プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

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運命の力 新国立劇場

 「運命の力」というタイトルを聞く度に、東日本大震災の2日後に文化会館の、フィレンツェ歌劇場の公演を思い出します。ズービン・メータが最初に追悼の辞を述べてから序曲に入りましたが、「メータはやっぱりすごいんだ!」と思わざるを得ない指揮でした。その前の晩に、大船渡に帰国して里帰りしていた伯母が、津波にさらわれながら奇跡的に助かったことが解ったりしたこともあって、僕自身も、また別の「運命の力」を感じていた事もありましたが、序曲にちりばめられたモチーフが、オペラの中で繰り返され、運命に弄ばれるかのような凄みのある演奏は素晴らしいものでした。忘れられない公演です。

 この序曲は、ムーティやレヴァイン、セラフィン、最近ではバッティストーニなど、多く指揮者によって演奏され、けっこう聞き込んでいることもあり、この日の新国立の若手スペイン人指揮者、ホセ・ルイス・ゴメスには期待をしていたのですが、残念ながら、彼の指揮ぶりには納得がいきませんでした。序曲前半で、自分の色を出そうとして、金管を引っ張り出したり、弦を強くならしたり、不協和音を強調したり、テンポを変えたり、色々とやってくれるのですが、テーブルの上を散らかしたような感じで、最後にそれらが、うまく元の引き出しに収まらないのです。その後も、「ここぞ!」という聴かせどころで、オペラと歌手を引っ張るような力強さが無い。何か、立体感のない、薄っぺら(とまで言っては失礼かもしれないが)な指揮という印象が最後まで付いて廻りました。ヴェルディの熱い心みたいなものを理解していないのかなぁ、と感じた次第。

 レオノーラを歌ったイアーノ・タマー、この日は、気温5度で雨という気候のせいか、あまり調子が良くないようで、中音に声が落ちると割れそうになるために、中音を弱音似せざる得ない様子でした。ただ、4幕目の、アリア「神よ、平和を与えたまえ」は、高音が綺麗に伸びて、ピアニシモも完全で、グッとくるものがありました。

 この日は、しかし、プレツィオジッラを演じた、ケテワン・ケモクリーゼのほうが、役者が上という感じで、3幕2場の営舎の場面などは、完全に自分が仕切っている感じ。スカラ座の来日公演でのリゴレットで、マッダレーナで光った歌唱は、この日も素晴らしかったです。しかし、故意にカルメンに似せた衣装と演技はやや鼻についたのと、歌唱が素晴らしすぎて、このオペラにはまっていない感じがありました。ケテワン・ケモクリーゼはオビワン・ケノービの娘?、と馬鹿なことを考えましたが…..

 アルヴァーロを歌った、ゾラン・トドロヴィッチ、2010年の新国のニューイヤー・ガラで(その頃はまだガラがありました)で、ノルマ・ファンティーニとトスカのカラヴァドッシを歌ったのを覚えています。この時は、ファンティーニに比べると、歌唱も、イタリア語も劣る感じがしましたが、それから5年、ずいぶん上手くなったなぁとは思いました。しかし、これは僕の好きなヴェルディ・テナーではないです。どうもオネーギンのレンスキーのような気がしてしまいます。高音部がヴェルディっぽく光らないんです。まあ、このオペラ自体がサントペテルブルグ歌劇場の要請で書かれたものなので、トドロヴィッチの声はオリジナルに近いのかもしれませんが。彼に比べると、同じ東欧系でもピョートル・ベチャワなどは、ヴェルディはいっているなぁ!と感じます。(スカラではブーイング喰らっていますけど)

 個人的には、ドン・カルロを歌った、マルコ・ディ・フェリーチェのほうが数段、好きでした。この人の歌い方は“Viva Verdi!”。演技も上手かったです。フェリーチェとトドロヴィッチの二重唱が各所に出て来ますが、微妙に合っていないところがあったようが感じがしました。まぁ、これは僕の耳がそんなに良いこともないので、気のせいかも。

 特筆したいのは、グァルディアーノ神父の松居 浩、妻屋さんの影に隠れて、出番が少ないですが、とても良かったです。声が安定していてモゴモゴしない。2幕2場でレオノーラを教会に迎え、合唱団と歌うところは、圧巻でした。新国立の合唱団、こういう宗教っぽい緻密な合唱は、特に素晴らしいです。

 最後に、演出ですが、これは微妙かもしれません。舞台装置や照明は、僕はなかなか良いと思いました。赤を基調にしたシンプルな舞台ですが、そこに箱のような教会と、その中にまた入る小さい箱の洞窟で、レオノーラが密かに守られていることが良くわかります。ただ、人の動きを見ると、カルメンのようなプレツィオジッラ、ハイル・ヒトラーのような敬礼をする軍人、北朝鮮のマスゲームのような女学生(家内がそう言っていました。全く…)など、演出の意図の理解に苦しむところもけっこうありました。場所がスペインですから、フランコの統治下を表しているのでしょうか? 時代を変えるなら、はっきりとした時代に変えるか、あるいは完全にいつかわからないようにするか、どちらかのほうが良かったような気がします。

もう一回聴きに行こうか、どうしようか迷う公演ですね。

【指揮】ホセ・ルイス・ゴメス
【演出】エミリオ・サージ
レオノーライアーノ・タマードン・アルヴァーロゾラン・トドロヴィッチドン・カルロマルコ・ディ・フェリーチェプレツィオジッラケテワン・ケモクリーゼグァルディアーノ神父松位 浩フラ・メリトーネマルコ・カマストラカラトラーヴァ侯爵久保田真澄マストロ・トラブーコ松浦 健
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