プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

静かなラ・トラヴィアータ(椿姫)

 このプロダクションは新国立劇場で3回目になりますが、いつもながら上質な公演でした。指揮のリカルド・フリッツァは、同じ新国立のオテロで2009年に聴いた時はあまり良い印象ではありませんでした。とにかく音が大きかった。でも、この日のトラヴィアータは、総じて「静か」なんです。そしてこの静かさに、品がある。静かなんだけど、指揮棒の先からは色々なニュアンスが流れ出てきます。緩急をつけるのも、本当に僅かなところ。特に歌唱の大事な部分で、ほんのちょっと音を延ばすところなど、歌手と綿密な打ち合わせと稽古をしたと思いますが、実に優雅な感じを醸し出して素敵でした。30分の休憩を除いて2時間25分くらいの上演時間でしたので、カット部分が殆ど無いことを考えると、割と早いテンポで進んだと思います。そのせいか、一幕目はやや歌手を引っ張りすぎている感じがあり、ルングと合唱がついて来れないところがありました。しかし、2幕以降は、このテンポと歌唱がぴったりとあって見事。ただ、インテンポな指揮に歌が合っているのではなく、緩急あっての「合い」。それも指揮者が歌手に寄り添うのでなく、指揮者が引っ張る感じで、聴いていてとても楽しくなりました。

 そして、もうひとつの「静かさ」の効果は、音楽評論家のKさんによると、フリッツアへのインタビューで、フリッツァが「1950年代趣味から脱する。」と語っていたそうですが、まさしく、それが良くわかりました。2幕目の”morro!”のところも、机をひっぱたいたりしないし、”Amami Alfredo”のところも、オケの低音をドロドロと鳴らさないで、すーっと行く。スカラ座の天井桟敷にいる高齢のオペラファンだったらブーイングかもしれませんが、とても新しい感じがして良かったです。“プロヴァンスの海と陸”のあとも、ジェルモンはアルフレードをひっぱたかないんですね。あくまでも「静か」

 このオペラは、最初に、ヴィオレッタのモデルになった、アルフォンシーヌ・プレシのモンマルトル墓地の墓碑の言葉から始まります。最後まで、ヴィオレッタの亡くなった後、彼女自身が回想するような構成ですから、こういう冷静な感じの流れのほうが、心を打ちます。ブサールの演出の3幕目では、ヴィレッタだけが紗幕の前でくっきりと舞台上に見え、アルフレード、ジェルモン、アンニーナ、グランヴィル医師達は、皆、紗幕の後ろでかすみます。これは、もう、ヴィオレッタは亡くなってしまっているのだと強く思います。いわば“シックス・センス”の世界ですね。だからこそ、最後でヴィオレッタは倒れて死んでいくのではなく、そのまま胸をはって歩き去るのです。

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2015年に筆者が墓参りに訪れた、プレシの墓


 そして、これは私のオペラ友人、先輩の見方でもありますが、全幕を通じて舞台の真ん中にあり、最後にはその紗幕を分ける位置に置かれたグランドピアノは、ヴィオレッタが実際の人生で最後まで愛した、フランツ・リストを表しているのではないかと、、これも強く思います。

 今日は、歌手へのコメントが最後になってしまいましたが、一番良かったのは、アルフレードを歌った、アントニオ・ポーリだったと思います。「反1950年代」というコンセプトの中で、それをもっとも体現していたのでは? “O mio rimoroso”の最後も無用に上げないで静かに終わります。ですから、普通なら大拍手になるこのところも、拍手はパラパラ。ヴィオレッタを歌った、イリーナ・リング。僕は多分、彼女のこのロールデビューを2007年の7月にミラノのスカラ座で、ロリン・マゼール指揮で聴いていると思いますが、その頃は軽い細い声だったのが、ずいぶん熟成された声になりました。一幕目こそ、少し調子が出ませんでしたが、全般としては素晴らしい。演技も素晴らしい。これもやりすぎにならいレベルに押さえていましたね。

 帰りに、車でジュリーニ指揮のカラス、ディ・ステファノのCDを聴きましたが、これぞ、50年代! でも、序曲はおそらくどの指揮者よりも長く、遅いテンポです。これも、悪くはないなと思いました。

 今回でトラヴィアータ、23回目の鑑賞となりました。あと、何度生で聴けるかなぁ。とにかく、好きな演目です。


指 揮:リッカルド・フリッツァ
演出・衣裳:ヴァンサン・ブサール
美 術:ヴァンサン・ルメール
照 明:グイド・レヴィ
ヴィオレッタ:イリーナ・ルング
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:ジョヴァンニ・メオーニ
フローラ:小林由佳
ガストン子爵:小原啓楼
ドゥフォール男爵:須藤慎吾
ドビニー侯爵:北川辰彦
医師グランヴィル:鹿野由之
アンニーナ:森山京子
ジュゼッペ:大木太郎
使者:佐藤勝司
フローラの召使い:山下友輔
合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

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