プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

新国立”ワルキューレ”初日

 去年に続いて、リングでシーズンオープンをした新国立劇場に、初日の10月2日に行ってきました。昨年からそれまでのキース・ウォーナーの”トーキョー・リング“から、ゲッツ・フリードリッヒのフィンランド国立歌劇場版の演出に変わったのですが、正直、去年の”ラインの黄金”の”トンネル・リング“にはちょっとがっかりしました。トンネルや、二段舞台など装置にお金はかかっていたのですが、その意図が不明という印象だったのです。

 それに比べると、同じフリードリッヒの演出でも、このワルキューレはかなりまともだったと思います。1幕目の箱を斜めにした空間と3幕目のキャバレー(ラインの黄金でもそういうところありましたね)のようなワルハラ病棟は、諸手を挙げて歓迎するわけにいきませんが、2幕目の赤く奥深く続く道と、廻り舞台でジークリンデが疲れて休む茂み(?)と岩壁のあたりはとても良くできていて、ジークムントと二人で逃避行をしている感じが出ていました。それでも、やはり僕は個人的にはトーキョー・リングの先進性が好きです。あの無機質なワルハラの病院、パウル・クレーの矢印のようなマークが、色々な想像をかき立ててくれました。

 さて、この日は初日ということで、オケも歌手もやや堅さが感じられましたが、良い意味でびっくりしたのは、ジークムントのステファン・グールド、もう何度も聴いていますが、今迄で一番良かったと思います。もともとそんなに声量があるほうではありませんが、輝きが増した声質になった感じ。声を良くコントロールして大音量から弱音までを表現力豊かに聴かせます。今月末のウィーン歌劇場の“ナクソス島のアリアドネ”のバッカス役に、急逝したヨハン・ボータの代わりにピックアップされましたが、なんか乗っている感じですね。満足です。そして、フリッカ役の新国立ではおなじみのエレナ・ツィトコーワも素晴らしかったです。過去にフリッカを歌った時に比べても、余裕たっぷり。ヴォータンをいじめる表現がまあ憎たらしいこと!

 その他の歌手も概して良かったのですが、ヴォータンのグリア・グリムスレイは、やや声を作っているという感じが否めませんでした。ワーグナーの声に挑戦しているという感じで、ちょっとゆとりがないのです。また、低音も物足りなかったです。(ローゲを呼び出すところ、地底まで届かない感じ...) 去年までのユッカ・ライジネンのほうが良かったかなという印象です。僕のヴォータンのイメージが、ハンス・ホッターとジェームズ・モリスで作り上げられてしまっているせいもあるかもしれませんね。よりバリトンっぽいグリムスレイは今のヴォータンなのかもしれません。そして、ブリュンヒルデのイレーネ・テオリンは過去の“神々の黄昏”のブリュンヒルデでも圧倒的な存在感を見せていましたが、今回も歌がこちらの胸に突き刺さってくるような迫力がありました。2幕目、3幕目のヴォータンとのやりとりでは、完全に”勝って“いました。今後2作もブリュンヒルデは彼女でお願いしたいです。(と思いましたが、違うみたいですね。残念....)

 最もクエスチョンだったのが、指揮とオケです。昨年の「ラインの黄金」以上に不満感が残りました。まずは金管が薄い。ワルキューレで金管が響かなくてはどうしようもないと思います。ラインの黄金では、僕が行った公演ではこの金管がふにゃりましたが、今日は木管が第二幕で破綻しました。これはオケのせいですね。マエストロ飯守のワーグナーは、どれを聴いても歯切れが良いというか、ライトな感じで、それはそれで悪くないと思える時もあるのですが、この日のワルキューレは「重み」に欠けて、歌手に負けていました。ワルキューレでは演奏だけで「持って行かれる」魅力が期待されるのですが、それがなかったですね。これも、僕のワルキューレのベンチマークがフルトヴェングラーにあるからなのかもしれません。若い頃(でもないけれど)、強烈な印象で焼き付いた音楽の調べは、なかなかアップデートされないものなんです。

 この日、圧巻だったのは2幕目の前半でしょう。僕の大好きなところでもありますが、フリッカとヴォータンの長々と続く夫婦喧嘩。テオリンの迫力と表現力が素晴らしい。また、後半疲れが見えたヴォータンのグリムスレイもここはまずまず頑張っていました。演出も余計な仕掛けがなくて、歌に集中できました。

 この日、カーテンコールの時にマエストロにブーが出ていました。新国立で飯守さんにブーが飛ぶというのは珍しいのでは?そこまで悪いとは思いませんでしたが、2幕目の木管(多分オーボエ)の破綻は、冷や水を浴びせられたような感じがしましたから、そこへの不満もあったのでしょう。

 来月はウィーン国立歌劇場来日公演のワルキューレを聴きに行きます。ウィーンのワーグナーはショルティのCDしか聴いていないので相当に期待しています。(チケットも高いですし。。。)

指揮:飯守泰次郎
管弦楽:東京フルハーモニー交響楽団
演出:ゲッツ・フリードリヒ

ジークムント:ステファン・グールド
ヴォータン:グリア・グリムスレイ
ジークリンデ:ジョセフィーヌ・ウェーバー
ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
フリッカ:エレナ・ツィトコーワ
フンディング:アルベルト・ペーゼンドルファー
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