プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

カプレーティ家とモンテッキ家、藤原歌劇

 今年から来年にかけての藤原歌劇団は、とても意欲的です。“トスカ”や“愛の妙薬”は定番ですが、7月の“ドン・パスクワーレ”、そしてこの“カプレーティ家とモンテッキ家”、来年1月のマスネの佳作“ナヴァラの娘”など、なかなか日本では見られなかった公演にチャレンジしています。興行的には多分、厳しいものがあるかと思います。今回の公演もオペラパレスで空席が目立ちましたが、イタリアオペラをしょって立つという意気込みを感じます。

 今回の“カプレーティ家とモンテッキ家”、ちょっと間違えると“モンチッチ家”と言ってしまいそうですね。ロミオとジュリエットの話です。ロミオとジュリエットはどちらかというとバレエでは何度も見ているのですが、オペラでこの演目を生で聴くのは初めてでした。ベッリーニの作品で、今上演される作品では、何と言っても“夢遊病の女”が一番でしょう。そして、“ノルマ”、“清教徒”と続くと思います。“カプレーティ家とモンテッキ家”はこれらの代表的3作品の数年前に書かれたもので、それだけにそこそこに後の作品につながる旋律が聞こえて来ます。悲劇とは言え、2幕目の最後を除いての9割方は長調で構成され、魅惑的なベッリーニならではの息の長いメロディーが魅力です。

 序曲は“ノルマ”のそれと双璧をなすような、ベッリーニ渾身の大序曲でした。今回、藤原初登場という指揮者の山下一史は、インテンポなリズム感で、イタリアらしく、とても満足な音作りです。人によっては、もっと山のある、抑揚感のある指揮を期待する向きもあるかもしれませんが、ベッリーニの美しい旋律は、この山下のように冷静にそして上品に奏でるのが良いと僕は思います。

 あらすじは、とにかく“ロミオとジュリエット(オペラでは「ロメオとジュリエッタ」になる)”ですから、あまり字幕を追う必要もなく、舞台に集中できました。この日の聴きどころは、やはりジュリエッタを歌ったソプラノの高橋薫子、この人は藤原で“夢遊病の娘(藤原では「女」ではなく、「娘」になります。)”のタイトルロールを見事に歌ったのが印象に残っていますが(2012年)、この日も美しいコロラットゥーラで、鈴を転がすような声。素晴らしいベルカントを聴かせてくれました。失礼ながら、そろそろ50歳に近いと思うのですが、声が全く重くならず、レッジェロなまま熟成していくのは、日本のグルヴェローバかと思ってしまいます。この声をキープするには、相当の節制と練習が必要だと思います。一幕2場「ああ、いくたびか」は、山下の奏でるオーケストラの上を高橋の美しいアリアが流れるように響きます。圧巻でした。

 ロメオ役の向野由美子も、ナイーブな役柄を上手に表現し、情感が見事に現れる歌唱でした。ただ、高橋のクリアな声に比べると、ややアピールが弱いかなとも感じました。カーテンコールでブラボーの多かったテバルトの笛田博昭、持ち前の声量を生かした破綻の無い歌唱はとても良かったです。ただ、個人的には、彼の声は、ヴェルディの後期以降に合うような感じがします。このオペラには大声量過ぎるような......。今回のように、ベルカントの主人公とはやや釣り合わないか? ただ、ベッリーニも後半の作品は、リリコの歌手が歌った公演も多数あるので、これは好みの問題でしょう。バルトリとカラスのノルマを比べてどちらが好きかというような感じです。

 やや残念だったのは、カッペリオの安藤玄人。2幕目以降で音量が上がったところでは、大変良い歌唱を聴かせてくれたのですが、1幕目のピアノ、ピアニシモのところでは、音程が明確に聞こえて来ないんです。ベッリーニのバス、バリトンは難しいですね。

 今回のプログラムで「ベッリーニのオペラに見る特異性」について書かれている南條年章さんのオペラ研究室では、今年ベッリーニを取り上げ、「清教徒」や「ザイーラ」をピアノ伴奏で上演していますが、それでも日本では聴く機会の少ないベッリーニ。新国立劇場でベッリーニが上演されたのは上記の3演目ですが、主催者はいずれの公演も新国立劇場ではなく藤原歌劇団と江副記念財団だというのも悲しい話です。ミラノのスカラ座の入り口ロビーにある音楽家の彫像の4人は、ロッシーニ、ヴェルディ、ドニゼッティ、ベッリーニなのですから、もう少し目をかけてほしいものです。

 最後になりますが、藤原の公演でいつも思うのは、プログラムが充実していること。今回も1,000円の価値をはるかに超える内容があります。そして、公演終了後、すぐに歌手がホワイエに廻ってきて、帰途につく聴衆に挨拶をする。素敵ですね。その横には総監督の折江さんの姿も。劇団が総出で公演を支えている感じがして、とても好感が持てました。

 ここ1ヶ月、ブログを更新しなかった間に、ダニエラ・デッシーとヨハン・ボータが亡くなりました。二人ともまだ50代、これからが楽しみだったのに。ご冥福をお祈りしたいと思います。

指揮:山下一史
演出:松本 重孝
ロメオ:河野由美子
ジュリエッタ:高橋薫子
カッペリオ:安藤玄人
デバルト:笛田博昭
ロレンツォ:東原貞彦
合唱:藤原歌劇団合唱部
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 
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