プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

エフゲニー・オネーギン by マリインスキーオペラ

 10月15日最終日の公演に行ってきました。大満足の一言に尽きます。

 なんと言っても、ゲルギエフのチャイコフスキーが素晴らしかったです。ドン・カルロではなんとなく不鮮明な音、強弱が付きすぎて歌唱を邪魔する場面などが気になりましたが、オネーギンは素晴らしかった。チャイコフスキーの濃縮果汁を更に搾ったような音が聴けました。時には交響曲、時にはセレナーデ、時にはバレエ曲。切れ味良く、且つ緻密で、重厚感に溢れながら重すぎず……。特に第三幕のポロネーズは、良く知られた曲ですが、見事な様式感に溢れて立体的なオケの音に圧倒されました。やはり、ロシア人の巨匠がチャイコフスキーを振るとこうなるんですね。余談ですが、ゲルギエフはマリインスキーバレエの指揮も良く振っています。

 最終日のチケットを取ったのは、この数年聴くたびに良くなっているテノールのコルチャックを狙ったのですが、見事に期待に応えてくれました。新国立の“ウェルテル”やパルマの“真珠取り”でも一途な若者の嘆きをその甘い声で良く表現していましたが、この日も熱い血がたぎるレンスキーにぴったり。2幕目で、レンスキーがオネーギンとの決闘の前に歌うアリア「我が青春の輝ける日々よ」は、今回のプログラムにも「ロシア・オペラの中で最も美しいアリア」と書かれてありますが、イタリアのアリアには無い、チャイコフスキーならではの詩的な旋律、そして何より決闘を前にして既に死を予測しているレンスキーの悲しい歌いが涙を誘います。こういう歌の心理表現、コルチャックうまいですねぇ。

 オネーギンはこの日だけ歌った、ロマン・ブルデンコ。ロシアのバリトンとしては、やや高めでノーブルな声。オネーギンの高貴さと人を小馬鹿にしたような雰囲気を実に良く出していました。声にやや熟成しきっていない”青い”感じがありましたが、これが同様に”青い”オネーギンに良くあっていたと思います。この役は舞台に立っているだけで、そういう雰囲気を出す存在感が必要だと思いますが、彼は上背もあり、背骨がすくっと伸びて”まさにオネーギン”だったと思います。

 タチヤーナのエカテリーナ・ゴンチャロワは前半やや表情も歌も堅く、緊張している感じがしましたが、公爵の妻となって歌う三幕目は実に素敵でした。オネーギンの求愛に苦しみながらの二重唱は圧巻。この時のオケがまた素晴らしく歌手たちを盛り上げていました。

 演出はクラシックでシンプルなものでしたが、最初の収穫の場面で大量のリンゴが舞台上に転がっているのが印象的でした。METのカーセンの演出(これも指揮はゲルギエフ)では、リンゴではなく大量の枯れ葉がちりばめられていましたが、イメージ的には似ている感じです。ポロネーズで始まる第三幕のペテルブルグでの夜会のシーンは、チャイコフスキーが、このオペラの演じられる条件のひとつとした「時代考証のしっかりした演出と衣装(プログラムより)」をそのまま体現した、非常に美しい舞台美術が光りました。歌手たちはドン・カルロの時と同様に、あまり演技らしい動きはなく、正面を向いて歌うというクラシックなスタイルでしたが、良い歌手の良い声を聴けるという点では満足がいきました。

 このオペラを生で見るのは3回目なのですが、実はバレエではオペラの第三幕目をジョン・クランコの振り付けによって「寝室のパ・ド・ドウ」としたプロダクションを何度も見ています。一番印象に残っているのはパリオペラ座のマニュエル・ルグリとモニカ・ルディエールのコンビによるもの。その最後は今回のオペラの最後と同様にオネーギンがタチアーナから駆けて去って行くのですが、オペラの三幕目を聴きながら、バレエのシーンと目の前のオペラの舞台が重なって非常に感動しました。(あまりオペラ鑑賞のしかたとしては褒められないですね。)今回の舞台では最後にオネーギンが深い霧の中に消えていくという演出。とても良かったです。

 マリインスキーの演目を2つ見ましたが、”ドン・カルロ“はフルラネット一座という感じで、彼のバスボイスに圧倒されました。それ以外はあまり印象に残らなかったという感じです。いっぽうの”エフゲニー・オネーギン“はオペラとして素晴らしく良く仕上がっていて、全体としてはこちらのほうが良かったと思います。

この2週間で、ワーグナー、モーツァルト、ヴェルディ、チャイコフスキーと4つのオペラを聴く機会に恵まれましたが、比較をするとなかなかおもしろいものです。今週は水曜日にアンドレア・バッティストーニのヴェルディとロッシーニの序曲とベートーヴェンの5番。これも楽しみです。

指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:アレクセイ・ステパニュク
舞台美術:アレクサンドル・オルロフ
衣装:イリーナ・チェレドニコワ
照明:アレクサンドル・シヴァエフ
オネーギン:ロマン・ブルデンコ
タチヤーナ:エカテリーナ・ゴンチャロワ
レンスキー:ディミトリー・コルチャック
オルガ:ユリア・マトーチュキナ
ラーリナ夫人:スヴェトラーナ・フォルコヴァ
フィリーピエヴナ:エレーナ・ヴィトマン
グレーミン公爵:エドワルド・ツァンガ
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