プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

マノン・レスコー 新国立劇場

久しぶりにプッチーニのオペラを見ました。ほんとに久しぶり。前に見たのがいつだったかを忘れてしまったくらい。

 僕が最初に見たオペラはフィレンツェ歌劇場の引っ越し公演での”トゥーランドット”でしたから、プッチーニにはお世話になっていますし、去年はトスカやこのマノン・レスコーの脚本も手がけたイリッカの住んでいた家も訪れたほどで、決して観劇を避けて来たというわけではないのですが、年間40-50本のオペラ、バレエを選んで観劇に行くと、プッチーニはどうもそこから漏れてしまうのです。昨年の藤原の”ラ・ボエーム”も「フリットリのミミかぁ..」と悩むうちに終わってしまいました。

 多分、音楽があまりにも完璧に美しすぎることと、オペラのストーリーも非常にわかりやすく、シンプルなのが、ヴェルディ好きには何か物足りないのだと思います。このオペラの作り方は、プッチーニ自身がヴェルディとは違うオペラを目指した、つまり、ドロドロして複雑なストーリーと音楽からの決別という構図から必然手的に来ているものだと感じます。ヴェルディも、それまでのロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニからの脱却を図るのに、「私はベッリーニのような長〜い、長〜い、オペラはかけません」と言っています。これはオペラ自体の長さのことではなく、楽曲の旋律の長さのことでしょうが、彼もその決別に至るまで、そして結局ベッリーニとベルカントの時代を終了させる役割を担うことになるまでに、何作ものオペラで苦闘しているのです。

 ともあれ、プッチーニの音楽はどこを切り取っても美しい、特にこのマノン・レスコーは、宝石箱のようです。マノンが抱えて逃げようとした宝石箱には、このオペラの曲がはいっていたのではないかと思うほど。

 昨日の公演で、まず、良かった!と思うのは、ピエール・ジョルジョ・モランディの指揮です。プッチーニの美しく羽ばたくような音楽を見事に描き切っていました。しかも、このプッチーニの初期の作品にふさわしい、“若さ”がありました。ワーグナーの影響も受け、ヴェリズモへの橋渡しをしたプッチーニの存在がはっきりと浮き上がる指揮でした。

 そして、ジルベール・デフロの演出も素晴らしかった。ずいぶん前になりますが、新国立で、蝶々夫人をやった時の舞台装置が白を基調に淡色を使っていましたが、それはとても良かったのです。プッチーニのような色彩の強い音楽には、このようなモランディ(画家の)っぽい舞台装置の色がいいのかなぁと思いましたが、昨日の公演で、それは確信になりました。決してお金をかけた舞台ではありませんが、歌手と音楽に観客を集中させる演出でした。特に2幕目のジェロントのマンションで、マノンだけが黄金に輝いているのは美しいものでした。

 歌手について語るのが最後になってしまいましたが、これもまずは満足がいくものでした。特にデ・グリューのグスターヴォ・ポルタは情感の表現が、音楽の抑揚に負けない強いものがあり、心を打たれました。マノンのスヴェトラ・ヴァッシレヴァもとても良かったのですが、1-2幕目で、まだ感情発露がそれほどでもないところの、微妙な表現ではポルタと差がついて、やや棒のような歌い方が気になりました。この前のROHのウェストブレークみたいなんです。3-4幕は素晴らしかったですが、ここは感情を思いっきり入れられるところですから、そういう表現も難しくないのだと思います。

兄レスコーのダリボール・イェニスはとても良かったです。安定していました。ヴェルディ・バリトンとも言える高めの美しいバリトンです。そして、妻屋秀和さん、日本の宝ですね。ジェロントを自虐的に、ユーモアを交えて演じていました。宗教裁判長からは考えられない演技。Bravo!

 ちなみに、バレエのマノンは砂漠ではなくて、沼地のパドドゥで終わります。マノン、マノン・レスコーに関してはラストは、このパドドゥ(ケネス・マクミラン振付)があまりにも印象が強烈で、オペラを見ていてもそれを思い浮かべてしまいます。

 マノン・レスコーと言うと、僕はドミンゴ、カナワ、シノーポリ指揮のROHのDVDが頭の中に標準化されていますが、昨日のはそれが「古く」感じられるような新しさがありました。

 ただ、カーテンコールと拍手、Bravoはちょっと少なかったですね。マエストロは本当にBravo!だと思いましたが。

 興行的に今回のマノン・レスコーが成功だったかどうかわかりませんが、個人的には、新国立でプッチーニなら“三部作”をやってほしかったです。かなり、マイナーですが、新国立は、マイナーな作品を成功させています。“ジャンニ・スキッキ”はともあれ、“外套”、“修道女アンジェリカ”などを見たい人は随分いると思うのです。

さて、明日はバレエです。下に、マノン・レスコーの脚本を共同で執筆、他にトスカ、ラ・ボエームなどプッチーニのオペラの脚本を書いた、ルイージ・イリッカの住まい(今はブティークホテルになっている)と、その中の”マノン・レスコーの部屋”。
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