プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ドン・カルロ 新国立劇場

12月3日、いや、寒かった。今年一番。フランドル地方の冬のようでした。去年の10月のヴェルディフェスティバル以来1年ちょっとで、4回目の"ドン・カルロ”。僕はヴェルディの中でこの演目が一番好きというわけではないのですけど、多分、最近は一番上演されている演目かもしれません。

個人的には、ドン・カルロは聴くならイタリア語4幕、見るならフランス語5幕かなぁという気がしています。演出にもよりますが、演劇的にはフォンテンブローの森でのカルロスとエリザベッタ(エリザベートですかね?)の出会いがある5幕版のほうが、その後のカルロスと王の複雑な対立が良くわかります。

ただ、5幕ものは長い。ワーグナー以外ではお尻がいたくなる可能性が最も高いオペラです。それで、短い方が良いというのではないですが、音楽的には4幕もののほうが無駄がなくきれいにまとまっていると思います。カルロとロドリーゴの2重唱が出てくるまでに1時間近く待つのは、あの歌からその後の劇が下へ流れて行くという雰囲気が薄まります。

この日の指揮のリッツォは、オーケストラを鼓舞するように鳴らしていたと思います。鳴らないドン・カルロはつまらないので良かったと思います。ただ、1-2幕では、テンポが急に早くなったり緩くなったりという変な効果が気になりました。二重唱の時もその後の合唱の時もそうなんですが、前奏や間奏で、日本の歌謡曲のオケのように急にテンポを落とす。なんかイタリアっぽくないんです。ドン・カルロは、ファビオ・ルイージでの指揮を2回聴いていますが、重くはないが、しっかりしたテンポを崩さず、ぐいと歌手を引っ張っていく、あの感じが好きです。家で良く聴くアバドもそうですね。

そのせいもあってか、1幕目のエリザベッタのファルノッキアは歌いにくそうでした。曲に遅れるところも時々。彼女自身の喉も暖まっていない感じがありありとしていて、中低音部のピアニシモの音程が全く安定しない。カルロのエスコバルは甘くて良い声をしていますが、声を大きく出さないと安定しないんですね。音量を下げると声が喉で割れます。この人の声質は、スカラでカルロを歌ったファビオ・サルトリ(大ファンです)に似ているので、どうしてもその実力差がいやというほどわかります。エスコバルは声がフラットすぎて感情が入っていないんです。演技はほぼゼロというのも、この演出だと目立ちます。他の歌手は3-4幕に向かってエンジンがかかっていきましたが、この人は最後までいけませんでした。

ロドリーゴのヴェルヴァは1幕目、2幕目は声が出ていない感じで、「おやっ?な」というのが本音。カルロとの2重唱は正直褒められたものではありませんでした。この人も弱音が良くないです。かといって中低音でドスのきいたバリトンでもない。2幕目の3重唱でもこの人の声だけ聞こえないつまりヴェルディ・バリトンではないんでしょうね。今年の二期会の上江隼人のロドリーゴのほうがずっと良かったと思います。彼は、同じく今年の6月のリナ・ヴァスタのリサイタルの時に、ピアノ伴奏でしたが、笛田博昭と二重唱やりました。これは凄かったです。

2006年の新国立の同じ演出のドン・カルロではエリザベッタの大村博美が素晴らしかったのを覚えています。素人ブログといいつつ、こんなことを言っては何だかなぁ、という感じもしてしまいますが、今回のレベルの歌手(ソニア・ガナッシを別として)を海外から呼んでくるのであれば、重要な歌手を多く使うドン・カルロの場合は日本人をもっと入れてもいいのでは。そういう意味では上江さんを呼んだら良かったなぁと思いました。(彼もミラノなんで「呼ぶ」ことになるんでしょうけど。)でもって、余計なことですが、そうすると上江さんは、新年のNHKオペラと2月のバッティストーニとのリゴレットとしばらく日本にいるのでリサイタルくらいできるだろうし。

歌手で良かったのは圧倒的にエボリ公女役のソニア・ガナッシ! 今年のローマ歌劇場のナブッコのフェネーナはとても地味な感じ(役も地味)でしたが、エボリははまり役。素晴らしい感情表現と演技で他の歌手を圧倒していました。3幕目の「むごい運命よ」は素晴らしかった。ウルウルきました。これを聴いただけでも今日のチケット代の価値はあったと思います。水曜日の夜の新国立の観客、満員ではないですが、さすが耳が良いですね。そこまでブラボー全然なかったのに、ここでいきなりBrava!!連発。拍手も20秒くらい続きました。で、ここから各歌手の調子も上がりました。特にヴェルヴァは中音が膨らんでロドリーゴの「友情」みたいなのが満ちあふれて聞こえてきました。

フィリポ2世のシヴェクもまずまずというところでしょうか?この人も声がフラットすぎてナレーターみたいな感じが気にかかりましたが、「一人寂しく眠ろう」は聴き応えがありましたし、宗教裁判長の妻屋秀和が出て来てからは、(この人はすごい!)彼に引きづられるように調子を上げて二人のやりとりも良かったです。

指揮も後半はテンポも良くなりました。ただ、歌手が歌っている時はなんかオドオドしている感じで、合唱とか間奏、前奏曲だと実力全開という感じがしました。

演出は2006年と同じマレッリ。動く壁を使い切ってダイナミックな舞台を構成していましたが、サンゲツの壁紙をはったような壁はやや安っぽい。2-3年前まで良く上演されていたガリオーネ演出のシモン・ボッカネグラの(Tutto Verdiもこれです)のように、古い質感のある壁にしてほしかったなぁ。予算もあるんでしょうね。

帰りがけに家内と話したのですが、異端裁判の結果火あぶりの処刑にされるシーンで、どうしてあんなに優美な音楽をヴェルディは編み出したのだろう、、今回、もっとも印象に残ったのはそれかもしれません。

さて、来年の新国立は「運命の力」ですね。是非「新国の力」を見せてほしいと思います。
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