プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

しんゆり芸術祭のオペラ・スクオーラでしゃべります。

川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカ発)アート講座第2弾 「オペラ・スクオーラ」というイベントで講師をやることになりました。この芸術祭のメインは、4月23日と24日にテアトロ・ジーリオ・ショウワで行われる「愛の妙薬」です。
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そうそうたる、諸先生方の中に入って一段と「ん、誰?」と思われてしまうオペラ素人ファン代表ですが、がんばろうと思います。よろしかったらお出かけください。
詳しくは、アルテリオ小劇場

パンフレット

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月夜に煌めくエトワール

 だいぶ遅くなってしまいましたが、今年の初芝居は、オペラ座のエトワールとピアノ、バイオリンによる、“STARS in THE MOONLIGHT, 月夜に煌めくエトワール”、BUNKAMURAと愛知芸術劇場の企画による意欲的な公演でした。

エトワールとは、もちろんパリオペラ座のダンサーのトップの階級名です。下からカドリーユ、コリフェ、スジェ、プルミエ・ダンス-ル、エトワールと来ています。今、何人のエトワールがオペラ座にいるか把握していませんが、10人強くらいではないでしょうか?ほんの一握りです。だいたいが30代前半でプルミエ・ダンスールから昇進します。そのダンサーが踊る公演の後にサプライズで昇進を告げられるというのがお決まりのようです。今いるエトワールの中では、今回来日したマチュー・ガニオが11年前20歳の若さで、スジェから飛び級でエトワールに任命され、以来11年の在任というのが一番長いのではないでしょうか?飛び級でエトワールに任命されたのは、過去にドミニク・カルフーニ(マチューの実母)、マニュエル・ルグリ、ローラン・イレールの3人しかいないとプログラムに書いてありました。ギエム、デュポンでさえも飛び級ではなかったのですね。

このマチューとエルヴェ・モロー、そして若手のドロテ・ジルベール、今輝いているエトワールと言っていいと思いますが、この3人が3メキシコ人でヨーロッパで活躍中のピアニスト、ジョルジュ・ヴィラドムスと日本人バイオリニスト三浦文彰と共演するというのが今回の企画。なかなか素晴らしかったです。

プログラムの半分以上が日本初演、あるいは世界初演という意欲的なものでしたが、最初のマスネによるタイスの瞑想曲で始まった“煌めくエトワール”から引き込まれました。ドロテがプルミエだった頃と比べて筋肉がすごくなっているのにびっくり。そして、圧巻だったのは、ジョルジオ・マンチーニの振付の「トリスタンとイゾルデ」からの”愛と死のパ・ド・ドゥ“、これはワーグナーの原曲をそのまま用いたので、ピアノとバイオリンの出番はありませんでしたが、オペラのポネル演出を思わせるような幻想的な世界をマチュー・ガニオとドロテ・ジルベールが作り出していました。

エルヴェ・モローが自らブベニチェクに頼み込んで振付をしてもらったというドビュッシーの「月の光」も妖艶なソロでした。最後にピアノの下に潜り込んで終わるのも印象的。

ただ、全体としてややまだ動きが固い感じがしました。特にトリスタンのところでのリフトや複雑な二人の体のからまり。デュポンとルグリのように、大理石が溶けていくような感じが無いのです。今回、モロー自身が振り付けた“LUNA”(日本初演)とパトリック・バナ”の振付による”失われた楽園“(世界初演)がカットされたのも残念ですが、やはり「初演」ものを詰め込み過ぎて、充分な練習が出来なかったのではという感じがしました。

昨年、オーレリ・デュポンが、一昨年にはニコラ・ル・リッシュ、2013年にはアニエス・ルテステュ、イザベル・シアラヴォラと一時代を築いた大物エトワールが引退し、パリのオペラ座は新時代に入ったと思います。モローももう38歳、若手とは言えませんが、ドロテやマチュー、昨年任命されたばかりのアマンディーヌ・アルビッソンあたりがこれからのオペラ座を担うのだと思います。これからのオペラ座に期待しましょう。ただ、しばらくパリへは行きにくいんですよね。モローのアデューの頃には安全になるでしょうか?

◎『煌めくエトワール』 ※日本初演
音楽:ジュール・マスネ 「タイスの瞑想曲」
振付:エルヴェ・モロー
振付協力:イザベル・シアラヴォラ
バレエ:ドロテ・ジルベール&エルヴェ・モロー
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎イザイ:『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調“ バラード”』
ヴァイオリン:三浦文彰

◎ポンセ:『メキシカン・バラード』
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『トリスタンとイゾルデ』より”愛の死のパ・ド・ドゥ” ※日本初演
音楽:リヒャルト・ワーグナー
振付:ジョルジオ・マンチーニ
バレエ:ドロテ・ジルベール&マチュー・ガニオ 
※音楽は録音テープを使用

◎『ツクヨミ』 ※世界初演
音楽:アルヴォ・ペルト「アリーナのために」
振付:中村 恩恵
バレエ:エルヴェ・モロー
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス
※音楽は録音テープを使用

◎『それでも地球は回る』
音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ『バヤゼット』より「私はないがしろにされた妻」
振付:ジョルジオ・マンチーニ
バレエ:マチュー・ガニオ
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス
※マチュー・ガニオのために特別に改訂

◎サン=サーンス:『序奏とロンド・カプリチオーソ』
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『瀕死の白鳥』
音楽:カミーユ・サン=サーンス「動物の謝肉祭」より第13曲「白鳥」
振付:ミハイル・フォーキン
バレエ:ドロテ・ジルベール
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎リスト:『バラード 第2番 ロ短調』
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『月の光』
音楽:クロード・ドビュッシー
振付:イリ・ブベニチェク
バレエ:エルヴェ・モロー
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎スペシャル・カーテンコール
音楽:バート・ハワード(フランク・シナトラ「Fly Me to the Moon」)
出演:全員

加藤浩子著「オペラでわかるヨーロッパ史」

 正月休み前に発刊された、楽しみにしていたこの本、やはり期待を裏切らない素晴らしいものでした。オペラの公演のプログラムガイドなどに、そのオペラが書かれた背景などが解説されてあることは良くありますが、これほど深く追求された集大成的な本は初めてだと思います。加藤さんは、ヴェルディの専門家であり、僕もオペラ作曲家の中ではヴェルディが群を抜いて好きなので、シチリアの晩鐘、シモン・ボッカネグラ、リゴレット、仮面舞踏会などの歴史的考察は大変おもしろかったです。特に加藤さんが、最近ヴェルディ協会の機関誌”ヴェルディアーナ“でも発表した「ヴェルディの捨て子」の考察は、その子孫へのインタビューも含めていて、単なる推察ではない「凄み」を感じました。

 この加藤さんの説を読んでから再びシモン・ボッカネグラを見直しましたが、新しい、ひしひしと心に迫る感動がありました。また、オペラのように毒薬で簡単には死ねずに数日間苦しんだ後で亡くなったこと、舞台では最後に涙を誘う「次の総督をアドルノに…」という事実は無かったことなどが、何度も見たオペラをまるで初めて見るように変えて行きます。彼女が書いたように、ジェノヴェのサンタゴスティーノ博物館の「ゆがんだ表情に見えた」シモン・ボッカネグラの横たわった像を見たくてしかたなくなりました。

 リゴレットについても、背中に瘤のある矮人(わいじん)として、ヴェラスケスの絵のそれを例に取って説明していることで、当時のそのような人達への偏見、そして彼等の立場、悲しみが視覚的に良くわかります。特にラス・メニーナスの絵は僕が短期間マドリッドに住んでいたころに毎週プラドに見に行っていたものですし、その後もピカソ版を追っかけて「生涯の絵」になっているものだけに、そこに”リゴレット“という大好きなオペラをリンク付けた加藤さんの才能、それにも増して研究に研究を重ねてこそ到達した知見に感動しました。この本を読まなければ、二つの芸術が僕の中でくっつくことはなかったのですから。

 もちろん、オペラはそんなに勉強しなくてももちろん楽しいです。でもシャンパンの泡のようにその楽しみが観劇後に序々に消えてしまうよりは、人生を豊かにする血となり、肉となることがもっと素晴らしいということをこの本は教えてくれました。やや興奮しながらの感想です。

オペラでわかるヨーロッパ史 平凡社新書 ¥780

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