プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

イェヌーファ

このオペラ、前評判が高かったようで、うっかり1ヶ月前まで予約をしていなかったら、二人並びのシートがなかなかなくて、結局A席でも最良とは言えないシートになりました。男性の観客が多かったですね。ph_interview01_01.png

結論から先に言うと、とても良かったです。予想以上に感動しました。「利口な女狐の物語」も大好きなオペラですが、この“イエヌーファ”はそれとは違ったうねるような音楽と、見る者の心を直接えぐってくるような心理戯曲のような鋭利なオペラです。イェヌーファのポスターやプログラムに出ている、赤い袖無しのドレスを着たイェヌーファのイメージは、僕には3年前に訪れたザルツブルグ美術館にあったアレックス・カッツ(NY在の現代美術家)の作品(下をご覧下さい)をほうふつとさせていたので、なんか女狐的な洒落た(?)悲しさだろうという感じをもっていました。しかし、実際にはけっこうおどろおどろしいストーリー!!あらすじは、こちらをご覧下さい。新国立劇場特設サイトth-th-DSC01837.jpg




1903年の初演ということですから、カヴァレリア・ルスティカーナや道化師などの影響があるのかと思ってしまいますが、ヴェリズモの作られた世俗性のようなものではなく、もっと普通の現実感があり、現代でもこのような犯罪は起きうるというものだと思います。小説を読むような感じで、オペラだからと言ってストーリーに飛躍や矛盾が無い。だから、登場人物の悲しみと苦しみ、虚しさがストンと胸に落ちてきます。クリストフ・ロイの演出は絵画的で、ひとつひとつの場面で丁寧にポラを切って作っているような(古い表現ですみません)感じがしました。モダンバレエの舞台みたいでもありますね。白一色の刑務所からの回想シーンで始まるのですが、それがコステルニチカの家になり、その外に麦畑でしょうか、色が出てくるのがとても新鮮です。

ヤナーチェクはそんなに聴いていませんから、指揮について何かを言えるわけではないのですが、日本ではお馴染みのトマーシュ・ハヌスはチェコのヤナーチェク音楽アカデミーの出身ですから、いわばヤナーチェクのスペシャリストでしょう。歌手の歌の前後に付くようなメロディーから、要所で一気に盛り上がるところはやはりヴェリズモぽいとも言えそうです。

タイトルロールのミヒャエラ・カウネ、2010年のアラベッラの時にはあまり感心しなかったのですが、今日は良かった。そしてラッツァ役のヴィル・ハルトマンは新国立初登場だが、実にきらびやかな伸びる高音と感情を込めた中音部で素晴らしかったですびっくりしたのは、ブリヤ家の女主人を演じたハンナ・シュヴァルツ。芳醇なメッゾソプラノで声量もありますが、僕のオペラの友人によれば御年73歳とのこと。まあ、ヌッチやドミンゴと同じ世代ですが、女声ですから声をキープするのも大変だろうと思います。

プログラムを読んでわかりましたが、若杉さんが1970年代に日本で初公演をしたのですね。何度も言いますが、飯守さんに芸術監督が変わってから、新国立のラインナップ本当に良くなりました。6月には御大みずからローエングリンを振ってくれるのも楽しみですし、来年はついにドニゼッティが入りましたね。「ランメルモールのルチア」!!これも楽しみです。

【イエヌーファ:スタッフ/キャスト】
指揮:トマーシュ・ハヌス  
演出:クリストフ・ロイ

ブリヤ家の女主人:ハンナ・シュヴァルツ
ラツァ・クレメニュ: ヴィル・ハルトマン
シュテヴァ・ブリヤ:ジャンルカ・ザンピエーリ
コステルニチカ:  ジェニファー・ラーモア
イェヌーファ:    ミヒャエラ・カウネ
粉屋の親方:    萩原 潤
村長:        志村文彦
村長夫人:     与田朝子
カロルカ:      針生美智子
羊飼いの女:    鵜木絵里
バレナ: 小泉詠子
ヤノ: 吉原圭子

合唱指揮: 冨平恭平
合 唱: 新国立劇場合唱団
オーケストラ: 東京交響楽団





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イル・トロヴァトーレ

 昨年末の「第九」を聞き損ねたので、9月のオペラシティでの「展覧会の絵」、「運命の力序曲」他のコンサート以来のバッティストーニ。やはり、バッティのヴェルディは彫刻的で心に迫ってくるものがあります。とは言え、今回はお馴染みの東フィルを率いるのではなくて、東京都交響楽団を指揮するという初めて(?)のケースのせいか、いつもの彼の音楽作りよりややもったりした感じ、大人しい感じがありました。オケが指揮についていってない感じですね。特に前半はその感じがありましたが、後半、どんどん良くなり、第4幕の「処刑」の場面の音の作り方はバッティストーニならではの壮絶感が良く出ていました。しかし、このオペラは、ストーリーはまさに血みどろ、グチャグチャの凄まじいものがありますが、音楽はまるで宝石箱を広げたように美しいメロディーが散りばめられています。バッティストーニは、今回はそのメロディーの美しさを歌手に合わせながら堪能させてくれて、最後に爆発した!という感じでしょうか?そいういう観点から聴くと、決して都響も悪くなかったかと思います。

 演出は、Tutto Verdiで2010年のパルマ王立劇場での公演の映像になっているロレンツォ・マリアーニのもので、見慣れた感じがありましたが、いつものビデオ席ではなく、文化会館の2階1列目(今回は良いところが取れました)から見ると、実にシンプルで洗練された感じ。黒一色で作られた舞台はまるで床の間のような感じがしました。広い舞台を黒で狭小感を出してストーリー全体に流れる緊迫感を崩さないようにしている、と感じました。マリアーニ氏によると、今回の演出では「ミステリアス」を強調しているとのことでしたが、まさにその通り、そしてシーンはすべて夜、夜の中で見えない力、人間の力を超えた大きな力が働いているということを強調していたそうです。たしかに、一幕序奏のあとに、フェルランドが現れるところは、ちょっとスターウォーズでダースベーダ-(いや、カイロ・レンか?)が出てくるようで、フォースを感じましたね!

 この日のキャストは下に記しました。初日、だいぶ主役級に交代があったとのことで心配していましたが、この土曜日は波乱なく上演されました。主役級のレベルが皆高くて実に良かったと思います。特にルーナ伯爵役の上江隼人さんは、この二期会+バッティストーニの毎年の公演の固定キャストになっていますが、今回は得意のピアニシモももちろんですが、中音部の甘い声質がとても良く出ていて、また新しい魅力を出してくれたと思います。こういうのを聴くと、彼がイタリアで得意にして折々に唄っている、スッティフェーリオ聴きたくなりますね。アズチェーナの清水華澄さん、喉に負担のかかるだろうこの役を一瞬の破綻もなく、怨念に溢れた表現で舞台を支配している感がありました。マンリーコ役のエクトール・サンドバルさん、彼も甘い声で魅了してくれました。マンリーコの唄うメロディは、相当複雑だという事が今回良くわかりました。これを問題なく美しく唄っていくテクニックはすごいなと思いましたが、Tutto Verdiでのマルセロ・アルバレスはそのテクニックも感じさせない、という意味ではもっと凄かったのかもしれません。

 この公演、ひさしぶりにS席を取りましたが、プログラムが付いて\13,500-、これはヴァリューフォーマネーですね。それなのに、空席がやや目立ったのは残念なところでした。


指揮: アンドレア・バッティストーニ
演出: ロレンツォ・マリアーニ
美術: ウィリアム・オルランディ
照明: クリスチャン・ピノー
演出補: エリザベッタ・マリーニ

合唱指揮: 佐藤 宏
音楽アドヴァイザー: 田口興輔

舞台監督: 佐藤公紀
公演監督: 直野 資

レオノーラ:並河寿美
マンリーコ:エクトール・サンドバル
ルーナ伯爵:上江隼人
アズチェーナ:清水華澄
フェルランド:伊藤 純
合唱: 二期会合唱団
管弦楽: 東京都交響楽団

ラ・シルフィード@新国立

新国立劇場のバレエ、“ラ・シルフィード”、当日券で楽日の公演に駆け込みました。残念ながら1幕1場は間に合わず、2場にジェームスがシルフィードに夢中になってしまうところから鑑賞しました。この演目を全幕で見るのは初めてです。ジェームスがスカーフを持ってシルフィードを追いかける第2幕のパ・ド・ドゥの印象はあるものの、なんとなく地味だなという感じがしていました。それもそのはずで、この1836年にパリのオペラ座で初演をされたのですが、1841年の初演の”ジゼル“とならび、ロマンティックバレエの歴史を開いた作品と言えるのです。ちなみに、ヴェルディが1844年にオペラ化した、ヴィクトル・ユーゴーの戯曲”エルナーニ“は1830年にパリコメディ・フランセーズ劇場で初演されており、これをもって「フランス・ロマン派演劇の創始」と呼び、この戯曲を巡る古典派とロマン派のはげしい攻防が「エルナーニ事件」と呼ばれています。ですので、この”ラ・シルフィード”も当時は相当の話題になったと思います。なにしろ、ロマンバレエの傑作あるいは完成と言われる「白鳥の湖」の初演は、ここから40年たった1877年なのです。

長い丈のチュチュ(これが非常に美しい!)で、フェッテやピロエット、ジャンプもありませんが、実に清らかな流れの踊りに魅了されます。物語も踊りの構成もジゼルに似ていますが、妖精のシルフィードはジゼルと違って最初から登場。この日は小野絢子が小柄な体を大きく使い、初々しい魅力に溢れた動きでジェームス役の福岡雄大を引っ張ります。福岡も夢と現実の間に落ち込んでしまった青年の喜びと苦しみを実に素晴らしく表現していました。このダンサーはどんどん進化していますね。占い師、マッジはこの日演じた本島美和(すごい拍手もらっていました)と高橋一輝のダブルキャスト。男女のダブルキャストということで、高橋も見てみたかったです。

 このバレエ、心に沁みました。いいものを見たなぁという感じ。1場見られなかったし、その前にやったモダンのMen Y Menも見られませんでしたが、C席で舞台全部が見下ろせて、アトレ会員価格4,104円というのは、METのライブビューイングに比べても価値感ありますね。ただ、いつも新国立で素晴らしい指揮でオケを鳴らしてくれるポール・マーフィーではなく、ギャヴィン・サザーランドという若手指揮者だったのですが、指揮もオケもいまいち。4階で見るバレエは音楽にもうっとりしたいものです。

"真珠採り”METライブビューイング

今年に入ってから、なんだか仕事が忙しくなってしまい、週末も家に閉じこもってます。4月にヌッチのシモン・ボッカネグラとルイーザ・ミラーを聴きにバルセロナ、マドリッドへ行くためにも、今働かないと....

とは言え、昨日は気軽に見られる東劇のMETライブ・ビューイングに行ってきました。”真珠採り”。大好きな演目です。2年前の3月にパルマで初めて生で見ました。その時はマチャイゼ、シラクーザのキャスティングのはずが、当日になってシラクーザが降板、ディミトリー・コルチャックになり、楽団も変更になっていました。でも、この時の公演は素晴らしかったです。

で、今日のMETのはカルーソー以来100年ぶりの上演とか!新制作で舞台はまるでカリブの海賊みたいで相当にお金かかってますね。主演のレイラを演じたダムラウがMETのゲルブ総裁に直接談判で実現したというこの公演、さすがにダムラウは声質もフランスっぽく変えて素晴らしい歌を聴かせてくれました。このオペラ、良い曲はけっこう最初のほうに集中して出てくるのですが、レイラの「空にさえぎるものなく Dans le ciel sansa voiles」も1幕目のフィナーレで聴かせてくれましたね。ただ、鼻にかかる強い声を出しているとは言え、ダムラウ、もともとは軽めの声なので、僕自身はマチャイゼの真鍮のような強い声のレイラのほうが好きでした。ナディールのマシュー・ポレンザーニも同様。何かイタリアンなんですね。誰と比べてかと言えば、現在の歌手ならアラーニャでしょうか?過去では、1978年の録音(多分?)のプレートゥル指揮版でのアラン・バンゾのナディールが最高だと思います。フランス歌劇の歌唱って、鼻にかかって音が内側に入っていくような感じが欲しいんですよね。

METの話なのに恐縮ですが、僕のベスト3のナディールはこれです。

Alain Vanzoの"耳に残る君の歌声 Je crois entendre encora"

Nicolai Gedda 版

アルフレード・クラウス版

興味のある方は、ドミンゴとかカルーソー、リチートラなどのも聴き比べるとおもしろいと思います。

この日、圧倒的に良かったのは、ズルガのマリウシュ・クヴィエチェン。最高のドン・ジョヴァンニ唄いと言う印象でしたが、ズルガを唄っても凄かった。ラストの火事の場面の三重唱”聖い光よ、すばらしき抱擁 O lumiere sainte” はグッと来ました。

ノセダの指揮、本人は「津波のように抑揚を付けた」と言っていましたが、プレートゥルの指揮にくらべればあっさり目。ただ、コントラバスを強く押し出して、たしかに津波の強さを打ち出していました。妙な小細工をせずに、楽譜の持つ美しいメロディーを追った良い指揮だったと思います。演出は、冒頭にも述べたように「カリブの海賊風」。ややゴチャゴチャしすぎていてうるさい感じがしました。パルマの倒れた仏頭のある海辺のほうがシンプルで強烈なイメージがあり、僕の視床に焼き付いています。

個人的に僕はライブ・ビューイングって欲求不満がたまりますね。Bravoもできないし(して良いとパンフレットに書いてありますが.....)、何より見る場所をカメラで指示されるのが嫌です。MET自身も言っているように、ライブが一番! この"真珠採り”は再演もあるでしょうから、その時にはNYまで行きたいです。

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