プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

オペラ講座開幕 ”ヴェルディとワーグナー”

昨日の土曜日、学習院のオペラ講座後期「ヴェルディとワーグナー」が始まりました。講師は、前期同様、慶応大学の音楽史講師、加藤浩子先生です。生徒は30人ぐらいで満席です。これは楽しいですよ。色々なオペラをDVDやCDで、歌手や指揮者によって聞き比べたり、歌唱法の色々、演目のバックグラウンドなどについての話があります。僕も前期の授業で、やっとベルカントとかリリコ・スピント、アジリタ、レジェッロなどの歌唱法について、なんとかかんとか理解できるようになりました。

ヴェルディは、作曲家としての著作権を実際に行使した初めての音楽家ですが、そのことと、リゴレット、エルナーニの原作者、ヴィクトル・ユゴーが現在まで有効な著作権の国際条約、ベルヌ条約を19世紀の末に起草したことと、密接にからんでいるのです。実は、僕はこの後期から、都内のある大学院で「著作権とライセンシング」という講座を持って教え始めました。ライセンシングは、僕の生業ですが、著作権についてはだいぶ勉強しました。そうしたら、オペラとのつながりが出てきて小躍りしましたね。今、ちょうどそこのところを教えているところです。 習って、教えて、インプットとアウトプットがあって、刺激的でいいです。でもやっぱり習うほうがおもしろいですね。

ワーグナーもヴェルディと同じ1813年に生まれて、今年が二人とも生誕200年。日本では今ひとつ盛り上がりに欠けますが、世界で見ると特にヴェルディは随分多く公演されます。僕は、今年はレオ・ヌッチを追いかけています。4月のチューリッヒ歌劇場でのシモン・ボッカネグラ(今までみたオペラの中でもベストのひとつ)、11月の日本でのリサイタルと、シチリアパレルモマッシモ劇場での、二人のフォスカリです。これに、来年9月来日のスカラ座公演で、リゴレットのタイトルロールをやるらしく、本人も「私のヴェルディイヤーは日本で始まり、日本で終わる」と言っています。ヌッチももう70歳、イタリアの、いや世界の宝ですね。彼のあとを継ぐヴェルディバリトンが見つからない中、できるだけ長くがんばってほしいものです。まあ、レーナード・ブルゾンも75歳近くまで唄ったと思いますから、大丈夫でしょう。

一方のワーグナーですが、これはバイロイト音楽祭があるので、ここに集結している感じですが、日本でも、先日の”神の声” フォークトのローエングリン、来年1月のタンホイザー、これも良さそうですね。キャストも充実しています。まあ、僕はタンホイザー、あまり好きじゃ無いので行きませんが。ワーグナーの場合、オランダ人も、リングもややそういう感じありますが、女性によっての救済みたいなのが多くて、これがあまり好きじゃ無いですね。マイスタージンガーは、とても好きなんですが、最後に、ドイツ万歳みたいな場面があって、これが、それまでの流れから完全に浮いていて、また、ヒットラーがこれを見て、ドイツ帝国のコマーシャルソングみたいになってしまったんですね。そういうことを音楽の鑑賞も持ち込むのは邪道とは思いますが、毎回、最後で白けるので、その前に退場したいくらいです。

ヴェルディのMy Fovouriteは、シモン・ボッカネグラ、椿姫、二人のフォスカリ、イル・トロヴァトーレと続きますが、(ま、全部好きです)、ワーグナーの場合は、又見たいと思うのは、やはりリングでしょうか。でも、体調が良く元気なら、一番見たい(聴きたい?)のはトリスタンとイゾルデです。これはすごい音楽だと思います。

それにしても、妻と愛人をうまくてなづけ(?)、自分の膨大な資産で建てた、音楽家の憩いの家に眠るヴェルディ、(カソリックなのにそんなのありか?)、自分自身を作曲家よりも農民と呼んで欲しいと言ったヴェルディと、借金と詐欺で逮捕状まで出る中、作曲を続け、ついにはルードヴィヒ2世のスポンサーを受け、祝祭劇場を作りながら、妻コジマと壮絶な人生を送ったワーグナー。全く違う人格ですね。


さて、そんなわけで、何度も書きましたが、今年は11月にシチリアまで、ヌッチのフォスカリと、デヴィーアのトラヴィアータを見に行くのですが、来週ファイナルの、LAオペラでのドミンゴのフォスカリ、これは息子のフォスカリをフランチェスコ・メッリ、ルクレチアをマリア・ポプラフスカヤと悪く無いキャスティング。是非行きたいと思って、講義の間を縫って1拍で行ってこようと画策したのですが、どうしても休講しないと行けません。すでに、シチリア行きで一回休講が決まっているので、新米の大学院講師としては、あきらめました。

これも何度も言いますが、どうして日本ではヴェルディのシモンとか、フォスカリ、ステュッフィーリオ、ルイーザ・ミラー、シチリアの晩鐘などやってくれないのでしょうか? 海外ではけっこう公演されているのに。僕もヴェルディの26のオペラ全部生で見るのは無理かもしれません。

では、最近、ヴェルディとワーグナーばかり家でも聴いているのかと言うと、実は、バルトリ、デセイ、メイというベルカント歌手ばかり聴いています。特にバルトリですね。この人日本には来ませんから。とにかく、ベルカント中のベルカント、超絶技巧と美しい高音、アジリタも素晴らしく、メゾとしての中音も迫力です。

来年5月に、バイロイトの音楽祭でベッリーニの”ノルマ”にタイトルロールで出ます。その翌日にはブラームスのドイツ・レクイエムをルネ・パーペと唄うので、これ、99%行きます。もうすぐチケット売り出しなので、チケットさえ買ってしまえば行くしか無い。ついでに、その2日ほど前に、ベルリンフィルで年に一回、アバドが指揮をするんです。ベルリオーズの真夏の夜の夢。ただ、彼はもう80歳くらいと思いますから、体調によるでしょうね。

シモン・ボッカネグラがヴェルディの代表作として、今、日本以外の各地で公演されているのは、80年代のアバドの功績です。とにかく生きているうちにアバドの指揮を聴きたいです。

色々行きたい公演があり、それが日本以外のものも多く、悩ましいところです。とりあえずは、来月の新国立のピーター・グライムス、初見です。楽しみにしています。

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エヴァ・メイ、ソプラノリサイタルとチューリッヒ歌劇場の憂鬱

エヴァ・メイのリサイタルがオペラシティでありました。東京は一日限り。

素晴らしかったです。エヴァ・メイは、レオ・ヌッチとならんで、僕が生で見ている回数が一番多いオペラ歌手ですが、今回のリサイタルはほんと秀逸でした。曲目はロッシーニを中心に、ドニゼッティなどの歌曲、アリアと、トスカーナの民謡中心、初めて聴く曲が多かったのですけど、彼女が自分の魅力を最大限に引き出すプログラムになっていたと思います。

彼女独特の、絹の糸のように細く美しくきらめく高音のピアニシモ、普段はあまり聴けない装飾的なベルカント。あ、彼女、こんな歌い方もできるんだ、とか発見がありました。しかし、やっぱり真骨頂は、清らかな澄んだ声。こういう声はなかなか聞けません。あとは、唄っている時の身振り手振りがとってもチャーミング。

アンコールも4曲。プッチーニが2曲とロッシーニ、そして、なんとリヒャルト・ストラウスが1曲(アモール)、これも知りませんでした。始まってすぐに、リヒャルトストラウスとわかりましたが、4つの最後の唄か、ツェルビネッタのアリアかなーと思ってましたが、違いました。グルベローヴァの得意とする歌曲だそうです。これも美しかったですよ。
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メイは頻繁に日本に来ているのですが、最近はリサイタル中心だったので、今年は、4月にヨーロッパに行ったときに、チューリッヒ歌劇場で”ギョーム・テル”をシラクーザとの共演で聴きましたが、これも素晴らしかった。(4月のブログに載せています。)いまや、チューリッヒ歌劇場のプリマ・ドンナという感じですが、チューリッヒ歌劇場も、既に首席指揮者のメストが去り(今はファビオ・ルイジ)、そして昨年のシーズン後には、名総裁として21年間劇場を率いたアレクサンダー・ペレイラが、ザルツブルグ音楽祭の監督に移りました。で、新しくアンドレアス・ホモキが総裁になって、どのようになるのか。比較的、悲観的な見方が強いです。今のところ、エヴァ・メイ、レオ・ヌッチ、アントニオ・シラクーザなど、今まで出ていたイタリアの歌手は全くでていません。まあ、グルベローヴァとかアニア・カンペとか出てますが、食欲がわきません。

いい劇場なんだけどなぁ。街もいいし、歩いて4-5分のところに素敵なホテルもたくさんあるし。4月のギョーム・テルとヌッチのシモンボッカネグラに行けてラッキーと考えるしかないですね。

気がつけば、今月は家や車の中でも、バルトリ、デセイ、メイとベルカント歌手ばかり聴いていました。特に藤原の"夢遊病の女”があったので、この3人の夢遊病ぶりを聞き比べましたが、みんな、すごく違う歌い方をしています。誰が一番かって決められないけど、バルトリ、デセイは相手役がフローレスで、まあ完璧なコンビ。これに対してメイは、ホセ・ブロスというちょっと癖のあるテノールがエルヴィーノをやってますが、僕はこのテノール大好きなんで、総合するとメイ、ブロス版が一番魅力的です。

それにしても、このコンサートを企画した、東京プロムジカ、良い公演をやりますね。今年もまだレオ・ヌッチのリサイタルがありますが、これも曲目がなかなか良い構成です。歌手が気持ち良く歌える公演をやってくれるプロムジカの会員になろうと思います。

今週の話題

ウィーン国立歌劇場のオペラ"サロメ”のプレミアエコノミー席(飛行機みたいですね)に当たりました。とりあえず1公演確保。あとは寸前になったらフィガロの結婚のチケット探します。メストの指揮が楽しみです。前回、来日したのは、まだチューリッヒ劇場の指揮者だったころの2007年ではないでしょうか?あのときのトラヴィアータは凄かったです。今まで聴いたトラヴィアータで最も強烈な印象が残っています。全くイタリア的でない、ながれるような、インテンポではない、うねるような音楽。クライバーに似ているような気もしました。歌手もエヴァ・メイとレオ・ヌッチですから言うことなし。特にエヴァ・メイは過去何度も聞いていますが、あの時が最高でした。2幕目から3幕目にかけて劇的な歌唱。ピアニシモの美しさ。

話がそれましたが、とにかくメストがウィーンフィルからどのような音を取り出してくれるのか、楽しみです。

それと、3月の新国立のアイーダ、加藤浩子先生同行、解説付きのツァーで申し込みました。席も良いところが取れそうですし、キャストもアイーダのミカエラ・カロージは2009年のスカラ座のドンカルロで来日して、なかなかのパフォーマンスだったようですし、(僕はこの時アイーダ行かなかったんです。)なにより、アモナズロの堀内康雄、2008年の新国立の公演では、素晴らしい声を聴かせてくれました。

あと、家内と切符取ろうか、と言っているのは2月の二期会のこうもり、幸田浩子と林美智子がひさびさに共演します。値段も手頃。林美智子のオルロフスキーは聴きたいですね。彼女、すごくうまくなってきていると思いますから。

それから、藤原の仮面舞踏会、これも2月ですが、前回の夢遊病の女がまあ良かったので検討中です。しかし、この2公演のチケットを取ると、プレミアシートと言って10%以上の割引があるなんて、夢遊病を取った時には、全く告知なかったです。ちょっと不満ですね。

それから、今日、HMVから重いボックスが届きました。ここ数種間に色々とオーダーしていたDVDとCDが一度に届いたのです。全部で6枚、とりあずチェチリア・バルトリの新しいアルバム"MISSION"を聴きました。

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スキンヘッドのバルトリにびっくり!(しばらく気がつかなかった)忘れられた天才と言われるイタリアの作曲家、アゴスティーノ・ステッファーニのアリア集。初めて聴く曲ばかりですが、バルトリの声はやはり素晴らしい。一緒に、バルトリ&ヌッチのセビリアの理髪師も買いました。

僕は、DVDやCDはだいたいHMVで買います。いつでも3枚買うとディスカウントというのをやっていて、今回のミッションも2,000円くらいでした。初版のデラックス版で、厚い本のようになっているので、安いと思います。HMVは早くても1週間、長いときは半年くらいかかってから商品が届くので、急ぐ時はAmazonに限りますけどね。

あとは、11月のシチリア行きの見積もりが旅行代理店から来ました。飛行機はマイレッジで取ってあり、オペラのツァーに3日間割り込みさせていただくという予定です。ヌッチの二人のフォスカリ(マッシモ・パレルモ劇場)と、デヴィーアのトラヴィアータ(マッシモ・ベリーニ・カターニャ劇場)の2公演です。仕事でミラノにも寄るのですが、残念ながらこの日はスカラ座は何もやっていませんでした。飛行機とってあっても、けっこうな金額ですが、まあ、食事も移動のバスも、チケットもついていて、ホテルもいいところみたいなので、しかたないですね。

ヌッチとデヴィーア、70歳と64歳。もう今聴いておかないと、という思いです。

ウィーン国立歌劇場日本公演どうしよう。

夢遊病からも覚め、ここしばらくはバッハを聴いていました。加藤浩子先生の"バッハの旅”のレポートの影響です。ゴールドベルグ変奏曲がいいですね。昔はピアノで聴いていましたが、今はチェンバロののが好きです。しかし、改めて聴くと、グレン・グールドはJazzですね。セロニアス・モンクじゃないかと思いました。

さて、ウィーン国立歌劇場の日本公演が迫ってきています。実は8月にエコノミー券でフィガロとサロメを申し込んだのですが、いつまでたっても抽選結果が来ない。平日指定なので、どちらかは当たるだろうと思っていたのですが、調べたら、なんときちんと最後まで申し込みしてなかったのです。ボタン押さなかったのかなぁ。ショック。あわてて、サロメのプレミア・エコノミーを申し込みましたが、これもはずれるようであれば、定価のゲネプロ付でチケットを撮ろうかと思っています。

今ひとつ、本気でチケットを取ろうという気になれないのは、メストがサロメしか振らないのが大きいです。3演目ともメストで振ってほしい。もともとは小澤征爾がどれか振るはずだったのですから、メストだけ振るという構想はなかったのでしょうが。

ペーター・シュナイダーも悪くはありませんが、良くもなく......という感じです。ただ、バルトリとアルバレスというのはそそられます。アンナ・ボレーナも、すごく興味あるのですが、ずいぶん前にグルベローヴァのを見て、素晴らしかったので、もし今回の彼女が、歳のせいもあって、良く無かったりしたら、、とちょっと怖いんです。

色々悩んでいます。

もうすぐ、ロサンジェルスオペラでドミンゴの”二人のフォスカリ”も始まるので、サッと見に行こうかなどという下心もあり、11月にはシチリアに行くので、予算枠もあり、仕事のスケジュールも厳しいし、困ったことです。

とりあえずは、来週エヴァ・メイのリサイタル、ロッシーニ、ドニゼッティ中心です。彼女の素晴らしい声が映える選曲で楽しみです。

夢遊病の話、バルトリの話、ナタリー・デセイ回復の話!

先日の藤原の「夢遊病の女」やはり、高橋薫子の評判が圧倒的に良いようですね。僕は、エルヴィーノなんか、どうでも良いということを書きましたが、「エルヴィーノは重要な役回りだ」と書いてある方もいて、例のバルトリ、フローレス版を聞き返しましたが、なるほど、特に二重唱のところではエルヴィーノはけっこう技術のいる歌い方、そして思いを入れた表現が必要とされていました。あまり軽々しく変な意見を言ってはいけませんね。

それにしても、バルトリは凄すぎる。この8月のザルツブルグでのジューリオ・チェーザレ(ヘンデル)、素晴らしかったようです。行きたかったなぁ。しかし、僕の場合、オペラが仕事なわけではないですし、悠々自適のリタイア生活でも無いので、マイレッジを使ったりして、年に2回ヨーロッパかMETにオペラツァーに行くのが精一杯のところです。今年は4月にウィーンとチューリッヒで4公演を見に行き、11月にはシチリアに2公演行くので、ザルツブルグまでは手が回りません(足が?)でした。

でも、このバルトリ、待っていても来日しませんから、行くしかないのです。バルトリのホームページを見ていたら、来年5月にザルツブルグでベッリーニの、ノルマをやるではありませんか? 同じ週にバレンボイム指揮でブラームスのレクイエムも唄う! これは行くしかないですね。 付近で、アバドが年に一回ベルリンフィルを振るという話もあり、アバドを生で見たことのない僕としては興奮しています。多分、来年、この時期はまた、ヨーロッパオペラツァーでしょう。

さて、もう一人の奇蹟の声、ナタリー・デセイ。 この春のMETでの椿姫以来、声の調子を落として休業していましたが、どうやら戻って来たようです。フランス語がわからないので、自動翻訳で読みましたが、このページごらんください。

https://www.facebook.com/NatalieDessay

あれ、デセイもジューリオ・チェーザレだ!

とにかく、秋の来日、駄目かと思いましたが、来てくれそうな感じ。嬉しいです。今月はあと、エヴァ・メイのリサイタル、月が明けて10月になると新国立のピーターグライムスです。

藤原歌劇団 "夢遊病の女”

久しぶりのベリーニです。僕はこのブログでも何度も書いていますが、「夢遊病の女」大好きで、ライブの公演は今日で2回目ですが、CDやDVDを含めると、トラヴィアータ、シモン・ボッカネグラの次に多い回数を聴いていると思います。

さて、今日の公演ですが、非常に良かったです。何が良かったかって、とにかくアミーナ役の高橋薫子(のぶこ)が期待通りブラヴァでした。2008年の新国立のドン・ジョヴァンニのツェルリーナで非常に良かったのを覚えていますが、4年たって、またうまくなったなぁ、と感じました。アミーナは難しい役ですが、とてもベルカントに高音まできれいに出ていまいしたし、高音のコロラトゥーラも素晴らしい、何より演技も含め情感を入れた歌い方が素晴らしかったです。声質もとても華があって、合唱の時も、そんなに大きな声ではないのですが、ちゃんとタイトルロール、というふうに声が雲の上に出てくるように聞こえました。アミーナは大声で歌ったら歌えるんでしょうが、このように上品にしかも感動的に歌える日本のソプラノがいるなんて。。。。

最後のフィナーレのアリアは高音がちょっときびしそうなところもありましたが、それでもあの難しいアリアを本当に良く歌っていました。まあ、この1週間、毎日バルトリのを聴いてましたので、それと比べたらいけないですね。

そして、伯爵役の妻屋秀和さんも良かった! ドン・ジョヴァンニの時は騎士長で高橋さんと共演していました。だいたい、バスの人だと、騎士長とか宗教裁判長とか、巨人とか、そんな役が多いのですが、この伯爵役は、歌うころも多いし、普通の人間だし、いい役です。日本人のバスで、妻屋さんのように、クリアに発音が出る人っていないですね。みんな、古いタイプのモゴモゴこもる芝居がかったバスで、あれ嫌いなんです。ただ、プレイボーイの伯爵にはやや妻屋さん、真面目すぎるイメージだったかも。

それと、リーザ役の関真理子さんが出色の出来だったと思います。夢遊病の女では、1幕目、幕が開いてから5分くらいまでは主役が出てこないで、リーザが主に歌うのです。だからリーザが駄目だと、主役が良くても離陸失敗という感じになってしまいます。これはちょうど、シモン・ボッカネグラのパオロと同じような位置づけですね。パオロもシモンが出てくるまで、ピエトロと二人で5分くらい幕開きのところを演じますから。

この3人が良かったというのは、トラヴィアータで言うと、ヴィオレッタとジェルモンとアンニーナが良かったみたいなもので、そうするともう後はどうでもいいに近いです。

エルヴィーノ役の小山陽次郎さん、前にテアトロ・ジーリオ・ショウワで同役をやった時は、けっこう良かったと思ったのですが、今回は、ちょっといただけませんでした。音程が不安定で、安心して聞き込めない。声質は、すごくいいんですけどね。後半やや良くなりましたが、出だしは悪かったですね。それとアレッスィオの和下田大輔さん。声はゴニョゴニョ、イタリア語の発音は全くわからない。歌っているのか、レチタティーボかわからないような有様でした。まだ公演が終わって数時間で、このブログをアップするのに、ここまで言い切ってしまっていいかわかりませんし、本人には申し訳ないけれど、それが実感。

ですけど、バルトリ/フローレス、デセイ/フローレスのどちらの夢遊病の女でも、耳をすませて聴いているのはアミーナのほうで、エルヴィーノはどちらかというと退屈な役の感じがします。

ですから今回のこの夢遊病の女が良い公演だったと思えるのは、トラヴィアータで、アルフレードとガストーネ子爵がひどくても、ヴィオレッタ、ジェルモンが良ければ、その椿姫の公演は良いと言えるのと同じです。(かなり強引かつめちゃくちゃな論理)、今回は高橋さんと妻屋さんの素晴らしい出来で、すべてをカバーしたと思います。できれば、違うキャストの明日の公演も見たいと思いますが、ちょっと無理そう。

もうひとつ言えば、東京フィルハーモニー、力不足の感じ。前奏曲の最初のホルンからして、音が割れていて、がっくりしました。指揮がどうのこうの以前にベリーニの美しい音楽を再現する力量が不足していた感じです。


演出はクラシックなものですが、とても良かったです。舞台装置は、5年くらい前に藤原が昭和音大と共同で、テアトロ・ジーリオ・ショウワでやったのとほぼ同じでした。あれもとても良い公演でした。

しかし、ベリーニの音楽は美しいですね。ノルマ、清教徒も美しいけれど、この夢遊病の女は、そんなに長いフレーズでなくて、(ヴェルディがベリーニの音楽のことを「私は、あんなに長い、長い、長い、音楽は書けません」と言ったそうです)良いテンポで次から次に美しいメロディが出てくる。2幕目の後半など本当に感心します。やっぱり天才なんでしょうね。

日本ではベリーニは、本当に知られていません。30歳台で若くして亡くなったために、作品が10しかないこともあると思いますが、もっと評価され、演奏されていい作曲家です。ミラノのスカラ座のエントランスホールに大理石の台に乗った肖像が4つあるのですが、ヴェルディ、ロッシーニ、ドニゼッティ、そしてベリーニです。プッチーニじゃないんです。ベリーニはなんか別格、高貴な存在みたいな感じです。

藤原歌劇団は、2月にヴェルディの仮面舞踏会をやりますので、このチケット取りましょう。

ところで、さっきチェチリア・バルトリのホームページを見ていたら、来年5月にザルツブルグでノルマを歌う予定が入っていました。もう半分行く気になっています。

夢遊病の女、もうすぐ開幕です。

この週末の藤原歌劇団の「夢遊病の女」楽しみにしています。今週は、車で東京の往復の間に、バルトリ版とデセイ版のCDを聴いています。(両方ともエルヴィーノはフローレスです)両方とも、すごく良いんですが、全然タイトルロールとしてのスタンスが違いますね。バルトリは、あくまでレッジェロで美しいコロラトゥーラの超絶技巧を使って、声だけで、別の世界に連れていってくれます。最後のアリアは奇蹟です。デセイは、目の前に舞台が浮かんでくるような、演劇性のある、これも素晴らしい歌い方です。連隊の娘のデセイが素晴らしいのは、この夢遊病の女でも同じです。

しかし、こんなベストなCDを聴いていると、藤原の夢遊病の女の感激が薄くなりそうな恐れもあります。僕は、8日の公演を取りました。アミーナを高橋薫子が、伯爵を妻屋秀和が歌うのがその理由です。この二人好きなんです。

藤原歌劇団は、何年か前に百合ヶ丘の昭和音大のテアトロ・ジーリオ・ショウワで夢遊病をやったことがあります。小さな舞台でしたが、とても良かったです。あそこで見た公演の中では一番良かったのでは。

いわゆる、オペラ・ブッファとは正確に言うと違うのかもしれませんが、喜劇性のあるオペラ、けっこう好きです。ヴェルディがファルスタッフ以外は、オペラ・セリアなので、ブッファはどうしても他の音楽家になるのですが、ベリーニではこの夢遊病の女、ドニゼッティ、連隊の娘、ロッシーニ、ランスへの旅、セビリアの理髪師、ストラウス、ナクソス島のアドリアーネ、ここらへん、本当に好きですが、セビリア以外はあまり日本では上演されません。

8日は楽しみです。img0951.jpg

オペラ講座9月より開講

9月から、加藤浩子先生の「ヴェルディとワーグナー」の講座が始まります。前回の「歌手と指揮者で楽しむオペラ」の続きです。全6回。

自分が講師をする授業も始まりますが、やはり受けるほうが楽だし、楽しみです。ヴェルディとワーグナー、期せずして同じ年に生まれ、20世紀まで生きたヴェルディと70歳でヴェニスに死す...のワーグナー。(BTWあの映画、マーラーよりワーグナーのトリスタンのほうが合うような気もしますが)

生真面目で、頑固で、人嫌いで、農業を愛し、自分のことを「偉大な作曲家と呼ばれなくても偉大な農民と呼ばれたい」と言ったヴェルディ。たくさんの遺産を残しながら、今、形として残っているのは、音楽家の家という、ミラノの美しい音楽家が余生を送る老人ホーム。ちなみにこのホームはNYのトスカニーニ財団が管理しています。一方のワーグナーは、借金を重ね、嘘に嘘を重ねて、逮捕状まで出される中を、ヨーロッパを転々とし、結局はバイエルン国王ルートヴィヒ2世をスポンサーとし、巨額の出資をさせて、自ら祭典劇場(バイロイト)を作らせました。これは同国王の不審の死にもつながってくるので、なかなか生々しい歴史なのですが、今となってみれば、結局ワーグナーの子孫が主権を握るワーグナー財団が、音楽祭を続けています。

一方で、女性には奔放で、今も、妻と愛人の二人と一緒に音楽家の家に眠るヴェルディ(カトリックの国でそんなことが許されるのか?)、親友の指揮者の妻を寝取ったまでは良かったが、そのコジマにいじめられて後生を送ったワーグナー。

音楽の前に、人間を比較するだけでもおもしろいです。

そして、現在では、ワーグナー好き、ワグネリアンと言われると、何か知的な感じが漂い、ヴェルディ好きというと、「ふ〜ん」という感じ、イタリアのメロ・ドランマ屋?

実際には、ヴェルディのほうがずっと知的で、ワーグナーは詐欺師みたいなもんだったと思いますが、ま、これはヴェルディびいきの僕の見方かもしれません。

ただ、ワーグナーの音楽は魅力的です。人間も思想も嫌いですが、音楽は素晴らしい。特にトリスタンとイゾルデ、そしてリングはストーリー的にもすごい作品だと思います。

この両者の音楽を指揮者として振っているのは、最近は増えてきましたが、昔は少なかったようです。多分、コジマの夫だったハンス・フォン・ビューローは振っているでしょう。あと、トスカニーニとフルトヴェングラー?

最近では、ユダヤ人ながらワーグナーの巨匠になったバレンボイムが、スカラザの総指揮者になって、ヴェルディを振って(たしかシモンだと思います。)大ブーイングになったとか、色々と話題が出てきています。メータなんかは、両方なんなく振っていますが。

あ、そこで、こんなDVDがあるんです。僕は何年か前に偶然アメリカで見つけましたが、3枚組全10時間にもなる大作"The Life Of Verdi"。米国のテレビ会社が作って放映したようです。最近ではアマゾンでも4000円くらいで買えます。これはおもしろい!! ヴェルディをやっている役者が、本物そっくりなのと、セットや屋外撮影がテレビとは思えない大がかりなものなのがびっくりです。なんでヴェルディでこんなすごいフィルムを撮ったのか?しかもアメリカとイギリス共作で?

残念ながら、音声は英語で日本語のスーパーは無いのですが、とてもわかりやすい英語です。また、僕も入っている、日本ヴェルディ協会で来る9月15日から、日本語スーパー入りの放映を3日間に分けて行います。詳しくは http://www.verdi.or.jp をご覧下さい。おもしろいですよ。

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