プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

"マノン” オーレリ・デュポン引退公演 @ ガルニエ

今年1月に42歳になった、オペラ座のエトワール、オーレリ・デュポンの引退公演に行ってきました。かなり前から、いつが彼女の引退公演になるのか?演目は?相手役は?と騒がれていましたが、その演目が彼女がほとんど演じたことのない「マノン」になったことにまずびっくり、相手役が初めは同じオペラ座のエトワールのエルヴェ・モローのはずが、彼の怪我で、ABTからロベルト・ボッレを招聘したのに又びっくり。デュポンの狂信的なファンと自認する僕としては、やはりモローとの「椿姫」、あるいは「ル・パルク」を全幕でやって引退というのが理想でした。最後にボロボロになって終わるマノンを何故?というのもありましたし、骨太のデュポンを“沼地のパドドゥ”で投げて受け止められるためなのか、ボッレを招聘するというのも、なんだか納得できませんでした。やはり最後はオペラ座のエトワールと一緒に踊ってほしい。(しかし、似合う相手がいないのも確か。ルグリが去ってからのデュポンは相手探しをずっとしてみたいな感じです)

 そんなこともあって、引退公演にわざわざパリまで行こうかどうか迷っていたわけですが、3月のボッレとザハロワが来日しての「ジゼル」で彼がとても良かったことと、そして結局は、なんとか引退公演のチケットが取れることがわかりパリ行きを決心しました。トラヴィアータの1幕2場のアルフレードのカバレッタ、”Oh mio rimorso”でパリに急ぐ気分です。こちらは「後悔しないように」という目的ですが。とにかく、このチケットはバレエとしてはすごいプレミアムで、オペラ座は補助椅子も総動員しての超満員状態でした。

 幕が上がって、ボッレが登場。ひときわ大きいダンサーです。そしてデュポンが登場。ところが「えっ!どうしたの?」というほど痩せています。一見して、ジルベールが出て来たのかと思い、目を凝らしてしまいました。昨年、日本での勅使河原三郎との「睡眠」の公演を見に行った時よりも3割くらい小さくなった感じ。しかし、踊り出すと、体のバネは以前にも増して強く、スピードは速くなっています。背中には筋肉が浮き出しています。ああ、これはマノンを踊るために体を削いだのだなぁと思い、もうここで涙が出そうです。この役を得意としたフェッリ、ヴィシニョーワ、コジョカルなど、皆とても小柄です。これは最後の超人的な技巧を要する、“沼地のパドドゥ”で体操の床運動のように、体を回転させながらパートナーに飛び込んでいくところが何度もあり、重いダンサーでは男性が綺麗に受け止められないからだと思います。

 今迄、デュポンにはこの役はできないだろう、という暗黙の了解のようなものがあったかと思います。マノンで最高の男性のダンサーだったマラーホフあたりなら、つぶされてしまったかも。。。でもデュポンは、この公演にかけた執念を感じさせるような体形になっていました。

 この日の舞台で、デュポンは今迄見た中でも最高の演技、最高の表現、最高のバレエへの愛情がこもったダンスを見せてくれました。彼女の踊りは、舞台上の空気を切り裂くように進んで行きます。「羽根のように軽く」ではなく「ギリシャ彫刻のような存在感」を持っています。彼女の踊りは、セザンヌのリンゴが果物ではなくて「存在」そのものであるように、バレエではなくて「存在」だと思います。ルグリと何度も踊っているキリアンの「扉は必ず」はまさしく、彼女の「存在」の力を示していました。

 幕が進に連れ、デュポンとボッレの動きはまさに隙も無いようにシンクロし、二人はマノンとデグリューそのものになっていました。そして沼地のパドドゥが終わったあとのデュポンとボッレはしばらく、ストーリーの中からパリのオペラ座の舞台上に戻って来れないような固い表情で手を取ってお辞儀をしました。マラーホフとヴィシニョーワのパドドゥと違い、とても「高貴で優雅」な最期を迎えました。これこそデュポンのマノンですね。会場はスタンディングオベーション。助手席の人は膝がのばせないのでつま先だって立っています。怒濤の嵐のような歓声と拍手。立ち去らない観客。ようやく笑顔に戻った二人がカーテンコールに何度も何度も応えます。そしてボッレは後ろにさがって、デュポンを押し出すようにすると、彼女はオペラ座の隅から隅まで視線をやり、手を広げて挨拶をします。会場が明るくなっても続くカーテンコール。

 実際には、まだ8月の世界バレエでも踊るでしょうし、今日が最後の見納めではないと思います。しかし、ガルニエではおそらくこれが最後。デュポンはルグリやギエムのように他のところで踊らずに、オペラ座で後進の指導にあたることを表明しています。ひとつの大きなバレエの時代が終わったと言う感じです。後々に、僕は “I was there…”と言えるでしょう。さようならオーレリ!

1561.jpg
カーテンコールに応えるデュポン、この写真からもいかに彼女が体を絞ったか解るでしょう。

th-IMG_1518.jpg終演後の輝くオペラ座


関連記事
スポンサーサイト

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://provenzailmar.blog18.fc2.com/tb.php/527-859afc1a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad