プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

2014年を振り返りました。

さて、今年もあと残すところ僅かです。今年、観劇した公演は33回でした。そのうちオペラが23回、バレエが7回、管弦楽が2回、歌舞伎が1回。いつもよりもバレエが多かった感じですが、これは、やはりABT(アメリカン・バレエ・シアター)とパリオペラ座が両方とも、年の前半に来日し素晴らしい公演を見せてくれたこと、その上オペラ座のエトワールで来年5月に引退するオーレリ・デュポンが8月に来日。デュポンだけで3回行きました。8月の勅使河原三郎との共演、「睡眠」はパブリシティが行き渡っていなかったせいか(おかげで)、2回良い席で見ることができました。デュポンほどドレープの似合うダンサーはいないでしょう。静止した彼女はギリシャの彫刻のようです。そして、動きを感じさせない”動き“というのでしょうか。「今、脚をあげたな」とか「ピロエットだな」というようなことが全く頭をよぎらないのです。すべて、「感情」がかたまりになって舞台を滑って、変形していくような感じ。マニュエル・ルグリが引退した後に定まったパートナーがいませんでしたが、今回のエルヴェ・モローとの椿姫は最高でした。これで、来年の5月にマノンを最後に引退してしまうのはあまりにも惜しい。その後はミストレス(オペラ座の教師)になって若手を育てるそうですが、まだまだチャンスがあれば踊って欲しいものです。僕のバレエ観劇歴もオペラ同様10年ちょっとにしかなりませんが、デュポンとルグリ、そしてタマラ・ロホ、ホセ・カレーニョの最盛期を見られたのは幸せでした。

今年、とても残念だったのは、11月のジェノヴァでのヌッチとバティストーニ指揮、ヌッチのミラー、その翌日のハンブルグでのヤング指揮でマチャイゼのルイーザの"ダブル“ルイーザ・ミラ−”ツァー(って一人で行くはずだったんですが)に行けなかったこと。フライトも手配済、ハンブルグはチケットも手配済だったんです。まあ、また来年チャンスもあるでしょう。52週全部は行けないにしても40公演くらい行きたいと思っています。オペラもですが、最近減ってしまった室内楽なんかももっと行きたいものです。

さて、今年の私的ベスト10を上げましょう、というほど数を見ていない感じもしますが、一応自分用の備忘録として。


1位:シモン・ボッカネグラ:モデナパヴァロッティ劇場、指揮チャンパ、ヌッチ、コロンバラ、サルトリ

2位:タイス:ロサンジェルスオペラ、コンロン指揮、ドミンゴ、マチャイゼ

3位:オペラ座来日:(バレエ)椿姫、オーレリ・デュポン、エルヴェ・モロー

4位:ファルスタッフ:(サイトウキネン)ルイージ指揮、カヴァレッティ、ケルシー、アルベローバ

5位:オーレリ・デュポン&勅使河原三郎(バレエ):睡眠(8/17の公演)

6位:ドン・カルロ(二期会):フェッロ指揮、山本耕平、上江隼人、横山恵子

7位:新世界:アンドレア・バッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー

8位:シモン・ボッカネグラ:ローマ歌劇場、ムーティ指揮、ペテアン、メーリ、ブラット、ベロセルスキー

9位:カルミナ・ブラーナ:新国立(バレエ)デヴィッド・ビントレー振付、湯川麻美子、タイロン・シングルトン(4/27の公演)

10位:ナクソス島のアリアドネ:新国立劇場研修所公演:高橋直史指揮、天羽明江、林よう子

1位と2位が海外の公演になってしまいましたが、モデナでのヌッチは凄かったです。彼のシモン・ボッカネグラ何度も見ていますが、この日は年齢とともに失われてきていた中高音が美しく響き(これは11月の日本でのリサイタルでも同じでした)、一方で年齢とともに豊かになった低音からの表現力の素晴らしさで、今迄聴いたシモンの中では最高でした。モデナはまあ田舎の劇場なので、当日はオペラの途中で幕が斜めに降りてきてしまうトラブルがあり、若い指揮者のチャンパ(彼も昨年、”群盗”聴きましたが、いい指揮しますね!)も出演者もうろたえていたのですが、一瞬の空白の後、ヌッチだけは幕には目もくれずに、皆を鼓舞するように歌い出しました。指揮者とオケもそれに付いていって、後は何事もなかったように進行したのです。すごいなぁ。これは「神」だなぁ。後日、”ヌッチ氏夫妻を囲む会“で彼とそのことを少し話しましたが、その時はもう優しい初老のお洒落なおじさんという感じ。誰もオペラ歌手も役者も舞台に立つと変わるのでしょうが、ヌッチは本当にオペラの人ですね。11月のオペラシティのリサイタル、あえてリサイタルは順位からはずしたんですが、これもベスト5にははいりますね。8曲のアンコールを2部構成のリサイタルの後で休憩なしで素晴らしいパフォーマンスで聴かせてくれました。余談ですが、モデナのシモンの前に、”シモン・ボッカネグラ”というヴェルディの地味なオペラを今のように各地で盛んに公演されるように(日本以外は)した、マエストロアバドの墓所をボローニャに訪ねたのも良い想い出になりました。

5月の“タイス”ですが、この演目はまず日本では見られないだろうということと、僕自身がマチャイゼのファンなのでロサンジェルスまでこれだけのために行きました。マチャイゼは文句なしに素晴らしかったです。2ヶ月間にパルマで”真珠取り“のレイラを聴きましたが、これも抜群に良かったですね。彼女はリリコからスピントくらいまで自由に使いこなせる声が魅力的。最近、バルトリにしてもフリットリにしても軽い声には良い女声がいますし、ちょっと年とっていますが、グルベローヴァやデヴィーアもいますが、ちょっと重くなるとすぐに「カラスの再来」といわれてネトレプコのような売り方をされてしまいますね。マチャイゼもヌッチとのジルダ役で知りましたので、レッジェロかと思っていましたが、フランスオペラっぽい凝縮した強い声がいいですね。今年は彼女のフランスオペラ2つ聴きましたが、けっこう本当に、「カラスの再来」と呼んでも良いかいう感じもしました。そして、僕が大好きな指揮者、ジェームズ・コンロンはフランスオペラの得意とするだけに、彼のノーブルでしかし力強い指揮が魅力的でした。しかし何より、ドミンゴの美声。バリトンとして聴いていたら「なんだテノールじゃないか」と思ってしまいそうですが、すごい声の艶。彼もシモン・ボッカネグラでも聴きましたが、この日のアタナエルは総毛立ちました。彼はヌッチより歳上の73歳。このくらいの歳になると天才はもう一度ピークを迎えるのでしょうか? これなら、いっそテノールとしてドン・カルロスを演じて、ヌッチのロドリーゴとフランス語版の二重唱をやってほしいくらいです。

そして3位には冒頭で述べたパリオペラ座の来日公演でのデュポンとモローの椿姫。オーレリとしては、ルグリがいなくなってから、これほどぴったりと息の合うパートナーはいなかったのではないでしょうか。来年5月に引退した後はオペラ座で指導にあたるようですが、日本でも引退公演をしてほしいですね。

今年は、この3つの公演がダントツだったと思います。ローマ歌劇場のシモン・ボッカネグラや番外になってしまったナブッコをもっと評価される方もいると思いますが、これは好みの問題で、僕にはムーティの指揮はヴェルディには重くなりすぎた感じがしましたし、歌手も普通でした。その割にチケットの値段は普通ではなかったのは、引っ越し公演ですから仕方ないでしょうね。そのローマ歌劇場も今や、倒産寸前。ボローニャも青息吐息。トリノは指揮者もノセダの後が決まらない。日本に来られるイタリアの歌劇場は、シャイーがうまくローンチできればスカラ座と、ミョンフンのフィニーチェくらいじゃないでしょうか。

そして、日本の公演では、なんと言っても二期会のドン・カルロが素晴らしかったと思います。タイトルロールの山本耕平良かったですね。エリザベッタで歌うはずの安藤赴美子さんがインフルエンザで降板したのは残念でした、しかし、なんと言っても上江隼人の安定してピアニシモから客席後方まで伸びてくる美声は凄かったです。彼は、6月のリナ・ヴァスタのリサイタルの時に、テノールの笛田博昭とのカルロとロドリーゴの2重唱で、気持ちが入って笛田の腕を強く掴んで、あとで謝っていましたが、そのくらいすぐにオペラに入り込める歌手ですね。特にヴェルディについてはすごく勉強しています。同じく7月のソロリサイタルでのステュッフィーリオのナンバーも良かったです。そして、サイトウキネンのファルスタッフは、感激度では一番。ルイージの指揮もすごかったが、本当に良く練習された完璧な公演だったと思います。

バッティストーニの「新世界」も昨年の「ローマ三部作」に迫る、ものすごい新鮮さがありました。彼は音楽を縦に切り裂いて並べて行きます。彫刻です。ミンシュの指揮とあまりにも違って少々まごつきましたが。東フィルの主席客演指揮者に就任し(あまり話題になっていませんが、すごいことです。)来年は、彼が前から振りたいと言っていた展覧会の絵と、トゥーランドットを振るのも楽しみです。

あれ、今気づいたのですが、新国立のシーズンのプレミアオープン、”パルジファル”が漏れてしまっています。あれも素晴らしかった。研修所公演の"ナクソス島のアリアドネ”より下はまずいですね。まあ、ここらへんはあくまでも個人的な好みと思ってくださいませ。

いやいや、今年の一つづつの公演を思い出すと切りが無いので、このくらいにしておきますが、皆様、今年も素人のブログにお付き合い頂き有り難うございました。自分の備忘録として始めたこのブログも10年目に入ります。来年もどうぞよろしくお願いを致します。
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