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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

新国立劇場 ドン・ジョヴァンニ初日

 5月18日金曜日、ドン・ジョヴァンニの初日に行って来ました。このプロダクションも2008年以来4回目になるので、もう見慣れた感じです。そろそろ新しい演出が欲しい気もします。

この日のお目当ては、ドンナ・エルヴィーラ役の脇園彩だったのですが、期待以上の素晴らしさ。透き通るような美しさで基本的にはレッジェーロですが、声の芯が通っていて重みもあります。コロラトゥーラも実に魅惑的。完全に世界レベルですね。実際活躍しているのも、欧州のほうが多いようです。そして、オッターヴィオを歌ったアルゼンチン人のファン・フランシスコ・ガデルが望外の出来!甘く、丸い声で気品があります。アジリタもうまい!脇園もそうですが、彼もロッシーニをたくさん歌っているようです。ロッシーニをうまく歌える歌手がモーツァルト、そして初期のヴェルディを歌うと、ひと味違いますね。オッターヴィオはほとんどの公演で、ちょっと馬鹿っぽい感じで表現されてしまうのですが、この日は違いました。こんなのは初めてです。

 タイトルロールのニコラ・ウリヴィエーリはどうだったか? 明るいバスで決して悪くないのですが、やや明るすぎて、平坦な感じがぬぐえませんでした。同じプロダクションで聴いた、クヴィエチェンやガッロのように、ジョヴァンニの悪さがにじみ出るような個性がないという感じがしました。レポレッロを歌ったニコラ・ウリヴィエーリは、完全にハズレ。1幕目最初からオケと合いません。これは初日だからしかたないとしても、声が良く聞こえない。だんだんと聞こえるようになってきても、実に薄っぺらい歌い方で残念無念。結果としてドン・ジョヴァンニとレボレッロのやりとりが、とても退屈なんです。この二人のやりとりがこのオペラのひとつの聴きどころなんですけどねー。

 同じような感じはマゼットの久保 和範、ツェルリーナの九嶋 香奈枝にも言えました。なんとか歌っているという感じ。九嶋も歌うのに精一杯で、スブレット感が全然出ていません。これなら、3月の新国立研修所公演でツェルリーナを歌った、21期生の井口侑奏のほうがずっと良かったです。

 ドンナ・アンナのマリゴーナ・ケルケジは尻上がりに良くなっていました。2幕目の「私が残酷ですって?」は聴き応えありました。そして、騎士長の妻屋さん、鉄板です。日本の歌手の中で、年間一番多く歌っているのがこの人ではないでしょうか?でも、どんな役でも「今ひとつ…」ということが全くないですね。凄いと思います。

指揮のカーステン・ヤヌシュケ、新国立初登場。歌手と合わないのは、先ほども言ったように、初日のせいで、この後の公演では改善されるでしょう。でも、モーツァルトのオペラは、指揮にヴィジョンが欲しい。どんな音楽にするのか、テンポや盛り上がらせ方、レチタティーヴォの扱い方などに、もう少し指揮者の意図がはっきりと反映されて欲しかったです。

新国立の過去のドン・ジョヴァンニがなかなか良かったので、ちょっと辛口なブログになってしまいましたが、脇園さんとガデルを聴くだけでも価値のある公演。まだチケットがあるようなら、是非行かれてください。

指揮 : カーステン・ヤヌシュケ
演出 : グリシャ・ アサガロフ
ドン・ジョヴァンニ : ニコラ・ウリヴィエーリ
騎士 : 妻屋秀和
レポレッロ : ジョヴァンニ・フルラネット
ドンナ・アンナ : マリゴーナ・ ケルケジ
ドン・オッターヴィオ : ファン・フランシスコ・ ガテル
ドンナ・エルヴィーラ : 脇園 彩
マゼット : 久保 和範
ツェルリーナ : 九嶋 香奈枝
合唱 : 新国立劇場合唱団
東京フィルハーモニー交響楽団
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二期会「エロディアード」

 4月27日、オーチャードホールでの二期会公演、マスネの「エロディアード」に行って来ました。そのあとすぐに連休に入ってしまい、ブログアップするのを忘れてしまっていて、こんなに遅くなりました。

 二期会では、今年「二つのサロメ 〜 一つのストーリーから生まれた二つのドラマ」と銘打って、今回の「エロディアード」とリヒャルト・ストラウスの「サロメ」を上演するのですが、これはとても意欲的なプロジェクトだと思います。特に「エロディアード」のほうは、滅多に上演されない演目です。ただ、そのような素晴らしいマーケティング(?)がある一方で、当日会場で配られていたプログラムは全く貧弱で、あらすじさえも無いのです。あるのは、オペラ研究家、岸純信氏の解説が2頁だけ。これはこれで読み応えのあるものでしたが、比較的登場人物が多く、しかもセミステージ方式(ほとんど演奏会形式)で上演されたので、ストーリーの理解が出来なかった方も多かったのではと思います。僕は、幸い前もってネットでストーリーや登場人物の役柄については、知識を入れてきたので、なんとかついて行けましたが、それでも休憩時間にプログラムで確認したかったこともいくつかありました。

 このような簡素なプログラムしか配布しないなら、二期会は事前に、チラシやホームページで、「本上演のストーリーは、皆様前もってネットなどでお知りになってください」などと告知するべきではないでしょうか?藤原歌劇団のプログラムなどは、非常に丁寧で読み応えがありますが、二期会のそれは、概して観客フレンドリーではないように思います。

 さて、この日の公演で、何と言っても素晴らしかったのは、指揮のミッシェル・プラッソンと東京フィルハーモニー。この指揮者は、2016年の新国立での「ウェルテル」を指揮する予定でしたが、体調不良で、息子のエマニュエル・ブラッソンに代わったことを覚えています。だいぶ高齢のようで、椅子に座っての指揮でしたが、マスネの美しいメロディーを浮き出すように綴っていき、盛り上げるところは盛り上げる、フランスのグランドオペラの雰囲気を充分に堪能させてくれました。ただ、セミステージということで、本来4幕目に入るべきバレエが省略されていたのは、やや残念。

 歌手は、すべて日本人でしたが、サロメの高橋恵理と、ファニュエルの妻屋秀和が素晴らしかったです。この日は音響のあまり良くない3階の端で聴いたのですが、弱音から強音まで、ふくよかで強い声が届いてきて感動しました。ただ、ジャンの城宏憲とエロデの小森輝彦は、やや声がつぶれたように聴こえて、伸びにも欠けていたように感じました。

6月は、「サロメ」です。まだチケットが残っているようです。非常に良心的な価格設定ですので、皆様も是非!



ウェルテル@新国立劇場

 3月24日、日曜日のマチネの「ウェルテル」に行ってきました。今回の目当てはなんと言ってもシャルロット役の藤村実穂子。とは言っても期待ばかりではありませんでした。彼女は、どちらかというとワーグナーやマーラーのイメージが強く、フランス物は、リサイタルでカルメンを歌ったのを聴いたくらい。(これ素晴らしかったです!)ですので、若いシャルロットはどうかな?と思っていましたが、さすがですね。芯のしっかりした声に、やや鼻に抜けるような柔らかさを加えて、余裕たっぷりの歌い方。素晴らしいです。2016年の砂川涼子のシャルロットが台本通りの20歳だったとすれば、藤村実穂子は25歳くらいかなという感じはありますし、タイトルロールのサイミール・ピルグもコルチャックのような若さで押す歌い方ではないので、ちょっとオネーギンとタチヤーナみたいな感じもしましたし、そこを嫌った方もいるでしょう。でも、3幕目の「手紙の場」での長大な独唱は、まさに魂をゆさぶるような美しさがありました。ここを聴いただけでも、この日初台に来た甲斐あり。

 前述のコルチャック、2016年に新国立でウェルテルを歌い、大喝采を浴びました。この印象があまりに強く、それを知っている人には、今回のピルグはやや物足りない。いや、歌手としての出来には大満足なのですが、役の性格作りがちょっと中途半端なんです。コルチャックのように純真で、子供っぽいとまで言えそうなウェルテルと、カウフマンのような成熟したストーカーのようなウェルテルの間で、ややノーブルな感じに過ぎた感じがありました。しかし、藤村とのバランスはとても良かったです。そして「オシアンの歌」は素晴らしかった。Bravo!!! 残念なのは、歌が素晴らし過ぎたせいか、3階の観客の一人がまだ途中なのに拍手をしてしまい、ピルグに手で制止されていたこと。この人かどうかわかりませんが、この日は3階あたりから、不要な拍手がちょっと多かったですね。

 この公演は、ピルグ以外の歌手は全員日本人でしたが、実にクォリティが高かったです。ソフィーの幸田浩子も良かったです。彼女は台本での15歳という年齢にぴったりで、可愛らしいコロラトゥーラを聴かせてくれました。演技も秀逸。そしてアルベールの黒田博、このオペラでは憎まれ役になるのですが、声にその演技が籠もっていて秀逸でした。嬉しかったのは、研修所から応援している、糸賀修平(シュミット)と駒田敏章(ジョアン)が、存在感のある歌声を聞かせてくれたこと。糸賀の特徴のある甘い声を僕は大好きで、いつか新国立が初めて、ベッリーニをやってくれたら、この人のテノールを聴きたいなぁと思っています。(夢遊病あたりで。。。)

 指揮のポール・ダニエルは初めて聴きました。可も無く不可もなくという感じでしょうか?歌手によりそうようなところはとても良いのですが、序奏や間奏で、ところどころ音の立ち上がりが合わなかったり、なんとなく雑然として聞こえて、音楽の中に入り込むのが難しかったです。

 特筆したいのは、舞台美術の素晴らしさ、ニコラ・ジョエルの演出は2016年の再演ですが、特に4幕目の書斎の場の美しさ、一面の本棚と高い窓(おそらく)から床にこぼれる日の光の中で、ウェルテルが息絶えて行くシーンは本当に美しいものでした。ばらの騎士や、影のない女でも同じような手法が使われていましたが、新国立劇場の照明の素晴らしさは、世界に誇れるものだと思います。照明で泣かされるのは、この劇場だけです!

帰りに、チケット売り場で、まだ取っていなかった5月のドン・ジョヴァンニの席を取りました。その前に4月の「フィレンツェの悲劇、ジャンニ・スキッキ」のダブルビルです。

指揮:ポール・ダニエル
演出:ニコラ・ジョエル
美術:エマニュエル・ファーヴル
衣裳:カティア・デュフロ
照明:ヴィニチオ・ケリ
再演演出:菊池裕美子
舞台監督:大仁田雅彦

ウェルテル:サイミール・ピルグ
シャルロット:藤村実穂子
アルベール:黒田 博
ソフィー:幸田浩子
大法官:伊藤貴之
シュミット:糸賀修平
ジョアン:駒田敏章
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:多摩ファミリーシンガーズ
管弦楽:東京交響楽団

ドン・ジョヴァンニ 新国立研修所公演

 土曜日は、新国立劇場研修所修了公演の中日に行ってきました。この日は、卒業となる第19期生ではなく、20期、21期の歌手を中心にした若手のキャスティングでした。中劇場での公演でしたが、ここは大好きです。器が小さいので、どこに座ってもA席!ちょっとシートが堅くてお尻が痛くなりますが、新国立の大劇場とは全然違う臨場感があります。修了公演ということもあって、生徒の家族や、先輩も来ていて何か華やかな雰囲気でした。

まずは、最初に伝えたいのが、演出、特に舞台美術の巧みさです。決してお金をかけているわけではなく、中央の廻り舞台に乗っている階段と高いアーチと見晴台のようなものが構成されているだけなのですが、これが、場面とともに、少しずつ廻って行きます。そこに、また、素晴らしい照明の効果で、舞台が屋外に見えたり、ジョヴァンニの邸宅に見えたりするのです。まるで、エッシャーのだまし絵を見ているような感じ。演出の粟国さんの才能が遺憾なく発揮されていました。

歌手陣では、タイトルロールの20期、野町知弘が、その明るく張りのある中音で魅了してくれました。彼は演技も素晴らしく、まさしくジョヴァンニになりきっている様子で、余裕たっぷり。そして、もう一人出色だったのが、ツェルリーナの21期の井口侑奏(ゆかな)。実に可愛らしく、色気のある歌いで、このスブレット役(侍女役)を完璧にこなしていました。今すぐにも、フィガロのスザンナでも出来そうです。これからが楽しみですね。

 あとの歌手陣は、まだ歌うのが精一杯という感じで、声の表情や演技までに充分な気を遣うことができていないようでしたが、ドンナ・アンナの和田悠花や、ドン・オッターヴィオの濱松孝行は、これから声を作り込んでいけば、素晴らしい歌手になることを予想させました。

 とにかく、この日、一日のために、相当量の練習をこなして来ただろうだけあって、完成度が高い。金曜と日曜の19期中心の修了公演もチケットを取っておけばと悔やみました。この研修所公演はチケット、すぐに完売になってしまうのですね。

ところで、2月の後半、モロッコに旅行に行って来ました。11日間でオペラ公演は無し。オペラ無しの旅行は出張を除けば10数年ぶりだと思います。なかなかエキゾチックで不思議な風景がたくさんあり、時間の流れもゆっくりしていて良かったです。カサブランカにはオペラハウスが建築中でした。こけら落としは、「アフリカの女」だったりして。また、行ってみたいところです。

さて、今月は、東フィルでプレトニョフのチャイコフスキー&ハチャトリアンと新国立のウェルテルです。

ラ・トラヴィアータ藤原本公演

1月27日、藤原歌劇団の本公演、“ラ・トラヴィアータ”に行ってきました。トラヴィアータ、良く行きますね。多分20回以上見ていると思います。もっとも、この演目は世界で一番上演回数が多いのだそうで、2位が魔笛、以下、カルメン、ラ・ボエーム、トスカ、フィガロの結婚と続きます。

今回は、海外からのゲストの歌手はおらず、おもに藤原の看板歌手(上江さんを除く)でトリプルキャストを組んでの3日間。僕は、上江さんのジェルモン狙いで最終日に行きましたが、絶対“当たり”でした。何度も書いていますが、最近、中低音の表現力と艶が素晴らしくなってきた彼のジェルモン、昨年12月にMETで聴いた、クイン・ケルシーのジェルモンよりも良かったと思います。特に、1幕2場でヴィオレッタとのやりとりは圧巻。もともと美しいピアニシモで情感を出しながら、曲が進むに従って、だんだんとヴィオレッタと二重唱になっていくところ、グッと来ました。もちろん、光岡さんのヴィオレッタもBrava!!でした。レッジェーロな声で装飾技術も優れた歌い方、何より美しい水滴のような透き通った声が圧巻でした。そして、3幕目の「道を踏み外した女」のアリアは、彼女の素晴らしさが結晶になって、本当に聴き応えがありました。短くカットされることもなかったですし。それにしても二期会のスターである上江さんが藤原で歌うというのは珍しいこと。これから何か起こるのでしょうか?ともあれ、観客にとっては豪華なキャスティングになっていました。

アルフレードの中井亮一さんも、若々しく、甘く、良かったのですが、上記二人に比べるとちょっと物足りない。1幕2場で冒頭のカヴァレッタ2連発、もう少し強い表現力が欲しかったです。

あと、特筆すべきは、脇役の歌手が総じて良かったこと。フローラの丹呉由利子さん、いかにも自信を持っている女主人という感じで、夜会の主催者として、きっちり歌ってくれました。フローラの夜会がビシッとしないと、2つの夜会がオペラに出てくる意味がなくなってしまうんですね。ロード・オブ・ザ・リングのTwo Towersみたいなものでしょうか?

粟國さんの新演出もなかなか良かったです。額縁に入った大きな絵を使ったのは、1幕目では、原作の始めの、ヴィオレッタの死後のオークションを彷彿とさせますし、途中から額の中で舞踏会で踊る人々が見えるのも新鮮でした。2幕目以降も、額の中にストーリーのバックグラウンドを見せて、3幕目では、弱ったヴィオレッタの後ろの額はやぶれて、絵もなくなってしまっている。(おそらく売ってしまった。。)色々と想像できるところが、押しつけがましくなくて、とても好感が持てました。粟國さんがプログラムで言っているように、彼の演出は、歌手に歌いにくいポジションや体勢を取らせることがないのも、大好きです。藤原の伝統でもありますね。

そう言えば、新国立劇場の2019-2020シーズンの演目が発表になりましたね。なかなか魅力的。今年は少し多めに行こうと思います。

指揮:佐藤正浩
演出:粟國 淳
ヴィオレッタ:光岡暁恵
アルフレード:中井亮一
ジェルモン:上江隼人
フローラ:丹呉由利子
ガストン:松浦 健
ドビニー:田島達也
グランヴィル:坂本伸司
アンニーナ:牧野真由美
ジュゼッペ:有本康人
使者:相沢 創
召使:市川宥一郎
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:竹内菜那子、渡邊峻郁
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団








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