プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

樫本大進&アレッシオ・バックス リサイタル

 7月12日水曜日、平日の19時からの公演です。家内がプロモーターのジャパン・アーツの会員(夢倶楽部)なので、年に一回、一人分のチケットがただになります。これを利用しての鑑賞。このシステムはとても良いです。今まで、希望した公演のチケットを取れなかったことはないし、今回のように僕も一緒に行く時は、座席を隣同士に取ってくれます。

 樫本大進は、昨年の11月、横浜で、パーヴォ・ヤルヴィが指揮するドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団と共演した際に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲 ニ長調 を聴きました。その時の印象はとても良かったのですが、一曲だけしか聴けなかったので、今回はもっと堪能しようと、、、、どちらかと言うと、家内のほうが張り切ってオペラシティまで出かけました。

 1曲目のモーツァルトのヴァイオリンソナタ ト長調は、公演前に他の奏者でも聴いて予習をしていたのですが、樫本のヴァイオリンの実に柔らかく抱擁されるような音色と、バックスの繊細なピアノタッチが、ヴァイオリンとピアノの一体感を醸し出していました。樫本の音色の柔らかさは、彼が使用しているガルネリの音質もあるのでしょうか?ガルネリの裏板はストラディバリよりも多少厚く、その分音が丸くなるとも言われています。

 続くブラームスのヴァイオリンソナタ第一番「雨の歌」は、とにかく品格がありました。曲が進むにつれて緊張が増すのですが、気品のある演奏に感動しました。

 休憩後の曲は、「神話/3つの詩」。ポーランドの作曲家シマノフスキの印象主義の作品。神話をもとにしているということで、非常に感性を研ぎ澄ました音で構成されます。ともすれば、神経質になりそうなこの曲も、樫本とバックスは上品で、柔らかく奏でます。第1曲の「アレトゥーサの泉」のピアニシモで高音に消えて行くヴァイオリンの音色は、5月にミュンヘンの美術館、“ノイエ・ピナコテーク”の印象派の部屋で見つけた、オディロン・ルドンの神々しい芥子の花の絵を思い出しました。続く第2曲「ナルキッソス」、第3曲「ドリュアスとパン」も、絵画的な曲で、最後、ピチカートで終わるところは芥子の花が散ったようでした。満足。。。。

 この日は、2つあるプログラムのうちの「2」のほうだったので、最後の曲は聴きたかった、ラヴェルのヴァイオリンソナタではなく、グリーグのヴァイオリンソナタ ハ短調でしたが、グリーグらしいメロディの美しい曲でリサイタルの最後を飾るのにふさわしい曲でした。アンコールではグルックの「メロディ」という素敵な“おまけ”がつきました。

 樫本やバックスの世代より若い天才たちのきらびやかな演奏を聴くのも、オペラシティでは楽しみですが、今日のような熟成した大人の音の演奏を聴くのも良いものです。素晴らしい体験でした。

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K. 301

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 Op. 78「雨の歌」

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
シマノフスキ:神話 Op. 30

グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 Op. 45
スポンサーサイト

クレメンス・ハーゲン&河村尚子デュオ・リサイタル

 だいぶ遅くなってしまいましたが、本年もよろしくお願いを致します。お正月は、テレビでニューイヤーコンサートとNHKの新春オペラコンサートを楽しんでいました。ドゥダメルの指揮は大好きというわけではないのですが、(元気良すぎて….)人柄は素敵ですね。これから、何度もニューイヤーコンサートで振ることになるでしょうね。

 それで、僕の個人の「初芝居」は1月9日の神奈川県立音楽堂でのクレメンスハーゲンと河村尚子のリサイタルでした。ハーゲンクァルテットの大ファンである僕ですが、いつもクァルテットという形でしか聴いたことがなく、このようなコラボレーションは初めてです。

 この日のクレメンス・ハーゲンのチェロの音はクァルテットの時よりも、柔らかく伸び伸びとして、ジワーっと心にしみ込んで来るような音でした。弦楽四重奏だと、弦の音が切り立って、清冽な音になります。9月に来日した時の「フーガの芸術」と銘打ったリサイタルの時などは、まさに切り立った崖から音が降りてくるような感じでした。河村尚子のピアノも真面目ですが、柔らかく、情感を抑えめに込めた感じで、クレメンスとの調和を大事にしていましたように感じました。

 最初のシューマンの「5つの民謡風の小品」はとても難しく、技巧を要求される曲でしたが、二人はこれを実に軽いタッチでこなして行きます。これみよがしにならないところが凄いと思いました。ベートーヴェンのソナタからラスマニノフに行くにしたがって、演奏は次第に熱気を帯びてきます。それでもラスマニノフとしては柔らかい印象です。会場の神奈川県立音楽堂は、珍しい木造のホールで、音響もしまった柔らかさがあり、古典的な音に聞こえます。

 アンコールはフランクとショスタコーヴィッチ!うって変わって現代的なナンバー。ショスタコーヴィッチの緊張感が素晴らしかったですね。

 この二人、実はもう三回目のデュオ・リサイタルだそうです。知りませんでした。新年を飾るのにふさわしい、お洒落で豊穣感のある公演でした。

 余談ですが、この会場で休憩時に販売されている珈琲やケーキは、川崎の福祉施設の皆さんが工場で手作りして持ち込まれているもので、とても美味しいのです。いつも楽しみです。この日はパウンドケーキをたくさん買って持ち帰りました。神奈川県立音楽堂は、今年色々な意欲的な公演を主催します。6月には今年生誕450年を迎えたモンテヴェルディの「歳暮マリアの夕べの祈り」。7月にはハーゲンをクァルテットで、11月には、バッハ・コレギウム・ジャパンが「ポッペアの戴冠」を。。。というように目白押しで興味深い公演があります。チケットもリーズナブルです。是非、お出かけ下さい。

クレメンス・ハーゲン(チェロ)
河村尚子(ピアノ)

シューマン:5つの民族風の小品集 作品102
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第2番ト短調 作品5-2
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19

R.Schuman:5 Stucke im Volkston op.102
L.v.Beethoven:Sonate for Cello No.2 op.5-2
S.V.Rakhmaninov:Sonate for Cello op.19

ハーゲンクァルテット@オペラシティ

 初めてハーゲン弦楽四重奏団の演奏を聴いたのは、2005年でした。清冽な弦の音に魅了され、以来、来日の時は公演に行くようにしています。今年のテーマは「フーガの芸術」、バッハ、ショスタコーヴィッチ、ベートーヴェンそれぞれの弦楽四重奏でフーガを聴かせます。

 最初のバッハの「フーガの技法」は、この日のアペリチフ、腕慣らしという感じです。そして、バッハが終わってすぐに拍手の入る間も与えずに、ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏第8番に入ります。これは、おもしろい演奏方法だと思いました。バッハとショスタコーヴィッチ、意外にうまくつながります。プログラムにも書いてありましたが、「バッハから200年飛びながら同様のテンポと似た動きで始まります」。もちろん、ショスタコーヴィッチのほうは大地を切り裂くような力強さがあり、目をつぶって聴いていると音楽の襞の間をさまよい歩いているような感じがしました。僕の親しくしている指揮者が、ハーゲンの演奏するショスタコーヴィッチの素晴らしさを「フレーズ感がはっきりしている」と評しましたが、まさにその通り、音の山脈のようです。ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏を聴くのは初めてでした。それに今迄ショスタコーヴィッチでこれだけの強い印象を受けたこともありません。素晴らしい演奏でした。

 休憩を挟んで後半はベートーヴェンの弦楽四重奏第13番、これは難曲だと思いますが、ハーゲンは意外にさらっとこの曲を弾いていきます。そうなんです。大迫力なのに、重さを感じさせない。。ショスタコーヴィッチにしても、重い曲なのですが、その重さを感じさせない。これは、特にチェロのクレメンス・ハーゲンとヴィオラのヴェロニカ・ハーゲンの二人の音が、軽やかと言うか、押さえたトーンに徹しているのに由来しているのではと思いました。この日前から3列目の中央という席で聴いたので、いつもより中低音がはっきりと聞こえたのです。

 ハーゲンの魅力は、楽器の魅力でもあります。この4人の素晴らしいテクニックは、日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウスの「パガニーニ・クァルテット」という17-18世紀の名器で思う存分発揮されています。これだけの楽器で弦楽四重奏を聴くのも実に贅沢です。

 ハーゲンの4人、白髪も増えてだいぶ歳を取ったなぁと思います。彼らの音も、年を経るに従って、単に「清冽」というのではなく、「熟成」した音になってきた感じがあります。この日はアンコールはありませんでしたが、(大フーガの後にアンコール演奏は酷でしょう)いつも弾いてくれる、ラヴェルの弦楽四重奏の第一楽章を今のハーゲンで聴いてみたいものです。

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン, Violin)
ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン, Violin)
ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ, Viola)
クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ, Cello)

J. S. バッハ:フーガの技法~ コントラプンクトゥス1~4
J. S. Bach: Die Kunst der Fuge BWV1080 ~ Contrapunctus 1-4

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 作品110
Shostakovich: String Quartet No. 8 in C minor Op. 110

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 作品130
Beethoven: String Quartet No.13 in B flat major Op.130

ベートーヴェン:大フーガ 作品133
Beethoven: Grosse Fuge Op. 133

ヨーヨー・マ&キャサリン・ストット @ サントリーホール

 ヨーヨー・マのチェロの音には、彼の人間性のすべてが表れていると思います。僕がヨーヨー・マを最初に聴いたのは90年代のバッハの”無伴奏チェロソナタ“でしたが、感銘を受けたのは、” ヨーヨー・マ インスパイアド・バイ・バッハ ミュージック・ガーデン“というドキュメンタリーの3枚もののDVD。トロントに”無伴奏チェロソナタ”をテーマに大きな庭を造っていく様子を演奏とともに映像表現したものですが、90年代の後半に、ある日曜の朝ベッドから起きてテレビを付けたらやっていたのを見て、釘付けになってしまいました。幻想の世界……この頃、彼は”無伴奏チェロソナタ“ばかりを弾いていた記憶があります。それまで、ミッシャ・マイスキーと、カザルスのCDに取り憑かれていた僕には、ヨーヨー・マの伸びやかなで、知性的、クールだけれど暖かい演奏は、僕のバッハに対する思いを広げてくれました。

 さて、この日(10月26日)のリサイタルのメニューは次の通り

1.「アーク・オブ・ライフ」組曲
J.S.バッハ/グノー:アヴェ・マリア
シベリウス:夢なりしか? op. 37, no. 4
ゲーゼ:タンゴ・ジェラシー
ドビュッシー:美しい夕暮れ
シューベルト:アヴェ・マリアD839
2.ショスタコーヴィチ
: チェロ・ソナタ ニ短調 op.40
3.ソッリマ
: イル・ベッラントニオ
 4.フランク
: チェロ・ソナタ イ長調 (ヴァイオリン・ソナタ編曲版)
 アンコール: エルガー「愛の挨拶」
ガーシュイン「プレリュード」
チャイコフスキー「感傷的なワルツ」

 すべての曲で、チェロとピアノがからみつくように音色を奏でていました。ヨーヨー・マは、ここ10数年の間にポピュラー音楽とのコラボレーションアルバムを数多く出しています。”プレイズ エンリオ・モリコーネ“、”プレイズ ピアソラ“、”オブリガード・ブラジル”などなど。ストットとは”オブリガード・ブラジル“でボサノバやMPBの曲を既に一緒に演奏しており、その時も実に素晴らしかったです。チェロというのは、どちらかというと「孤高の楽器」で、バッハの”無伴奏”ソナタに象徴されるように、クラシックをチェロ一本で表現するのを好む層(僕もそうでした)が多いと思います。コントラバスが、JAZZではウッドベースと言われ、ポピュラー音楽との橋渡しをしているのとは違う位置にいます。

 ですが、ヨーヨー・マの世界は彼だからこそできる、コラボレーション、彼の人間性が異質なものを懐に入れて、マの音楽として再構成しているのです。JAZZで言うと、ハーモニカのトゥース・シールマンスが、まさに同じような位置にいると思います。

 この日、とても好きだったのは、フランク
の「 チェロ・ソナタ イ長調 (ヴァイオリン・ソナタ編曲版)」でした。ヴァイオリン版なので、高音が多いのですが、全く無理なく聴かせてくれました。

 次のヨーヨー・マの挑むテーマは何でしょうね。楽しみです。



 

 

ハーゲン・クァルテット@ミューザ川崎

 ハーゲン・クァルテットを生で聴いたのは、10年前、青葉台フェリアホールでした。その時の”ラヴェルの弦楽四重奏“の清冽な音が忘れられずに、その後も何度も来日の度にコンサートに通いました。ハーゲン・クァルテットはその名の通り弦楽の名門ハーゲン家の4人兄弟でスタートした弦楽四重奏団でしたが、長女のアンジェリカ・ハーゲンは早くにグループから抜け、次女のヴェロニカ・ハーゲンがヴィオラに入りましたが、出産中の一時期は三女(?)のアイリス・ハーゲンが代役を務めていました。現在のメンバーは下記の通り。

• ルーカス・ハーゲン (第1ヴァイオリン)
• ライナー・シュミット (第2ヴァイオリン, 1987年秋から)
• ヴェロニカ・ハーゲン (ヴィオラ)
・クレメンス・ハーゲン (チェロ)

 でも、今でも時々パンフレットやウェブサイトで、ヴェロニカの名前が間違っていることがあります。

 彼等の音は”清冽“というのがまさに当てはまると思うのですが、それを支えているのは、メンバーすべてがストラディバリウスの名器を持っていること。当初はクレメンスのみが自身で1698年製のチェロを個人所有し、ルーカスがオーストリア国立銀行から貸与されたヴァイオリンを使い、ライナーやアイリスはグァダーニのものを使っていましたが、今回の来日では、全員が日本音楽財団から貸与されたストラディバリウスの「パガニーニ・クァルテット」を使っていました。ミューザ川崎の素晴らしい音響とあいまって、やや明るめの音でした。この日の曲目は次の通り。

ハイドン:弦楽四重奏曲第58番 ハ長調 作品54-2
Haydn: String Quartet No. 58 in C major Op. 54-2

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第21番「プロシア王第1番」 ニ長調 K.575
Mozart : String Quartet No. 21 in D major K.575
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131
Beethoven: String Quartet No.14 in C sharp -minor Op.131

 個人的な好みもあり、ハイドンが素晴らしかったです。ハイドンとしては、重厚感のある第1楽章は、びっくりするような転調で展開していきました。第3楽章のメヌエットは軽妙な楽曲ですが、全体としては落ち着いたハイドン、楽器の音色の良さを堪能できました。

 モーツァルトもベートーヴェンも良かったです。特にベートーベンの40分にもわたり7楽章から構成される第14番は、その長さを感じさせず、ハーゲンの「掛け合い」とも言えるピッチの速い演奏を堪能しました。

 ただ、ちょっとだけ残念だったのは、いつもアンコールでやってくれる”ラヴェルの弦楽四重奏“がなかったこと。アンコール自体もありませんでした。まあ、こういうベートーヴェンの後はそのまま終わったほうが印象が強く残って良いのですが。

ハーゲンというと、ベートーヴェンが多くなってきたこの頃、ハイドンとモーツァルトを入れてくれたのは嬉しいのですが、是非、ラヴェル、ドビュッシーなど、フランスものも演奏してほしいですね。

 10月はひさびさにヨーヨーマのリサイタルにも行きます。室内楽を良いホールで聴くのは幸せです。

FC2Ad