プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

デヴィーアの“ノルマ”

 7月1日の日生劇場のマチネ、藤原歌劇団の「ノルマ」の公演に行ってきました。今年、国内ではとても楽しみな公演のひとつで、マリエッラ・デヴィーアが主演する1日と4日の2日間のチケットを取りました。ノルマは日本ではなかなか聴けない公演です。僕もまともに聴いたのは、2013年のザルツブルグ音楽祭でのチェチリア・バルトリがタイトルロールの公演くらいです。昨年の11月に、グルベローヴァの来日公演で聴いてはいるのですが、このブログにも記したように、大変残念な出来で、「聴いた」うちには入りませんでした。あとは音源で、ジューン・アンダーソン、フィオレンツァ・チェドリンスというところです。

 デヴィーアもグルベローヴァより2歳だけ歳下の69歳。前に聴いたのは、2013年のラ・トラヴィアータで、これはとても素晴らしかったのですが、今回はどうか、正直ちょっと不安でした。

 第一幕目、オロヴェーゾとドルイド(ドロイドではないですね。)の歌に続き、ポリオーネとフラーヴィオのやりとりがあり、そしてノルマ登場。第一声の” Sediziose voci, voci di guerra , Avvi chi alzarsi attenta ,Presso all'ara del Dio? 「不穏な声が、戦いの声が沸き起こり、注意を引く。神の祭壇に立ち向かう。」“の部分が、素晴らしい!高音までスクッと、一気に立ち上がる声、そして音程がきっちりあって止まる。まさに巫女ノルマの声です。その後、約3分後に始まる難曲”Casta Diva「清らかな女神」)、グルベローヴァはここで破綻を来したのですが、デヴィーアは、弱音の中高音、そして天に昇っていくような3点ハ音も、本当に女神が歌っているような声です。この年齢になっても、ソプラノとして高音に全く衰えが見えません。声だけ聴いていたら20代ですね。興奮しました。

 先日のマッシモ劇場の「ラ・トラヴィアータ」の舞台をヌッチが引き締めていたように、この日の舞台はデヴィーアが締めます。いや、もうデヴィーアのマスタークラス(藤原で過去になんどもやっているのですが、すごく厳しいらしいです。)のようです。廻りの歌手が、幕が進むに連れてデヴィーアに引っ張り上げられるようにどんどん良くなってくるのです。特に一幕目ではやや節回しと音程に気を遣いすぎていた嫌いのあった、ポリオーネの笛田博昭が、2幕目最終場でのノルマとの二重唱では、情感の表現が素晴らしく、また中音部が輝くイタリア音(なんだ?)になり、「笛田さん、こんな凄いんだ!」と思ってしまいました。笛田は、持ち味の声量の豊かさが生きていました。

 デヴィーアは2幕目に入ると、母として、女としての迷いと悩みを託すように歌うのですが、ここがまた素晴らしい。歌唱技巧ではバルトリでしょうが、表現力ではデヴィーアかと思います。ノルマという女性は、ポリオーネの子供を産んだり、その子供を殺そうとしたり、最後に自分を生け贄にするところなど、巫女でありながら、けっこう煩悩の虜なんですね。ここらへんの台本がおもしろいです。カラスのノルマも何度もCDで聴きましたが、やはり技巧に走っている、、、もちろん、悪魔的な魅力のあるノルマなんですが、人間味を一番出してくれたのはデヴィーアかと思います。

 アダルジーザは、メゾソプラノのラウラ・ポルヴェレッリ。台本の想定では20代の若い娘ということになり、ソプラノで歌われることも多いのですが、この日は繊細でありながら、落ち着いたイメージで歌い上げていました。第2幕1場で、ノルマと理解し合い、若いと友情を歌う二重唱“Mira o Norma
「ご覧なさい、ノルマ」“は、聴き応えがありました。

 指揮のフランチェスコ・ランツィロッタはなかなかのイケメンのローマ人。初来日です。序曲は、びっくりするぐらいピリオド楽器風のエッジの効いた音で表現します。ここまでやらなくても、、という感じはしましたが、これで、彼の作りたいノルマの音楽の設計図が良くわかりました。最近、設計図の無い指揮者はあまり聴きたくないんです。歌手にうまく歌わせるという点では、まさにオペラの指揮者という感じですが、決して後ろに引いているわけではなく、出るところは出るという見切りの良さがあって、好感が持てました。日生劇場でこういう指揮者が振ると、イタリアの小劇場のようで幸せです。

 粟国淳の演出も素晴らしかったですね。限られた予算の中で最大の効果が出る舞台装置。円形劇場とも祭壇とも見える丸い台座を、森の木の集合のような壁と、宗教的なイメージの緻密な模様の壁をコンビネーションにして、覆ったり、はずしたり、一部だけを覗かせたり、、、結局、この舞台装置だけでずっと通すのですが、全く飽きません。藤原歌劇団は今、粟国さんとマルコ・ガンディーニというクレバーな演出家がいて舞台を見るのが楽しみです。

 この日は、C席\6,000-の天井桟敷でしたが、新国立のA席より条件が良いです。近くにはオペラ関係の知人がたくさんいて、同窓会みたいになりました。楽しかったです。

 さて、明後日の火曜日も聴きに行きます。今度は一階席です。

指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ
演出:粟國 淳

ノルマ:マリエッラ・デヴィーア
アダルジーザ:ラウラ・ボルヴェレッリ
ポッリオーネ:笛田博昭
オロヴェーゾ:伊藤貴之
クロティルデ:牧野真由美
フラーヴィオ:及川尚志
合唱:藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
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