プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

チョン・ミョンフンのマーラー「復活」

 オペラシティでの、東フィルの定期演奏会に行ってきました。ここの会員も2年目に入り、ずっと同じ席(前から6列目やや右)で聴けるので、なんだかアットホームな感じがあります。また、平日の夜の公演ですが、オペラと違って、最長でも2時間程度で終わるので、車で1時間のドライブで10時頃には帰宅できるのも気が楽です。

 この日の演目はマーラーの交響曲第2番ハ短調「復活」でした。マーラー自身がこの曲に関して「こん棒で床に叩きつけられたかと思うと、次の瞬間には天使の翼の高さにまで引き上げられる。」と言っているだけあり、聴く方にも体力を要求されるものです。ミョンフンは2001年に東フィルで「復活」を指揮しており、その時の評判がとても良かったようで、この日はその再現、とプログラムに書かれていました。

 第1楽章のソナタは、「葬送行進曲」になっており、不安を恐怖をあおるように始まり、その後金管や打楽器で激しく高まります。ミョンフンらしく、激しくなっても雑にならない、聴く者の心をわしづかみにするような指揮です。

 第2楽章は特にワルツでアンダンテ、美しい調べです。舞曲のようなメロディとテンポは「英雄の幸福だった時の回想」を表しているのだそうです。この楽章は激しいところはなく、ピアニシモの弱音の美しさが際立ちます。なお、「第1楽章と第2楽章の間に、少なくとも5分の休みを置く。」というマーラーがスコアに書き込んだノートは、守られずに1分ほどの感覚で第2楽章に移りました。

 第3楽章から第5楽章にかけては、途切れることなく50分の演奏がラストまで続きました。ここで、ようやく第4楽章「原光」でアルトの独唱が、第5楽章で合唱が入ります。アルトの山下牧子、何度もオペラでは聴いていますが、この日は最高の歌唱を聴かせてくれました。まろやかで、伸びのある、まさに「永遠の祝福」という感じの声。そして、新国立合唱団の合唱、素晴らしかったです。これほど素晴らしい合唱はめったに聴けない。演奏が終わってからの拍手は10分以上続きました。
 今月はジョナサン・ノットと東京交響楽団もマーラーの「復活」をやっています。両方聴かれた方は比較ができてうらやましいですね。こちらはアルトは藤村実穂子です。

 ミョンフンの指揮を聴くたびに思いますが、大胆で緻密、そして知的な音。これはいつでも彼の指揮の根底に流れています。また、観客の拍手に対して、いつも控えめに対応し、歌手や伴奏者を讃え、自分は指揮台にも上らないという姿勢は、とても好感が持てます。

 とは言え、久しく彼のオペラは聴いていない。来年2月にスカラ座で、“シモン・ボッカネグラ”を振ります。タイトルロールはレオ・ヌッチ。聴きに行きたくなりました。
2017年7月21日
東京オペラシティ コンサートホール
指揮:チョン・ミョンフン
ソプラノ:安井陽子
メゾ・ソプラノ:山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団


 
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音楽教室 vs/ JASRACの問題に思う

昨今、音楽教室へのJASRACによる著作権料の課金の問題がニュースになっています。この件、僕のもうひとつのブログ、「湘南人草間文彦のライセンシング日記」でとりあげました。ご興味のあるかたは、どうぞ下記を覗いてみて下さい。

http://brandog.exblog.jp/26824652/

樫本大進&アレッシオ・バックス リサイタル

 7月12日水曜日、平日の19時からの公演です。家内がプロモーターのジャパン・アーツの会員(夢倶楽部)なので、年に一回、一人分のチケットがただになります。これを利用しての鑑賞。このシステムはとても良いです。今まで、希望した公演のチケットを取れなかったことはないし、今回のように僕も一緒に行く時は、座席を隣同士に取ってくれます。

 樫本大進は、昨年の11月、横浜で、パーヴォ・ヤルヴィが指揮するドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団と共演した際に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲 ニ長調 を聴きました。その時の印象はとても良かったのですが、一曲だけしか聴けなかったので、今回はもっと堪能しようと、、、、どちらかと言うと、家内のほうが張り切ってオペラシティまで出かけました。

 1曲目のモーツァルトのヴァイオリンソナタ ト長調は、公演前に他の奏者でも聴いて予習をしていたのですが、樫本のヴァイオリンの実に柔らかく抱擁されるような音色と、バックスの繊細なピアノタッチが、ヴァイオリンとピアノの一体感を醸し出していました。樫本の音色の柔らかさは、彼が使用しているガルネリの音質もあるのでしょうか?ガルネリの裏板はストラディバリよりも多少厚く、その分音が丸くなるとも言われています。

 続くブラームスのヴァイオリンソナタ第一番「雨の歌」は、とにかく品格がありました。曲が進むにつれて緊張が増すのですが、気品のある演奏に感動しました。

 休憩後の曲は、「神話/3つの詩」。ポーランドの作曲家シマノフスキの印象主義の作品。神話をもとにしているということで、非常に感性を研ぎ澄ました音で構成されます。ともすれば、神経質になりそうなこの曲も、樫本とバックスは上品で、柔らかく奏でます。第1曲の「アレトゥーサの泉」のピアニシモで高音に消えて行くヴァイオリンの音色は、5月にミュンヘンの美術館、“ノイエ・ピナコテーク”の印象派の部屋で見つけた、オディロン・ルドンの神々しい芥子の花の絵を思い出しました。続く第2曲「ナルキッソス」、第3曲「ドリュアスとパン」も、絵画的な曲で、最後、ピチカートで終わるところは芥子の花が散ったようでした。満足。。。。

 この日は、2つあるプログラムのうちの「2」のほうだったので、最後の曲は聴きたかった、ラヴェルのヴァイオリンソナタではなく、グリーグのヴァイオリンソナタ ハ短調でしたが、グリーグらしいメロディの美しい曲でリサイタルの最後を飾るのにふさわしい曲でした。アンコールではグルックの「メロディ」という素敵な“おまけ”がつきました。

 樫本やバックスの世代より若い天才たちのきらびやかな演奏を聴くのも、オペラシティでは楽しみですが、今日のような熟成した大人の音の演奏を聴くのも良いものです。素晴らしい体験でした。

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K. 301

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 Op. 78「雨の歌」

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シマノフスキ:神話 Op. 30

グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 Op. 45

ノルマ2回目観劇

 今年唯一、同じ公演のチケットを2回分取ったのが、この「ノルマ」です。デヴィーアのノルマは絶対良いだろうと思いましたし、これが日本で最後の彼女のオペラ出演になるかもと思ったのがその理由ですが、やはり正解でした。(最後のオペラは10月に再来日しての「ノルマ」になりましたが)

 今日の公演、全体に土曜日よりも良かったです。ただ、今日はS席、1階の10列目くらいの真ん中という席で聴いたのですが、2階と音が全然違う。知り合いで、今回アンダーを努めている歌手の人から、「日生は一階と上とで音が全然違う」と聞いていたのを思い出しました。2階が16cmの2wayスピーカーなら、1階は38cmの3wayという感じ。息づかいまで聞こえます。新国立でも1階、2階、3階で、時々によって違う場所で聴きますが、ここまでの違いはありません。今日のデヴィーアのコロラトゥーラの、玉が転がるような美しさも、高音のきらめきも、土曜よりも一段アップでしたが、席のせいもあるかもしれません。視界的には2階のほうが全然良いです。今日は前に座高の高い方がいらして、だいぶ舞台が隠れました。日生のS席は音響料なんですね。

 デヴィーア以外の歌手は、これははっきりと土曜より良かったと言えます。特にポリオーネの笛田さん、1幕目から安定した歌唱で、中高音が輝く響きを持っていました。これから期待しています。第二幕で、祭壇につながれた場面での、デヴィーアとの2重唱“In Mia Man Alfin Tu Sei(あなたはついに私の手に)”がものすごく良かったです。この曲、短いんですが、ベッリーニの美しい曲作りの才能が結晶のようになっています。なんて高貴な響きの曲でしょうか!しびれます。You Tubeにノルマ・ファンティーニの動画がありましたので、載せておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=LWg3MFS6VDg

 そして、アダルジーザを歌ったラウラ・ポルヴェレッリも、特にデヴィーアとの2重唱の時のアジリタが素晴らしく決まっていました。土曜日はちょっと抑えめだったかなと今日のを聴いて思いました。先日のブログにも書いた” Mira, O Norma”の2重唱もワンランクアップだったのですが、その後にカバレッタのように続く” Si, Fino All’Ore Estreme(最後の時まで)”が素晴らしかったですね。この曲って、ラクメの“花の二重唱”にならぶ、美しい女声二重唱だと思います。めったに“Brave!”というかけ声をかけられる時ってないですね。ちょっと古いですが、サザーランドとマリリン・ホーンの素晴らしいのを載せます。

https://www.youtube.com/watch?v=iUxI726OKvo

 今日の休憩にも、オペラ愛好家の仲間に何人か会いましたが、僕と同じくらいの歳のIさんは、生のデヴィーアを初めて聴くとのことで、「ノックアウトされました!」と言っていました。彼はフランス歌曲のことがすごく詳しいので良く話しを聴きます。そして、彼の意見ではノルマでの最高音は、僕が前のブログに書いた3点ハ(Hi-C)ではなくてEではないかとのこと。たしかにHi-Cでは男声の最高音ですものね。ちょっと調べて見ます。

 指揮とオケも、土曜より締まった感じで良くなっていたと思います。ピリオド楽器風にしている序曲は、バルトリのノルマを指揮しているアントニーニのピリオド楽器オーケストラを聴きこんでいる僕なんかはイタリアっぽくて大好きですが、それ以前のノルマのバイブルになっている、カラスの様々なバージョン、セラフィンの指揮とかを聞き慣れているひとには、ちょっと異質に聞こえるのではないかと、思ったりしました。今日は1階席で、指揮者の優雅な手の動きが見られなくて残念。。。。

 先週は、チェドリンスもリサイタルで、Casta Divaを歌ったとのこと、また、フランスのソプラノ、ナサリー・マンフィーノも武蔵野のリサイタルで同曲を歌ったとのこと、1週間にこれだけCasta Divaが日本で歌われた週はかってなかったのでは?と思ってしまいます。

 さて、来週は樫本大進のリサイタルです。

デヴィーアの“ノルマ”

 7月1日の日生劇場のマチネ、藤原歌劇団の「ノルマ」の公演に行ってきました。今年、国内ではとても楽しみな公演のひとつで、マリエッラ・デヴィーアが主演する1日と4日の2日間のチケットを取りました。ノルマは日本ではなかなか聴けない公演です。僕もまともに聴いたのは、2013年のザルツブルグ音楽祭でのチェチリア・バルトリがタイトルロールの公演くらいです。昨年の11月に、グルベローヴァの来日公演で聴いてはいるのですが、このブログにも記したように、大変残念な出来で、「聴いた」うちには入りませんでした。あとは音源で、ジューン・アンダーソン、フィオレンツァ・チェドリンスというところです。

 デヴィーアもグルベローヴァより2歳だけ歳下の69歳。前に聴いたのは、2013年のラ・トラヴィアータで、これはとても素晴らしかったのですが、今回はどうか、正直ちょっと不安でした。

 第一幕目、オロヴェーゾとドルイド(ドロイドではないですね。)の歌に続き、ポリオーネとフラーヴィオのやりとりがあり、そしてノルマ登場。第一声の” Sediziose voci, voci di guerra , Avvi chi alzarsi attenta ,Presso all'ara del Dio? 「不穏な声が、戦いの声が沸き起こり、注意を引く。神の祭壇に立ち向かう。」“の部分が、素晴らしい!高音までスクッと、一気に立ち上がる声、そして音程がきっちりあって止まる。まさに巫女ノルマの声です。その後、約3分後に始まる難曲”Casta Diva「清らかな女神」)、グルベローヴァはここで破綻を来したのですが、デヴィーアは、弱音の中高音、そして天に昇っていくような3点ハ音も、本当に女神が歌っているような声です。この年齢になっても、ソプラノとして高音に全く衰えが見えません。声だけ聴いていたら20代ですね。興奮しました。

 先日のマッシモ劇場の「ラ・トラヴィアータ」の舞台をヌッチが引き締めていたように、この日の舞台はデヴィーアが締めます。いや、もうデヴィーアのマスタークラス(藤原で過去になんどもやっているのですが、すごく厳しいらしいです。)のようです。廻りの歌手が、幕が進むに連れてデヴィーアに引っ張り上げられるようにどんどん良くなってくるのです。特に一幕目ではやや節回しと音程に気を遣いすぎていた嫌いのあった、ポリオーネの笛田博昭が、2幕目最終場でのノルマとの二重唱では、情感の表現が素晴らしく、また中音部が輝くイタリア音(なんだ?)になり、「笛田さん、こんな凄いんだ!」と思ってしまいました。笛田は、持ち味の声量の豊かさが生きていました。

 デヴィーアは2幕目に入ると、母として、女としての迷いと悩みを託すように歌うのですが、ここがまた素晴らしい。歌唱技巧ではバルトリでしょうが、表現力ではデヴィーアかと思います。ノルマという女性は、ポリオーネの子供を産んだり、その子供を殺そうとしたり、最後に自分を生け贄にするところなど、巫女でありながら、けっこう煩悩の虜なんですね。ここらへんの台本がおもしろいです。カラスのノルマも何度もCDで聴きましたが、やはり技巧に走っている、、、もちろん、悪魔的な魅力のあるノルマなんですが、人間味を一番出してくれたのはデヴィーアかと思います。

 アダルジーザは、メゾソプラノのラウラ・ポルヴェレッリ。台本の想定では20代の若い娘ということになり、ソプラノで歌われることも多いのですが、この日は繊細でありながら、落ち着いたイメージで歌い上げていました。第2幕1場で、ノルマと理解し合い、若いと友情を歌う二重唱“Mira o Norma
「ご覧なさい、ノルマ」“は、聴き応えがありました。

 指揮のフランチェスコ・ランツィロッタはなかなかのイケメンのローマ人。初来日です。序曲は、びっくりするぐらいピリオド楽器風のエッジの効いた音で表現します。ここまでやらなくても、、という感じはしましたが、これで、彼の作りたいノルマの音楽の設計図が良くわかりました。最近、設計図の無い指揮者はあまり聴きたくないんです。歌手にうまく歌わせるという点では、まさにオペラの指揮者という感じですが、決して後ろに引いているわけではなく、出るところは出るという見切りの良さがあって、好感が持てました。日生劇場でこういう指揮者が振ると、イタリアの小劇場のようで幸せです。

 粟国淳の演出も素晴らしかったですね。限られた予算の中で最大の効果が出る舞台装置。円形劇場とも祭壇とも見える丸い台座を、森の木の集合のような壁と、宗教的なイメージの緻密な模様の壁をコンビネーションにして、覆ったり、はずしたり、一部だけを覗かせたり、、、結局、この舞台装置だけでずっと通すのですが、全く飽きません。藤原歌劇団は今、粟国さんとマルコ・ガンディーニというクレバーな演出家がいて舞台を見るのが楽しみです。

 この日は、C席\6,000-の天井桟敷でしたが、新国立のA席より条件が良いです。近くにはオペラ関係の知人がたくさんいて、同窓会みたいになりました。楽しかったです。

 さて、明後日の火曜日も聴きに行きます。今度は一階席です。

指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ
演出:粟國 淳

ノルマ:マリエッラ・デヴィーア
アダルジーザ:ラウラ・ボルヴェレッリ
ポッリオーネ:笛田博昭
オロヴェーゾ:伊藤貴之
クロティルデ:牧野真由美
フラーヴィオ:及川尚志
合唱:藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

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