プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

仮面舞踏会 トリノ王立歌劇場

久々に公演が終わって数時間でブログアップします。(まだアップしてないのがありますが。)

昨日に続き、今日もトリノ王立劇場です。「仮面舞踏会」。1日と4日の公演が非常な好評を博していましたし、トスカのほうも大好評。しかしその割には今日、空席が目立ちました。明日のトスカのパンフレットも配っていました。ジャパンアーツさん、良い企画を持ってきて頑張っているんですけどね。

さて、今日のノセダの指揮ですが、序曲でいきなりびっくり。今までに聴いたことのない音作り。アバドでもムーティでも、だいたい仮面の序曲は波が広がってくるようにゆっくりと穏やかにスタートするのですが、今日は最初のピチカートのまんま、スピードアップで序曲に入った感じです。いや、こんなの聴いたことないなぁと、正直かなりの違和感を持ちました。しかし、昨日のロッシーニも最初の感覚はそうでしたね。で、終わってみれば、やはりこの指揮者はただ者ではない! 

彼自身の世界を明確に持っています。聞き取れるかどうかのピアニシモから一気に頂点に達し、そして余韻を残さずに潔く音を切る。もう少し、引っ張ってほしい感じがするのですが、そこが鮮烈な印象を与えます。これは、一番の特徴かもしれません。長い休符の余韻も素晴らしく効果的。絵画的というより彫刻的な音作りでしょうか、巧みな木管の使い方と柔らかい弦。そして、全体としては軽いタッチなのですが、緩い感じは一切ない。なんか上質なシードルを飲んでいる感じです。シャンパンというほどの豪華な音ではなく、シンプルでコンパクト、香り高いお酒です。この音作りは病みつきになるかもしれません。ただ、これが嫌いな人もいるかなと思います。クラシックなヴェルディとは確実に一線を画すものだと思います。ミョンフンと比較したら興味深いことでしょう。とりあえず、いつものように、明日はトスカニーニの仮面を聴いてみましょう。(あれ? 持ってたかな?)うん、でももしかすると、かなりトスカニーニのコンセプトに近いかもしれません。無駄なものがないですから。

歌手で一番良かったのは、ラモン・ヴァルガスです。絶対です。僕、彼を生で聴く機会が多いのですが、いつも裏切られたことはありません。今日は前半、やや疲れ気味な感じがしましたが、3幕目良かったですね。Bravoです。家で仮面舞踏会のDVDを見るときは、やはりドミンゴかパヴァロッティになるんですが、最後の死に際にリッカルドが、「私は彼女を愛したが、神を汚してはいない。」と言いますね。ドミンゴが言うと「そうか、そうか。そうだよな、お前とアメーリアは潔白だ。」と思いますが、パヴァロッティが言うと「ウソこけ。やってんだろうが!」と思います。レーナートももう一刺ししてしまうかも。その点、ヴァルガスはドミンゴほどの高貴さにも、パヴァロッティほどのイタリア的な明るさにもかないませんが、歌唱の技術と表現力、そして朴訥と言っても良いような人の良さが売りです。彼の告白なら、レーナートも観客も信じますよ。聴くたびにうまくなっているようなきがするなぁ。

で、オクサナ・ディカですが。最初から出力全開の状態。3幕目のアリアも彼女としては素晴らしい出来だったと思います。ただ、僕はこの人の声は苦手です。高音は良く伸びますが非常に金属的で、まずこれが駄目です。そして下から上までずーっとビブラートがかっているのも駄目です。テバルディの再来と言われているようですけど、ちょっとなあ。声質としては、けっこう強い方ですから、トスカのほうが合うのでは。彼女の今日の出来を絶賛している人もいたので、好き嫌いのはっきりする声なのかもしれませんね。ヴェルディの仮面はシモン・ボッカネグラの後に作曲されています。シモンはあとで改作されるのですが、序曲などはそっくり。そして、名誉を重んじて、自分の敵を許すのも似ています。仮面のアメーリアはシモンのアメーリア(マリア)と同じ声質で良いと思います。そうするともっと軽いほうが、僕は好きです。指揮がシードル酒なら歌手もそっちかな。

ウルリカのコルネッティも熱演でした。おどろおどろしさが良く出ていました。ただ、巻き舌がtoo muchでどうも気になって、そうなるとそこばっかり気になって、彼女の歌を楽しめませんでした。新国のアビレガイッシの時もアムネリスの時も、あんまり感じなかったんだけどなぁ。なんかアメリカ人って感じ(アメリカ人ですが)でしたね。Bravaより”Marvelous”という感じ。うん?これはイギリス英語かな?拍手は一番多かったので、良かったのだと思いますが、今日はディカのビブラートと同じく、コルネッティの巻き舌が気になりすぎてしまって、聴き方も失敗した感じがあります。

それで、もしかすると今日のMVPはオスカルの市原愛かもしれません。第一声、オスカルが悪いと仮面が台無しになりますが、スミ・ジョー顔負けのヴェルディボイスで登場。以降も素晴らしかったです。ただ、Brava!しようにも、チャンスがないんですよね。静岡からやって来た超オペラおたくのK君もそう言ってました。まあ、Bravaがかかる、そういう役じゃないんですから仕方ないですね。ですのでカーテンコールでBravaしまくりました。やや音程が危ういところもありますが、実に役を勉強し、ヴェルディを解った上でこの役をやっている感じ。良かったですね。

レーナートのヴィヴィアーニはなにかもったりした感じ。少なくともヴェルディバリトンではない。どっちかというと、ホロストフスキーの弟子みたいな方向性。リサイタルで聴いたら、それなりに良いかもしれません。でも、あまりに拍手が少ないのは、評価が低すぎるような気もして複雑な印象でした。

前の2公演を聴いてませんが、ブログなどを読む限り、なんか、最初の2回のほうが良かったのでは、という気がしないでもないです。2回見た方教えて下さい。

あと、ちょっとがっかりしたのが演出。特に舞台芸術。今年は、ヴェルディイヤーということで、たくさんイタリアの歌劇場のヴェルディ作品を見ましたが、みんな素晴らしく綺麗な舞台でした。最高だったのはフェニーチェのオテロ、紗幕を上手に使い、ブルーが際立ちました。そして、マホガニーに包まれて、英国の香りがプンプンしたスカラ座のファルスタッフ。最後のフーガをテーブルの上で歌ったのも素敵でした。パルマレッジョ劇場の群盗も低予算ながら、実に洒落ていました。そしてミラノで見たスカラ座のドン・カルロス。おなじみのクレーネンブロックの演出ですが、舞台をより洗練された空間にしていました。今、僕のMacのノートのデスクトップピクチャになっています。

ところが今日の舞台演出はイタリアの美しさに欠けました。お金をかけてないこともあるのでしょうが、そうは言っても、ぶら下がって振り子のように動く大きな鐘や、最後の幕のUFOのような物体など、それなりの大仕掛けもあります。しかし、これらが美しさを出していない。赤を血に見立てているのは良いのですが、それをいつでも黒に反映しているのは、あまりにも単純です。小道具や色や影が、それぞれ登場人物の心の動きを暗示しているのはわかりますが、いかにもありがちな表現が多いのです。その他どの幕もアイデアに欠ける気がしました。人の動きも単純すぎます。アメーリアは動きが少なすぎる、舞踏会での電車ごっこのような行列など…..ちょっと全体の演出の方向付けがわからないなぁ。評価している人も多い(というか評価している人の方が圧倒的に多い)ので、書くのがためらわれましたが、実感をウソにして書くわけにも行かず……なんか、すみません。

ただ、今日の公演色々ありましたが、ノセダの指揮とヴァルガスの歌で超一流のレベルでした。すごく上質のヴェルディを聴いたと感じます。全体のまとまり感では、スカラ座のリゴレットがヌッチ一座という感じだったのよりも、ずっとレベルが高かったと思います。しかし、同じような規模のフェニーチェ歌劇場の、春の「オテロ」ミョンフンの指揮とクンデの歌には、ちょっとかなわなかったかなというのが、今年最後の観劇(多分)の印象です。
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