プロヴァンスの海と土を少し 湘南人草間文彦

オルフェオとエウリディーチェ@スカラ座

 
雪のパリを後にして、雪のミラノにやってきました。着いた日の朝は零下8度。最高気温も2度。例年の最高気温は12度くらいらしいですから、半端ではない寒さです。数十年ぶりの寒さとか、、、何もこんな時に来なくてもって地元の人は思っているでしょうけど、オペラのチケットの都合があるんで、選べないんですよね。でもって、今回は4日滞在するので、スカラ座から歩いて5分という場所にあるアパートを借りました。室内にキッチンが付いていますし、両隣にカフェとパニーニレストランがあって便利なことこの上ないです。エマニュエル2世通りの一本裏なのに、とても静かなのも気に入りました。何より、暖房がとても良く効いていて室温は常に21度!しかも、「マジ?」というくらい安い。。

 “オルフェオとエウリディーチェ”はグルックの最も有名なオペラで、1762年にウィーン宮廷劇場で初演、(ウィーン版)、そしてこれにバレエを加えたパリ版が1774年にパリオペラ座で上演されています。昨年生誕450年を迎えたモンテヴェルディよりは100年以上後の音楽家で、バロックオペラの改革者として有名です。僕はてっきりフランス人だと思っていたのですが、なんとドイツ人でした。グルックのオペラって全部フランス語では?相当フランスかぶれだったんでしょうね。それで、今回上演されたのはパリ版です。

 開幕は午後8時。イタリアの劇場の開演時刻なんていい加減だと思うでしょうが、どっこい、けっこう正確です。この日も殆ど定刻に劇場内が暗くなり、無音の中、指揮者もまだオーケストラボックスに現れないうちに幕が上がると、なんとオケはステージ上にいます!そして、座ったまま指揮棒を振り序曲に入るマリオッティ。「あれ、これ、演奏会形式だったのかな?」と思って、自分の不注意さに冷や汗かいていると、驚いたことにオケと指揮者が乗った床がどんどんせり上がり、二重舞台になったのです。歌手、合唱はオケを持ち上げている柱の間の1階で歌い始めます。舞台は1階になったり、2階になったり、更に奈落に沈んで行って、ほとんど見えない状態になったりして、あたかも天国から音が降ってくるように聞こえたり(この時、アモーレ、愛の神は2階のオケの脇で膝を組んで歌うので、効果抜群!)、あるいは地の底から響いてくるように聞こえたりします。これは演出上は、最大の効果を出しているのですが、特に地下に潜ってしまった時は、音響はやや悪くなってしまっていました。しかし、とにかく発送が新しい!インパクトがある!興奮してきた!

 指揮のミケーレ・マリオッティは今年39歳、31歳のバッティストーニ、35歳のルスティオーニと並んで、イタリアの若手三羽ガラスと呼ばれています。マリオッティとバッティストーニの指揮のスタイルは、正反対と言っても良いでしょう。穏やかで理論的なマリオッティと、激しく感情的なバッティストーニ…..と簡単に決めつけてはいけませんが、ちょっとそんな感じがあります。この日のマリオッティも、グルックの楽譜をなぞるように、抑制を効かせながら、音を美しく響かせることに集中していました。歌手はすべて指揮者の下か前か上で歌うので、全く姿は見えないのに、破綻はこれほどもありませんでした。現代楽器を古楽的に鳴らしているのですが、これみよがしに音を短くすることなく、自然体です。序曲からして、バロック的に弦の高い音がオケを引っ張ることがありません。調和が取れて、音楽が丸い塊になっているようなんです。大きなオケなのですが、室内楽のように聞こえます。「精霊たちの踊り」の音楽の美しいこと。後で述べますがバレエとの調和も素晴らしかったです。

 そして、なんと言ってもオルフェオを歌った、ディエゴ・フローレス。日本には来ない(現状では)ので、外に聴きに行くしかないこの歌手、やはりすごい。METでデセイと“連隊の娘”のトニオを歌っていた頃にくらべると、声はだいぶ重くなり、芯が出来ています。熟成されたという感じで、このオペラにぴったりです。海外の批評家が、「ポルシェの6気筒対抗エンジンのような」と評したのは、この批評家がポルシェ特に好きだったからでしょうが、なんか言いたいことわかりますね。メカニカル的に、全く滞りが無い美しい声。「この世のものとは思えない美声」というのは、今の彼の声でしょう。ホフマン物語も最近歌っていますし、マントヴァ公やアルフレードも歌いますね。この2月にはフランス国家功労勲章を受賞しましたから、フランス物にはこれからも力が入るでしょう。昔の軽かった声も素敵でしたが、今のほうが魅力あるなぁ。「エウリディーチェを失って」は、今まで聴いたどの歌手のものより蠱惑的でした。ちなみに、この曲はソプラノ、メゾソプラノ、カウンターテノール、バリトンでも歌われる珍しい曲です。グルックは「オペラの改革者」と言われるだけあって、過剰な装飾歌唱を廃していますが、それでもフローレスの喉から出る微妙なアジリタは心をふるわせます。エウリディーチェを歌ったクリスティアーネ・カルク。フローレスに比較されると分が悪いですが、“ペレアスとメリザンド”で名を上げただけあって、実に締まった良い声を聴かせてくれました。アムール役のソプラノ、ファトマ・セド(Fatma Said)は、カイロ生まれの20代、スカラのアカデミアを出て2016年に魔笛のパミーナでデビューしたばかりですが、他の二人よりも情感を出した歌唱と演技でまさに「愛の神」に適役でした。

 しかし、なんと言っても、このオペラの特色は、演出したホフェッシュ・シェクターによるバレエとオペラの統合でしょう。シェクターはイギリスで活躍するバレエ振付家で、ロイヤルバレエではマクミランやバランシンの作品と一緒に上演されるほどの人気です。今回の演目もROHとの共同演出になっています。シェクター自身が持つバレエカンパニーが、このオペラの一幕から三幕まで、歌手や合唱の前や後ろになり、時にはオケの後ろにもまわり、精霊の役をして踊りまくります。勅使河原三郎っぽい重心の低い現代バレエと言ったら感じが伝わるでしょうか?とにかくオペラとの一体感が半端ないです。バレエに重点を置いた演出というのは、ちょうど今、LAオペラで上演されている“オルフェオとエウリディーチェ”でも、なんとノイマイヤーが演出と振り付けを担当しているのです。こちらは、ややクラシックな「高い重心」のバレエのようです。見たいですね。バレエに重点を置いた“オルフェオとエウリディーチェ”は、今のちょっとした流行でしょうか?バレエが大好きな僕としては、この新しい芸術とも言える表現は感動ものでしたが、そうではない観客にはバレエがややtoo muchだったかもしれません。

 三幕で休憩1回を入れて2時間40分ほどで終わるこのオペラ。ここ数年で最も僕の脳にインパクトを与えて刺激してくれました。Viva Scala!!

          下はオケが2階になった2重舞台のステージ、フローレスのカーテンコール
thIMG_3317.jpg


Conductor Michele Mariotti
Staging Hofesh Shechter and John Fulljames
Choreography Hofesh Shechter
Sets and costumes Conor Murphy
Lights Lee Curran
revived by Andrea Giretti

CAST
Orphée Juan Diego Flórez
Euridice Christiane Karg
L'Amour Fatma Said

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