プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

「仮面舞踏会」藤原歌劇団

 12月6日、オーチャードホールでの藤原歌劇団「仮面舞踏会」の公演を聴きに行ってきました。本来は5日の土曜日に行くつもりだったのですが、都合で行けなくなり、6日当日券のS席を奮発しました。1階の2段目の最前列真ん中という良い席でした。前にシートがないので、脚が楽でした。今年ちょうど50公演目の観劇です。あ、バレエも入っていますけど。

 今回の公演で特筆すべきは、なんと言ってもテノールの新人(?)、藤田卓也さんでしょう。艶があり、ほどよい甘さのある高音、安定した中低音、丁寧な発声、しかし情感溢れる歌唱。若き日のドミンゴを彷彿とさせると言って、言い過ぎでないほどの魅力に溢れる歌手でした。若くて、まだ経験も浅いと思いますが、立派な「様式感」をもった歌い方は大物になる予感たっぷりです。実際、会場に行くまで車で、1981年のアバド指揮、ドミンゴ、ブルゾン、リッチャレリのスカラでの「仮面舞踏会」を大音量で聴いてきたのですが、藤田さんの声はその続きを聴いているようでした。島根大学卒業という異色の経歴ですが、西日本では活躍していたそうです。藤原初出演で素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれました。

 歌手に関しては、藤田さんに圧倒された感じでしたが、レナートの森口さん、リッカルドへの思いが変わる前と後の歌い方を、見事に切り替えてスリリングな舞台を作っていました。アメーリアの山口さんも伸びのある高音が合唱の上を飛んでくるような“ヒロイン・ボイス”で素敵でした。特に藤田さんとの二重唱はジーンと来ました。欲を言えば、装飾歌唱のテクニックがもう少し欲しかったという感じがありました。ヴェルディはこの時期はすでにベルカントは捨てていますが、それでも「仮面舞踏会」は彼としてはベルカントの匂いがわずかに残る最後の作品だと思いますので、そこは装飾歌唱の聞き所もあるわけです。

 指揮の佐藤正浩さんも、堂々とした本格派でした。オーチャードの1階は音響がこもるので、あまり演奏について判断するには良い席ではありませんでしたが、どちらかというとどっしりとした音作りをしていたようです。ただ、2013年の同じく藤原の「仮面舞踏会」公演での柴田真郁さんの指揮のほうが、テンポ感があり、切れも良く、若さがあって、僕にはフィットしました。とはいうものの、今年は新国立で残念な指揮の「運命の力」(ホセ・ルイス・ゴメス)を聴かされていましたから、この仮面舞踏会の藤原ならではの安定した音作りはとても良かったと思います。ホセ・ルイス・ゴメスのように、指揮者の意図と独創性を明確にしようとするのに気を取られすぎて、やたらに音をゆらがしたり、不協和音を取り出すように大きくならしたりしているうちに、収集が付かなくなってしまうことも良くあります。特にヴェルディの場合、インテンポに振ることが退屈と思う指揮者にその傾向が多いと思いますが、藤原歌劇団はやはりイタリア歌劇を極めていますね。とても良かったと思います。

 そして、忘れてはならないのは粟国淳氏の演出。大道具の移動は殆ど無いのですが、幕毎に全く違ったイメージで舞台を見せてくれます。ちょっと、白鳥やシルヴィアのバレエの舞台のような感じですが、遠近法を利用して舞台の奥行きを出して、且つ美しい宗教画のような美術効果で、かけたコスト以上に豪華さを演出していました。衣装も素晴らしかったです。

 それにしても、「仮面舞踏会」は音楽が美しい。ヴェルディのオペラの中では、最もテノールとソプラノが活躍する作品ではないでしょうか?音の作り方は前後に作曲されたシモン・ボッカネグラやドン・カルロに似たところが多くあります。テーマはよりシモン・ボッカネグラに共通するところがありますね。名誉を大切にし、ラストではリッカルドが死に際にレナートを許したように、シモンは敵方のアドルノを自分の後継者に指名する、晩年のヴェルディはこのようなシチュエーションを広げていって、最後の「ファルスタッフ」でそれをばっさり切り捨てたわけです。ですから年の終わりの12月に「仮面舞踏会」と「ファルスタッフ(9日に新国立に行きます)」を聴けるというのは、ヴェルディファンとしては大満足です。

<スタッフ&キャスト>
公演監督: 折江 忠道
指揮   : 佐藤 正浩   
演出 : 粟國 淳

リッカルド     :藤田 卓也
レナート      :森口 賢二
アメーリア     :山口 安紀子
ウルリカ      :二渡 加津子
オスカル      :オクサーナ・ステパニュック
シルヴァーノ    :大石 洋史
サムエル      :田中 大揮
トム         :別府 真也
判事         :狩野 武
アメーリアの召使 :納谷 善郎

合唱 :藤原歌劇団合唱部
管弦楽 :東京フィルハーモニー交響楽団
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