プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ナタリー・デセイの椿姫

前にも同じタイトルで、ブログ書いたことありました。たしか去年のトリノ王立劇場来日公演の時。あの時のデセイも良かったです。

今週は、デセイの椿姫を2回見るという贅沢をしました。と言っても、DVDと映画館のMETライブビューイングですから、コストも安く見られたのですが。まず、DVDのほうは2010年のエクサンプロヴァンスの野外公演です。Jean-Frncois Sivadierの演出は、ウィーン国立歌劇場と、ディジョン歌劇場との共同制作みたいですが、この公演だけのための演出でしょうか? デセイでなければ、できないのではないかという感じの意欲敵な演出です。

 時代背景が現代というのは、椿姫の場合は、個人的にはあまり好きではないのですが、それでも今まで見た椿姫の演出の中では一番良かったと思います。なにより、アルフレードが、とても良く描かれています。どちらかというと、アルフレードは、椿姫の中ではあまり丁寧に性格表現されておらず、アホのボンボン(ひどい言い方すぎますね)にしか見えない感じがあるのですが、このエクスの演出では、かなり知的に、しかも悩めるかわいそうな男に見えるのです。これは、アルフレード役のカストロヌオーヴォが、イケメンということもあるのかもしれませんが、2幕目でヴィオレッタに金を投げつけた後に、一緒に倒れ込んでキスをするという演出や、3幕目、ヴィオレッタの館にアルフレードが到着した時に、普通はすぐに二人が抱き合うのですが、しばらくの間舞台の袖で、変わり果てたヴィオレッタを見て辛さをこらえる演出などが、非常に新鮮で良かったです。ただ、このテノール、声の方はまだまだという感じ。1幕目は大丈夫かなぁ、と思いました。2-3幕目になってきてだんだんと良くなりました。

一方のデセイは、1幕目からエンジン全開で、高音もきれいに伸びて、演技も素晴らしい。よくもまあ、これだけ演技しながら歌えるもんだと思ってしまいました。もう完全に役になりきっているのですね。2幕目から3幕目は、DVDというのに、のどにグッとくるような感動があり、最後の場面の倒れ方は、もはや神業のような演技。やはりデセイは、格が違うというか、オペラ歌手という枠を超えた表現者です。バレエで言えば、ルグリかデュポンか。。

さて、今日がラスト日で、なんとか間に合って映画館で見て来た、METのライブビューイングのほうは、実際には今年4-5月にMETで公演されたものですが、デセイの不調のために、何回かは韓国人のソプラノの代役になったことそうです。ライブビューイングの撮影の日は無理して出てきたようで、声としてはかなり苦しそうでした。一幕目で高音が上がりきらなかったと、インタビューでデセイ自身が答えていましたし、何より、全体にかすれたような声質になっていましたのが気になります。

デセイは今までに、2-3回、喉の手術をしていて、そのたびに変わる声質を、うまく利用して新しい演目に挑戦してきていますが、今回は、ちょっと心配です。

しかし、そんな状態でも、自分が長年かけて”歌える”ところまで到達した、椿姫に対する、意欲というか情熱はすごいものがあります。僕は、本当は彼女が、初演の場所に指定したサンタフェの半野外劇場(素晴らしい建築です)に見に行きたかったのですが、これはかないませんでした。

今回のMETの演出は、2009年(?)のザルツブルグ音楽祭でプラチナチケットになった、ネトレプコ、ビリャソンがやった、ウィリー・デッカーの演出を、アレンジしたものでした。この演出、ドイツっぽい、現代的、幾何学的演出ですが、まあ気に入っています。デセイは、歌いながら服を着替えたり、大道具のソファのカバーを全部取っていったり、本当に良く動きます。

僕が好きなところ、2幕目の"Morro'"「死にます」という場面、ここから一気にギアチェンジされて、トラヴィアータは一気に悲劇に突入するのですが、METでの"Morro!はエクスより迫力ありましたね。ちなみに、カラスは、ここで机をたたいていたようで、ドンという音が聞こえます。

で、2幕目から3幕目は、途中休憩がないこともあって、デセイの歌と演技に一気に飲み込まれます。

最後に力尽きて、倒れるところ。この”成り切り”感はネトレプコの比ではありません。

デセイがこれだけ演技をすると、決して演技がうまいとは言えない(大根とは言いませんが)、ポレンザーニや、ホボロストフスキーも、それなりに頑張って演技するんです。

感動のラストでした。すぐにカーテンが開いて、デセイがコールに応えるのですが、まだ、半分トラヴィアータから抜け切れていない感じなんですね。昔、METでバレエで、マラーホフとヴィシニョーワのマノンを見ましたが、それは素晴らしいものでした。で、終わってから、カーテンコールになっても抱き合ったまま、動けないんですね。そのくらい役になりきっていたのでしょう。

今日のデセイは、そういう凄みを感じました。ああ、本当に素晴らしいオペラ歌手です。

今秋の、サントリーホールでのゲルギエフ指揮の”ランメルモールのルチア”の演奏会形式までに、声の調子が良くなってくれることを期待しています。

昨年後半から、かなりヴェルディの演目を生で見ました。ドン・カルロ、エルナーニ、イル・トロヴァトーレ,ナブッコ、シモン・ボッカネグラ....... やっぱりヴェルディは良いです。ヴェルディだけは、その人と、歴史についても、少しは勉強したので、オペラに入り込みやすい。この作品は、脚本家マリーア・ピアーヴェの最高傑作(検閲を通したという意味でも)ではないかと思います。

あー、やっぱり生で、聴きたいなぁ
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