プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

パルジファル、新国立の新しい幕開け

新国立劇場から若杉 弘氏が去ってから、長いこと不在だった音楽監督に、マエストロが帰って来ました! 飯守泰次郎氏!日本のワーグナーの第一人者です。新国立劇場の音楽監督としてのスタートを、そしてその2014-2015シーズンの幕開けをワーグナーの遺作 "パルジファル”の巨匠クプファーの新演出で飾ったのですから、これはすごいことだと思います。おそらくは監督就任が決まってからすぐに動き始めたのでしょう。

今日は、初日ではありませんでしたが、今日は飯守マエストロに敬意表してブラックスーツで劇場に行きました。

クプファーは1991年と翌年にバイロイトで上演された"ニーベリングの指環”のDVDでものすごい衝撃を受けましたが、彼の才能は79歳になった今も、超一流の切れを見せてくれました。幕があがってから最後までステージの中央にはLED(青色LEDがなければできなかった!)で美しく色が変わる光の川、いや稲妻のような道がステージ奥へと続いています。全幕、これだけの大道具、もちろん巨額の投資がされたとは思いますが、と紗幕で場面の心理描写と進行を表していくのです。METのジラールの演出も凄いなあと思いましたがとにかく血しぶきが多いのにやや辟易。

クプファーの美学は、この血をLEDの川を赤い溶岩のように表現しています。とにかく滅茶苦茶美しいのです。いつも思うことですが、新国立のライティングは世界一のレベルにあると思っていますが、今日もこれを痛感しました。クプファーは新国立の舞台装置の良さを出し切っていますね。ドイツの最近の新進演出家というと白い箱、段ボール、ドクロというイメージですが、クプファーは91年のリング以来、ただただ美しいのです。

そしてこの美しい舞台に乗る歌手も超一流です。特にアムフォルタスのエギルス・シリンス、グルネマンツのジョン・トムリンソンの力強く切れない美しい声と表現力、4時間に近い上演時間、その輝きが衰えることはなかったのに感激!クンドリ役のエヴェリン・ヘルリツィウスはワルフラウト・マイヤーのようなワーグナー専門という感じではないが、クンドリの不可思議さを声と演技で醸し出していました。クリスティアン・フランツは新国立でもお馴染みの歌手ですが、聞くたびにうまくなってくる。ただ、カウフマンは往年のルネ・コロのような廻りを高揚させるようなヘルデン・テノールではなく、ややこじんまりした感じ。

それでも、これだけのワーグナーが日本で聴けるのであれば、バイロイトなんか行く必要はないのでは、と思ってしまいました。飯守マエストロの指揮は実に緻密で、ワーグナーの音のひとつひとつを拾って妖艶な世界を作っていました。個人的に欲を言えば、このパルジファルでは「音楽に持って行かれる」ような強引な快感とも言える力強さがもう少しあっても良かったかなぁという感じはしました。これは合唱も同じ。しかし、日本人が紡ぐのワーグナーの音楽の良さがとても出ていました。

ワーグナーの最後の作になったこのパルジファルも彼の生涯のテーマであった「救済」を求めた作品だと思います。それにくらべてヴェルディの遺作「ファルスタッフ」はそれまで、名誉をいつもテーマに掲げて25作を書いてきた彼が「名誉がなんだ!」と笑い飛ばした作品。同じ時代を南北で代表した二人の生き方も音楽もそして最後も、本当に違います。だからこの二人を追いかけることは楽しいのです。

昨年のヴェルディ、ワーグナーのアニバーサリーイヤー、日本ではヴェルディの上演が目立ち、ワーグナーファンは寂しい思いをしたことをしたと思います。僕も一応ヴェルディ協会とワーグナー協会の掛け持ちですからそう感じました。昨年のシーズンがこのパルジファルで開いていたらたまらなかったでしょうね!

飯守さんの作った今シーズンのラインナップはここ数年で最も素晴らしいラインナップだと思います。多分、全部行くことになると思います。最後に万雷の拍手に迎えられてステージにあがったマエストロを見て思いました。別に単純なナショナリズムではないけど、「国立」という名前の付く劇場は、やはりこのくらい音楽への思いと愛と、もちろんプロとしての力と、そしてこういう大作をシーズン頭に大成功させるクリエイティブ力と政治力のある人にいてほしいものです。マエストロ、ご健康に留意してご活躍ください!

さて、明日はベッリーニです。日本ベッリーニ協会っていうのは聴いた事ないですね。
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