プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

今年後半の観劇プラン

 早くもおせち料理の案内が届いたので(あまりに早い!)、今年もあと3ヶ月ということに気づきました。毎年10〜11月はオペラの公演ラッシュになるので、ここらへんで何を見に行くのか、一旦整理してみました。

 まず、何より残念だったのは、10月8日からパルマのフェスティバル・ヴェルディに行くつもりで、飛行機のチケットもホテルも取っていたのに、肝心の公演の切符が取れず、ドン・カルロ、群盗、ジョアンナ・ダルコの三作を1週間で見るという旅行を断念せざることになったことです。ヨーロッパのエージェントを通しても席が取れなかったのは初めてです。

 それで、気を取り直して秋冬の予定を立て直しました。

■2016/10/2 ワルキューレ                新国立劇場

■2016/10/8あたり コジ・ファン・トゥッテ                 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

■2016/10/16 エフゲニー・オネーギン(マリインスキー) 文化会館

■2016/10/19            ヴェルディ『ルイザ・ミラー』序曲
                      ヴェルディ『マクベス』より舞曲
                      ロッシーニ『ウィリアム・テル』序曲他
                      アンドレア・バッティストーニ指揮東フィル     オペラシティ

■2016/10/30            セミラーミデ                 藤沢市民会館

■2016/11/6                ノルマ                     オーチャードホール

■2016/11/9                ワルキューレ(ウィーン国立歌劇場)   文化会館

■2016/11/26            ナクソス島のアリアドネ(二期会)      日生劇場

■2016/11/27            シューマン:歌劇「ゲノフェーファ」序曲 他
                      パーヴォ・ヤルヴィ指揮
                      ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 横浜みなとみらいホール

というところです。ウィーン歌劇場の、フィガロの結婚、ナクソス島のアリアドネも行きたいのですが、チケット高いですねー。とりあえず、ニーナ・シュテンメ、ペトラ・ラングという大物が歌う"ワルキューレ”だけ押さえました。これがこの秋の目玉です。それで、ナクソス島は二期会で聴こうと思います。ノルマはグルベローヴァの方を取りました。パルマ行きがなくなり、ヴェルディの演目が、東フィルの序曲の公演しかなくなってしまったのは、とても寂しいですね。個人的にお勧めなのは、10月の連休のテアトロ・ジーリオ・ショウワの”コジ・ファン・トゥッテ”。昭和大学のオペラ公演ですが、毎年聴きに行って裏切られたことがありません。
http://www.tosei-showa-music.ac.jp/event/20161008-00000153.html
S席で¥4,800-とウィーン歌劇場の1/10です!

バレエは、時間が取れたら新国立の”ロメオとジュリエット”を考えています。



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ベートーヴェン「皇帝」、「田園」、チョン・ミョンフン指揮

 9月21日、東京フィルハーモニーの定期公演でオペラシティに行きました。今シーズンから定期会員になったので、いつも前から3列目の右手という悪く無い席で、しかもリーズナブルな価格で良質な音楽が聴けるのがとても良いです。

 ピアノ協奏曲「皇帝」はベートーヴェン最後の協奏曲で、既に聴力が衰えていたころの作品ということですが、そのメローディーの力強さと曲の構成力で、彼は天才だったと再認識させられます。

 ピアノのチョ・ソンジンは弱冠22歳、昨年のショパン国際ピアノ・コンクールで優勝し現在売り出し中ですが、僕はこの日初めて聴きました。透明感があり、華やかさもある中で(やや華やか過ぎるか?….)、説得力のある自己主張をします。これは、ピアノのアンコール、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」第2楽章でよりはっきりとわかりました。「皇帝」の弾きっぷりも見事としか言いようのないもので、グイグイとオケを引っ張る感じです。怖いものなしの若者という雰囲気が素敵ですね。決して繊細という感じはしませんでしたが、ショパンも聴いてみたいと思います。

 チョン・ミョンフンのコンサートは最近、「完売御礼」が続いてます。人気ですね。東フィルは、バッティストーニもそうですが、良い指揮者を捉えています。

 田園の音は、各楽器のパートが立ち上がるように響いてきて、田園の色彩が印象派の絵のように(決して細密画ではない)聴くものの体の中で再生されるようでした。身をゆだねて目をつぶって聴いていると、セザンヌの絵の中をさまようような感じ。オケはそのキャンバスのように広がりを感じさせます。

 アンコールは、交響曲第7番第4楽章。もともとスピーディな曲ですが、ミョンフンの指揮はスーパースピード!こちらは引き締まった音の塊がオケから飛んでくるようなイメージ。クライバーもそうですが、ライブで聴くには最も楽しいベートーヴェンかもしれません。

 この日(21日)はNHKホールで、映画「男と女」30周年のコンサートがあり、どちらに行こうか迷いましたが、オペラシティに来て満足でした。

■指揮:チョン・ミョンフン
■ピアノ:チョ・ソンジン*

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番『皇帝』*
ベートーヴェン/交響曲第6番『田園』

ソリストアンコール:ベートーヴェンピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章

オーケストラアンコール:ベートーヴェン交響曲第7番第4楽章

ハーゲンクァルテット@オペラシティ

 初めてハーゲン弦楽四重奏団の演奏を聴いたのは、2005年でした。清冽な弦の音に魅了され、以来、来日の時は公演に行くようにしています。今年のテーマは「フーガの芸術」、バッハ、ショスタコーヴィッチ、ベートーヴェンそれぞれの弦楽四重奏でフーガを聴かせます。

 最初のバッハの「フーガの技法」は、この日のアペリチフ、腕慣らしという感じです。そして、バッハが終わってすぐに拍手の入る間も与えずに、ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏第8番に入ります。これは、おもしろい演奏方法だと思いました。バッハとショスタコーヴィッチ、意外にうまくつながります。プログラムにも書いてありましたが、「バッハから200年飛びながら同様のテンポと似た動きで始まります」。もちろん、ショスタコーヴィッチのほうは大地を切り裂くような力強さがあり、目をつぶって聴いていると音楽の襞の間をさまよい歩いているような感じがしました。僕の親しくしている指揮者が、ハーゲンの演奏するショスタコーヴィッチの素晴らしさを「フレーズ感がはっきりしている」と評しましたが、まさにその通り、音の山脈のようです。ショスタコーヴィッチの弦楽四重奏を聴くのは初めてでした。それに今迄ショスタコーヴィッチでこれだけの強い印象を受けたこともありません。素晴らしい演奏でした。

 休憩を挟んで後半はベートーヴェンの弦楽四重奏第13番、これは難曲だと思いますが、ハーゲンは意外にさらっとこの曲を弾いていきます。そうなんです。大迫力なのに、重さを感じさせない。。ショスタコーヴィッチにしても、重い曲なのですが、その重さを感じさせない。これは、特にチェロのクレメンス・ハーゲンとヴィオラのヴェロニカ・ハーゲンの二人の音が、軽やかと言うか、押さえたトーンに徹しているのに由来しているのではと思いました。この日前から3列目の中央という席で聴いたので、いつもより中低音がはっきりと聞こえたのです。

 ハーゲンの魅力は、楽器の魅力でもあります。この4人の素晴らしいテクニックは、日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウスの「パガニーニ・クァルテット」という17-18世紀の名器で思う存分発揮されています。これだけの楽器で弦楽四重奏を聴くのも実に贅沢です。

 ハーゲンの4人、白髪も増えてだいぶ歳を取ったなぁと思います。彼らの音も、年を経るに従って、単に「清冽」というのではなく、「熟成」した音になってきた感じがあります。この日はアンコールはありませんでしたが、(大フーガの後にアンコール演奏は酷でしょう)いつも弾いてくれる、ラヴェルの弦楽四重奏の第一楽章を今のハーゲンで聴いてみたいものです。

ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン, Violin)
ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン, Violin)
ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ, Viola)
クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ, Cello)

J. S. バッハ:フーガの技法~ コントラプンクトゥス1~4
J. S. Bach: Die Kunst der Fuge BWV1080 ~ Contrapunctus 1-4

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 作品110
Shostakovich: String Quartet No. 8 in C minor Op. 110

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 作品130
Beethoven: String Quartet No.13 in B flat major Op.130

ベートーヴェン:大フーガ 作品133
Beethoven: Grosse Fuge Op. 133

カプレーティ家とモンテッキ家、藤原歌劇

 今年から来年にかけての藤原歌劇団は、とても意欲的です。“トスカ”や“愛の妙薬”は定番ですが、7月の“ドン・パスクワーレ”、そしてこの“カプレーティ家とモンテッキ家”、来年1月のマスネの佳作“ナヴァラの娘”など、なかなか日本では見られなかった公演にチャレンジしています。興行的には多分、厳しいものがあるかと思います。今回の公演もオペラパレスで空席が目立ちましたが、イタリアオペラをしょって立つという意気込みを感じます。

 今回の“カプレーティ家とモンテッキ家”、ちょっと間違えると“モンチッチ家”と言ってしまいそうですね。ロミオとジュリエットの話です。ロミオとジュリエットはどちらかというとバレエでは何度も見ているのですが、オペラでこの演目を生で聴くのは初めてでした。ベッリーニの作品で、今上演される作品では、何と言っても“夢遊病の女”が一番でしょう。そして、“ノルマ”、“清教徒”と続くと思います。“カプレーティ家とモンテッキ家”はこれらの代表的3作品の数年前に書かれたもので、それだけにそこそこに後の作品につながる旋律が聞こえて来ます。悲劇とは言え、2幕目の最後を除いての9割方は長調で構成され、魅惑的なベッリーニならではの息の長いメロディーが魅力です。

 序曲は“ノルマ”のそれと双璧をなすような、ベッリーニ渾身の大序曲でした。今回、藤原初登場という指揮者の山下一史は、インテンポなリズム感で、イタリアらしく、とても満足な音作りです。人によっては、もっと山のある、抑揚感のある指揮を期待する向きもあるかもしれませんが、ベッリーニの美しい旋律は、この山下のように冷静にそして上品に奏でるのが良いと僕は思います。

 あらすじは、とにかく“ロミオとジュリエット(オペラでは「ロメオとジュリエッタ」になる)”ですから、あまり字幕を追う必要もなく、舞台に集中できました。この日の聴きどころは、やはりジュリエッタを歌ったソプラノの高橋薫子、この人は藤原で“夢遊病の娘(藤原では「女」ではなく、「娘」になります。)”のタイトルロールを見事に歌ったのが印象に残っていますが(2012年)、この日も美しいコロラットゥーラで、鈴を転がすような声。素晴らしいベルカントを聴かせてくれました。失礼ながら、そろそろ50歳に近いと思うのですが、声が全く重くならず、レッジェロなまま熟成していくのは、日本のグルヴェローバかと思ってしまいます。この声をキープするには、相当の節制と練習が必要だと思います。一幕2場「ああ、いくたびか」は、山下の奏でるオーケストラの上を高橋の美しいアリアが流れるように響きます。圧巻でした。

 ロメオ役の向野由美子も、ナイーブな役柄を上手に表現し、情感が見事に現れる歌唱でした。ただ、高橋のクリアな声に比べると、ややアピールが弱いかなとも感じました。カーテンコールでブラボーの多かったテバルトの笛田博昭、持ち前の声量を生かした破綻の無い歌唱はとても良かったです。ただ、個人的には、彼の声は、ヴェルディの後期以降に合うような感じがします。このオペラには大声量過ぎるような......。今回のように、ベルカントの主人公とはやや釣り合わないか? ただ、ベッリーニも後半の作品は、リリコの歌手が歌った公演も多数あるので、これは好みの問題でしょう。バルトリとカラスのノルマを比べてどちらが好きかというような感じです。

 やや残念だったのは、カッペリオの安藤玄人。2幕目以降で音量が上がったところでは、大変良い歌唱を聴かせてくれたのですが、1幕目のピアノ、ピアニシモのところでは、音程が明確に聞こえて来ないんです。ベッリーニのバス、バリトンは難しいですね。

 今回のプログラムで「ベッリーニのオペラに見る特異性」について書かれている南條年章さんのオペラ研究室では、今年ベッリーニを取り上げ、「清教徒」や「ザイーラ」をピアノ伴奏で上演していますが、それでも日本では聴く機会の少ないベッリーニ。新国立劇場でベッリーニが上演されたのは上記の3演目ですが、主催者はいずれの公演も新国立劇場ではなく藤原歌劇団と江副記念財団だというのも悲しい話です。ミラノのスカラ座の入り口ロビーにある音楽家の彫像の4人は、ロッシーニ、ヴェルディ、ドニゼッティ、ベッリーニなのですから、もう少し目をかけてほしいものです。

 最後になりますが、藤原の公演でいつも思うのは、プログラムが充実していること。今回も1,000円の価値をはるかに超える内容があります。そして、公演終了後、すぐに歌手がホワイエに廻ってきて、帰途につく聴衆に挨拶をする。素敵ですね。その横には総監督の折江さんの姿も。劇団が総出で公演を支えている感じがして、とても好感が持てました。

 ここ1ヶ月、ブログを更新しなかった間に、ダニエラ・デッシーとヨハン・ボータが亡くなりました。二人ともまだ50代、これからが楽しみだったのに。ご冥福をお祈りしたいと思います。

指揮:山下一史
演出:松本 重孝
ロメオ:河野由美子
ジュリエッタ:高橋薫子
カッペリオ:安藤玄人
デバルト:笛田博昭
ロレンツォ:東原貞彦
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

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