プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ザルツブルグ音楽祭、バルトリ渾身の“ノルマ”

今年のザルツブルグの聖霊降臨祭音楽祭の目玉は、何と言ってもバルトリが伝統的にカットされてしまった部分を直し、音楽監督として演出にも参加した新しい”ノルマ”です。チケットは販売開始当日に瞬間蒸発、この夏の音楽祭の席も既に満席。僕は家内の分と2枚、ラッキーなことにエージェントも介さずにインターネットで取得できました。それも2階の最前席!(実は1階の最前席かと思ってましたが)

バルトリは一幕目はやや緊張気味で、Casta Divaは最高の出来とは行かなかったようです。2番を唄うときに装飾を少なくし、音もだいぶ下げていました。バルトリは序盤にこのようなことはままあるようで、17日のプレミアでもCasta Divaはやや本調子ではなかったと英語版のブログに書かれていました。

しかし、それを歌い終えて、安心したかのようにその後がすごい。僕は、ノルマを生で見るのが初めてなので、この日に備えてCDとDVDで、カラス、チェドリンス、テオドッシュウ、アンダーソンの全幕を見て予習をしてきましたが、全く別世界の展開でした。アダルジーザとの2重唱、ポリオーネも入っての3重唱、バルトリはどこのパートでも、ものすごい存在感。超絶の歌唱技法と表現力、演技力で他を圧倒します。メインのパートでなくても、声が小さくても、その歌声はまっすぐ耳に飛び込んできます。2幕目のポリオーネとの2重唱(愛を唄っていないからロマンツァではないか。)は、Casta Divaを超える迫力。そう、オペラ全幕物でバルトリ生で初めて、このノルマで聴いて感じたのは、軽さ、技巧もありますが、その迫力です。声の表現力と体の演技力で、ノルマの苦悩と悲しみ、怒りが爆発しているのです。こんなに凄い表現と演技ができるとは.......バルトリも女優になれそうです。

バルトリの話ばかりになりましたが、オロヴェーゾ役のペルトゥージは一幕目から素晴らしい声を聞かせました。また、ポリオーネのオズボーンも軽めの声でありながら表現力たっぷりで聴かせました。若い(25歳)メキシコ人ソプラノのレベッカ・オルヴェーラも、個性のある素晴らしい声でした。ただ、一幕目出だしはバルトリ同様に若干緊張気味で、音程の正確さに欠けましたが、二重唱あたりからどんどん暖まってきて、二幕目は素晴らしい出来だったと思います。

ノルマとしては珍しく、読み替え演出です。バルトリはインタビューで、「ノルマには何かストーリーと人物描写に不足がある気がしていた」。と言っています。「本来ノルマはカルメンよりも情熱的なオペラのはず、それが現れる舞台にした」とのこと。

序曲とともに幕が開き、小学生が学校で教師に集められて、“On y va”(Let's go)とフランス語で教室に入るように促されるところと、その後ナチスのヘルメットをかぶった兵隊とポリオーネが学校に検閲に来ることで、場所の設定が占領下のフランス(おそらくはアルザス地方)ということがわかります。ただ、英文のブログを見ると、ここはイタリアのムッソリーニ統治下のレジスタンス地域と書かれているものもありますが、明らかに教師の一声はフランス語でした。(とフランス語のわかる家内が言ってました。)そして、一旦幕が閉まって、再び開くとそこはポリオーネの部屋、そしてそこが更にレジスタンス(元はガリア地方のドルイド教徒)の拠点となり、ノルマはレジスタンスの女神という設定。

今回、カットされた部分が再生されて、一番増えたのがアダルジーザの1幕目の歌と2重唱だそうです。そして、アダルジーザは1831年の初演時には20歳のソプラノが演じていたことから、若いソプラノを抜擢したとのこと。とは言え、バルトリは数年前からこのキャストで演奏会方式などでノルマをやっているので、もう"仲間”という感じです。ただ、子供達を殺そうとして逡巡するところ、最後でアダルジーザに罪をなすりつけるところから、自身に罪を着せる場面が、無かったような気がします。ここはもう一回聴いて確かめたいです。

いずれにしろ、このような演出により、登場人物の心の動きが自然に理解でき、また人物同士の関係(特にポリオーネとアダルジーザ)も、明確になりました。愛憎、悲しみ、名誉などがわかるように演出をしたと、バルトリはインタビューで語っています。

しかし、個人的には、読み替えにナチスを使うというのは、やや安易すぎる気がしました。また、歌詞に、ローマとか、神殿、神がたくさん出てくるので、例え設定をムッソリーニ統治下のレジスタンスとしても、ストーリーとの整合性に無理があります。また、全体が非常に暗い、陰鬱と言っても良い演出なので、短調の時は良いのですが、多く使われる長調のテーマの音楽になると、なにか舞台と合わない気がしました。読み替えでも、もう少し抽象的な舞台のほうが良いのではないか.....というのが本心。

最後の場面に、本物の火が使われて二人は焼死するという凄い演出です。高さ2mは炎が上がりました。 そのため、フィナーレのカーテンコールの最初のうちは、煙がホールに充満してけむいほど。怒濤のような拍手が10分は続いたでしょうか?ただ、演出のモーシェ・ライザーと パトリック・コリエ が登場すると、拍手と一緒にかなりのブーイングが。休憩時に家内とブーが出るのではと話していましたが、その通りでした。しかし、このブーイングも、バルトリは折り込み済でしょう。

最後に、指揮のジョバンニ・アントニーニ、ピリオド楽器を多用して、古楽風の素晴らしい音を出していましたが、演出に合わせて太く厚みのある音もところどころに入れていて、まさに舞台と一体化した素晴らしい指揮でした。

バルトリは昨年12月にスカラ座でバレンボイム指揮のリサイタルを開いたときに、大ブーイングを受けまそうです。これは、過去19年間イタリアで公演していないことを、スカラの老人ブーマーがつるし上げた結果で、これにやり返したバルトリファンと5分を超えるがなり合いになったそうです。バルトリ自身はイタリアで公演したい気持ちはあるが、現状のイタリアオペラ界では無理、お金がない、スケジュールは決まらない。練習は出来ない、と嘆いているそうです。(この情報も家内が英語版のブログから探してくれました。)

しかし、ともあれ、今回のノルマ、頭をガツンと叩かれたような衝撃! 素晴らしいパフォーマンスでした。今後、色々な評が出るとは思いますが、歴史的な公演だったと思います。この晩は興奮さめやらず、遅くまで起きていて、寝たら火事の夢を見て起きました。

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