レヴィ
ヴィオレッタ:イリーナ・ルング
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:ジョヴァンニ・メオーニ
フローラ:小林由佳
ガストン子爵:小原啓楼
ドゥフォール男爵:須藤慎吾
ドビニー侯爵:北川辰彦
医師グランヴィル:鹿野由之
アンニーナ:森山京子
ジュゼッペ:大木太郎
使者:佐藤勝司
フローラの召使い:山下友輔
合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

”真珠採り” 聴き比べ

先日、LAオペラで聴いた、“真珠採り”の感想をブログにアップしましたが、以来、CDやYouTubeで”真珠採り”を聴き込んでいます。

ここに、ナディールが歌う、一番有名なアリア「耳に残るは君の歌声(ナディールのロマンス)」の色々な歌手による動画をアップしておきます。お暇な時にお聞き下さい。

1.LAオペラでナディールを歌った、ハヴィエラ・カマレナのピアノ伴奏バージョン  https://www.youtube.com/watch?v=lii_e_VSing

2.僕が一番好きな50-70年代のフランス人のナディール歌い、アラン・ヴァンゾ https://www.youtube.com/watch?v=MGmxAHVbijI

3.60年代にポップスでヒットしたポール・モーリア楽団のバージョン https://www.youtube.com/watch?v=E6XXgbfMBdE

4.感激もののアルフレード・クラウス(劇中劇のようです?)  https://www.youtube.com/watch?v=Q1rTaw3O1wI

5.これも凄い!ニコライ・ゲッダ  https://www.youtube.com/watch?v=qCImfJUFSf0

6.現役ではなかなか良いアラーニャ  https://www.youtube.com/watch?v=TQaySQQONXs

7.2014年にパルマで聴いたコルチャックのスタジオ録音、これもいいですね。https://www.youtube.com/watch?v=IeMKYMqT018

8,ドミンゴも歌っていましたが、あまりフランスっぽくないです。https://www.youtube.com/watch?v=QCake31gbs4

以上、お楽しみ下さい。

ルサルカ@日生劇場

 ルサルカを見るのは本当に久しぶり。2011年の新国立での公演以来です。今回、一番良かったのは、指揮。ともすれば凡庸な交響楽になりがちな、ドヴォルザークのオペラを厚みがあり、情感のこもった、しかしそれが過剰になりすぎず、うまくコントロールされたものに仕立てていました。山田和樹の実力を感じました。そして、読売日本交響楽団の実力も感じました。先日の新国立の「神々の黄昏」も良かったですし、こういう重みのある交響曲的なオペラ音楽、読響はうまいですね。このルサルカは一幕目の森の精が3人出てくるところは、ワーグナーの「ラインの黄金」オープニングにそっくり、そして二幕目の森番が出てくるところの「ドードドソ、ドードドソ」という感じのフレーズは、同じくワーグナーのファーフナーとファーゾルトの巨人のモチーフとうり二つ。その後もワーグナーっぽいところが多くありました。

 歌手も総じて良かったと思います。特に魔法使いのイェジババを歌った、清水華澄は際だっていました。王子の樋口達也は、ちょっと役柄には声が明るすぎる感じはありましたが、演技も含めて素晴らしかったです。

 ただ、このオペラについて、今日はあまり書く気にならないんです。それは、演出が、好みに合わなかったから。正直、退屈でした。舞台が変わらないのは、日生劇場という古い舞台であることや、コスト面を考えると仕方がないと思いますが、間奏曲の時のラジオ体操には参りました。2幕目でルサルカが30分も動かないまま立っているのも、見ていて疲れました。色々なブログではこの演出に好意的に書いているようですが、見る物が突っ込んでいって理解しようと努めると、色々と面白い解釈ができるとは思います。しかし、登場人物がほとんど真ん中の穴から上がって来るところとか、効果の目的がわからない照明など、僕には全くその「良さ」がわかりませんでした。途中からは目をつぶって、音楽と歌唱に集中しました。

 同じくらいの規模の劇場に、昭和大学付属のテアトロ・ジーリオ・ショウワがありますが、ここもコストの制限のある中で、安価ではあるけれど、素晴らしい演出をしています。演出はイタリア人のマルコ・ガンディーニと美術のイタロ・グラッシ。いくつも公演を見ていますが、実にアイデアが豊富。

 ということで、個人的にはちょっと満足感を得られない公演になりました。

指揮:山田和樹
演出:宮城 聰
ルサルカ 田崎 尚美
王子 樋口 達哉
ヴォドニク(水の精) 清水 那由太
イェジババ(魔法使い) 清水 華澄
外国の公女 腰越 満美
料理人の少年 小泉 詠子
森番 デニス・ビシュニャ
森の精1 盛田 麻央
森の精2 郷家 暁子
森の精3 金子 美香
狩人 新海 康仁
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:東京混声合唱団

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