プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

フィガロの結婚@テアトロ・ジーリオ・ショウワ

 この週末は2日続けて、僕の大好きなオペラ劇場である、新百合ヶ丘の”テアトロ・ジーリオ・ショウワ“で、昭和音楽大学の定期オペラ公演「フィガロの結婚」を聴きました。この劇場としては珍しいイタリア以外のオペラの公演です。10月10日はヴェルディの誕生日だったので、どうしようかとちょっと考えたのですが、若い人達のフィガロをどうしても聴きたくてこちらに来ました。しかし、昨年も10月11日には、新国立でパルジファルを聴いているのですね。すみません、マエストロ・ヴェルディ。(ちなみにその前の年はブッセートのヴェルディフェスティヴァルに行ってます。)

 さて、今回の指揮は劇場初出演となる“ムーハイ・タン”。素晴らしい経歴を持っていますが、主に北ヨーロッパでの活躍が多く、風貌からしてもなんとなくゆったりとした指揮を想像しました。ところが、序曲が始まった途端にびっくり。すごいテンポの速さと切れの良さ。まさに「今っぽい」音作りなのです。僕がブログで良く触れる“ペルミ国立(ロシア)オペラ劇場”の音楽監督を務めている、”テオドール・クルレンツィス“のフィガロのような立ち上がり。いや、そこまで速くはないかもしれませんが、6月のハンガリー国立オペラで、素晴らしい音作りをしたハンガリー人指揮者の” バラージュ・コチャール“のように、ぐんぐんとオペラを引っ張っていく指揮です。ここまで指揮が速いと、モーツァルトの楽曲が室内楽のようになってしまうことが多いのですが、マエストロ・タンのオーケストレーションはあくまで厚く、立体的で波のように聴衆を飲み込んで来ます。

 この公演での最優秀賞を誰かにあげるとしたら、それは学生を中心にした“昭和音楽大学管弦楽団”であることは間違いありません。この速い指揮にぴったりと付いていき、弱音と強音の素早い切り替えもものともせず、そして、常に歌手の口元を見ているマエストロの指揮棒の振りを決して外しません。プロの楽団でも、これほどの指揮なら、2日で1回や2回「おやっ?」という音を出してしまうもの。しかし、この学生を中心としたオケは本当に素晴らしかったです。「練習は裏切らない」というのはアスリートの間で良く言われますが、オケも全く同じですね。

 歌手陣も2日に渡って素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。フィガロでは1日目の小野寺光は表現力はとても良かったのですが、低音にやや迫力がなかったかも。その点2日目の“王立夫”が豊かで甘い低音で安心して聴けました。そして、伯爵夫人も1日目の宗心裕子はゴージャスな声を聴かせてくれましたが、それ以上に2日目の石岡幸恵は、素晴らしいパフォーマンス!澄んだ高音がスッと立ち上がり、ピタッと定位置で止まります。明るいイタリアっぽい声ですが、三幕目の「楽しかった時はどこへ」のアリアは情感も最大値になり、伯爵夫人の悩める内面を充分に聴かせてくれます。スザンナは初日の中井奈穂、2日目の中桐かなえともに、キュートな歌声を聴かせてくれましたが、個人的には中音部の美しかった中桐がお気に入り。ケルビーノは、目下これも個人的に注目して“追っかけ”をしている、丹呉由利子に期待をしていたのですが、あいにく2日目、往路の東名高速で大きな事故があり、2時間も渋滞してしまい、1幕、2幕目を聴きのがしてしまい、大変残念。。。

 いずれにしろ、歌手にとって良いのは、このホールの大きさが1300余席という小さいものなので、大声を出さなくて良いということでしょう。モーツァルトの繊細さを表現する場所としては最適でしょう。オケ同様に、歌手も合唱団も相当の練習をしていると思います。皆丁寧な歌い方で、ちょっとでも悪いところがあるとすぐに修正をするという真剣な態度に好感を受けました。

 そして、演出のマルコ・ガンディーニと美術のイタロ・グラッシ、僕は一昨年の「オベルト」から見ていますが、もう鉄板コンビと言えます。限られた予算の中で素晴らしい効果とイタリア的な「洒落感」を出してくれます。今回は、昨年の「夢遊病の娘」ほど抽象的ではなく、土壁の城内に仕切りや内側の幕が下りてきて観客の視点を誘導したり、スザンナが隠れている衣装部屋のドアの代わりをしたりするアイデア。3幕まで外が見えない設定ですが、次第に、青空に輝く街の風景や、夕刻の窓辺の風景などが大きく映し出されます。特に月の光がぼんやりと舞台の上の壁に映るところは素敵でした。

 いつも感じるのですが、ここのオペラ公演では、いつも芸術監督の明確な意図が感じられます。どういうオペラをどのような指揮と音楽で、どのような演出と舞台美術によって、このような歌手に歌わせる.........と言ったことです。小さな劇場で、限られた予算でオペラ公演をやる時は、特にこれがとても大事だと思います。イタリアでもスカラ座あたりなら、指揮者と歌手で客を呼べますが、パルマやもっと小さいモデナあたりになると、そうは行きません。芸術監督の力オペラ劇場の企画力が無いと、客は離れてしまうと思います。歌手のキャスティングひとつを取ってみても、最近日本に来た引っ越し公演でさえ「どうしてこの役にこの声の歌手?」というようなことが多々あったので、今回のフィガロ、おそらくはオーディションを乗り越えて歌っていただろう歌手陣の適材適所ぶりと、そのパフォーマンスにBravo!です。テアトロ・ジーリオ・ショウワはまさに、レッジョ・ジーリオショウワ劇場ですね。

 この公演は、上海音楽学院との共同プロジェクトとのことで、近く上海でも公演されるそうです。ここでも大きな成功を得ることでしょう。欲を言えば、日本でも年に2演目くらい公演してくれたら最高です!

【スタッフ&キャスト】

指 揮 : ムーハイ・タン
管弦楽 : 昭和音楽大学管弦楽団
チェンバロ : 星 和代
合 唱 : 昭和音楽大学合唱団
合唱指揮 : 山舘 冬樹
演 出 : マルコ・ガンディーニ
⭐︎10/10

Figaro
小野寺 光

Il Conte
田中 大揮

La Contessa
宗心 裕子

Susanna
中井 奈穂

Cherubino
吉村 恵

Marcellina
本多 直美

Bartolo
上野 裕之

Don Basilio
高嶋 康晴

Don Curzio
髙橋 大

Barbarina
高畑 和世

Antonio
小田桐 貴樹

10/11
Figaro
王立夫

Il Conte
程音聪

La Contessa
石岡 幸恵

Susanna
中桐 かなえ

Cherubino
丹呉 由利子

Marcellina
陆婧姝

Bartolo
杨熠

Don Basilio
工藤 翔陽

Don Curzio
髙橋 大

Barbarina
伊藤 香織

Antonio
小田桐 貴樹


 

 
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