プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

アンドレア・シェニエ ` ロイヤルオペラハウス

 今回の旅行、もともとはウィーンで“シモン・ボッカネグラ”とあとひとつ“トスカ”を見て、それからアムステルダムの“ランス”への旅に行くつもりでした。トスカは、マルティナ・セラフィンのタイトルロールで、マエストリのスカルピアというのもので、これもいいかなと思っていましたが、旅のプランを作っている時に、家内がROHでのカウフマンの“アンドレア・シェニエ“を見つけてしまったのです。これは、行かねばならないでしょう。僕自身は、カウフマンのファンというわけでは全然無いし、だいたい彼はヴェルディはほとんど歌わないので、どちからというと数年前まではアンチカウフマンだったんです。ただ1回2007年にスカラ座でアルフレードを歌ったのを聴いた事がありますが、あの頃はまだ彼は何を歌って良いのか決まっていなかったようですね。印象もあまり良くなかったです。が、その後のボイストレーナーが彼を今のカウフマンにしたとか言う話を聞いたことがあります。

 カウフマンは声も美しいですが、世の女性が皆ファンになってしまうのでは、という“イケメン”。たしかに格好良い。METのライブビューイングで、パルジファルを聴いてから、「うーん、こいつ良い声でかっこいいなぁ」と思い始めました。しかし、この人意外と小さいんですよね。テノールの常か…..170cmあるかどうか、ビリャソンと並んでも同じくらいじゃないかなぁ。ですので、この日のマッダレーナ役のエヴァ-マリア・ウェストボークのほうが背が高く、抱き合うとつぶされそうな感じがありました。

 で、もって、この日のカウフマンは絶好調。いつも絶好調なんでしょうか?一幕目から内面をさらけ出すような表現力で迫ります。このオペラのキイのセリフになる「貴女は愛をご存じない」と歌うカウフマンはウェストブレークや、ジェラール役のジェリコ・ルチッチがまだアイドリング状態の時は、特に素晴らしさが際立ちます。演技も良いですね。”なり切り感“が圧倒的。

 一幕目から、最後まで際だったのは、パッパーノの指揮。いや、びっくりしました。僕が聴いたシェニエは、新国立の2010年のヤデル・ビニャミーニ指揮。この人は日本にも良く来ていますね。だけど、なんだか印象が薄かったんです。予習に使った、クーラ、グレギーナ、グェルフィ(この人素晴らしいバリトンなのに最近全然見かけず….どうしたんでしょう?)で、指揮がリッツィの演奏は、この旅の途中でもしょっちゅう聴いていましたから頭に入っていたんですが、序曲からまるで違う。
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 ヴェリズモっぽく、ジャァ〜ンと鳴らさないんです。とても繊細な感じで入ります。座っていた席(1階の正面最後部席、僕達の後ろは立ち見)が2階バルコニーの下に入っていたせいもあるかもしれませんが、それにしても、ヴェリズモに良くある“ジャァ〜ン!”という効果音的なところも、“ジャンッ!”と切る感じ。この潔さがカウフマンの“泣きの入った”歌唱を際立たせます。

 後半になると、それなりに鳴らして来ますが、シェニエがマッダレーナと再会するあたりまでは、本当に押さえています。ですから、カウフマンも大きな声を出さない。これもヴェリズモっぽくないんですが、繰り返しになりますが、その分貯めておいたと思われる歌唱の表現力にやられます。
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 ルチッチも2幕目あたりからエンジンが掛かり始め、3幕目にマッダレーナに、シェニエを救うことを約束するあたりで素晴らしいバリトンを効かせます。彼はMETやウィーンでもヴェルディを多く歌っているようですね。そのせいか、ヴェリズモにしては声の表情が豊か。(ヴェリズモファンの方に失礼な言い方お許しを…..)

 ちょっと残念だったのが、マッダレーナ役のウェストブレーク、オランダ人のソプラノで、どちらかというとスピント。マノン・レスコーやジークリンデなどを最近歌ったようですが、この人が一般的なヴェリズモタイプです。とにかく声がでかい。表現力はあるんですが、他の二人に比べると、最後に大音量で歌い切る、というか歌いっぱなしというか……..これなら、新国立の時のノルマ・ファンティーニのほうが良かったかなと思います。ただ、あくまで男声二人が良すぎたので、聴き劣りしたという程度です。

 演出は、日本でもお馴染みのマクヴィカー。大変クラシックで、お金をかけた演出です。しかし、彼としては、かなり保守的で、しかもあまり役者に演技の負担をかけない。予習用のジャン・カルロ・デル・モナコ(僕、この人の演出大好きです。もちろん、マリオ・デル・モナコの息子)のような、蠱惑的な暗い色使いと役者の使い方のほうが良かったです。この日の観客の年齢層、すごく高かった(チケットが高いせいか?)からでしょうか?写真下が、まさにプラチナチケット!
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 ヴェリズモ、それほどそそられないんです。オペラにはまり始めたころは良く行きましたが、今は車の中で、カヴァレリアの間奏曲を聴くくらい。日本語で言うと「現実主義」となるようですが、オペラの舞台に一般市井人が出てくる面では、20世紀の感じはするなぁと思いますが、音楽的には、その前のヴェルディやロッシーニ、ベッリーニなどより洗練されているとは思いませんし、脚本もけっこう唐突なものが多い。ま、これはすべてのオペラがそうですが。このシェニエの脚本を書いたイリッカの家を昨年訪れましたが、トスカ、マノン・レスコー、蝶々夫人とプッチーニの脚本を多く書いています。何か似ている感じがしますね。

 と、最後に否定的なことを書いてしまいましたが、この日の“アンドレア・シェニエ”は素晴らしかったです。コヴェントガーデンの喧噪が、フランス革命のように聞こえました。

今回、8日間のヨーロッパの旅、時代順には、“ランスへの旅”、“シモン・ボッカネグラ”、“アンドレア・シェニエ”とオペラの歴史をたどった感じになりましたが、ここ数年毎年春に行っているヨーロッパへのオペラの旅では、もっとも満足で幸せになった旅のような気がします。

さて、帰ったらバッティストーニの講演会とリゴレットです!

キャスト
Conductor
Antonio Pappano
Director
David McVicar
Andrea Chénier
Jonas Kaufmann
Maddalena de Coigny
Eva-Maria Westbroek
Carlo Gérard
Željko Lučić
Bersi
Denyce Graves
Madelon
Elena Zilio
Contessa de Coigny
Rosalind Plowright
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