プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ルチア@新国立劇場

 20日のマチネ公演に行ってきました。実は18日土曜日のチケットを取っていたのですが、大学の卒業式と重なってしまっているのに気づかず、2月になってからあわてて電話で取り直したのです。もうあまり席が残っていなくて危ないところでした。

 まずは感想ですが、「素晴らしい」という以外に言いようがありません。18日に先に聴いた家内から既に印象を聞いてはいましたが、ベルカントオペラを滅多にやらなかった新国立劇場が満を持して放った大ヒットだと思います。これで、個人的には3回目の生”ランメルモールのルチア“(ランカトーレ、デセイで聴いています)鑑賞になりますが、今回は、歌手、指揮、オケ、演出、舞台美術のすべて揃って素晴らしく、総合的には文句なくベストでした。

 今日は歌手から話をしたいと思います。何と言ってもタイトルロールを演じたオルガ・ペレチャッコ=マリオッティは、”美しき清き“という表現がぴったりな声。(容姿も…)声を張り上げず、持ち上げず、すくっと高音が立ち上がります。彼女のような自然な感じのコロラトゥーラを、あまり聴いたことがありません。いつも良く聴くのはカラス、ステファノ盤で、今回の予習用に聴いていたのは2014年のミュンヘンでのダムラウ、カレヤ盤でした。ダムラウはもちろんすごいのですが、”ドラマチック”なコロラトゥーラだと思います。アジリタというほうがふさわしいか。。。それに対しペレチャッコは「行くぞ!歌うぞ!」という感じが全くせずに、自然にコロラトゥーラに入ります。弱音、微音でも綺麗にベルカントします。

一幕目、ルチアが侍女のアリーサを従えて泉のたもとで歌うアリア(カヴァティーナでしょうか?)“regnava nel silenzio(あたりは静寂に包まれて)”は、僕の大好きな曲なのですが、中音、低音でのコロラトゥーラが要求されます。主題を繰り返し歌う最初の部分の、”Qual di chi parla, muoversi, il labbro suo vedea, (まるで誰かに語りかけるかのように唇が動くのを見た。)のこところ、音が下がるところで、音程をはずしかける歌手を聴いたことがありますが、歌い始めてまもないところで、喉が温まっていないでこの難曲を歌うのは大変難しいのだと思います。しかし、ペレチャッコは軽々とこなします。もうこれで感動でした。”狂乱の場“はもちろんbravissimo!! 彼女はデヴィーアの弟子ということですが、なるほどそのシンプルにして研ぎ澄まされた清らかさを聴いて納得。新国立出演のあとに、4月にはMETでリゴレットのジルダ、5月、ボリショイでヴィオレッタ、そして6月にはベルリンで真珠取りのレイラと立て続けに主演で歌うそうです。みんな聴きたくなります。

 エドガルド役の、スペイン人、イスマエル・ジョルディもとても良かったです。歌唱の技巧的にはまだこれからだと思うのですが、感情の込め方に深みがあって引き込まれます。ペレチャッコと二人で、本当に「若いカップルの熱愛」という感じが出ていて魅力的でした。プログラムを見て気づきましたが、2002年の新国立ではエドガルドをファビオ・サルトリが歌っているんです!サルトリのエドガルドというのも良かったでしょうね。(その頃はまだ痩せていただろうし。。)

 そして、エンリーコのポーランド人バリトン、アルトゥール・ルチンスキーは浪々とした美声で、兄の権威そのものが歌っているように聞こえます。まさに適役。ライモンドの妻屋秀和も良かった。2幕目のルチアとのやりとりは緊迫感があって引きつけられました。このシーン、なんかラ・トラヴィアータの2幕1場のジェルモンとヴィオレッタのやりとりを感じました。2幕目はズンパッパもあるし、6重唱の始めの男声2重唱がカルロとロドリーゴっぽかったり、このオペラのいたるところにヴェルディが引き継いだニュアンスがありますね。ヴェルディはベッリーニ嫌い(「長〜い、長〜い曲」と切り捨てたようです。)だったようですが、ドニゼッティの系譜に連なっているなぁと感じた次第。

 このオペラでは合唱がとても重要です。序曲からいきなり合唱に入ります。新国立の合唱団はこの最初の合唱から最後まで、素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれました。引っ越し公演でも合唱がいまいちということはままあることなので、今回は、個々の歌手と併せて、合唱も最高で、つまりはベストの歌唱のキャスティングではないでしょうか?

 そして、指揮のジャンパオロ・ビザンティを褒めるのも忘れてはなりません。大きなオーケストラを鳴らすのではなく、各パートの音を精緻に且つ、くっきりと浮き出させて、歌手を押し出しながら、鳴らすところは鳴らす。そして何より品格がありました。それがこのオペラを更に魅力的なものにしていました。狂乱の場でのグラスハーモニカは、演奏者のサシャ・レッケルト独自の”ヴェロフォン”というのだそうですが、通常のグラスハーモニカの音が透明ガラスだとしたら、このヴェロフォンは磨りガラスという印象でしょうか?その音は、精神が破綻したルチアの神経シナプスから響いて来るように聞こえて、凄みもありました。

 演出はフランス人のジャン=ルイ・グリンダ。モンテカルロ歌劇場総監督のですので、同歌劇場でも来年か再来年にこのプロダクションで公演されるそうです。スコットランドの海をベースのテーマにして、場面転換の時にも紗幕にプロジェクションマッピングで荒れる海と巨大な岩を映し出すなど凝っています。1幕目の泉の場面に、狂乱したルチアの回想(?)のところでまた戻って来るなど、演出にも“読み応え”があります。僕はスコットランドを1週間掛けて旅行したことがありますが、スカイ島という島のイメージがよみがえりました。実に美しい演出。2幕目の城内の舞台も、オークのような床が舞台を引き締めていました。3幕目はやややりすぎ(ネタバレはしませんが)の感もありますが、狂乱の場をリアルに描き出していました。そして演出を支える舞台美術や衣装が実に美しいことも是非付記したいです。新国立の実力が発揮されていると思います。

 それにしても、これだけのキャストでベルカントのオペラを高いレベルで公演できることがわかったからには、この先、新国立でベルカントをもっとやってほしいです。そうですね、勝手に希望演目を上げると、ノルマ(今年藤原で先に越されますが、、、)、清教徒(この"狂乱の場”も聴きたいです。)、夢遊病の女などのベッリーニ作品。スカラ座のロビーで4人の立像の一人(他はヴェルディ、ドニゼッティ、ロッシーニです。プッチーニは何故かいません)なんですが、ベッリーニは新国立劇場主催では一回も上演されていないです。そして、ドニゼッティの女王三部作も。。。 期待しましょう!

(指揮)
ジャンパオロ・ビザンティ
(演出)
ジャン=ルイ・グリンダ

(キャスト)

ルチア:オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ
エドガルド:イスマエル・ジョルディ
エンリーコ:アルトゥール・ルチンスキー
ライモンド:妻屋秀和
アルトゥーロ:小原啓楼
アリーサ:小林由佳
ノルマンノ:菅野 敦
合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
【グラスハーモニカ】サシャ・レッケルト



 
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