プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

シモン・ボッカネグラ at チューリッヒ国立歌劇場

さて、いよいよ先週ヨーロッパで見て来たオペラの話です。

今回のハイライトは、何と言ってもレオ・ヌッチがタイトルロールを唄うシモン・ボッカネグラ。ヴェルディが前期にピアーヴェの台本に基づいて作曲した演目を、後年アリーゴ・ボイトが書き直した台本でヴェルディが曲を作り変えたものです。順番としてはオテロの前になります。

シモン・ボッカネグラは、僕が一番好きなヴェルディの演目なのですが、何故か日本では滅多に上演されません。この10年くらいは上演されてないんじゃないでしょうか?しかし、欧米ではかなりポピュラーな演目なために、僕は、今まで2回、アメリカまでシモンを見に行きました。一度目は2008年のサンフランシスコオペラ、シモンはドミトリー・ホロトフスキー、アメーリアにバルバラ・フリットリが予定されていたのが、直前にキャンセルされてしまい残念でしたが、演出が素晴らしく楽しめました。ホロトフスキーのタイトルロールも重厚感があって、なかなか良かったのですが、彼がジェノバの総督というのは、見かけ(銀髪)も低い声も、やや違和感があり、どちらかというとミンスクの総督という感じがありました。彼、銀髪がトレードマークですが、最近のMETのジェルモンでも銀髪というのはなんか違和感ありますね。染めちゃったらいいのに、と思いますが。

それで、次ぎにシモンを見たのは、2010年のニューヨークメトロポリタン歌劇場です。この時は、バリトンに声を落としたばかりのドミンゴ、フィエスコにはジェームス・モリス(まだいた!)という、グッとくる配役でした。ドミンゴはバリトンですが、やはりテノールっぽい華があり、ホロトフスキーの暗いシモンとは逆のシモンを演じてくれました。彼は、翌日の"ステュッフィーリオ”では、ドミンゴは指揮棒を振っていましたから、まさしく万能ドミンゴ、たいしたものだと思いました。シモンの時の指揮はレヴァインで、これも文句はなかったのですが、それでも僕としては最初にDVDで見た、アバド指揮、カルロ・グエルフィ版(2002年フィレンツェ歌劇場)のほうがしっくり来て、「これだ!」というシモンに今日まで生では出会っていませんでした。

しかし、どう考えてもシモンにぴったりなのは、レオ・ヌッチ、というかヴェルディのバリトンはレオ・ヌッチで決まりなんで、いつかヌッチのシモンを見たいと思っているうちに、ヌッチも、この4月で70歳になりました。最近は不調の時もあるとか、衰えたと聞き及ぶに至り、これは今のうちになんとかヌッチのシモンを聴きに世界の果てへでも行こうと思っていたところ、チューリッヒ歌劇場での公演を知ったわけです。

公演当日の4月12日、朝ウィーンから飛行機でチューリッヒに移動しましたが、チューリッヒはあいにくの雨、しかも寒い。ヌッチ降板なんてことにならないでほしいと祈るような気持ちで劇場に向かいましたが、良かった、ヌッチ予定通り登板(野球じゃないって)です。

指揮のカルロ・リッツィのいやに速い序曲で始まったプロローグ、パオロ役のマッシモ・カヴァレッティ、30代半ばでポップスも歌う歌手のようですが、なかなか締まった良い声でスタートしてくれました。最初のパウロが締まらないと、この演目、最初からずっこけるのです。しかし、ソプラノのイザベラ・レイは、高音をよいしょと持ち上げる感じ、フィエスコのカルロ・コロンバラは声が下がり切らない感じで、これはやはり天気のせいもあるかなぁと思いながら聴いていました。

で、いよいよシモン登場 "Um amplesso.."の第一声、すごい!他を圧倒、ホールをゆるがすような声、ヌッチの口からは星がキラキラと。。(joke) この日のヌッチは絶好調でした。一幕目終わりのカーテンコールから、満足そうな笑顔でした。

2幕目に入ってからは、レイ、コロンバラも明かに調子を上げ、また、ガブリエレ役のファビオ・サルトリが、これぞイタリア人テノールという美声で聴かせました。ただ、100kgはあろうかという巨漢で、見た目はやや難ありでした。アメーリアとシモンの仲を疑うところは、逆に真実実が出ましたが。

演出は、マリオ・デル・モナコの息子、ジャンカルロ・デル・モナコ。これは良い演出でした。全編にわたり、リグリアの海の香がするような演出。そして、プロローグの終了のところで、民衆にパオロをかつがせたりしない自然な流れ、圧巻はシモンが息絶えるシーン。通常は舞台の中あたりで寝台や椅子に寝たり、持たれたりして死んでいくのですが、今回は出演者の後ろにさがり、海の近くに倒れ込むようにして行きます。そうすると、舞台の最後にシモンが見えなくなるのですが、海賊だったシモンが海に帰って行くという感じが出て、僕は素晴らしい演出だと思いました。

一方、リッツィの指揮は、まずテンポがやや速い。特に序曲はアバドの倍くらいでスピード違反ではないか?それと、抑揚の付け方が時に大きすぎる気がしました。このオペラは、何となくリグリアの海のうねりと波音が基本にあると感じます。ですから、もう少し淡々としたところがあっても良かったというのが個人的な感想。ただ、この日我々が座ったところが、最前列の右端の方だったので、金管のセッションが大きく聞こえる(特にホルン)ということもあったかもしれません。余談ですが、パーカッションを受け持っているお姉さん、きれいな人でした。

でもリッツィさん、いいお父さんらしくて、バルコニーの最前席に奥さんと小さい娘さんを入れているのですが、プロローグと一幕目の間、演奏が止まっている間に、娘さんが一生懸命パパに向かって手を振るのに、困ったように、指揮棒を握り替えておなかのあたりで手を振って目をやっていました。なんかなごみますね。

で、シモンがパオロに毒入りの水を飲まされて、段々と弱っていく3幕目のの最後のところは、だいたいいつも涙ぐむのですが、今回は、最後の10分は涙ボロボロ、アゴがガクガクで、もう感動しっぱなしでした。シモンの最後は泣けます。椿姫の最後より、リアリティがありますし、最後に自分の敵を許して逝くところも感動敵です。で、付け加えれば史実としては、シモンが総督に就いてたのは5年に過ぎず、自身の死後には、許した自分の敵にボッカネグラ一族は滅ぼされてしまうんですよね。そんなことも考えると涙無しには見られないんです。

最後のカーテンコールでは、出演者が交互にヌッチにハグしに行き、彼も本当に満足そうでした。指揮者がステージに上がってからも拍手が鳴り止まず。しだいに、バン、バン、バンとアンコールを促すような拍手に。ついにリッツィがヌッチ一人で前に出てコールを受けるように押し出します。遠慮するヌッチですが、最後には彼一人にスポットがあたり、(下記一番下の写真)大拍手のうちに終演となりました。

歌手としては、もういつまで調子を保てるかわからない年齢になっているヌッチですが、僕が今まで何回も見ているヌッチの中でも最高のパフォーマンスだったと思います。僕達夫婦はラッキーでした。

この日は、遅くホテルに戻っても、興奮してなかなか寝付けませんでした。

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リグリアの海に戻っていくシモンの第三幕を終えたところ。

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出演者と満足そうにカーテンコールを受ける

th-2012-04-12 23.02.43

最後に指揮者リッツィや出演者に促され、一人でコールを受けるレオ・ヌッチ。大拍手!
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