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プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

ナブッコ@LAオペラ

「真珠採り」からちょうど1週間、今度はヴェルディの「ナブッコ」をロサンジェルスオペラで鑑賞しました。実に素晴らしかったです。今年の鑑賞した公演は37回になります。で、まだ年内5つ位を残していますが、2017年のベスト5に入る公演だったと思います。

 ドミンゴがバリトンに転向してから、かれこれ10年近く経っていると思います。僕が最後に彼をテノールで聴いたのは2006年のワーグナーの“ワルキューレ”でのジークムント(ワルキューレ)です。その後はバリトンで、METでのシモン・ボッカネグラ、LAオペラでのアタナエル(タイス)を生で、ジェルモン(ラ・トラヴィアータ)を動画で見ましたが、この日のナブッコは彼のバリトンとしては多分最高の出来ではないかなぁと思います。まあ、こちらも、バリトンのドミンゴに慣れてきたということもあるのかもしれませんが。。。もともとはやや暗い声が求められるタイトルロールですが、ドミンゴは彼の持つ独特の艶のあるきらびやかな声で歌います。しかし、これが実に神々しく、自身を「神だ」とまで言い切ってしまうナブッコの勢いを見事に表現します。声量というか声のパワーは、歳相応に衰えているのですが、それが、逆に声が響き過ぎてしまわなくて、役柄の「年老いた父」という雰囲気を出していて非常に良いのです。ロドリーゴなんかよりは、ナブッコは、今のドミンゴには適役でしょう。2014年のアタナエルの時を思い出して見ると、ドミンゴは、タイスを喰ってしまうような、堂々、浪々、パワフルなバリトンであり過ぎたという感じがありましたが、歳をとって、“ドミンゴならではのバリトン”として、オペラの中にうまくはまっているという感じがしました。4幕目に、始まりに少しだけ「行け我が想いよ」のモチーフが使われ、王冠を娘に奪われて幽閉された身の不幸を歌いながら改心していく「ユダの神よ」は、情感が溢れていて素晴らしかったです。拍手なりやまず。。。

 ナブッコが奴隷に生ませた娘のアビレガイッシは、ヴェルディのオペラのヒロインでも、非常に強い性格を持った役柄です。これを歌ったのは、リュドミラ・モナスティルスカ。何度聞いても名前を覚えられないんですが、これで3度聴いたことになります。前2回はマクベス夫人でした。これも素晴らしかったのですが、この日のアビレガイッシは1幕目から本当に凄かったです。メゾソプラノの声域で充分に歌える彼女は、良い意味で“はったりの効いた“声。リリコからスピントまでカバーする表情豊かな声は、天を切り裂くような迫力で、声量もたっぷり、デッドなドロシー・チャンドラー劇場にも響き渡ります。ナブッコを責めるところは、凄みを感じます。それが、さっき言った「年老いたドミンゴのバリトン」との相性がとても良いんです。それにしても、ヴェルディは良くまあ、こんなに声を上から下まで振り回すアリアを書いたものだと思います。ナブッコはヴェルディの出世作で、この頃に生涯のパートナーとなる、ストレッポーニと出会い、彼女をアビレガイッシに1842年にスカラ座で初演されたのですが、ストレッポーニの短かった歌手としての生命は、このアビレガイッシで喉をやられてしまったのでは、、と思うほどです。ですので、このナブッコのアビレガイッシ、マクベスのマクベス夫人も含めて歌える歌手がそうはいない。当然、人気がある割には上演回数は限られて来ます。現代で、この2つの役を楽にこなせるのはモナスティルスカくらいしかいないのではと思います。

 歌手陣は、フェネーナを歌ったナンシー・ファビオラ・ヘレーラ、ザッカーリアのモリス・ロビンソンとも実に良かったです。ただ、イズマエーレのマリオ・チャンが声がやや狭苦しく、声量も足りず、ちょっと残念でした。決して悪い声ではないのですが、他の歌手陣に比べると、見劣り、(聴き劣り?)しました。

 指揮は、御大ジェームズ・コンロン。立派でゴージャスなナブッコの音楽を作り上げていました。彼のヴェルディは昨年のルイーザ・ミラー以来ですが、実に劇的な音楽を作るのですよね。これは最初ちょっと取っつきにくいのですが、一旦入り込むとやみつきになります。コンロンも晩年になって、得意のフランスオペラに加えて、ヴェルディをだいぶやるようになってきました。これは、ドミンゴも同じ。彼の最後のロールは、ファルスタッフでしょうか?そして、ヌッチも、「もうヴェルディの父親役しか歌わない」と言っているそうです。ヴェルディファンとしては、嬉しい限りです。
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 最後に、演出ですが、2012年にワシントンオペラでドミンゴが主演した際のナブッコを演出した、グラント・ガーションのもの。実に洒落ていました。劇中劇になっているのですね。19世紀半ばのおそらくはスカラ座で、紀元前6世紀の舞台をやるという落差がおもしろいのです。序曲のところで、舞踏会や、舞台裏の様子などが入ります。そして、最後のカーテンコールでは舞台上の観客の貴婦人からバラの花が投げられると、それをフェミーナが投げ返し、”VIVA VERDY”、という垂れ幕が出ます。リソルジメントですね。実際に歴史的にはナブッコはその旗印になってはいないのですが、俗説をうまく利用しています。その後、カーテンコールの終わりで、「行け我が思いよ」をもう一度歌うのです。劇中ではbisはなかったのですが、最後にこんなおみやげが付いていました。字幕にイタリア語の歌詞が出てきて、観衆も歌うのです。LAオペラならではという感じですが、実に気持ちが良い。ローマ歌劇場にいるみたいでした。

 曲が終わらないうちに拍手は出るし、客席で携帯が鳴ったり、何かと生粋のオペラファンからは厳しいことを言われそうなLAオペラですが、開演前のコンロンの解説には大勢が駆けつけ、オペラを学ぼうという気持ちにあふれています。来年5月には、ついにヌッチがリゴレットを歌います。ヌッチがアメリカで歌うのは珍しいことです。ドミンゴもいつまで元気かわかりませんから、是非一度、LAオペラお試しください。チケットも2階の最前列という良い席で164ドルと、このキャストからするととても安いと思います。

 さて、帰国したらすぐに、ダムラウのリサイタルとルサルカです。

Conductor:James Conlon
Director / Set Designer:Thaddeus Strassberger

Nabucco: Plácido Domingo
Abigaille: Liudmyla Monastyrska
Zaccaria: Morris Robinson
Ismaele:Mario Chang
Fenena:Nancy Fabiola Herrera
High Priest of Baal:Gabriel Vamvulescu
Anna:Liv Redpath
Abdallo:Joshua Wheeker

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