プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

新国立リゴレット初日

速報ではお伝えしましたが、これは問題作というか、話題作というか、意欲的な作品に仕上がっています。僕自身は、この10年間での新国立のヴェルディの公演で最高だったと思います。
俚語レ


現代演出の舞台設定はホテルです。ギャングもいる、売春婦もいるというざわざわした場面が現れた時は、ちょっと嫌な予感がしましたが、舞台が進むに連れてこの演出が良く考えられたものだということがわかりました。ヴォツェックの演出で才能を見せたクリーゲンブルグは「私にとってヴェルディは近代的なベルクよりも、ずっと演出が難しいものです。(原文のまま)」と、苦労を語っています。そう、現代演出をする演出家には大いに悩んで欲しいんです。そういう意味で、5月のナブッコの演出家グラハム・ヴィックは、いきなり「ところで21世紀の今日、我々はどんな時に神からそっぽを向かれるでしょうか?私はそれを”人間がショッピングに走る時”だと感じています。(原文のまま)」と、悩みもせずに決めつけてしまっているのには参りました。

一見、両方とも非常に似ている舞台作りですが、クリーゲンブルグには知性の輝きと作曲家に対する尊敬の念があり、また、発想の切れ味が鋭いのです。3幕目の屋上の舞台への変換は、まさしくホテルという閉鎖空間から闇の空気にさらされた登場人物が真実の姿を見せるのに最高の設定でした。ここではマッダレーナの苦悩という、通常のリゴレットでは見られない心象風景も描き出されていて実に新鮮でしたね。ま、スパイダーマンが出てきてもおかしくない舞台ではありましたが。

ただ、この演出には色々な意見が出ると思います。METのメイヤー演出に似ているところもありますし、舞台上で廻るホテルの棟がわずらわしいと思う人もいるかもしれません。ここらへんは、結局趣向性の問題でしょう。

歌手陣も素晴らしかったです。まずタイトルロールのイタリア人若手バリトンのヴラトーニャ、最近では珍しい重厚な本格派の声です。ちょっとティト・ゴッビを彷彿とします。ヌッチより重い。しかし、ヌッチを見た後でも、うなるほどのうまさと表現力を持っています。まあ一方で改めてヌッチは完全に別格というのを実感しましたけどね。彼は71歳、高音は衰えても”神”のバリトンですから比較にはなりませんが、それでもこのヴラトーニャは、個人的にはホロストフスキー、フロンターリなんかよりずっと良いと感じました。そしてジルダのゴルシュノヴァは、逆にベルカント系の美しい声。線は細いのですが、高音まで金属的にならないでスーッと声が上がります。ジルダにはぴったり。スカラの時のアレハンドレスよりよっぽど良かったです。そして、二人とも音程も安定しています。特にヴラトーニャの音程は素晴らしく正確。

ただ、この二人も好みがわかれると思いますね。ヴラトーニャはある意味、古典的な歌い方とも言えますし、技術的にはまだ伸びしろがあり声の強弱の付け方が少ないところなど不満を覚える方もいるでしょう。ゴルシュノヴァは「声量が足りない」と言われるかもしれません。

でも、この二人はそう言う点に勝る素晴らしい個性と声を持っていました。二重唱はどこでもすんばらしかったです。

指揮者のリッツォ、完璧に歌唱にシンクロした指揮でした。ブラヴォ!金管木管を意識して使っているようで、序曲から一幕目の最初のところは、ちょっと不思議な響きだったり、途中使われすぎた金管が疲れたのか「女心の歌」の出だしでずっこけたりもありましたが、全体としてはまさにオペラの指揮という感じで、基本的には Support the singers, そしてすきを見つけて 良いところでオケを主張させる、若手ながら才能を見せたと思います。

四重唱は完璧でしたっ! スカッとしましたね。言い忘れましたが、スパラチフレの妻屋さん、こういう現代演出での役は珍しいと思いますが、最近スリムになったボディと、いつもながらの決してモゴつかない発声で実に良かったですねー。一方で、朝青龍こと(本人が言っています)韓国のテノール、ウーキュン・キム。悪くはないんですが感動しなかったです。彼はいつも僕にはそういう印象です。明るくて良い声なんですが、退屈。高音が気持ち良く伸びれば、もう少し印象も良くなるんでしょうが、高音弱いです。アルフレードくらいだとそれでも良いのですが、マントヴァ公爵は自分では意識はしなくても策略、計略を用いる影のある性格です。悪人ではないですが、やはりちょっとひっかかるものが声に隠れていないと魅力的ではないです。マントヴァ公爵=パヴァロッティみたいになっていますが、色々聞いてみるとこの役に限っては、ジュゼッペ・ステファノがうまいと思いました。現代ではあまりいないですね。デムーロは真面目過ぎたし、ヴァルガスは朴訥過ぎるし、アラーニャが歌わないかなぁ。

結論→僕としては大満足な公演でしたが、なんか拍手は少なかったですね。特に前半。リゴレットとジルダの二重唱に「Bravi!」かけたら誰も付いてきませんでした。拍手がパラパラだけ。最後のほうは盛り上がってきて拍手も声もかかるようになったのですが、やはり演出と歌手に戸惑っている聴衆が多くいた感じがします。歌手陣は大満足のようすでしたが、カーテンコールも少なかったようです。その割に出待ちはすごく多かったので、やはり気に入った人は気に入っていた(当たり前ですね)と思います。色々な方々のブログが楽しみです。できれば、もう一度来週聴きに行きたいですね。

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