プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ムーティ conducts ナブッコ

ムーティがスカラ座を去ってから10年近くがたち、今回の来日はローマ歌劇場の「終身名誉指揮者」として一座を連れて凱旋公演という感じです。

僕自身、ムーティのスカラでの最後の来日の時の"オテロ”は、まだ耳と脳裏に焼き付いています。と言っても、オッロよりもヌッチのヤーゴとムーティの指揮が、焼き付いているんですが。

今回は、シモンボッカネグラでのフリットリの降板でガクッときていましたが、今日もアビレガイッレのタチアナ・セルジャンが不調のために降板、代役にラッファエッラ・アンジェレッティという若手のソプラノが出てきました。ま、どちらもはじめて聴くので、フリットリの降板の時ほどがっくりはしませんでした。MET来日のドン・カルロ以来、日本でフリットリのヴェルディを聴くのはよほど運がないとダメなんでしょうね。

話を戻します。ムーティの昨年のトリフォニーでの演奏会でのヴェルディ序曲が、非常に重たく、昔の鮮烈なイメージからかけ離れてしまっていたと感じたことはブログにも書きました。特に"運命の力”、"シチリア島の夕べ” は、重厚に過ぎた感じがありました。その中で"ナブッコ”だけは、80年代のスカラ時代のムーティと同じ鮮烈さがあったので、今日も期待していました。ただ、今日ナブッコ全曲を通して聴くと、昔のムーティの音作りとは随分違います。当然ですよね。昔アバドと競っていたような、シノーポリも意識していたような、非常で鮮烈でシャープな指揮ではなくなっていました。その代わり、一音一音が踏みしめるようにきちんと響くような、なんというか「実存主義的」な響き。これも前に書きましたが、ムーティのヴェルディに対する解釈が変わったのだと思います。ナブッコはヴェルディの初期の作品だから、力強く、でも軽快に、テンポ良くというのではなく、音楽全体を支える"ユニゾン”の力を音に表現していたと思います。

この変化は、素人の僕でも充分納得。今日の指揮の意図は明確でした。ただ、もうひとつの要素は、ローマのオケが単純に"上手でない”こともあると思います。飛ばしたら、ミスするんですよ、きっと。最初のホルンからグニャってましたし、弦の音色や切れもスカラやウィーンフィル(帰りの道ではルイージ指揮のウィーンフィルのを聴いていました)にはとてもかなわない。だから、ユニゾン的な音で勝負しているのかとも思います。

そして、歌手。正直言ってやや退屈でした。抜きんでていたのはイズマエーレ役のアントニオ・ポーリでしょう。甘いイタリア的な声。現代3大テノールって最近言われなくなりましたが(昔はリチートラ、クーラ、アラーニャとか..)、この人入れてもいいなぁ。あと、メーリとサルトリ? (誰かに「なんでデムーロ入れないの!」と言われそうですが)ポーリは良かった。彼は客演みたいな感じですよね。自由に歌っていました。ま、ムーティの指揮で「自由」というのはないでしょうが、他の歌手は、ムーティに「怒られないように」歌っているという感じが強かったんです。代役のアンジェレッティは仕方が無いとしても、期待したルカ・サッシは声が出ていない。重唱になると彼の声が消えてしまうんです。萎縮している感じでした。ガナッシもしかり。自身の良さを出そうとしていない。その中で、ちょっと歌いっぱなしという感じはありましたが、ザッカーリアのベロセルスキーは、幕が開いてからしばらくの間をほぼ一人で大健闘。その後もルネ・パーペばりの安定した低音でがんばっていました。声rに余裕がありましたから明日のシモンのフィエスコも楽しみです。

演出は、ムービーで見ていたので期待していませんでしたが、それにしてもこれも退屈ですね。グラハム・ヴィックのショッピングセンターも困りますが、歌手が苦悩を表せないなら、演出でそれを表してほしかった。今日は、本当は演奏会形式で良かったと思います。

歌手に輝きが足りない、演出の退屈さ、オケの切れのなさが、どうも「泣けないオペラ」になってしまっているということだと思います。ナブッコがアビガイッレに許しを請う場面はいつも泣けるんですけどね。

去年のスカラ座来日の時のリゴレットは、ヌッチほとんどワンマンプレイで盛り上げました。(僕の時はモシュクもいなかったんで)スカラ座にしかられてもbisをやりました。そして、ファルスタッフは、マエストリ、ポーリ、フリットリ、ルング、バルッチェローナ、カヴァレッティ、ポルヴェレッリという今考えても超ド級の歌手が、指揮の枠を超えて素晴らしい歌唱を聴かせ、これをマエストロ、ハーディングが見事にまとめました。両方ともスーパーなところがあったんですよね。キラキラしていました。

今日のローマ歌劇場公演、たしかに去年のスカラ座より少し安いです。でも、ムーティの神話性で客を集めた、、そして、たしかにムーティはすごい。だけど、それ以外に見るべきところがあったのか、いや聴くべきところがあったのかはけっこう疑問です。「キラキラ」がもう少し欲しかった。ヴァリューフォーマネーで言えば、バッティストーニのナブッコでしょう。

ただ、お客さんは喜んでいましたね。でも、客も上演中は歌手同様にムーティに遠慮してるんだかなんだか、BravoもBraviも殆ど無し。僕はやりましたけど。なーんか、ちょっと妙な雰囲気でしたね。それで、最後にいきなりスタンディングオベーション?ここにムーティを良く知らない、だけど感性のするどい音大生がいたら、どう反応したのかなぁと思います。

ちょっと、辛口になってしまいましたが、ムーティはすごい!と、これは本当に思いました。新しい、ヴェルディの解釈を見せてくれました。今、スカラ座がバレンボイムでうまくいかない。次のシャイーもどうも乗り気でない。着任していないペレイラはもう退任の時期が噂されている。こんな時、スカラ座を輝かせるのはムーティしかいないはずなのに、よほどの軋轢が2005年の決別につながっているようで、そんな話も出ないです。ムーティはこのまま、シカゴとローマで終わってしまうのでしょうか?あまりにも残念すぎる気がします。

さて、明日のシモンはどうでしょうか?これを聴いてもう一度感想を述べたいと思います。
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