プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

プラハ国立歌劇場“ノルマ” グルベローヴァ

 プラハ国立歌劇場来日公演の最終日、”ノルマ“に行ってきました。この公演はタイトルロールにエディタ・グルベローヴァとディミトラ・テオドッシュウを起用していて、どちらに行こうか迷ったのですが、一旦引退を表明してまた歌い始めたグルベローヴァの声をもう一度聞きたいと思いチケットを取りました。ノルマを生で聴くのは2013年のザルツブルグでのアントニーニ指揮、バルトリ主演の公演以来3年半ぶりです。日本ではなかなか聴けないですね。

 一幕目、オロヴェーゾを歌うコロトコフがなかなか良く響くバスで聴衆をドラマに導きます。そして、ポリオーネのゾラン・トドロヴィッチ。新国立でカルメンのホセや、運命の力のアルヴァーロなどを聞いて、どちらかというとくぐもった声でイタリアっぽくないという印象を持っていたのですが、この日はなかなか良かったです。明るくスッと立ち上がる声という印象。

 そして一幕目、10分ほどたって合唱の後に、ついにグルベローヴァ登場。しかし、声が固い、というかなんとか声を出しているという感じです。すぐに、この演目の華とも言えるアリア“Casta Diva(清き女神よ)”に。しかし、全く音程が合わない。高音が上がらない。声が震えて安定しない。まるで、立ち稽古で不調の歌手が調子だけ合わせているような歌い方です。いや、びっくりしました。ここまで衰えてしまったのか。

 Casta Divaが終わると2列ほど前の観客がすごい勢いで立ち上がって帰って行きました。僕も家内と一緒でなければそうしたかもしれません。

 このあと2幕目の前半だけはまずまずのレベルに戻しましたが、最後のポリオーネとの二重唱なども、聞くのも哀れという状態でした。名古屋での公演でも一幕目はあまり良くなく、二幕目で持ち直したということでしたが、この日は本来なら一幕目で降板すべき出来でした。憤るよりは心から悲しい気持ちになりました。2008年のロベルト・デヴェリューで素晴らしい歌唱を聴かせてもらい、その後の引退表明を翻して欧州で歌っていたの聞いていましたが、おそらくは、今回日本での3週間近いツァーの疲れが年齢に堪えていたのでしょう。残っているリサイタルで調子を戻すことを願うばかりです。

 この公演を救ったのは、アダルジーザ役のスザナ・スヴェタ。低音から高音まで芯の通った、輝くような美しい声で、アダルジーザの役柄上の年齢(20歳くらいだと思います)を感じさせる若さもあります。グルベローヴァの愛弟子ということで、彼女と似たような響きがあります。二人で歌う場面ではスヴェタのほうが、圧倒的に良い出来だったのが皮肉でした。

 前述したようにオロヴェーゾのオレグ・コロトコフも良かったです。このオペラはオロヴェーゾの第一声から始まります。これが悪いと、オペラ自体が不出来になってしまうのは、シモン・ボッカネグラのパオロと同じような役回りです。で、コロトコフの第一声素晴らしかったですね。オペラが締まりました!そして、同じく前述したようにゾラン・トドロヴィッチも随分うまくなったものです。過去の公演で悪いイメージを持っていたので、ポリオーネの第一声にもびっくりしました!それと脇役ですが、クロティルデのシルヴァ・チムグロヴァーも美声でした。

 指揮とオケは特筆するべきことはあまりありませんが、逆に言うと素直に楽しめました。ヴァレントヴィッチの指揮は、モダン楽器をピリオド楽器のように聞こえさせるような感じで、音を伸ばさずに切っていきます。これ好きです。ただ、これは僕が、アントニーニやビオンディのピリオド楽器でのノルマが大好きだということがあるので、人によっては物足りないと感じたかもしれません。それと、指揮が歌手の邪魔をしないようにという感じが出過ぎていた感じがありましたね。もう少し自己主張をしてくれても良かったかも。。あと、合唱は正直相当な不出来でした。

 それにしてもソプラノ歌手の引き際は難しいですね。これが、僕にとっての最後のグルベローヴァとなるのでしょうか? ホロヴィッツも吉田秀和に「ひびの入った骨董品」と酷評された83年の演奏のあと、亡くなる3年前の86年に本人の強い希望で再来日し、素晴らしいスカルラッティやモーツァルトを弾き、吉田秀和は「こんどの彼は一人のピアノをひく人間として来た。」と褒めて新聞に評論を書いたそうです。グルベローヴァも近い将来、そんな時が来て欲しいと心から願っています。

指揮:ペーター・ヴァレントヴィッチ
演出:菅尾 友

ノルマ   :エディタ・グルベローヴァ
ポリオーネ :ゾラン・トドロヴィッチ
アダルジーザ:スザナ・スヴェダ
オロヴェーゾ: オレグ・コロトコフ
フラヴィオ :ヴァーツラフ・ツィカーネク
クロディルデ:シルヴァ・チムグロヴァー

プラハ国立歌劇場管弦楽団、合唱団
関連記事
スポンサーサイト

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://provenzailmar.blog18.fc2.com/tb.php/601-fcefbc76
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad