プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ペトレンコ指揮ワルキューレ第1幕他

ブログアップが遅くなってしまいました。日曜日の公演だと、週明けが仕事で忙しくてなかなか書けないうちに印象が薄れてしまうのですが、この公演はいまだに印象が強烈に僕の体を支配しています。さて、 今回のペトレンコの初来日の公演は、都民劇場主催の「マーラー交響曲第5番」と「パガニーニの主題による狂詩曲」、そして、オペラ「タンホイザー」、最後がこのオペラ「ワルキューレ第1幕」と「マーラーこどもの不思議な角笛」と全部で3つありました。都民劇場主催の公演はチケットを取り損ねたのですが、ピアノのイゴール・レヴィットとの共演も良かったようですね。行きたかったです。

 それで、一昨日、10月1日、NHKホールで開催されたバイエルン国立管弦楽団の公演に行ってきました。これは本当に衝撃的で実に素晴らしかったです。「ワルキューレ第1幕」は今まで聴いたワルキューレでも最高の感動をもらいました。まずは序奏が凄かったです。弱音と強音を交互に持って来るのは楽譜通りだと思いますが、劇場の空気圧というか音波が伝わってくるような、強弱の繰り返し。弱音の時は一瞬音が消えて、真空になって、自分の耳が聴こえなくなったのではと思うようなインパクトがあります。森を逃走してくるジークムントの心臓の鼓動がそのまま音になったような緊迫感。ペトレンコの特徴(と僕は思っている)の、低弦をあまり響かせないで、腕力で音を劇場空間に押し出してくるような圧倒感に完全にやられました。オーケストラをコンパクトな1wayスピーカーのような塊感で鳴らし、繊細さとダイナミック感で今までに聴いたことのないワルキューレを聴かせてくれました。正直、タンホイザーの時よりも、良かったと思います。タンホイザーはやや内省的に過ぎて、テンポ感に欠ける感じがしました。(それはそれで凄く良かったのですが)ワルキューレは、音楽の塊感を歌手と一緒にテンポを緩めたり早めたり、実に緻密な指揮でした。凄いものを聴いてしまったという感じ。

 歌手の3人も素晴らしかったです。フォークトのジークムントは、昨年のウィーン歌劇場の時のクリストファー・ヴェントリスのように体全体で歌うのではなく、喉から開いた口の前に声を置いていくような美しさがあります。これが彼の魅力ですね。ルネ・コロとか、ジークフリート・イェルザレムなどの典型的ヘルデンテノールとは全く違うジークムントですね。METでバリトンに変わったばかりのドミンゴで聴いたことがありますが、それが近いかなという気がしました。ノートゥングを抜くあたり痺れました。そして、ジークリンデのエレーナ・パンクラトヴァ。タンホイザーでのヴェーヌスでも良かったですが、この日はさらに絶好調。母性を感じさせる深みのある歌いは「冬の嵐は過ぎ去り」のところで、舞台に本当に春の光が注ぐような感じがして、過去に見たその場面の舞台の演出が頭をよぎりました。そしてフォークトとの2重唱になっていくところで、こちらの感激も沸騰!このワルキューレ、今年の観劇で、ここまでで最高だったと思います。

 フンディングのゲオルグ・ペンフェルトも実に良かったです。タンホイザーでの領主ヘルマンでもびっくりさせられましたが、今回はフンディングの野蛮さ、いやらしさを良く出していました。バイエルン歌劇場を前回聴いたのは、同じくNHKホールでの2005年の来日公演でのマイスタージンガーでしたが、端役(?)の夜警の声が素晴らしかったのにびっくりしましたが、劇場付きの歌手で日本では知られていなくても、(知らないのは僕だけかもしれませんが)このペンフェルトみたいに凄い歌手がいるんですね。

 ペトレンコはタンホイザーの時もそうでしたが、歌手に歌い始めの時にキューを出すなど、オペラ指揮者として完璧な音作りに心を配っていることが良くわかりました。今回、第1幕だけだったのですが、そのうち近い将来に、ワルキューレ全幕をこのキャストで聴けるのでしょうか?そうしたら、またミュンヘンまで行ってしまいますね。

 話がワルキューレばかりになってしまいましたが、その前にマティアス・ゲルネが歌ったマーラーの「子供の不思議な角笛」も素晴らしいものでした。あまり書けないのは、この音楽を初めて聴いたからですが、ゲルネの情感がこもったピアニシモが実に美しかったです。こういう珍しい歌曲は、やはり字幕が欲しいところです。ゲルネはヴォータンを歌うには、やや声量が足りないかもしれませんが、せっかく来日したのだから、歌ってほしかったというのは、ないものねだりでしょうね。

 このシーズン、立ち上がりワーグナーが続きます。次の公演は新国立の「神々の黄昏」です。リング完結。これも楽しみです。

キリル・ペトレンコ指揮
マーラー:こどもの不思議な角笛 から
 バリトン:マティアス・ゲルネ

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」 第一幕
 ジークムント:クラウス・フロリアン・フォークト
 ジークリンデ:エレーナ・パンクラトヴァ
 フンディング:ゲオルク・ツェッペンフェルト

バイエルン国立管弦楽団
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