プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

スパニッシュなシモン・ボッカネグラ

念願かなって、やっとリセウ大歌劇場(バルセロナ)に来られました。リセウと言えば、2001年のコボス指揮、ベルベル演出の「ランスへの旅」がDVDになっていますが、特に演出には凝っているという印象があります。”Gran Teatre”のイメージからしてMETくらい大きいのかと思いましたが、平土間は決して大きくありません。ただ、高さがあるのと、平土間の廻りを優雅なボックス席がとりかこんでいて、豪華です。幸運にもその1階のボックス席の良い場所を取れました。

 レオ・ヌッチも既に74歳、もういくらなんでもそろそろ危ないのではと思って、心配しながら聞きに来たというのが本当のところですが、いや、とんでもない。この日の高音の伸びと輝き、中音での表現力の素晴らしさは、5-6年前を上回っています。終演後にホテルに帰ってから、2010年のパルマでのヌッチのシモン(カッレガーリ指揮)をヴィデオで聴きましたが、その時より凄い!聴くところによると、ヌッチは70歳過ぎてからも歌うための筋力トレーニングをかかしていないそうですが、その成果は凄い物があります。アメーリア役としては現在考えられる最高のキャストであるバルバラ・フリットリとの二重唱は、もう讃える言葉が見つからないほどでした。リセウのサイトにもその二重唱はアップされていましたが、最後の「Figlia(娘よ)」のところだけは意図的にか(?)カットされていましたが、ヌッチの伸びの凄いこと。

 この日は指揮も演出も、かなりドラマティコでした。ヌッチのシモン・ボッカネグラとフリットリのアメーリアは一昨年のウィーンでのオーギャン指揮の時に比べて、かなり情熱的。特にフリットリはリリックで透明な声と強い声を使い分けて、感情を高まらせ、まさに舞台を仕切る歌唱を聴かせてくれました。こんなフリットリは聴いたことないです。全力で歌っているという感じ。サルトリは出だしがやや中音部が安定しませんでしたが、2幕目あたりからは美声が堪能できました。やはり「ヌッチ、サルトリ、フリットリ」の3人はシモン・ボッカネグラで現在考えられるベストですね。ただ、サルトリ、また太りました。もう100kgはゆうに超えているでしょう。“猿取親方”と呼びたい風貌です。

 フィエスコ役のVitalij Kowaljow(読めない)、初めて聴きました。悪くはないのですが、ダブルキャストでドミンゴのシモンと組んでいるフルラネットで聴きたかったところ。さもなくばコロンバラですよね……Kowaljow、やや、力不足はいがめませんでした。パオロ役のオデーナは健闘!、演技も素晴らしく、単なる悪役ではなく、追い詰められていく苦しさを表現しきっていました。

 演出は現代風で、ガブリエーレなど背広で出て来ます。そして、巨大なガラスの格子がグレイになったり、琥珀色になったりして舞台を廻して行きます。まるでプラダの店の中でインテリアが回転しているみたいです。ゴージャス。ただ、リグリア海のイメージが全く無いのはやや残念。この点では、何度も言っていますが、2013年のチューリッヒ歌劇場でのジャン・カルロ・デル・モナコの明るいリグリア海を見せた演出がシモンでは最高でした。

 そして判断に苦しむのが、ザネッティの指揮。とにかく、エモーショナル、揺れる、伸ばす…..序奏からして聴いたことがないほど揺れます。どちらかというと、スカラ座でのバレンボイムの指揮に近い。今回はヌッチは2日だけで、ドミンゴが3日出ていますから、ドミンゴに合わせた指揮なのかもしれません。しかし、バレンボイムほど重く粘る感じはないので、そのうちに聴き慣れてしまうのですが、そうなるとなんとなく物足りない。指揮もリグリア海のうねりの感じをもう少しインテンポに出してほしいという感じはしました。

 リセウでのシモン・ボッカネグラ、全体としては、原作者のアントニオ・ガルシア・グティエレスの戯曲性を強く出した感じがします。(戯曲の公演を見たことはありませんが。)グティエレスはイル・トロヴァトーレの原作者でもありますが、リセウは彼に敬意を表して、ドラマティックな演出と指揮にしたのではないでしょうか?実にスパニッシュな、血が沸きたつようなパフォーマンスでした。

 それにしても、日本でシモンが公演されることの少ないこと。ヴェルディのオペラの中でも「名誉」を強く打ち出した傑作だと思います。ピア-ヴェの台本をボイトが改編し、その後のオテロ、ファルスタッフへの布石となったこの作品、是非新国立あたりでやってほしいものです。

この日のキャスト
指揮:マッシモ・ザネッティ
演出:ホセ・ルイス・ゴメス
シモン・ボッカネグラ:レオ・ヌッチ
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ:ファビオ・サルトリ
フィエスコ:Vitalij Kowaljow
パオロ:アンジェル・オデーナ
ピエトロ:ダミアン・デル・カスティーヨ
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