プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

フェラーリの故郷でシモン・ボッカネグラ

“モデナ“と聞くと、少しでも車に興味のある人は”フェラーリ”の本拠地ということを思い出すでしょう。まして、今、映画“RUSH”が公開中ですし。この映画、今回イタリアに来る飛行機の中で見ましたけど、往年のF-1ファンの僕としてはこたえられない出来でした。素晴らしい!

しかし、今回のモデナ滞在は、全くフェラーリと関係ありません。仕事でフェラーリの人とミーティングしたことは数度。だかフェラーリの本社に行ってみれば何かいいことあるかもしれませんが、今回はパヴァロッティ歌劇場の”シモン・ボッカネグラ“の最終日の公演を見に来たのです。そう、ここはパヴァロッティの故郷でもあるのです。

僕が、オペラの中で(聴いたものの中で、ということですけど)一番好きなのが、このシモン!それもレオ・ヌッチのシモン。ここ50年のオペラの歴史の中では、カップチルリのシモン、アバドの指揮が一番ということになっているようです。たしかにカップチルリのシモンは背筋がゾクッとするものがあります。でも、ちょっと英雄的にすぎるかも。シモンは生ではヌッチの他にはドミンゴ(バリトンで)、ホロストフスキー、堀内康雄で聴いています。音源ではブルゾン、カルロ・グェルフィ。でもヌッチは僕にとっては群を抜いています。アバドについては、崇拝していますんで異存なし!シモンをヴェルディの楽譜から引っ張り出して、メジャーなオペラに仕上げたのが70年代のアバドです。

さて、この日のヌッチは、びっくりするほど中高音が素晴らしく輝いていました。雨が降っていて喉が潤ったのでしょうか? 10年くらい前の輝かしい響きが聴けました。そして、低音部での表現力の豊かさはいつもの通り。普通、バリトンでもテナーでも高音が出なくなると終わりなんですが、ヌッチはそれを低音部の素晴らしい表現力の開発で簡単に乗り越えました。進化するヌッチ2012年にカルロ・リッツィの指揮でチューリッヒで聴いたヌッチのシモンも素晴らしかったですが、それを超えるパフォーマンス。3幕目で毒薬を飲まされてからは、このオペラはもうどう我慢しても涙が止まりません。みっともないので嗚咽するのを止めるのが精一杯。最後に自分を亡き者としようとしたガブリエーレ・アドルノの罪を許し、彼に総督の地位を譲って息絶えるところで、ガブリエーレの名が苦しい息の下から歌い声になると、もうダメですね。

名誉と権力と愛を描いたヴェルディのオペラの中でも最高作だと思います。今年はローマ歌劇場が来日し、ムーティの指揮でのシモンが聴けます。こんな機会は滅多にありません。僕だって日本で聴けたのは大阪いずみホールの堀内さんのシモン(すんばらしかったです。)だけ。あとはそのための海外行きでした。

この日、もう一人のヒーローはフィエスコ役のカルロ・コロンバラ!グランデ・バッソというのに相応しい、すごい歌唱力でした。フルラネットとは違う重いバス。しかし、軽々と低音に落として音程もぴたり!そこからの表現力の繊細さ。ヌッチとのプロローグ、フィナーレ、それぞれ、「シモンを許さない」と「許す」場面ですが、これが凄かったです。歌が終わって、”ブラヴィ“もちろんですが、前のほうの観客を中心に、足で床を踏みならして喝采します。これほどのすごい喝采は、耳の肥えたオペラファンの多いモデナでも珍しいとのこと。僕と家内は前から3列目ですから、その喝采の中にめり込むようでした。

指揮のチャンパ、まだ若いです。今、成長株。10月にパルマでヴェルディの”群盗“を聴きましたが、素晴らしかった。この日もチャンパのシモンを作っていました。アメーリアのアリアで高音の金管木管をちりばめるように使ったり、ところどころ歌手に合わせて共振するような響きを作ったり、色々な新しい表現があって楽しめました。ただ、彼としてはまだ色々と試して試運転という感じもします。何よりシモン・ボッカネグラはほとんどの演出(この日も)で、後にリグリアの海のうねる様子が書き割りだったり、映像だったり、でも必ず出てくるのです。アバドのすごいのは、シモンの音楽がリグリア海のうねりに聞こえること。これでないといけません。個人的にはそういうところがちょっと欲しかった。でも、チャンパ、これから期待できるなぁと思いました。

アドルノ役のサルトーリ、やっぱりこの人の声は美しい。僕大好きです。パヴァロッティ劇場にぴったり。メーリのアドルノも素晴らしいけど、僕はサルトーリが好きです。是非来日してくださいと嘆願。

公演後、出てきたコロンバラやチャンパ、アドルノ役のサルトリアメーリアのデヴィニア・ロドリゲスらと写真撮りました。チャンパに日本のお箸を上げて、「和食を食べに行ったら、マエストロは指揮棒の代わりにこれで料理を指揮して」というようなことを伝えたら、大喜びしていました。

しかし、御大ヌッチは、やはり特別扱い。会うには許可を得て彼の特別控え室に“謁見”に行くのです。待つこと15分くらい、ようやく連れて行ってくれた方達と一緒に部屋に入ると、なんとヌッチから手を伸ばして握手してくるんです。満面の笑みで。世界最高のバリトンなのに、偉ぶった感じ、威圧感を感じさせるそぶりなど全くない。何を話したか忘れてしまいましたが、とにかく素晴らしい人柄です。奥様もそばにいてニコニコしています。そう、11月には日本に来るとのこと。リサイタルですね。みんなを抱くようにして記念写真。そして、プログラムにサインをお願いすると、自分の机の上の箱に入ったシモン姿のキャビネ判の写真に、白いインクでサインをくれました。家宝じゃ!!

彼は、ここ数年ヴェルディだけを歌っています。ヴェルディの人間性が素晴らしいから、というのが彼の答え。71歳でイタリアをかけめぐります。METにもウィーンにも行かないけれど、世界最高のヴェルディバリトン。後継者がいないまま引退してしまった時を考えるのが恐ろしいですが。。。。

ヌッチ、若い指揮者に薫陶を与えるように歌います。メストの時も、リッツィの時も、彼らの指揮に合わせて、また指揮を引っ張って歌います。素晴らしい歌手であるとともに素晴らしい指導者。

さて、これからエミリア・ロマーニャ地方を回ります。フェラーリで!というのは嘘ですが、なかなか魅力的なアルファロメオ・ジュリエッタが今回の旅の脚です。th-th-DSC00192.jpg
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