プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

月夜に煌めくエトワール

 だいぶ遅くなってしまいましたが、今年の初芝居は、オペラ座のエトワールとピアノ、バイオリンによる、“STARS in THE MOONLIGHT, 月夜に煌めくエトワール”、BUNKAMURAと愛知芸術劇場の企画による意欲的な公演でした。

エトワールとは、もちろんパリオペラ座のダンサーのトップの階級名です。下からカドリーユ、コリフェ、スジェ、プルミエ・ダンス-ル、エトワールと来ています。今、何人のエトワールがオペラ座にいるか把握していませんが、10人強くらいではないでしょうか?ほんの一握りです。だいたいが30代前半でプルミエ・ダンスールから昇進します。そのダンサーが踊る公演の後にサプライズで昇進を告げられるというのがお決まりのようです。今いるエトワールの中では、今回来日したマチュー・ガニオが11年前20歳の若さで、スジェから飛び級でエトワールに任命され、以来11年の在任というのが一番長いのではないでしょうか?飛び級でエトワールに任命されたのは、過去にドミニク・カルフーニ(マチューの実母)、マニュエル・ルグリ、ローラン・イレールの3人しかいないとプログラムに書いてありました。ギエム、デュポンでさえも飛び級ではなかったのですね。

このマチューとエルヴェ・モロー、そして若手のドロテ・ジルベール、今輝いているエトワールと言っていいと思いますが、この3人が3メキシコ人でヨーロッパで活躍中のピアニスト、ジョルジュ・ヴィラドムスと日本人バイオリニスト三浦文彰と共演するというのが今回の企画。なかなか素晴らしかったです。

プログラムの半分以上が日本初演、あるいは世界初演という意欲的なものでしたが、最初のマスネによるタイスの瞑想曲で始まった“煌めくエトワール”から引き込まれました。ドロテがプルミエだった頃と比べて筋肉がすごくなっているのにびっくり。そして、圧巻だったのは、ジョルジオ・マンチーニの振付の「トリスタンとイゾルデ」からの”愛と死のパ・ド・ドゥ“、これはワーグナーの原曲をそのまま用いたので、ピアノとバイオリンの出番はありませんでしたが、オペラのポネル演出を思わせるような幻想的な世界をマチュー・ガニオとドロテ・ジルベールが作り出していました。

エルヴェ・モローが自らブベニチェクに頼み込んで振付をしてもらったというドビュッシーの「月の光」も妖艶なソロでした。最後にピアノの下に潜り込んで終わるのも印象的。

ただ、全体としてややまだ動きが固い感じがしました。特にトリスタンのところでのリフトや複雑な二人の体のからまり。デュポンとルグリのように、大理石が溶けていくような感じが無いのです。今回、モロー自身が振り付けた“LUNA”(日本初演)とパトリック・バナ”の振付による”失われた楽園“(世界初演)がカットされたのも残念ですが、やはり「初演」ものを詰め込み過ぎて、充分な練習が出来なかったのではという感じがしました。

昨年、オーレリ・デュポンが、一昨年にはニコラ・ル・リッシュ、2013年にはアニエス・ルテステュ、イザベル・シアラヴォラと一時代を築いた大物エトワールが引退し、パリのオペラ座は新時代に入ったと思います。モローももう38歳、若手とは言えませんが、ドロテやマチュー、昨年任命されたばかりのアマンディーヌ・アルビッソンあたりがこれからのオペラ座を担うのだと思います。これからのオペラ座に期待しましょう。ただ、しばらくパリへは行きにくいんですよね。モローのアデューの頃には安全になるでしょうか?

◎『煌めくエトワール』 ※日本初演
音楽:ジュール・マスネ 「タイスの瞑想曲」
振付:エルヴェ・モロー
振付協力:イザベル・シアラヴォラ
バレエ:ドロテ・ジルベール&エルヴェ・モロー
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎イザイ:『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調“ バラード”』
ヴァイオリン:三浦文彰

◎ポンセ:『メキシカン・バラード』
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『トリスタンとイゾルデ』より”愛の死のパ・ド・ドゥ” ※日本初演
音楽:リヒャルト・ワーグナー
振付:ジョルジオ・マンチーニ
バレエ:ドロテ・ジルベール&マチュー・ガニオ 
※音楽は録音テープを使用

◎『ツクヨミ』 ※世界初演
音楽:アルヴォ・ペルト「アリーナのために」
振付:中村 恩恵
バレエ:エルヴェ・モロー
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス
※音楽は録音テープを使用

◎『それでも地球は回る』
音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ『バヤゼット』より「私はないがしろにされた妻」
振付:ジョルジオ・マンチーニ
バレエ:マチュー・ガニオ
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス
※マチュー・ガニオのために特別に改訂

◎サン=サーンス:『序奏とロンド・カプリチオーソ』
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『瀕死の白鳥』
音楽:カミーユ・サン=サーンス「動物の謝肉祭」より第13曲「白鳥」
振付:ミハイル・フォーキン
バレエ:ドロテ・ジルベール
ヴァイオリン:三浦文彰
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎リスト:『バラード 第2番 ロ短調』
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎『月の光』
音楽:クロード・ドビュッシー
振付:イリ・ブベニチェク
バレエ:エルヴェ・モロー
ピアノ:ジョルジュ・ヴィラドムス

◎スペシャル・カーテンコール
音楽:バート・ハワード(フランク・シナトラ「Fly Me to the Moon」)
出演:全員
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