プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ファルスタッフ@新国立劇場

 12月12日のマチネの「ファルスタッフ」に行ってきました。12月にファルスタッフというのは、僕にとっては第九を聴くより、一年の終わりという感じがします。それはヴェルディの最後の作品だということと、最後の森のシーンがだいたいは、クリスマスっぽい感じがするからだと思います。今年は先週には「仮面舞踏会」も聴きましたし、ヴェルディファンとしては最高の歳末ですね。

 この日のファルスタッフ、そつなくまとまっていたというのが実感です。特に良かったのはやはりイヴ・アベルの指揮でしょうか。5月のトラヴィアータの時ほどの感激はありませんでしたが、序奏から豊穣感にあふれた音を聴かせてくれました。もっと早いテンポになるのかと思ったらそうでもありませんでしたが、それでも歯切れが良く、音楽だけ聴いていても充分に満足できます。新国立は良い指揮者を見つけてきましたね。これからしばらくヴェルディは彼に任せたら良いかと思います。

 歌手では、タイトルロール役のガグニーゼがなかなか良かったです。この役は歌えるだけでなく、声と動きで相当の演技をしなくてはならないのですが、まさにはまり役。ただ、やや陽気にすぎて、テムズ河から上がって来た時のあわれっぽさがちょっと物足りなかったですね。最近見たプロダクションでは、藤原の折江忠道さん、去年のサイトウキネンのクイン・ケルシーともにけっこうこのシーンでは哀れさをうまく出していたのを覚えています。ガグニーゼは2013年にはスカラ座で、マエストリの陰に隠れていましたが、Bキャスト(?)で来日しているのですね。その時はマエストリは2回見に行ったのですが、ガグニーゼは名前だけチェックして行きませんでした。

 アリーチェのアガ・ミコライ、新国立でもドン・ジョヴァンニのアンナ・ドンナ、アンナ、ドンナ・エルヴィーラでお馴染みです。声はとても良いのですが、中音をしゃべるように歌うアリーチェとは、ちょっと相性が良くない。高音になると得意の美声が出るのですが、どうも悲劇のヴィブラートという感じ。中音は質感があまりなくて、軽い感じなんです。スカラ座のフリットリと比べては可哀想ですが、高音があまり出ずに中音で勝負してた、サイトウキネンでのスペイン人ソプラノ、マイテ・アルベローラのほうがうっとりと聴けました。フォードのカヴァレッティはこの役ではもう日本で何度も歌っています。スカラ座来日の時もサイトウキネンもそうでした。ですので、上手なのはもうわかっているのですが、この日は今ひとつ「感動」というところまで行きませんでした。あまり特徴のある声ではないので、廻りの歌手とのコンビネーションによって、聴き応えが違うのかもしれません。

 気になったのは、クイックリー夫人のザレンバ、エボリ公女なみのドスのきいた声は、「有り」なんですが、バルッチェローナなどで聴いてしまうと、どうも耳障りです。これも他の歌手があまり特徴がないので、特に目立つということなのでしょう。

 特筆したいのは、パドルフォの糸賀修平の甘い声。研修生時代から聴いていますが、上手くなりました!前はクリームが溶けて流れてしまうように、締まらなかったのですが、ヨーロッパに留学してから本当に声をうまくコントロールするようになりました。この日一番聴き応えがあったかも。そろそろ大きい役を付けてあげてほしいです。

 こうやって書くと文句が多い感じがしますが、最後のフーガの場面、歌手と合唱、指揮とオケが実にきれいに響きわたり、なかなか感動でした。やはり指揮に負うものは大きかったですね。

 演出では、だまし絵のような舞台装置がとても良かったです。3階のⅠ列目で見ていると吸い込まれそうな遠近感がありました。

 それにしても、このような良い指揮者を掴んだのですから、ロッシーニ以前のベルカントの作品もやってほしいものです。せめてヴェルディの前期のエルナーニとかフォスカリとかやってほしいですね。せめてベッリーニも。。。

指揮:イヴ・アベル
演出:ジョナサン・ミラー
美術・衣裳:イザベラ・バイウォーター
照明:ペーター・ペッチニック

ファルスタッフ:ゲオルグ・ガグニーゼ
フォード:マッシモ・カヴァレッティ
フェントン:吉田浩之
医師カイウス:松浦 健
バルドルフォ:糸賀修平
ピストーラ:妻屋秀和
フォード夫人アリーチェ:アガ・ミコライ
ナンネッタ:安井陽子
クイックリー夫人:エレーナ・ザレンバ
ページ夫人メグ:増田弥生

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