プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ラインの黄金 @ 新国立劇場

 飯守泰次郎音楽監督になって、新しい演出の「ニーベルングの指環」がシーズンに1作というペースで始まるというので、楽しみにして最終日に行きました。しかし、このチケットを取った後にデジレ・ランカトーレの「ラ・トラヴィアータ」が同日に公演されることが決まり、これなら日にちをずらせておけば良かったと後悔。

 結果として、そのプラハの「ラ・トラヴィアータ」を聞き損ねただけの甲斐のある出来だったかというと、やや微妙なところです。ワーグナーのオペラでこの「リング」とか、「トリスタンとイゾルデ」は音楽の蠱惑的な響きと、演出の夢幻感で、聴衆の僕が幽体離脱する感じになるかどうかが満足感の鍵になるんです。新国立では2004年の「神々の黄昏」がそうでした。僕としては初めて生で聴いたリングでしたが、準メルクルの指揮とキース・ウォーナーの演出(初演)はまさに、「持って行かれる」感覚を与えてくれました。そして2007年のベルリン国立劇場の引っ越し公演で聴いたバレンボイム指揮、クプファー演出の「トリスタンとイゾルデ」は最高のワーグナー体験でした。

 昨日の新国立の「ラインの黄金」は、まず演出が味気ないと感じてしまいました。ゲッツ・フリードリッヒの手になる演出は、1984年にベルリンのためにこの演出の原型を完成し、その後も細部を改良、今回使われたのは最終版である1996年のフィンランド歌劇場版でした。いわゆる「トンネル・リング」という演出だそうですが、今回の新国立版では、舞台の奥行きの無さのためかプログラムに写真が出ているようなトンネルが長く伸びるような魅力的な舞台はありませんでした。地の底から響くようなコントラバスで始まる…(でも、それほどの迫力はなかったような気がしました。)序奏部分でのレーザー光線を使った演出は、クプファーの1991年(?)の最初の部分に似ていて期待を持たせましたが、その後山場となったヴォータンとローゲが地下に降りていく場面で、予算的には大ぶるまいをして、天と地の二段舞台(さながらアイーダのように)を見せてくれたのですが、天のほうには歌手も造作も何もなく、どのような意図で二段舞台にしたのかと疑問に思いました。そして、地下のほうは、ストーリーの前後の脈絡が全く無いカジノの入り口のようなけばけばしいライトが光る狭い空間になっています。”Danger”という文字が見えるので、地下坑道なのかもしれませんが、とにかく“必然性”が感じられないのです。ウォーナー演出はやややりすぎだったかもしれませんが、神々がワルハラへの引っ越しの用意をするという設定で、段ボール箱で荷造りをしていたり、スーツケースの中からアルベリヒが出て来たり、全体を通じて「意思」があったと思います。このフリードリッヒの演出は、やはり元が70年代ということもあり、ただ「変わったこと」を入れてみましたという安直な印象があります。昨年のクプファーの新演出の「パルジファル」が聴衆に「考えさせる」舞台を作っていたのに比べ、今回のシーズンオープニングの舞台は「考えもの」の舞台という印象を受けました。

 指揮とオケについても、何か物足りない部分を感じました。さきほど書いたように、序奏からして地の底から響いてくるような重みがなく、また、巨人族のモチーフも軽いステップと言っては言い過ぎでしょうが、音楽より、実際の歌手が足踏みする音がバチンバチンと響いて興ざめでした。そして、金管が、フニャっという音を出すこと数回。

 良かったのは歌手です。特筆したいのは、フライアを初めて歌った安藤赴美子。若さと美の女神にふさわしい、ゴージャス感のある強い声で舞台を支配していました。これなら、将来イゾルデも歌ってくれるのではないかと期待感が生まれます。この日一番の出来だったと思います。そして、ローゲのステファン・グールドは演技も含めて素晴らしいパフォーマンスでした。アルベリヒのトーマス・ガゼリは初めて聴きましたが、演技も含めて舞台に引きずり込む力がありました。ヴォータンのユッカ・ライジネンはベテランで安心して聴いていられましたが、相手役のフリッカのシモーネ・シュレーダーは声質が清らかすぎて、やや役にあっていない感じもしました。それでも、14人にもなる歌手を高いレベルで揃えたことには感嘆!

久しぶりのワーグナー、いつもながら男性の聴衆が多かったです。結局は歌手の迫力で、相当の満足感を得て帰途に就きました。

[スタッフ&キャスト]
指揮 :飯守泰次郎
演出 :ゲッツ・フリードリヒ

ヴォータン :ユッカ・ラジライネン
ドンナー :黒田 博
フロー :片寄純也
ローゲ :ステファン・グールド
ファーゾルト :妻屋秀和
ファフナー :クリスティアン・ヒュープナー
アルベリヒ :トーマス・ガゼリ
ミーメ :アンドレアス・コンラッド
フリッカ :シモーネ・シュレーダー
フライア :安藤赴美子
エルダ :クリスタ・マイヤー
ヴォークリンデ:増田のり子
ヴェルグンデ :池田香織
フロスヒルデ :清水華澄


管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


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