プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

オテロ フェニーチェ歌劇場の素晴らしい贈り物

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「人は良い音楽や演劇を見ると、まっすぐ家には帰らないものだ。」とは、ウォルト・ディズニーの言葉ですが、昨晩の「オテロ」はまさに、それでした。一人で行ったことを後悔しました。

ヴェネツィア、大阪、名古屋での公演が素晴らしかったことは既に聴いていましたが、その期待を大きく超える、まさに”ブラビッシモ!“な公演でした。

まず最初に、ミーハーな意見で恐縮ですが、オテロって、指揮者が出てきて挨拶して振り返ったと同時に、間髪入れずに嵐の音楽がファンファーレのように、劇場を切り裂くというのが個人的には絶対必須です。もっと言えば、指揮者も精悍でなければならない。僕が聞いた中では、2003年のスカラ座のムーティーが非常に格好良かったですが、昨晩のミョンフンも誠に素晴らしかった。

オテロの第一声「喜べ!Esultate!」。ここで、新しいオテロ歌い、グレゴリー・クンデの輝く声にまずビクリとしました。わずか12小節のアリアです。

ミョンフンの指揮は、オーケストラをスピーディーに躍動感をもって動かし、盛り上がるところは、最高に盛り上げて、またサッと引く。打楽器も効果的に使われていました。そして、歌手の特性を生かしながら、歌手と対話していました。さすがにイタリアでシーズンの公演を終えてきているだけあり、オーケストラと歌唱のずれなど全くありません。また、オーケストラ自体も上手い!

そして、タイトルロールのグレゴリー・クンデ。もともとはベルカントの低めのテノールだそうですが、ロッシーニからベルリオーズを経て、オテロに抜擢されました。Ⅰ幕目から2幕目にかけては、その輝く中高音に魅了されているにとどまっていましたが、2幕目後半から、3−4幕にかけての、妻への不信から来る苦悩と悲しみを、装飾的な歌唱技法と表現力で歌うのに完全に持って行かれました。声の切替のところに、ちょっとした技巧というか、劇的表現があり、それが素晴らしい効果を生んでいるのです。2幕目後半のオテロのアリア(?)「栄光よさらば」あたりから、今までに聴いたことのないオテロが目の前にいました。3幕目にはいるとデズデモーナを責めて興奮する場面、どんどん引き込まれて行きました。

正直、今まで見た「オテロ」は、ヤーゴの奸計とずる賢さが、オテロよりもオペラのキイになっていた感じがあり、(特にヌッチのヤーゴだたりすると)オテロへの感情移入よりは、ヤーゴ、デズデモーナへの移入のほうが容易でした。しかし、クンデのオテロは、その苦悩と悲哀が胸にこたえました。僕はこの日3階B席の桟敷に座っていましたが、3幕目になるともはや、字幕を見るのも、双眼鏡を手に取るのも忘れて、オテロに聴き入って、目頭が熱くなってしまいました。これほどの素晴らしいオテロを聴いたことがありません。

若いアメリカ人ソプラノのリア・クロチェットもとても良かったです。声量はすごくあるのですが、(エミーリアとの別れの時にそれが爆発した)それを非常に上手にコントロールして、その分を微妙な感情表現に使っていました。このところスクリームするソプラノでヴェルディを見させられていたので、やっとすっきりした感じです。

ルーチョ・ガッロのヤーゴ、新国立で見たのもまだ記憶に新しいのですが、今回は主役の二人に押されて、やや影が薄い感じがしました。いや、上手いのです。もともと表現力は抜群のバリトンです。ただ、クンデの表現力が抜群だったので、ヤーゴのいやらしさが隠れてしまった感じでした。それと、ピンカートンのように真っ白な制服というのも悪役らしくない感じがあり、白の衣装で白のハンカチを取り出しても、3階からは見えませんでした。

4幕目の、柳の歌のホルンの旋律の悲しいこと。。

そして、ヴェネツィアの大使一向がキプロスに到着すると、彼らも白一色の制服、その中に一人全身黒衣装のムーア人。これが、また孤立したオテロの悲哀を浮き彫りにして、素晴らしい演出でした。これでヤーゴが白い衣装だったのに納得。

フィナーレでは、殺されたデズデモーナがオテロに手をさしのべて天界へ連れていくという、珍しい演出でした。イタリア公演のビデオでこの場面だけ見た時は、ややベタな演出かな、と思いましたが、実際に通しで見てみると、オテロの凄まじい苦悩と、デズデモーナの悲壮な死が、あまりにも劇的に表現されているので、そのまま終わっては、観客としては苦しすぎたかもしれません。最後に救われた感じがしました。

オテロの最後は、オテロがこと切れる前にベッドで既に死んでいるデズデモーナに手を伸ばすが届かないというのが決まりになっていますが、その最後の手の離れている距離が近いほど救われる感じがします。この日は、救われるバージョンでは決定版ですね。

長くなったので、演出については簡単に。ミケーリは日本公演のために、フィナーレの演出もかなり代えてきて、とても良かったと思います。特に紗幕の使い方は素晴らしい。

チケットは高かったけど、充分に価値があった公演でした。フェニーチェのキャストとスタッフに感謝したいと思います。

指揮:チョン・ミョンフン

演出:フランチェスコ・ミケーリ
演奏:フェニーチェ歌劇場管弦楽団・合唱団

主要キャスト:
オテロ(テノール):グレゴリー・クンデ

デズデーモナ(ソプラノ):リア・クロチェット
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ヤーゴ(バリトン):ルーチョ・ガッロ
カッシオ:フランチェスコ・マルシーリア
エミーリア:エリザベッタ・マルトラーナ
ロデリーゴ:アントネット・チェロン
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