プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

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新国立「死の都」奇蹟の照明!光に泣かされてしまった。

3月15日土曜日のマチネの公演に行って来ました。当初、チケットの売れ行きが心配されていたようですが、いやいや、とんでもない。ほぼ満席。そしてびっくりするほど男性、それもかなり高齢の方が多い。なんだかワーグナーの演目の客層に似た感じでした。

とにかくまず書きたいこと。それは演出が素晴らしかったこと。そして舞台芸術と照明。特に照明は全く奇蹟のように素晴らしかったです。照明の意図するところで目頭が熱くなる(特に3幕目,詳細は後述)など初めてではないだろうか。新国立に通い始めたのは、2000年頃からですが、覚えている限り群を抜いて最高の演出だったと断言したいです。(他の方のブログ見ていないので、またはずれたらどうしようかと思いますが、、過去にも1月の藤原の“オリー伯爵”の指揮を「残念」としたり、昨年9月の新国立の“リゴレット”の現代演出を”Bravo”したのでは、非常に少数派になってしまっていますので。。。)

演出はフィンランド国立歌劇場の公演用にデンマーク人演出家のカスパー・ホルテン。まず、プログラムでの彼のコメントを読むと、いかに作品のストーリーと音楽を研究し、作者に敬意を払っているかが良くわかります。作品と作者への「敬意」これが何より演出を成功に導く鍵だと思います。前にも書きましたが、最近の新国立の公演でこれが感じられたのが上述の「リゴレット」のクリーゲンブルグの演出だったと思います。また、全く感じられなかったのが、同じく昨年の「ナブッコ」グラハム・ヴィックの演出というのが、これは誰が何と言おうと(それほど注目されているブログではないですが)確信していることです。

今日の「死の都」の演出では、姿の見えるはずの無い亡き妻、マリーがずっと舞台上に主人公の夫パウルと観客には見える設定になっています。これは映画の「シックスセンス」や「アザーズ」に似た手法だと思いますが、演出家は観客によりパウルの視点を持つことを意図し、それに見事に成功しています。パウルが妻の遺品を舞台の壁一杯の棚に並べた「在りし日を偲ぶ教会」は、まさに"パウル"の動く城、のような魔法の世界です。遠近法を歪んで使ったような奥行きのある不思議な白い部屋の突き当たりは天井までルーバーになった壁ですが、その向こうに何やら色の変わる光が見えます。それは2幕目では幕が開くように上がり、不思議な模様がモノクロで浮かび上がって来ますが、良くみるとそれは死の都、ブルージュの街を空から撮った写真。この映像はオペラが進行するに従い、より鮮明になってきます。部屋が死の都の中に溶け込んでいく感じは、2001年宇宙の旅のようなイメージだなぁ。

タイトルに書いたように、この公演で特筆すべきは照明です。新国立は照明のメカニズムは素晴らしいものを持っていて、過去にもマイスタージンガーや、ばらの騎士などで優秀な照明担当により光りの舞台を作り上げて来ましたが、今日は別格でした。この素晴らしさばかりは、劇場に足を運んで頂かないとわからないと思います。通常の照明機器の他に、オケピットの両脇にブリッジを作り、そこに強力なプロジェクターライトを左右2台づつ置いて、舞台の床面と同じ高さで時には小さな置物で長い影を作ります。3幕目でマリエッタをののしる時のパウルは小さな家のミニチュアで出来た巾の細い長い影の中に入ります。そうするとののしるセリフが本当に強い悪態に聞こえて来ます。また、マリエッタと妻のマリーとベッドを間に並ぶ場面、生きているマリエッタには正面から光りがあたりますが、マリーは後から光りが。化粧を死人のようにしなくても、生と死がはっきりとわかります。その二人の間は1.5mくらい。影と光から手が伸びてふれる緊張感に僕も汗ばむ感じでした。そして二人が前に出てくると、ある線で(カーテンのライン)下手真横からの光に変わり、それまでは、暗く、明るく、しかしのっぺりとしていた表情が、二人とも彫刻のようにはっきりと映し出されます。照明だけでこのような恐ろしいようなドラマを引っ張っていくのです。まさしく、語り手は照明だったのです。

最後の場面ですべて夢だったことを示す、召使いブリギッタの登場では、ドアが開くと外からの日光が暗い部屋に流れ込みます。外のまともな現実の世界の光。まるでベラスケスの”ラス・メニーナス”の絵そのものの構図。いや、光が鋭角的に影を裂いて行くところからすれば、どちらかというとピカソの"ラス・メニーナス”かもしれません。オペラを見ている間にも、そのような考えが頭をよぎり続けます。今日は光で涙しました。照明担当のドイツ人、ヴォルフガグ・ゲッペルの奇蹟の技だと思います。拍手!

指揮と歌手について書く前に、既に今迄書いた演出だけで、このオペラは既に僕としては「歴史的な成功」だと思います。

ですので、ここでブログを終わってしまっても良いくらいですが、そうもいかないでしょう。

指揮と音楽、これは大絶賛とは思えないところです。パウルを歌った、トルステン・ケール、たしかに、一定のクォリティは超えているし、ワーグナーもリヒャルト・ストラウスも歌えそう。しかし彼の歌唱はいかにも癖があります。この癖のある声を好むか好まないかというところで評価がわかれると思いますが、僕には、あまりにも内向きで、こぶしがまわるような絞り出す声が、「苦手」でした。イタリア系で言えば、ホセ・ブロスのタイプですね。彼も内向きな声ですが、その表現力の素晴らしさで、僕は彼の大ファンになりました。しかし彼もその癖のある声ゆえに、メジャーにはなれないんですね。うちの家内はケールをとても気に入ったようです。ですから結局、こういう声は好みが評価を左右します。あくまでご参考に。

3幕目に入ったあたりで気付いたのですが、彼の声が「苦手」に聞こえたのは、多分に指揮が「開放的」に過ぎるからだったかもしれないということです。全然ケールを応援する音楽ではないんです。とにかく、最初から最後まで効果音のような音作り。打楽器やピッツィカートの音作りが派手です。2幕目の最初の歌に出てくる「鐘の音」などは、これでもかと響きます。多くのところでケールの声が聞こえませんでした。2階の正面という良い場所で聴いていたにも係わらず。その点、声量豊かなマリエッタ役のミーガン・ミラーとはうまく合っていたかも。ミラーは、一本調子のケールに比べて、小さい音では表現力がありますが、あるデシベルを超えると吠えるように力強くなって、「大声量=大拍手」パターンに陥っているようでした。彼女もケールと全く合っていないと感じました。2幕目は、まるでトリスタンとイゾルデのように二人のやりとりが長々と続くのですが、残念ながらここで「持って行かれる」という快感がないのです。音楽はもっとコンパクトに緻密さを持って指揮されるべきではないかと感じました。びわこでの沼尻マエストロはどうだったのでしょうか。とにかく、この2幕の緊張の抜けた音楽と歌唱は、明らかに観客にも影響し、この頃からガサガサゴソする音や、足を組み替える時に出る音、首をグルグル回す人、何度も座り治す人、なかには貧乏ゆすりかと思うようなカタカタ音まで聞こえてきて、完全に観客が「飽きて」いました。ま、これは観客にも相当問題があります。この日は拍手のフライングも多く、その面では「ワーグナーの観客層と似ている」というのは違うと言いたいです。(昨日も書きましたが、僕はブログの題名とはうらはらに、ワーグナー教会にも入っているんで、ワーグナーとそのファンは擁護したい。)僕も、昔こういう観客に苛々したのですが、最近は脳細胞に“ノーズ・キャンセリングプログラム”を組み込んだもので、充分集中しました。しかし、廻りで2万円のA席を奮発して不機嫌になったオペラファンも多分いたでしょう。前に座っていたご婦人など、3幕目まだ終わりまで15分くらいあるのに、コートを着始めるんです。2階4列の方、それはあまりでしょう。そんなに飽きたなら、退出することです。僕も、人に迷惑をかけるなら退出しますよ。(LAでのウッディ・アレン演出のジャンニ・スキッキなど)

僕として、歌手の中で素晴らしかったと感じたのはブリギッタの山下牧子。一幕目が開いてから、かなり長い間一人で歌います。いわば第一走者。素晴らしい力走。これでオペラの形がきちんと作られました。歌手陣も指揮もそのような印象でしたが、演出の素晴らしさを妨げるような出来の悪さではなかったです。逆に言えば演出が素晴らしすぎて、歌手と指揮が僕の気持ちの中で追いつかなかったかのかも。あの照明だけ見に、もう一回観劇に行きたいと思っています。

新国立劇場、ここらへんの近代物への挑戦は素晴らしいですね。毎年楽しみです。ただ、どうしてもドイツ物が多くなります。イタリアものでプッチーニ以降のものはほとんどありませんからしたかないのですが、ヴォツェック、ピーター・グライムス、死の都までやっているのに、ベッリーニは開館から16年になるのに一作も上演されていない、ドニゼッティも多分「愛の妙薬」だけでは?バロックオペラも無しというのは不満です。まあ、日本の音楽教育がドイツに寄っていますから、しかたがないのかなぁ。

まだまだ、研修生の頃から応援してきた、糸賀修平のことや、ストーリーの読み解き方などについても書きたいんですが、すでに長すぎるブログになっているので、今日はこれにて。それにしても、今上演中のびわこでの「死の都」はどうなんでしょうか? 気にかかりますねー。
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