プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

極私的オペラ10選

僕がオペラを見始めたのは2003年。今日まで10年の間にずいぶん見て来たと思い、暇な土曜日だったので数えてみたら公演では約120。月1回だから、思ったより少なかった印象。DVDなどで見たのも同数くらいと思います。ちなみに観劇自体は230回くらい行っていて、あとの110回はバレエ、交響楽、管弦楽、ボサノバ、Jazz、歌舞伎という具合ですが、バレエが50回くらい。これは思ったより多かったです。

でもって、個人的なオペラのベストテンを並べてみました。

1.シモン・ボッカネグラ
2.ラ・トラヴィアータ
3.ドン・カルロ
4.アイーダ
5.夢遊病の女
6.オテロ
7.リゴレット
8.ナクソス島のアドリアネ
9.イル・トロヴァトーレ
10.ドン・ジョヴァンニ
番外:ニーベルングの指環

という感じです。10のうち7つの演目はヴェルディです。とにかくヴェルディは大好きでイタリアに墓参りに行ったくらいですから、必然的にそうなるのですが、彼の作品の中で多分一番多く見ているのは、ラ・トラヴィアータ、椿姫だと思います。国内外でヴェルディの作品としては一番多く上演されているでしょうから見るチャンスも多くなるのですが、ヴェルディのオペラの中では、音楽が旋律を奏でる(と言えば当たり前ですが)美しさは一番と思います。また、ヴェルディファンとしては、当時ヴェルディと生活を共にしていたソプラノ歌手、ジュゼッピーナ・ストレッポーニの生い立ちやイメージと、デュマ・フィスの原作をかぶらせて、当時ヴェルディのおかかえ脚本家のようになっていた、フランチェスコ・マリア・ピアーヴェが苦労して当時のミラノを領地としていたオーストリアの検閲を通したことやら、初演の失敗など裏話にこと書きません。トラヴィアータは実在の人物、アルフォンシーヌ・プレシであり、アルフレードは椿姫の原作の作家デュマ・フィス(小デュマ)で、プレシの墓はパリにあることは周知のことですが、先日、学習院のオペラ講座で知り合った、オペラ通の男性の方に、ジェルモンはデュマ・フィスの父アレクサンドル・デュマ(大デュマ:三銃士や巌窟王の作家)で、ジェルモンがマダム・ヴァレリーの家を訪れたことも、アルフレードが借金を返しにパリに行ったが、高利貸しに「父親(大デュマ)の一文がなければ金を出せない」と言われたことも実話であると教えられ、びっくりしました。フローラやドルフォール男爵も、実在のモデルがいたそうです。椿姫って、裏を知れば知るほど面白いのですよ。

そして、あの序曲、オペラのストーリーを後ろからなぞり返すように作られた美しいものですが、あの序曲ほど、指揮者によって組み立てが違う序曲もないのではないかと思います。昔、色々な指揮者の序曲の長さを測ったのですが、一番長かったのは、カラスと共に、スカラ座の"椿姫”を築き上げた、カルロ・マリア・ジュリーニの2分58秒。一番短かったのは、ロリン・マゼールの70年頃のベルリンでの1分58秒。1分も違うのです。僕自身は、ジュリーニの序曲にはぞっこんです。

その後、実際にスカラ座でマゼールの指揮で椿姫を見ましたが、この時は時計ははからなかったものの、とても遅い演奏でした。

今までで最高の椿姫は、2007年にメスト率いるチューリッヒオペラでエヴァ・メイが歌ったものでした。音楽も歌手も素晴らしく、ヌッチのジェルモンとメイがからむ2幕1場、メイの奇跡のようなピアニシモの3幕、そしてクライバーを思わせるような、斬新ながら厚みのあるメストの指揮。堪能しました。また、トリノ歌劇場来日の時のデセイの椿姫も素晴らしかったです。新国立でも何度か見ましたが、2007年(?)のエレーナ・モシュクのタイトルロールはなかなか良かった。彼女は今や円熟期ですね。

ただ、現存のソプラノで椿姫を素晴らしく歌うというマリエッラ・デヴィーアだけ、僕は聞き逃しています。都合がつけば今年11月にシチリアでの公演に行きたいと思っています。

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ヴェルディの墓地のある、”音楽家の家”と僕


1位のシモン・ボッカネグラについては、嫌というほど書きましたので、省略。

3位は、色々考えましたが、やはりヴェルディの大作ドン・カルロを入れました。昨年のMET来日の時に、フリットリのエリザベッタが聞けなかったドン・カルロですが、ファビオ・ルイージの指揮はとても良かったと思います。やはり、この作品は聴き応えがあるグラン・オペラという感じがして、他のヴェルディの作品とは違います。2006年に新国立で上演されたドン・カルロは日本人歌手が多く出演しました。エリザベッタの大林博美、宗教裁判長の妻屋秀和、修道士の長谷川顕など素晴らしかったです。最近、やたら外人歌手の多い新国立、この時のことを思うと、やはりもう少し日本人を入れてダブルキャストにしてもいい感じがします。

アイーダも、ドン・カルロとは趣向は全く違いますが、ヴェルディとしては大作。グラン・オペラです。これは、椿姫の時とは違うヴェルディの愛人、テレーザ・シュトルツをタイトルロールに据えて書かれた作品とのことですが、劇場で見るのも良いのですが、僕は、元気の無いときは車の中でこれを聴いて出勤します。あまり説明はいりませんね。

5位にいきなりベリーニがはいるのですが、夢遊病の女、これは、実際には公演は2回しか見ていないのですが、たまたま、持っているCD、DVDが素晴らしいので、とりこになった感じです。エヴァ・メイ&ホセ・ブロス(この人の変わった声、大好きです)、バルトリ&フロース、デセイ&フローレス、どれも素晴らしいものですが、この演目では、やはりバルトリが一押しです。メゾ・ソプラノとかソプラノとか、全く関係ない声質の美しさが堪能できます。最後のアリア・フィナーレが凄いですね。普通の歌手は、あそこさえなければ、どんなに良い演目か、と言うらしいですが...... 今年の藤原歌劇(ここは割と夢遊病の女良くやってくれます)の公演が楽しみです。

そして、オテロ! ヴェルディの作品は僕にはどれも、甲乙つけがたく、オテロが椿姫と入れ替わっても良いくらいです。まず、最初の暴風のような序曲に圧倒されます。ムーティーがスカラ座を連れて来日した時の、この始まり方の素晴らしさ、ムーティの格好良さ、目に焼き付いています。そしてなんと行ってもヤーゴはレオ・ヌッチでしょう。ルーチョ・ガッロのも良かったです。とにかくイタリア人でないといけない役。ヴェルディは、このオテロのタイトルロールにフランチェスコ・タマーニョを起用したようです。タマーニョはヴェルディ後期、アイーダ以降のテノールとして重用されますが、その声量の大きさは、スカラ座の外にまで響いたとのこと。今、タマーニョの録音が残っていると言うので、一生懸命ブログで探しています。ここ数十年のタイトルロールとしては、僕は、けっこうドミンゴが好きです。

リゴレット、これもピアーヴェの台本。ユーゴーの「王は愉しむ」をもとに作られた作品で、実は、現代の著作権の確立にも大きな役割を果たした作品のようです。ここらへん、今年の9月から僕が講師を務めます、東京理科大学大学院 知的財産戦略専攻科の授業で、ちょっと生徒達に話をしようと思っています。

この作品は僕にとっては、あまりストーリーで魅了されるオペラではなく、あくまで声で決まるオペラだと思います。僕にとって最高のキャストは、リゴレットはやはりヌッチ、マントヴァ侯爵はパヴァロッティ、ジルダはグルベローヴァでしょうか。3幕目の4重唱はオペラの醍醐味です。

8位 ナクソス島のアドリアネ、いきなりリヒャルト・シュトラウスに来ました。普通はシュトラウスであれば、「バラの騎士」が来ると思いますし、僕もバラの騎士大好きです。ドイツ語で”ローゼン・キャバリエ”というと、なーんかかっこいいですよね。それでもナクソス島を入れたのは、この劇中劇オペラ、不思議な浮揚感、というか、非現実感があり、また、まったくイタリア的でないオペラブッファの、ミュージカル的魅力が好きなのです。けっこう色々な舞台を見ましたが、大阪二期会が新国立中劇場でやった公演は、なかなかおもしろかったです。大阪的喜劇感がありました。それとシュトラウスの美しい旋律も魅力です。ツェルビネッタは、やはりグルベローヴァでしょうね。バッカスが出てくるシーン、ここはいつも期待します。けっこうおかしいです。オペラとしては、ドタバタ劇と言ってもいいかもしれませんね。そう言う意味では、ロッシーニの"ランスへの旅”も大好きですが、2公演しか見ていないので、あえてベストテンから落としました。この2作は、そのドタバタさで類似感があります。

9位、イル・トロヴァトーレ、実はナブッコにしようか、今でも迷っていますが、やはりヴェルディの中期の3作は落とせないところです。この3作は、ベルカントからヴェリズモ的な歌い方への、移行期にある作品だと思います。ですので、歌手が良くないといけない。ま、他の演目だって、歌手が悪ければダメなんですが、リゴレット、イル・トロヴァトーレ、ラ・トラヴィアータの3作は、特にそう感じます。この3作の中でイル・トロヴァトーレだけは、カンマラーノが脚本を書いています。その経緯については良く知りませんが、カンマラーノは脚本の完成直前に亡くなり、最後の部分は、バルダーレという人が仕上げています。原作は、シモン・ボッカネグラと同じ、スペイン人のグティエレスというあまり有名ではない作家ですが、なぜかヴェルディは彼の作品を2作オペラ化し、傑作として世に送り出しています。僕がこの作品を好きなのは、何度見ても完全には理解できないというところにあると言っても良いのです。1幕、1幕が独立していて、そのストーリーははっきりしているのですが、幕と幕のつながりが、色々と解釈できる面があり、いつも発見があります。配役としては、脇役ですが、ジプシーの老女、アジェスティーナを誰が歌うかが、一番興味があります。やはりコッソットではないでしょうか?あの凄みは、魂の叫びのようです。曲は、前作のリゴレットの続きのような部分もありますが、これもまだ聞き込みが足りないせいだと思います。この作品、シモン同様、まだまだ何度もみたいと思います。

で、10位も色々考えましたが、ドン・ジョヴァンニを入れました。今年4月の新国立でのマリウシュ・クヴィエチェンのタイトルロールを聴いてなければ、10位に入れなかったかもしれませんが、これは完全に今年の3指に入る名演でした。この作品は、モーツァルトの他の作品と比べても、かなり色が違います。オペラ・セリエと言えると思いますが、あまり悲劇感はありません。でも救いもありません。何やら、中途半端に突き放された感じで終わってしまうのです。他のダ・ポンテの作品、フィガロの結婚、コジ・ファン・トゥッテとは全く違いますね。いずれにしろ、この作品もそうですが、僕は、歌手の声質はテノールよりバリトンに魅力を感じるようです。

そして、番外はワーグナーのリングです。そして、トリスタンとイゾルデも番外で入れたい作品です。この2作品はオペラという枠にはまらない、ワーグナーの総合芸術だと思いますが、興味の観点は全く違います。リングの方は、僕自身が映画のロード・オブ・ザ・リングの大ファンで、いわゆるヨーロッパ中世の指環伝説が好きなところから入っています。トリスタンの方は、完全にトリスタン和音に象徴される音楽から入っています。とは言え、演出が色々と違うものがあるのも魅力です。東京リングのような現代風のものもなかなかよかったですし、METのクラシックなものも良いですし、そういう楽しみのある作品です。トリスタンの方は、通常場面は全く変わらないので、最初の舞台設定がキイになりますが、僕はポネル演出が好きです。なお、トリスタンとイゾルデは指揮者、演奏者、歌手に、長時間相当の負担をもたらす演目で、トリスタンの演奏中に亡くなった指揮者は、古くはフェリックス・モットル、1968年には日頃から「トリスタンを演奏しながら死にたい」と言っていたヨーゼフ・カイベルトも指揮中に死亡、その他、練習後に死亡したトリスタン役の歌手(名前思い出せず)もいたはずです。

僕も2007年だったか、持病の肝炎のインターフェロン治療のすさまじい副作用の中、ベルリン歌劇場のトリスタンを何とかみましたが、ぐったりしました。しかし、バレンボイム指揮、ワルフラウト・マイヤーのイゾルデ、聞き逃すわけにはいきませんでした。この時も、休憩時間に救急車がNHKホールに来て、倒れた観客を病院に運んでいました。トリスタンとイゾルデはやる方も見る方も命がけです。

私的オペラ演目ベストテンの中にロッシーニが入っていないのは、それほど聴いていないからです。ドニゼッティなどもそうで、1-2回の公演やDVDの視聴では、なかなか良さが本当にはわかりません。その点、何度か見ていても、どうもしっくり来ないのが、プッチーニです。どうも叙情的すぎる感じがするんです。彼の作品の中では、三部作が好きです。それも外套が一番好き。暗いですね。

ヴェリズモの”カヴァ・パリ”(カヴァレリア・ルスティカーナ、道化師)も最初の頃は好きだったのですが、何回か聞くうちに興味が薄くなりました。なぜだかはあまり良くわかりません。

ともあれ、ヴェルディの生涯に作られた26作品の中でも、まだ9作は見ていません。ルイーザ・ミラーなどは、先週のスカラ座での公演素晴らしかったようで、本当は行きたかったのですが、上野に行くようなわけにはいかず断念しました。

今年は、何と言っても11月にシチリアで数日違いで上演される、デヴィーアの椿姫とヌッチの二人のフォスカリに行けるかどうか。。です。大学院の講師業もはじまってしまいますので、まだ決められないのですが、なんとか行きたい。。


あ、だらだらと長くなりました。これでおしまいにします。
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