プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

話題のナブッコを聴きに(見に?)行ってきました

今、好評、不評で話題になっている、新国立劇場の「ナブッコ」を聴きに行ってきました。話題になっているのは演出ですが、これは後回しにして、まず指揮者のパオロ・カリニャーニは望外に良かったです。望外というのは、ただ今までに聴いたことが無いというだけの話しで、2011年に二期会でパリアッチを指揮したそうです。

序曲は、ややテンポが変わるところがあって、オヤっと思いましたが、これは多分、ステージ上のダンスに合わせたのだろうと思います。いざ、幕が開くと、実に力強い指揮で、かなりオケを鳴らします。ヴェルディの初期—中期、トロヴァトーレあたりまでは、鳴らすところは鳴らしてもらわないと、ヴェルディは堪能できない気がします。昨日聴いたバッティストーニの昨年のナブッコに
比べると、やや単調な感じはしますが、目をつぶって曲だけを追っていくとなかなか良いと思いました。

歌手では、先日新国立でアムネリスを唄ったばかりの、米国人メゾのマリアンネ・コルネッティのアビガイッレに期待したのですが、どうもアイーダの時のような気品のある声が聴けませんでした。声を張り上げているのはまあ許せるとしても、高音が安定しないのです。アムネリスで出していた表現力にも欠けるような気がしました。まあ、演出で舞台上を転げ回ったりさせられて、歌に集中できなかったのかもしれません。ルチオ・ガッロはナブッコのロールデビューとのこと。この人の美点である表現力は素晴らしいナブッコを作っていましたが、彼もまたもともと中高音域での音程がぶれるのが、かなり出てしまっていました。その代わり低音域では、こんなに美しく歌えるのかというパフォーマンスを聴かせてくれました。そう言えば、ドン・ジョヴァンニの時はすごく良かったですから、彼はヴェルディ・バリトンというより、バスバリトンなんでしょうね。大の日本ファンで、終演後は天ぷら食べに行ってたようです。

ただ、この二人の音程のぶれ、不安定は、今日だけだったかもしれません。ずーっと不安定だったわけでも無いですし。


良かったのは、フェネーナの谷口睦美。中音から高音までスーッと声があがり、悲しみのこもった声の表現力は素晴らしかったです。この人、脇役でしか聴いた事ありませんでしたが、すごい実力ですね。まもなくカルメンでタイトルロールを唄うとのこと。聴きに行きたいです。そして、アンナになんと安藤赴美子。唄うところが少ししかなくてもったいない。フローラみたいな役ですよね。でも光ってました。

まあ、多少歌手陣に難もありましたが、音楽と歌は充分鑑賞に堪えました。

僕が好きになれなかったのは、演出。これは生理的にも理屈的にも受け入れられませんでした。もうすでに色々な方がブログに書いていらっしゃりますし、褒めていらっしゃる方もいるので、あくまで個人的に嫌いということで、簡単に記します。

まず、幕の初めや、切れ目で、流れる日本語の大音量のアナウンスの説明。これは原作にはあるそうですが、今までナブッコの公演で聴いたことがない。ソレーラの脚本には無いと思います。宗教的なことを、場内アナウンスの感じで流されるので、まるでオウム真理教の講演にでも来た感じで、僕は不快でした。そして、グラハム・ヴィックの決めつけ。唯一神に対する日本人の考え方についてのべている、プログラムの12頁目も苛ただしいですが、次の頁に「ところで21世紀の今日、我々はどんな時に神からそっぽを向かれるでしょうか?私はそれを「人間がショッピングに走る時」だと感じています。」(原文のまま)を読んで、目が点になりました。それで、舞台をショッピングセンターにしたの?そういう極端な偏見を観客に押しつけるのはやめてほしいものです。読み替え演出は、ある程度、観客にも、どう読むかの自由を与えてほしいものです。それをアナウンスと、ショッピングセンターでのテロリズムという演出で、一切封じてしまったヴィックの姿勢。オペラには向かないと思います。小説でも書いたらよろしい。

そして、直訳すれば「ユダヤの民」、「イスラエルの人々」となるところを、字幕では、単に“人々”としてしまうというのは、ヴェルディとソレーラに対する冒涜だと思います。読み替えは良いです。でも、セリフまで変えてはいけない。先日のザルツブルグのノルマの読み替え演出でも、内容がややちぐはぐになっても、「ローマの人々」、「ローマが責めてくる」という脚本のセリフはそのまま使っていました。それをどう解釈するのかは、オペラを聴くものの自由ですが、その自由も与えずに、元の言葉を変えてしまってはいけません。これは、村上春樹の本の外国語版を、日本語の原作と変えてしまようなことです。

あとの細かいことは省きますが、この演出だけは好きになれません。まあ、オペラに正解は無いので、好き嫌いの問題です。私は嫌いということで、このオペラを好きな方にはお許し願いたいと思います。

オペラが終わった後、小劇場の前の池に鴨が子供を連れて泳いでいました。これが今日の慰めでした。

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