プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

マクベス @ シャンゼリゼ劇場

 ゴールデンウィークの連休直後から、4泊5日という窮屈なスケジュールでパリに行ってきました。大きな目的は、オペラ座のエトワール、オーレリ・デュポンの引退公演を見ることですが、ちょうどその前日に、シャンゼリゼ劇場でヴェルディの“マクベス”を上演するということでチケットを取りました。気づいたのが遅くて、あまり良い席は取れませんでしたが、最前列の一番左ということで、臨場感溢れた舞台が見られました。ただ、ちょうどオケボックスはフレンチホルンのところで、音響は今ひとつ。

 今回のキャストは次の通り

Daniele Gatti direction
Mario Martone mise en scène, scénographie
Ursula Patzak costumes
Raffaella Giordano chorégraphie
Pasquale Mari lumières

Roberto Frontali Macbeth
Susanna Branchini Lady Macbeth
Andrea Mastroni Banquo
Jean-François Borras Macduff
Sophie Pondjiclis La dame d’honneur de Lady Macbeth
Jérémy Duffau Malcolm

Orchestre National de France
Chœur de Radio France direction Stéphane Petitjean

 指揮のガッティとタイトルロールのフロンターリ以外は知らない人ばかり。しかし、イタリア系、フランス系の歌手を集めています。しかし、正直なところ、最近やや重たい感じのガッティと、今迄にジェルモン、スタンカー、スカルピアなどなど、何回も聴いているのに、何故か印象が薄いフロンターリということで、今回は、期待しすぎないようにして行きました。


 ところがです。結果を先に言うと、とても素晴らしい公演! なにより、タイトルロールのフロンターリのが、「鬼気迫る」という単純な表現を超えて、深い苦悩と被害妄想的な(彼は“加害者”には間違いないのですが)苦しみにさいなまれる感情の描き方が素晴らしいです。歌唱の表現力に演技が伴い、フロンターリはまさに悩める“悲しい”マクベスになりきっていました。。今迄に僕が聴いたフロンターリとは違いました。今回、そのようなものを彼から引き出したのは、演出に負うところが大きいと思います。舞台の中央にある大きな鏡が、時にして映像を映し出します。ここに、ダンカン王とレディ・マクベスの不倫関係を匂わせるような様子が出ると、さらにマクベスの苦悩はつのります。第3幕の魔女達のバレエは、パリ版で追加されたものですが、かなり短縮去れ、本来なら10分以上あるのが、3分くらいになっていました。しかし、これも紗幕を大きく使って、踊っている魔女の顔や体をズームアップして見せるので、美しくも気味の悪い雰囲気を醸し出します。

 こういうプレッシャーを全部背負って倒れていくマクベス。カバーニの演出などに比べると、恐ろしい男という面が下がって、権力に取り憑かれた悲しい男の性が前面に出て来ます。これを、美しい高音と、作りすぎない彼らしい低音で、感情を込めて歌うフロンターリ。まさしく、究極のヴェルディバリトン、もはや涙無しには聴けませんでした。

 儲け役のマクダフを歌ったボラ、フランス人ぽい名前ですが、メーリを思わせるような、輝かしい高音で、第4幕冒頭のアリアはやんやの拍手です。

バンクォーを演じたマストローニも、良くひびく声と副官らしいきびきびした演技で好感が持てました。

 残念だったのは、レディ・マクベスのブランチーニ。演技にあまりにも力を入れるせいか、肝心の歌唱のほうが負けてしまっています。中音がかすれたり、ブレスがおかしくなったり、やたらにカスレ声を多用したりして、自然ではないのです。演出が多分に“戯曲より”になっていたためだとは思いますが、若いソプラノにはやや酷だったかもしれません。ただ、拍手は非常に多かったので、パリの聴衆にはその“戯曲的歌唱”が受け入れられたのだと思います。

 指揮のダニエル・ガッティは久しぶりに聴きました。最近ではイタリアよりも他国での活躍が多いようで、ドイツ物も振っているようです。もともと、ヴェルディならドン・カルロなどの後期ものを、さらに重厚に振るので、やや心配がありましたが、この日は序曲から過剰な重さがありませんでした。レディ・マクベスの乾杯の歌など、何カ所かではかなりテンポを上げていました。全体として、重い演出をうまく動かしていました。歌手への目と指揮棒での“指示”は非常に積極的で、彼のこのオペラにかける意気込みがわかりました。

 しかし、ともあれ、今回のオペラは、フロンターリが座長のようでした。今迄、前に出てこなかった彼が、目を見張る歌唱と演技で劇場を圧倒しました。1948年生まれで今年67歳と言えば、若くはありませんが、層が薄くなってきたヴェルディバリトンでヌッチを次いでほしいと思います。

 今回のシャンゼリゼ劇場、実際にはシャンゼリゼ通りから一歩入ったところにあります。なかなか素敵ですし綺麗です。バルトリが昨年オテロ(ロッシーニ)を歌いましたし、ネトレプコも来週リサイタルを開きます。この中くらいのサイズの劇場で聴けるのは、随分贅沢ですね。ここは是非とも又、来たい劇場です。

後述:非常にヴェルディに詳しい、私の尊敬する方から「ヴェルディはマクベス夫人を嗄れた声で歌ってほしいと言った意味のことを書簡で言ってましたから、ブランキー二はワザとやったのかもしれません。」というご意見を頂きました。不勉強で知りませんでした。それで、かなりの部分は納得が出来ます。この場を借りてお礼申し上げます。

th-IMG_1524.jpg美しいたたずまいのシャンゼリゼ劇場


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