プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

藤原歌劇団 “ラ・トラヴィアータ”

4月26日、気持ちの良い日曜日のマチネで、藤原歌劇団の“ラ・トラヴィアータ”を見て来ました。

この公演はダブルキャストで、昨日の土曜日のヴィオレッタは佐藤亜希子さん、今日は光岡暁恵さん。本当は、このタイプの違うソプラノを両方とも聴きたかったのですが、連休前に片付けなくてはならない仕事もあり、一昨年、その素晴らしいスピントな歌声でヴィオレッタを聞いた佐藤さんをスキップして、今日の公演に行きました。

 光岡さん、素晴らしかったですね。1幕目の途中まで、やや声がうわずったり、上がりきらない時がありましたが、”e strano”あたりからは独壇場。美しいコラトゥーラが響きます。圧巻だったのは、2幕目のフローラの夜会の最後のアリア、”Alfredo, Alfredo, di quest core~” 「アルフレード、この心がわからないのだわ。」と嘆くところ。ここで落涙というのは初めてでしたが、実に情感のこもったアリアでした。そして、1幕目も3幕目も歌が素晴らしいだけではなくて、演技が凄いのです。最後にヴィオレッタがが倒れるシーンは、舞台の斜めになった台の上で、後ろを振り向き、天に手をさしのべるようにして力尽きて、最初は前にその後、後ろにゆっくりと崩れます。今迄、デセイのヴィオレッタの最後が一番素晴らしいと思っていましたが、この日の光岡さんも鬼気迫るものがありました。

 アルフレードの小山陽二郎さんは、この日ちょっと不調だったでしょうか。音程が定まらず、せっかくの美声をコントロールできない状態が良くなったのは、3幕目でした。(3幕目はとても良かったです。甘い美声を堪能)ジェルモンの森口賢二さん、拍手もBravoも多かったです。ただ、やや声を作り過ぎている感じがしました。この二人は、歌唱力も重要ですが、演出でどのような性格付けにするかをしっかりと決めていないと、聴いていてもどかしい感じがします。特にジェルモンのヴィオレッタへの思いやりが本物か、偽物か、あるいは3幕目でヴィオレッタが死ぬ直前におっとり刀で駆けつけるのも、善意に捉えるか、わざと遅れて来たと捉えるか、そういう部分が演出でもう少し推測できる感じのほうが僕は好きです。岩田宗達さんの演出は、2年前よりも舞台装置などは格段に良くなっていましたが、この親子の立ち位置を、コンビチュニー演出まで行かなくても、もう少しはっきりさせてほしかったかなという感じです。

 1幕2場で、アルフレードが、「パリに金返しに行くぞ」と歌うカバレッタ、”oh mio rimorso”は良く省略されますが、今回は省かなかったので、アルフレードが、熱血漢ではあるけれど、やや脳天気であることがわかります。だって、かなりお金のかかる生活をパリ郊外の屋敷でしていて、そのお金がどこから出てくるのか解らないわけはないのです。実際にデュマ・フィスも父、“大デュマ”に借金を申込み、直接は借りられないまでも、保証人になってもらっていますから、このカヴァレッタがあると、アルフレードの“坊ちゃん”ぶりが暴露されます。

 同様に、1幕2場の最後の「プロヴァンスの海と土」のあとに、息子をひっぱたいてしまって、うろたえるジェルモンのカヴァレッタ“no non udrai rimproveri” 「いや責めているのではない」も、それまで威厳を保っていた父が、大変に息子をスポイルしていることがわかる曲ですが、今回は、こちらだけ省かれていました。これは、両方省くか、両方入れるかだと思います。両方のカヴァレッタが入れば、父と息子の甘えた関係がはっきりわかりますし、両方入らなければ、他の演出で威厳をもった南仏の名門の親子という設定もできるわけですから。

 余計な話が長くなりましたが、今回びっくりしたのは、フローラで藤原歌劇団正団員デビューした、メゾの丹呉由利子さん。素晴らしくゴージャスな声は、数年前に、同じヴェルディの「オベルト」のクニーツィアを清純な声で歌った時からは考えられないような変化。「すごく上手くなったなぁ!」とまずは感心!デビューで浮き足立つことなど全く無く、素晴らしい情感に溢れる歌唱を聴かせてくれました。また、演技が素晴らしいのですよ。余裕たっぷりに表情を変え、舞台を立ち回ります。2幕目で、アルフレードに札束を投げつけられて倒れたヴィオレッタを守るようにおおいかぶさった時も背中が演技していました。そこから、さっき書いたラストのヴィオレッタのアリアに来たので、感涙だったのです。

 ともすれば印象が薄くなりがちなフローラ役で、これだけの存在感を出して、まさしく2つの夜会が劇中に競い合うようにした立役者が丹呉さんだと思います。思えば、昨年2月の藤原の新人歌手のオペラアリアコンサートが新国立劇場大ホールで開催された時、ほとんど皆、緊張して直立不動で歌う中、一人舞台の上を動いて、色々な観客のところに視線を向け、余裕たっぷりに歌っていた、(これが新人か?と思いました)のが丹呉由利子さんでした。この人は大物になる予感が.......!! 是非、エヴォリ公女やマッダレーナ、あるいはファヴォリータなどで聴きたい歌手です。

 今日は、女性が優勢な公演でしたが、指揮者の田中裕子さんも良かったですね。経歴などを見ると、ドイツっぽいなと思っていたのですが、出だしから、もうイタリア丸出し!(失礼..)インテンポで、ズンパッパを暖かい音色でオケに奏でさせます。変な色つけは無し。でもちょっとずつスパイスが入っていて、特に2幕目の夜会は、実に楽しく鳴らしていました。それだけに、3幕目が悲しい。指揮の構成もとてもバランスが取れていました。藤原は良い指揮者を探して来ますね。二期会は時々ドイツが入りますけど。

 今日は、このような素敵な公演を、僕の大好きな劇場、“テアトロ・ジーリオ・ショウワ”で聴けて、非常に満足でした。

総監督:岡山 廣幸
指揮:田中祐子
演出:岩田 達宗
出演
ヴィオレッタ:光岡 暁恵
アルフレード:小山 陽二郎
ジェルモン:森口 賢二
フローラ:丹呉 由利子
ガストン:井出 司
ドゥフォール:田中 大揮
ドビニー:水野 洋介
グランヴィル:若林 勉
アンニーナ:吉村 恵

合唱指揮:須藤桂司
合唱/藤原歌劇団合唱部
振付/小山久美
バレエ/スターダンサーズバレエ団
管弦楽/テアトロ・ジーリオ・ショウワオーケストラ
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