プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

中村恵理B→Cソプラノリサイタル

 3月21日、オペラシティのリサイタルホールに初めて行きました。ソプラノの中村恵理のリサイタル。”B→C”と銘打っていますが、これは「バッハからコンテンポラリーまで」という意味です。250席のホールは、サントリーのブルーローズよりまだ小さく、木の内装は暖かい感じです。

 この日はピアニストで作曲家の英国人リチャード・ワイルズの伴奏で、バッハからワイルズ迄の小品15曲の構成で、中村自身が「今回の公演は、私の音楽史の中で嵐の章になる。」と言っているように、斬新で精力的なプログラムでした。

 僕と家内は、中村恵理が新国立の研修生だったころから、その声に魅了されていました。この日も、ふくよかで深みがあり、そして強く、しかし良くコントロールされた美しい声を堪能しました。最初の3曲は、ロベルト・シューマンの妻、クララ・シューマンの美しい歌曲。そして次はフェリックス・メンデルスゾーンの姉のファニーの2曲と、この日は女性作曲家の作品を多く取り上げていました。この5曲、繊細でキラキラしていて、中村の高音が輝いていました。本当、ため息ものです。

 そして、バッハのカンタータに続き、“C”の現代作品に移ります。グバイドゥーリナ、ショスタコーヴィッチと吠えるような声の曲が続いたあとの”天人五衰“は、三島由紀夫の詩にワイルズが中村恵理のために曲を付けたもの。日本語の歌曲です。絵画展に例えれば、洋画が並ぶ中に金箔を使った日本画が一枚入ったような感じです。静寂を感じさせる、それは美しい歌唱でした。この日の曲の構成は、おそらく中村とワイルズが考えたものでしょうが、15曲がストーリーを持って連なるように注意深く並べられていました。 

 休憩後の7曲は印象派のイメージ(時代的にも)を持つ、これも女性作曲家のリリー・ブランジェの2作品がみずみずしく、中村の声も弾みます。そしてユーモラスなルトスワフスキの寓話をもとにした2曲。2番目のアントレの前のソルベみたいですね。そして、ワイルズの力作、未発表のオペラ“分裂と征服”から1曲。20世紀初頭に英国で参政権を求めて声を上げた女性たちの生き様を描いたもの。力強い叫びが英語で響きます。最後の言葉は”How funny!”。

 ラストの歌はヴェルディの “E strano/そはかの人か….花から花へ“。正直、それまでの流れの中から、急にクラシックなヴェルディのメロディにどのようにつながるのかと思いましたが、スタッカートを使ったピアノと無伴奏の部分を多くしたりして、見事にヴェルディを現代音楽につなげました。まるで、グレン・グールドがヴェルディを弾いているようでした。中村の歌唱は最高潮に達します。強く、そしてふくよか。聴き応えがありました。終わるとBrava, Braviの嵐。

 実に内容のある、素晴らしいリサイタルでした。前日の”ルチア“に染まっていた頭がリセットされました。中村理恵は4月の新国立の”フィガロの結婚“でスザンナを歌います。これも楽しみですね。

ソプラノ:中村恵理
ピアノ:リチャード・ワイルズ


• クララ・シューマン:《3つの歌》op.12から「彼は嵐と雨の中をやってきた」 
• クララ・シューマン:《6つの歌》op.13から「私はあなたの眼のなかに」 
• クララ・シューマン:《3つの歌》op.12から「美しさゆえに愛するのなら」 
• ファニー・メンデルスゾーン:《12の歌》op.9から「失うこと」 
• ファニー・メンデルスゾーン:《6つの歌》op.1から「朝のセレナーデ」 
• J.S.バッハ:カンタータ第57番《試練に耐えうる人は幸いなり》BWV57から
• 「俗世の命を速やかに終えて」「私は死を、死を望みます」 
• ワイルズ:《最終歌》(2016、中村恵理委嘱作品)から「エピソード ── 三島由紀夫『天人五衰』より」
• グバイドゥーリナ:《T.S.エリオットへのオマージュ》(1987)から「冷気が足元から膝に上ってく
• ショスタコーヴィチ:《アレクサンドル・ブロークの詩による7つの歌》op.127(1967)から「ガマユーン」 
• メシアン:《ミのための詩》から「恐怖」「妻」 
• リリ・ブーランジェ:《空の晴れ間》から「ベッドの裾のところに」「二本のおだまきが」 
• ルトスワフスキ:《歌の花と歌のお話》(1989~90)から「かめ」「バッタ」 
• ワイルズ:《分裂と征服》(1993)から「なんと奇妙な」
• ヴェルディ:《椿姫》から「そはかの人か…花から花へ」
• 【アンコール曲】ワイルズ:《最終歌》から「エピソード ── ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』より」 
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