プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ナクソス島のアリアドネ(ウィーン国立歌劇場来日)

 いや、素晴らしかったです。久しぶりにオペラに、”持って行かれる“無我の境地を味わいました。昨日、10月28日のマチネ公演です。

 まずは、歌手が素晴らしい。カサロヴァとボータが抜けて若干心配をしていたが、作曲家のステファニー・ハウツィール、望外の出来!高めのメゾで表現力が見事。ストーリー上での富豪宅でのオペラ上演のやり方がどんどん変わることに対する苛々と怒りを体中で表す、理想を追求する若き作曲家が見事に表現され、上背もあって舞台での見栄えも実に良かったです。

 ツェルビネッタを演じたダニエラ・ファーリー、プロローグでは高音の抜けがやや足りないかなと思いましたが、1幕目のオペラ(ストーリーでの)が始まり、長大な難曲「偉大なる王女様」のコロラトゥーラは、本当に素晴らしかったです。声を中音に保ち、余裕たっぷりで高音を自在に操ります。色彩を感じる声でした。今までに聴いたデセイやグルベローヴァの歌い方とも違う、実に軽く洒落た歌い方。完全に魅了されました。

 急逝したヨハン・ボータの代わりに出演したステファン・グールド。つい先週まで、新国立でジークムントを歌っていて、これも素晴らしく、ヘルデンテノールとしての評判を確立した感じがありますが、昨日のバッカスも存在感抜群。輝きがあり、締まった高音が神々しかったです。まさに聞き惚れる美声。オペラの終盤で、バッカスを死に神と間違えているアリアドネとのやりとりは、トリスタンとイゾルデを思わせる圧巻な迫力がありました。

 アリアドネのグン=ブリット・バークミンは、重みと張りがあり声量を感じさせるソプラノで、ツェルビネッタと好対照のソプラノで、とても良かった。特にプリマドンナとアリアドネの切り替えが見事でした。

 さすがウィーン歌劇場だなぁと思ったのは、脇役の歌手も皆素晴らしかったこと。執事長のハンス・ペーター・カンメラーは、実にピリッと効いた役作りをしていて、プロローグ初めの音楽教師、マルクス・アイヒェとのやりとりには緊迫感も感じられて、冒頭からこのオペラの魅力がはじけ散って来ました。また、水の精、木の精、山びこの女声の三重唱、ハルレキン、スカラムッチョ、 トルファルディン、ブリゲッラの道化4人衆が「ハイッ、ハイッ」と歌ってアリアドネを元気付ける歌唱なども、本当に素晴らしかったです。合唱のないオペラなので、出演者全員の歌唱レベルが高くないと聴衆の陶酔感が途切れてしまうと思うのですが、そんなことが全くありませんでした。

 そして、マレク・ヤノフスキの指揮も極上でした。プロローグの序曲では、ややあっさりしすぎかなと感じましたが、オペラが進むに連れて、弦の音がまるで弦楽四重奏のように研ぎ澄まされて聞こえ、30数人の小オーケストラを指先で自在に操っているのがわかりました。特に1幕オペラの序曲の精緻で水晶の玉をのぞき込むような透明な音には感激しました。ベームやシノーポリのドラマ性の高い音作りとは違った、「新しい」ナクソス島の音という感じがしました。歌手の声の使い方、特にツェルビネッタ、、の歌唱とオケは素晴らしく合っていてして、リヒャルト・ストラウスの世界を作り上げていました。世紀末の退廃的で洒落た美しさ。クリムトの金箔を貼った絵の世界ですね。

 演出もとても良かったです。特に舞台に天井までガラス窓をしつらえ、その外にウィーン郊外の森が見え、その小道を通って楽団が入場してくる最初のシーン、そして最後までその森を少し見え隠れさせているのも素敵でした。舞台上に観客席をしつらえるのは、二期会の舞台でも見た覚えがありますが、このオペラの二重構成を観客に常に感じさせる効果的な設定でした。

 いつも、このオペラを聴いていて思うのですが、各所にワーグナーのパロディ的なところがありますね。前述した「死」をめぐるアリアドネとバッカスのやりとりや洞窟をモチーフにしたところなどは、トリスタンとイゾルデ、3人の木の精はラインの黄金のノルンを連想させ、プロローグでのティンパニの使い方はファーゾルとファーフナーの登場そのものに感じられます。

 このあと、来月には同じウィーンの来日公演でのワルキューレ、二期会のナクソス島に行きますので、10-11月はワーグナーとリヒャルト・ストラウスの2作を堪能できます。ただ、ワルキューレは体調を整えていかないと疲れますね。

 ともあれ、昨日のナクソス島、今年の国内の公演の中でも一番感激したと言っても良いと思います。ヤノフスキの指揮など、評価はちょっと分かれそうな気もしますが、僕は大満足でした。

 


指揮:マレク・ヤノフスキ
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ

執事長:ハンス・ペーター・カンメラー
音楽教師:マルクス・アイヒェ
作曲家:ステファニー・ハウツィール
テノール歌手/バッカス:ステファン・グールド
士官:オレグ・ザリツキー
舞踊教師:ノルベルト・エルンスト
かつら師:ウォルフラム・イゴール・デルントル
下僕:アレクサンドル・モイシュク
ツェルビネッタ:ダニエラ・ファリー
プリマドンナ/アリアドネ:グン=ブリット・バークミン
ハルレキン:ラファエル・フィンガーロス
スカラムッチョ:カルロス・オスナ
トルファルディン:ウォルフガング・バンクル
ブリゲッラ:ジョゼフ・デニス
水の精:マリア・ナザーロワ
木の精:ウルリケ・ヘルツェル
山びこ:ローレン・ミシェル

ウィーン国立歌劇場管弦楽団  

ピアノ: クリスティン・オカールンド
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