プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

LAで“タイス”を聴きました。

先日、仕事の出張でロサンジェルスを訪れた際、ミーティング後の夕食の誘いを断って、ダウンタウンのドロシー・チャンドラー・パヴィリオンでのLAオペラ“タイス”に行ってきました。

“タイス”はめったにやりませんね。初演当時の19世紀末にはマスネの作品でもダントツの人気と上演回数だったのですが、今では、マノン、ウェルテルの陰に隠れています。僕も、2004年のフェニーチェでのエヴァ・メイのタイトルロールに、ミケーレ・ペルトゥージのアタナエルの官能的な舞台のDVDしか見ていません。日本では1956年の藤原歌劇団の公演から上演が無いようです。

そういうわけで、最近フランスオペラに力を注いでおり、3月のパルマの「真珠取り」のレイラでも素晴らしいパフォーマンスを見せた、ニーノ・マチャイゼが出るというので、とにかく仕事が終わるころを前提にチケットを確保しました。前から5列目左側、悪くないのですが、このホールは音響が決して良く無くて、1階だと高音がアタマの上を素通りしてしまうのでベストシートとは言えません。ただ、演技力もあるマチャイゼが良く見られたのは良かったです。THS1286.jpg
しかし、劇場での拍手はドミンゴへのそれと比較すると可哀想なくらい少ないかったですね。ドミンゴは登場するだけで大拍手。こういううのでLAオペラを嫌う人が多いのですが、まあ、日本の歌舞伎とか新派、あるいはバレエと同じ反応と思ってください。ただ、歌い初めの前に拍手が上がってしまうと指揮者はやりにくいでしょうね。しかしもう8年間ドミンゴをアシストする形でLAオペラの主席指揮者を務めるジェームス・コンロン、ここらへんは慣れていました。うまく処理しています。

マチャイゼはデビューは2006年の“連隊の娘”そして2008年にはザルツブルグでのネトレプコの降板でジュリエットを歌って人気を博したのですが、僕にはジルダの印象が強いですね。ヌッチと一リゴレットで共演したのは、かなりの回数に上ると思います。この役では、実にリリックで優しい声で魅了するのですが、フランスもだとちょっと鼻にかかった非常に強い声で、高音はカラズばりの金属っぽい艶のある声、中音は暖かみのある柔らかい声という実に「色気」のある歌唱を聴かせてくれます。レイラもすごかったですが、タイスの3幕目の最初のアリアもグッと来ました。でも、Brava!がかからないので、一人で叫んでいました。もともと真珠取りの時は主人公のレイラ役のデジレ・ランカトーレが降りたので代役だったのですが、ランカトーレよりも良かったと覆います。マチャイゼのほうが、強い高音が自然に出て、研ぎ済ませれている感じです。この感じは、タイスでも続いていました。マチャイゼは発声に充分な余裕があるので、その分表現力や演技に力が回せる感じです。
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そう、演技も素晴らしいです。瞑想曲の間、アタナエルとニシアスの間で迷う気持ちを立ったままの演技で見事に見せます。ちょっと惜しいのは、最初から中音で歌い出す時のような声が、高音から中音にストンと落ちた時に消えてしまうこと。ここらへんはメゾでないからしかたないのかもしれませんが、カラスやバルトリみたいに、「はったりのきく(メゾの歌手の方から教わった表現)」凄みが出るといいですね。

一方の、超人気のドミンゴ、今迄バリトンでは「ジェルモン」、「シモン」を生で聴きましたが、ヴェルディバリトンというよりも、テノールに聞こえてしまう。今ひとつの印象でした。この“タイス”でもそれは代わらないのですが、びっくりしたのは高音の輝かしさが戻っているのではないかと思ったこと。これなら、ナディールも出来そう。一方、この日はマチャイゼの引き立て役に回り、あまり浪々と歌わないのが良かったです。結局、瞑想曲が終わり2幕目の2場での、二人のロマンツァ(?)「Father、あなたの声を通じて」、「愛は美徳」の2曲は、もう本当に素晴らしかったです。たしかにドミンゴはフランスオペラ用の声としては明るすぎるかもしれませんが、これだけの美声x2で役10分、夢のような世界を体験しました。リゴレットの時にも感じましたが、マチャイゼは二重唱の時に相手に合わせるのが絶妙ですね。これはメイにも言えますが。。

そして、また良かったのが、コンロンの指揮。だいたいコンロンはフランス音楽の振興に尽くしたとして、なんと「レジオン・ドヌール」勲章をもらっているくらいですから、実にうまい。流れるようで、また歌謡曲的に旋律を奏でるフランスオペラを見事に構成しています。欲を言えば、もう少し情熱的な部分もあって良かった気がしますが、コンロンの指揮はあくまで上品で破綻のないことです。ダニエル・エッティンガーなどと同じで、何でもこなせますが、曲への理解が素晴らしい。これはレベルが違います。ドミンゴの絶対的な支持を得ています。当初はたまにドミンゴが振ることもあったようですが、今はすべてを任されています。
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ニコラ・ラッブの新制作の演出も良かったです。LAオペラは舞台の制限(奥行きがない)のと、観客の制限(映画好き)から、必要以上に映画的な演出になり、時には失敗になることが多かったり(ウッディアレンの演出など)、ドミンゴの奥方、マルタ・ドミンゴの残念な演出(トラヴィアータなど、実に軽薄)があったりするのだけれども、この日のは良かったです。タイスの遊女としての姿を実に華麗な衣装で包み、彼女は姿を見せないがタイスを見る仮面の観客が興奮する姿を劇場形式で見せ、3幕目では同じく荒廃しきった劇場を模した僧院で救いを待つ人々を描いたところなどは、頻繁に変わる舞台の中に一貫性があって、説得力もありました。

どちらかと言えば軽い、ベルカント系のソプラノが好きな僕ですが、ランカトーレに続き、このマチャイゼ、本当に素晴らしいと思います。ただ、決して声をつぶさないように演目を選んで歌ってほしいと思います。と言いつつ、ドリーブのラクメの鐘の歌を聴きたいなぁ、と思ってしまいます。

しかし、この公演期待以上の出来でした。6月初めまでやっています。






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