プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

バッティストーニの「春の祭典」

 久しぶりのブログです。19日金曜日の東京フィルハーモニー交響楽団オペラシティ定期公演第109回に行ってきました。バッティストーニは3月のラフマニノフ、チャイコフスキー以来です。

 まず、最初はヴェルディの歌劇オテロ第3幕からの「舞曲」。これは珍しいです。オテロ初演の1887年後にパリで初演された際に、当地のグランドオペラの趣向に合わせて3幕目の後半を改訂し、「舞曲」を入れたのだそうです。残念ながら、僕はこの「舞曲」の入ったパリ版を聴いたことがありませんでした。DVDにもなっている有名なスカラ座の2001年シーズンの、ムーティー指揮、ドミンゴ、フリットリ、ヌッチの公演は、このパリ版のはずですが、「舞曲」はそっくりはずされています。今度の9月の演奏会形式の「オテロ」では、この舞曲が入るのでしょうか?楽しみですね。

 という訳で初めて聴いたこの曲。ちょっと「マクベス」の舞曲にも似た妖艶でエキゾチックな雰囲気があって、スパイスが効いています。初めての曲なのに、素直に入ってくるメロディーの美しさと華やかさが、バッティストーニに盛り上げられたオケによって(オケが揺れ動いてました!)、序々にテンポが上がっていきます。いや、素晴らしいですね。これだけ、音楽がスタートしたとたんに、自分の感性でコンサートホールを劇的に支配するのは、バッティストーニならではだと思います。

 2曲目は、ザンドナーイの、これも珍しい曲、歌劇「ジュリエッタとロミオ」の舞曲。そう、今日は舞曲だけで構成されたコンサートなんですね。プログラムによれば、この曲はアンコールの定番だったそう。ロミオが馬を駆ってジュリエッタのもとに急ぐというシーンの音楽だそうです。メロディの雰囲気は全然違いますが、「ギョーム・テル」の序曲のようなイメージがありました。とにかく飛ばすこと飛ばすこと!バッティストーニ祭りになって、前半が終わりました。

 後半は、お目当ての「春の祭典」。バッティストーニはこの曲がよほど好きらしいですね。プログラムに2回に分けて、〜「春の祭典」によせて〜という文章を寄稿しています。かなり論理的で、且つ熱のこもった文章。翻訳の井内美香さんも苦労したのではないかと推測します。僕は、去年、ピエール・ブーレーズが亡くなった時に、彼のゆったりとした「春の祭典」と、同じ頃にリリースされた、テオドール・クルレンツィスの神経質とも言える、切れ味するどい「春の祭典」をだいぶ聴き込みましたが、いや、全然違いますね。。。当たり前のことですが。冒頭でオケの奥の方から響いて来る、ゆっくりとしたテンポのファゴットからして異質な感じ。前半は大地の上を春の妖精、、というか「幼虫」がうごめいているような不思議な迫力がありました。緩急の付け方もはっきりしていて、この演奏では踊れないな、と思いましたが、ストラヴィンスキーの現代性が、バッティストーニによって壮大なドラマになり、ステージから滝のように音楽が客席に打ち付けて来る感じ。凄かったです。

 4年前にはゲルギエフの指揮でマリインスキーバレエの、踊る「四季の祭典」も聴きましたが、この曲、指揮者によって本当に表情が変わります。また、前から3列目で生の音を聴くのが、CDをスピーカーで聴くのとこれほどに違う曲もないのでは、とも思いました。

 しかし、バッティストーニは曲の重要なエッセンスをつかみ取って、実にわかりやすく、爆発的に、、、まるでロック音楽のように聴かせますね。

 僕は、このところ、村上春樹の本を最新のものから戻るようにして、再読しているのですが、ちょうど、この前「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を読み終えたばかり。この小説のバックグラウンドミュージックとして、「ハルサイ」はぴったりだと思いました。一角獣が住み「壁」にかこまれた緑の多い町に春がが来る。。。そんなイメージですね。

 あと、アンコールの「八木節」(外山雄三作曲「管弦楽のためのラプソディー」)は、実にエンターテインでした。楽しみました!


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東フィル定期公演、ラフマニノフ協奏曲2番、チャイコフスキー交響曲6番

 3月13日月曜日のオペラシティでの東京フィルハーモニー定期演奏会に行ってきました。指揮はバッティストーニ、メニューはラフマニノフとチャイコフスキーです。バッティはロシア音楽が大好きだとのこと。一昨年の大賀ホールでのチャイコフスキー交響曲第5番もとても良かったですが、今日は第6番『悲愴』。13年前に亡くなった僕の父が書斎で良く聴いていたので、馴染みのメロディーです。バッティストーニらしく、良く鳴らすこと!ちょっとロックのコンサートのようです。しかし、破綻はまったくなく、ステージの上から音の塊が、弦、金管、木管のそれぞれの位置から飛んでくるように聞こえます。僕の指定席が前方やや左側なので、そのせいもあると思うのですが、音の立体感が凄い!音が右から左へ手前から奥へ廻るようにうねります。第4楽章、特に好きですが、アダージョでの弦の音が美しい。前日に、ゲネプロを聴く機会があったので、マエストロがどのように音作りをしているのかをうかがい知ることが出来て良かったです。

 感想の順番が入れ違ってしまいましたが、この日の最初の曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。20歳の新鋭、松田華音は6歳の時にロシアへ留学、8歳でオーケストラの共演を果たしたという天才(!)ピアニストです。『かのん』という名前からして、音楽一家の育ちかと思ったらそうではないとのこと。このところ、東フィルは若手のソリストとオケの共演が続いていますが、この日のピアニストは、華麗さ、超絶技巧を前に出してアピールするという若手にありがちなスタイルとは違っていました。華奢な体躯とは裏腹に、線の太い音で、ひとつひとつの音を明確に、輪郭をはっきりと鳴らして来ます。感情的になりすぎないラフマニノフのピアノ、良かったですねー。バッティストーニもピアノを押し出すように、抑え気味の指揮、しかし、第三楽章になるとピアノとオケが一体になって滝のようにステージから音があふれ出して来ました。

 アンコールは無し。僕はテーマのはっきりした曲をじっくり聴いた後はアンコールが無いほうが好きなので、とても良かったです。

 東フィルも2016-2017シーズンは今日で最後、5月から新しいシーズンが始まります。バッティストーニの「春の祭典」、楽しみです。

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番*
チャイコフスキー/交響曲第6番『悲愴』

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ピアノ:松田華音*
東京フィルハーモニー交響楽団

火の鳥組曲他、プレトニョフ指揮東フィル

 オペラシティでの定期公演。もうすっかり自分の席も覚えて、なんだかアットホームな感じでゆったりと聴けるようになってきました。

 この日はストラヴィンスキーが2曲。1曲目の「ロシア風スケルツォ(シンフォニック版)」は初めて聴きましたが、創意に溢れた楽しい曲でした。「スケルツォ」とはイタリア語で「冗談」を意味するんだそうです。メヌエットに近いんでしょうか?テンポはあまり速いわけではありませんでした。5分ほどの演奏、「前菜」という感じですね。

 そして、舞台の構成を変えて、本日のゲスト、若干22歳の気鋭のチェリスト、アンドレイ・イオニーツァが登場。2015年のチャイコフスキー国際コンクールではチェロの部で優勝、いまやひっぱりだこの若きスターです。プロコフィエフの「チェロ協奏曲第2番ホ短調」は別名「交響的協奏曲」としてのほうが有名なようで、その名の通りどっしりとしたアンサンブルの中でチェロがオケと格闘する感じで弾き鳴らされます。いや、凄い迫力と技巧でした。でも音自体は繊細で、むしろ内省的な響きだと感じました。ソロアンコールで演奏された、バッハの無伴奏チェロソナタ3番のサラバンドを聴いたときにも、その印象を強く持ちました。いずれにしろ、これから活躍するでしょうから、楽しみな人です。

 ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」は、4年前の5月のザルツブルグの降臨祭のフェスティバルでゲルギエフ指揮マリインスキー管弦楽団で聴いて以来。その時はミハイル・フォーキンの振り付けで、それは素晴らしい舞台を見せてくれたのが、今でもまぶたに焼き付いています。「火の鳥」には三つの版が存在するとのこと。ザルツブルグで聴いたのがどれだったかは定かでありませんが、プレトニョフは、中でも比較的珍しい1945年版を愛好しているとのこと、この日もそれでした。バレエ音楽は当然のことながら、バレエがあるのとないのでは、指揮者の曲作りもだいぶ違いますね。この日のプレトニョフは軽いタッチで曲に入り、次第に重みを増し、終曲の賛歌では分厚いアンサンブルを聴かせてくれました。前日にボレロのバレエを見ていたので、「終曲の賛歌」の最後の繰り返しが、ボレロの終盤に良く似ていると感じました。

 さて、5月にはバッティストーニが「春の祭典」を振ってくれますね。最近、クルレンツィスの新作やら、昨年亡くなったピエール・ブーレーズの指揮をCDで良く聴いているので、バッティがどんな春を聴かせてくれるのか、大変楽しみです。

東京フィルハーモニー管弦楽団、オペラシティ定期シリーズ第107回
指揮:ミハイル・プレトニョフ
チェロ:アンドレイ・イオニーツァ

ストラヴィンスキー:ロシア風スケルツオ(シンフォニック版)
プロコフィエフ:交響的協奏曲(チェロ協奏曲第2番ホ短調作品125)

ストラヴィンスキー:バレエ「火の鳥」組曲(1945年版)

バッティストーニ指揮レクイエム@新宿文化センター

 いや、すごいものを聴いてしまった、というのが本音です。

 正直なところ、今回はあまり期待していませんでした。バッティの指揮でも良い時もあるし、そうでない時もある。もちろん、ヴェルレクはバッティにはぴったりだとは思っていましたが、なにしろ、この日は、何と言っても合唱団が、この日一日のために一般公募をした合唱団ですからねー、第九じゃないんだからなぁ、と思っていました。東フィルの首席指揮者なのだから、東フィルで藤原や新国立の合唱団を使って講演すれば良いのになぁと思いつつ会場に向かいました。

 結論:たしかに合唱は素人ぽかったです。ですが、バッティストーニとのこの一日だけの出会いに、全員が覚醒していました。第一曲の”レクイエム“のピアニシモの入りから、美しい!去年の7月から練習を重ねて来ただけありました。4曲目の”サンクトゥス/聖なるかな“の4部2群による合唱も素晴らしかったです。バッティがゲネプロの時に、合唱が最終曲の”リベラ・メ/救い給え”を歌っている時の逸話を、音楽評論家でこのゲネプロをに行かれたK氏がフェイスブックにこう書いています。バッティは合唱団にこう言ったそうです。「みなさん、微笑みながら歌っていますが、みなさんが楽しんでいるのはいいことだし、よくわかるのですが、笑、ここは最後の審判の光景で、地獄の口が開くような音楽なのですから、それをイメージして歌って欲しいのです。僕は必ずしも天国や地獄を信じているわけではないのですが、この曲を演奏するときには地獄を信じてやっています」。
この言葉の後で変わりましたね、合唱。(原文のまま)

 こういう、オケや合唱団の巻き込み方が凄いですね。東フィルでも、短時間でオケがバッティの音になってしまうんだそうです。

 ですので、この日は、バッティが指揮で、オケと合唱をグィグィと引っ張って行きました。彼の指揮棒は切れるナイフのように、空間と音を切り裂きます。「怒りの日」のテーマの炸裂感は、前に聴いたルイゾッティやCDで良く聴いている、ライナーやムーティ、カラヤンよりも、もっと鋭く強く、緊張感がありました。

 歌手も素晴らしかったです。ソプラノの安藤赴美子さん、「怒りの日、それは世界が灰燼に帰す日です」という言葉を、地獄の縁に手がかかって叫んでいるようでした。リベラ・メのソロ凄かったです。ルイゾッティの時のソプラノ、アルテータがそうだったのですが、ここは体全体を使ってくれて空気をふるわせるような歌声が会場を支配しました。そして、メゾの山下牧子さん、声が暖まってくるに連れて、低音から高音まで良く響き、深みのある歌を聴かせてくれました。バスの妻屋秀和さんは、もう言うことなし。テノールの村上敏明さんは、小原啓楼さんがインフルエンザのために、当日の朝、代役を依頼されたとのこと!それでも、素晴らしかったです。オペラだとやや窮屈に感じる彼の声が、レクイエムでは、宗教音楽らしい神々しさに響いて感激しました。
  
 僕自身、ベルディの26作のオペラに、ひとつ番外でくっついている、このレクイエム、何度聞いても今ひとつ入り込めなかったのですが、この日、初めて「わかった」ような気がしました。バッティストーニは今年、日本で「オテロ」も振ります。それと「春の祭典」も、、楽しみですね。

指揮:アンドレア・バッティストーニ(東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者)
独唱:安藤赴美子(ソプラノ) 山下牧子(メゾソプラノ) 村上敏明(テノール) 妻屋秀和(バス)
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新宿文化センター合唱団(合唱指導:山神健志)

 
 

ブラームス交響曲第一番、タンホイザー序曲他、東フィル定期公演

1月は、大学院の授業やゼミに加えて、卒論や課題のチェックや採点があって、なかなか観劇に行けないのです。新国立のカルメンも当日券で行こうと思いつつ、結局断念。その分、2月は5-6公演行くつもりです。

 さて、この日は、もう生活の一部になってきた、東京フィルハーモニーの定期公演でした。定期会員になって、ほんとに良かったと思います。毎回、同じシートで音楽を聴けるというのもとても贅沢。しかも一枚づつ買うチケットよりも3割ほど安いし。。。

この日は、東フィルひさびさ(だと思いますが?)に佐渡裕の指揮でした。この日の佐渡の指揮は実に充実していて、余裕があり、オケとの一体感が素晴らしかったと思います。タンホイザーの序曲も良かったのですが、僕の席(1階最前方右側)からだと、ホルンよりも弦の音が大きく聞こえてしまい、オペラの時にピットからの音を1階中央や2階から聞いた時の感じと随分違います。ちょっとロッシーニっぽいワーグナーに聞こえてしまうのです。ホルンは出だしが少し安定しませんでしたが、その後は素晴らしくろうろうと響いてくれました。ひさびさにタンホイザー序曲聴きましたが、いいですね。曲としては、マイスタージンガーに似ている部分が多いと思いますが、時代的に前に作られたタンホイザーのほうが成熟している感じがします。序曲だけだとものたりないですが、今年は5月にミュンヘンに赴き、ペトレンコの指揮、フォークトのタイトルロールで聴けるので、楽しみです。

 そして、次の曲はピアソラの小さな協奏曲。洒落た構成ですね。これが良かった!御喜美江の演奏は、オリジナルのバンドネオンではなくてアコーディオンでしたが、曲のタイトルのアンデス山脈の高峰”アコンカグア”に登る道を歩くように、冷たい風や霧を感じるような、不思議で素晴らしい音の体験をしました。ピアソラは昨今、世界でブームで、Jazzとクラシックのコラボレーションでも良く演奏されています。僕もbsの鈴木良雄のカルテットとクラシックのコントラバスの演奏や、ヨーヨーマの演奏を聴いたことがありますが、アコーディオンは初めてでした。ソロアンコールはスカルラッティのハ長調ソナタ。僕はスカルラッティ大好きでだいぶ聴いているんですが、この曲がスカルラッティとは知りませんでした。不勉強。。軽いタッチで古典的なバロックをちょっとモダンに仕立てていました。良かったなぁ。

 それで、メインはブラームスの交響曲第一番、昨年末に、パーヴォ・ヤルヴィ指揮のドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団で聴きましたが、ずいぶんと違うものです。ヤルヴィの指揮は、軽快で軽く、今風に始まって、第4楽章でだんだんと厚くなって来たのですが、佐渡の指揮は、最初からグィッ、グイッとひっぱて行かれます。それでも、僕の持っている佐渡のイメージからすると軽いかもしれません。2楽章、3楽章とテンポが上がって行きますが、過度に聴衆を刺激するような大げさなところがなく、音楽に身をゆだねていられる感じです。そして、なじみのある4楽章のアダージョ。テンポを早くしたり遅くしたり、自在にオケをあやつります。次第に大きなうねりになってきます。佐渡の指揮振りは、以前にくらべて動きも小さくなったようで、全体に引き締まった感じがします。

 いや、良い演奏会でした。2月の定期公演のプレトニョフの火の鳥も楽しみです。

ワーグナー/歌劇『タンホイザー』序曲(ドレスデン版)
ピアソラ/バンドネオン協奏曲「アコンカグア」
ブラームス/交響曲第1番ハ短調

指揮:佐渡裕

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