プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

劇付随音楽「ペール・ギュント」全曲

 今年から、東京フィルハーモニーのオペラシティでの公演の定期会員になりました。最近の東フィルは素晴らしく、プログラムも充実しています。何しろ大好きなバッティストーニの指揮だけでも、年に2ー3回は入っているので、定期会員のチケットはとても割安だと思います。シートも毎回同じ場所なのも気分が良いです。

 その第一回目は、エドヴァルド・グリーグの劇付随音楽「ペール・ギュント」全曲。27日の公演に行ってきました。ペールギュントは小学校の音楽鑑賞では必ず聴く曲目ですが、たしか「組曲」だったのでは? その通りです。全曲(26曲)が初めて上演されたのは、1987年ということですから、つい最近なんですね。

 指揮者のミハイル・プレトニョフ、実はこの曲目を昨年に東フィルで指揮するはずだったのが、キャンセルになっていました。情報通の知り合いの歌手の方の話だと、彼は昨年実の母を亡くして精神的に落ち込んで来日できなかったとのこと。ですので、今年の公演を待ち望んでいた人も多いと思います。

 このプレトニョフの指揮、丁寧で繊細、そしてなにより品格がありました。26曲のうちのかなりの曲目は、「組曲」で聴いたことのある曲ですが、それらが初めて聴く他の「全曲」の中にきちんとはまって、壮大な叙事詩の音楽になり、休憩を入れて2時間40分というオペラ並の長丁場になりましたが、まったく飽きません。2幕目の終わりの「オーセの死」は、ペールギュントを愛した母親の死のシーンですが、ここで前述のプレトニョフと母の別れのことを思い出すとこちらはウルウルしてくるのですが、指揮はあくまで感情を過度に表さずに押さえて、実に格調高い音楽を作り出していました。

 歌手の中では、ペール・ギュントを待ち受けるソールヴェイを歌ったノルウェーのソプラノ、ベリト・ゾルセットが素晴らしかった。北欧の冷たく清らかな空気と水を感じさせる透き通った声。ヴィブラートがなく、高音まで立ち上る様は天まで光の柱が立ち上るようでした。今回が初来日とのことですが、オペラでも来て欲しいですね。

 語りの石丸幹二、ミュージカルで名を馳せていますが、東京芸大の声楽科の出身ということもあり、クラシックにも造形が深く、素晴らしい声でイプセンの原作の戯曲部分を2時間版近く一人で語ってくれました。ただ、聴く方としては、かなりの量の語りと音楽の両方を一度の公演を聴くだけではちょっと消化しきれない感じはありました。その知り合いの歌手の方は、この公演をオーチャードホールとサントリーホールで聴いて、この日は3回目と言っていましたが、たしかに3回くらい聴いて、語り、音楽、その両方をしっかりと聴きたかった感じがします。

 東フィルの定期演奏会、5月はバッティストーニです。楽しみ!

ソールヴェイ(ソプラノ):
ベリト・ゾルセット
ペール・ギュント(バリトン):
大久保 光哉
アニトラ(メゾ・ソプラノ):富岡 明子
合唱:新国立劇場合唱団
語り:石丸 幹二
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スパニッシュなシモン・ボッカネグラ

念願かなって、やっとリセウ大歌劇場(バルセロナ)に来られました。リセウと言えば、2001年のコボス指揮、ベルベル演出の「ランスへの旅」がDVDになっていますが、特に演出には凝っているという印象があります。”Gran Teatre”のイメージからしてMETくらい大きいのかと思いましたが、平土間は決して大きくありません。ただ、高さがあるのと、平土間の廻りを優雅なボックス席がとりかこんでいて、豪華です。幸運にもその1階のボックス席の良い場所を取れました。

 レオ・ヌッチも既に74歳、もういくらなんでもそろそろ危ないのではと思って、心配しながら聞きに来たというのが本当のところですが、いや、とんでもない。この日の高音の伸びと輝き、中音での表現力の素晴らしさは、5-6年前を上回っています。終演後にホテルに帰ってから、2010年のパルマでのヌッチのシモン(カッレガーリ指揮)をヴィデオで聴きましたが、その時より凄い!聴くところによると、ヌッチは70歳過ぎてからも歌うための筋力トレーニングをかかしていないそうですが、その成果は凄い物があります。アメーリア役としては現在考えられる最高のキャストであるバルバラ・フリットリとの二重唱は、もう讃える言葉が見つからないほどでした。リセウのサイトにもその二重唱はアップされていましたが、最後の「Figlia(娘よ)」のところだけは意図的にか(?)カットされていましたが、ヌッチの伸びの凄いこと。

 この日は指揮も演出も、かなりドラマティコでした。ヌッチのシモン・ボッカネグラとフリットリのアメーリアは一昨年のウィーンでのオーギャン指揮の時に比べて、かなり情熱的。特にフリットリはリリックで透明な声と強い声を使い分けて、感情を高まらせ、まさに舞台を仕切る歌唱を聴かせてくれました。こんなフリットリは聴いたことないです。全力で歌っているという感じ。サルトリは出だしがやや中音部が安定しませんでしたが、2幕目あたりからは美声が堪能できました。やはり「ヌッチ、サルトリ、フリットリ」の3人はシモン・ボッカネグラで現在考えられるベストですね。ただ、サルトリ、また太りました。もう100kgはゆうに超えているでしょう。“猿取親方”と呼びたい風貌です。

 フィエスコ役のVitalij Kowaljow(読めない)、初めて聴きました。悪くはないのですが、ダブルキャストでドミンゴのシモンと組んでいるフルラネットで聴きたかったところ。さもなくばコロンバラですよね……Kowaljow、やや、力不足はいがめませんでした。パオロ役のオデーナは健闘!、演技も素晴らしく、単なる悪役ではなく、追い詰められていく苦しさを表現しきっていました。

 演出は現代風で、ガブリエーレなど背広で出て来ます。そして、巨大なガラスの格子がグレイになったり、琥珀色になったりして舞台を廻して行きます。まるでプラダの店の中でインテリアが回転しているみたいです。ゴージャス。ただ、リグリア海のイメージが全く無いのはやや残念。この点では、何度も言っていますが、2013年のチューリッヒ歌劇場でのジャン・カルロ・デル・モナコの明るいリグリア海を見せた演出がシモンでは最高でした。

 そして判断に苦しむのが、ザネッティの指揮。とにかく、エモーショナル、揺れる、伸ばす…..序奏からして聴いたことがないほど揺れます。どちらかというと、スカラ座でのバレンボイムの指揮に近い。今回はヌッチは2日だけで、ドミンゴが3日出ていますから、ドミンゴに合わせた指揮なのかもしれません。しかし、バレンボイムほど重く粘る感じはないので、そのうちに聴き慣れてしまうのですが、そうなるとなんとなく物足りない。指揮もリグリア海のうねりの感じをもう少しインテンポに出してほしいという感じはしました。

 リセウでのシモン・ボッカネグラ、全体としては、原作者のアントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲性を強く出した感じがします。(戯曲の公演を見たことはありませんが。)グティエレスはイル・トロヴァトーレの原作者でもありますが、リセウは彼に敬意を表して、ドラマティックな演出と指揮にしたのではないでしょうか?実にスパニッシュな、血が沸きたつようなパフォーマンスでした。

 それにしても、日本でシモンが公演されることの少ないこと。ヴェルディのオペラの中でも「名誉」を強く打ち出した傑作だと思います。ピア-ヴェの台本をボイトが改編し、その後のオテロ、ファルスタッフへの布石となったこの作品、是非新国立あたりでやってほしいものです。

この日のキャスト
指揮:マッシモ・ザネッティ
演出:ホセ・ルイス・ゴメス
シモン・ボッカネグラ:レオ・ヌッチ
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ:ファビオ・サルトリ
フィエスコ:Vitalij Kowaljow
パオロ:アンジェル・オデーナ
ピエトロ:ダミアン・デル・カスティーヨ

ウェルテル@新国立劇場

しばらくブログを書いていませんでした。Jazzなんか行ってたもので....

 さて、初めての「”生”ウェルテル」観劇でした。日本ではなかなかフランスオペラを聴く機会が少ないですね。僕もビゼー、ドリーブ、オッフェンバックなどはまあまあ聴いていますが、アレヴィの「ユダヤの女」とか、ベルリオーズの「トロイアの人々」、マイアベーアの「ユグノー教徒」などは聴きたいのですが、チャンスがありません。恥ずかしながらマスネの「マノン」もまだ公演では聴いていません。

 そこで、2002年に新国立劇場での上演、2009年にリヨン歌劇場による演奏会形式での上演以来となる、今回のウェルテル、気合いを入れて聴いてきました。

 まずは、メロディーが最初から最後まで美しい。これだけでも、このオペラ本当に素晴らしいです。同じ時期に書かれたタイス、(ウェルテルが1892年、タイスは1894年)に比べると、タイスの瞑想曲が飛び抜けて美しいのですが、全体としてみたら、ウェルテルのほうが完成度が高いと思います。ウェルテルの「オシアンの歌」、シャルロットの「手紙の歌」が有名ですが、その他にも聴きどころがいっぱい。休憩入れて3時間半の長い公演でしたが、全然長く感じませんでした。

 何より、タイトルロールのディミトリー・コルチャックが素晴らしかったぁ!既に聴いた友人から「良い」とは聞いていましたが、これほど良いとは……
2014年にパルマ歌劇場でのビゼーの「真珠採り」のナディール役で聴いた時は、肺活量の足り無さで、ナディールのロマンスが切れ切れになって、あまり良いイメージは無かったのですが、それでも甘い声で、レイラ役のマチャイゼとのデュエット、ズルガ役のタオルミーナとのデュエットは素晴らしかったのが印象的でしたが、この日は彼の良いところがみんな出ていました。高音の抜け感も良いのですが、中音部で静かに歌う難しいところのテクニックが本当に素晴らしい。このウェルテルは、レチタティーヴォはありませんが、レチタティーヴォみたいに、中音で歌うところが多いのです。下手な歌手だったら、ウダウダと聞こえるだろうところを、コルチャックは見事に歌い上げていました。力が入りすぎず、しかし、感情をたっぷりと入れて、なにより、「若きウェルテルの悩み」という原作を彷彿とさせる、純粋な青年の思い入れが見事に表現されていました。家内がカウフマンのウェルテルを聴いていましたが、「いやー、全然違う。コルチャックのほうが純粋で可哀想。。」と言っていました。さもありなん。テノールが良いと、その役まで良く思えてくるのが、昨年5月の新国立での「ラ・トラヴィアータ」でのアルフレード役のアントニオ・ポーリでした。彼も純粋で、ヴィオレッタに尽くしているという感じが出た歌唱でしたね。肩に力が入っていないというところではコルチャックと似ています。今回のタイトルロールは、当初のマイケル・ファビアーノから、マルチェロ・ジョルダーニが出られなくなってコルチャックになりましたが、結果的には最高でした。コルチャック、フランス物とロッシーニを得意としていますから、これからも来日してほしいです。

 で、次に良かったのが、ソフィー(シャルロットの妹)役の砂川涼子さん。びっくりしました。昨年のゼッダのランスへの旅でのコリーナ役でも素晴らしい歌唱を聴かせてくれましたが、この日は芯の強い声で、実にフランスっぽい。鼻にかかったフランス語の発音も、多分出演者の中で一番良かったのでは?(僕フランス語わからないので、勘ですが。)3幕目の最初でのシャルロットのやりとりでは、完全にシャルロット役のエレーナ・マクシモワに勝っていましたね。二人を比較すると、マクシモワはメゾということもありますが、声がゴージャスすぎるんです。これも昨年ロイヤルオペラハウスで聴いた、アンドレア・シェニエでのカウフマンの相手役マッダレーナのウェストブレークがちょっとおおざっぱな歌い方で興を削いだのと似た感じがありました。

 美しいメロディを紡いでくれた、マエストロ、エマニュエル・ブラッソン、父親の代役を見事に務めていました。ただ、僕はこのウェルテルを聞き込んでいないのでなんとも言えないのですが、マスネって、弦の音でもう少し際だった音が出てくるのではないかと思うのです。その点が、なんとなくダルだった感じがしました。

しかし、去年から今年にかけて新国立での満足度は高いですね。「運命の力」こそ、いまいちでしたが、トラヴィアータ、沈黙、ドン・パスクワーレ/こうもり(研修所)、ラインの黄金、ファルスタッフ、イエヌーファ、サロメ、そして今回のウェルテル、素晴らしいラインナップでした。来年はいよいよベルカントの「ランメルモールのルチア」が登場、これを機会に毎シーズン、ベルカントとフランス物を入れてほしいですね。

 さて、いよいよ、ヌッチをおっかけてスペインの旅です。仕事があるので、オペラの時に頭をオペラ用に切り換えるのが難しい。特に時差ぼけありますからねー。がんばります。リセウでの「シモン・ボッカネグラ」はフリットリ、サルトリ、コワリョフ(この人初めて聴きます)、で指揮はザネッティ、マドリッドの「ルイーザ・ミラー」はヌッチ以外は知らないキャストですが、指揮が僕の大好きなジェームズ・コンロンです。楽しみだなぁ。

指揮:エマニュエル・プラッソン
演出:ニコラ・ジョエル
美術:エマニュエル・ファーヴル
衣裳:カティア・デュフロ
照明:ヴィニチオ・ケリ
舞台監督:大仁田雅彦

ウェルテル:ディミトリー・コルチャック
シャルロット:エレーナ・マクシモワ
アルベール:アドリアン・エレート
ソフィー:砂川涼子
大法官:久保田真澄
シュミット:村上公太
ジョアン:森口賢二

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